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テレワークで生産性が低下?課題解決へ導くオフィスデザイン

急速に普及したテレワークをはじめとするフレキシブルな働き方だが、従業員の生産性の低下を懸念している企業の経営者や部署のリーダーが存在する。テレワークが生産性に与える影響と、生産性向上に効果的なオフィス環境のヒントを事例とともに解説する。

2024年 05月 27日
テレワークとは?種類と働き方の違い

はじめにテレワークの意味や種類を知っておこう。テレワークとは、情報通信技術(ICT: Information and Communication Technology)を駆使し、本社オフィスからは離れた別の場所で仕事をすることを指す。時間や場所を有効活用できる、より柔軟な働き方として浸透してきた働き方である。

具体的なテレワークの種類として、主に在宅勤務、モバイルワーク、サテライトオフィス勤務の3種類がある。それぞれについて、詳しく紹介していく。

在宅勤務

在宅勤務とは自宅で業務を行う勤務形態である。オフィスに出社せず、メールやチャット、ウェブ会議ツールなどを用いて遠隔で仕事を進める。

働き方改革の一環として、また新型コロナウイルス感染症の拡大をきっかけにこの勤務形態が注目され、多くの企業が在宅勤務を導入した。インターネットの普及により在宅勤務がしやすくなった現代、ニューノーマルな働き方の1つとしての位置づけが高まっている。

モバイルワーク

モバイルワークとは、ノートパソコン・スマートフォン・タブレットなどのモバイル端末を用い、オフィスだけでなく、移動中や顧客先・出張先・カフェなど場所を問わずに業務を行う勤務形態である。

近年ではインターネット環境の整備やモバイル端末の普及により場所を選ばずに働ける環境が整い、モバイルワークを導入する企業が増加している。通勤時間の削減やワークライフバランスの向上など、従業員にとって多くのメリットをもたらす一方で、セキュリティ対策や情報管理など企業側が取り組むべき課題も存在する。

今後、これらの課題を克服するための技術や制度の進歩により、新たな働き方の選択肢として定着していくことも予想される。

サテライトオフィス勤務

サテライトオフィス勤務とは、会社が契約したシェアオフィスコワーキングスペースなど、本社や支社営業所を補完する分散型のオフィススペースで業務を行う勤務形態のことである。

自社保有のサテライトオフィスを整備する企業も存在するが、昨今では賃貸タイプのフレキシブルオフィスを活用するケースが目立つ。いずれも業務に必要な設備が整っているため、本拠地のオフィスと同じような環境で就業できるのが特徴だ。

テレワークの現状と生産性を与える影響

国土交通省が発表した令和4(2022)年度のテレワーク人口実態調査によると、全就業者のうち、テレワークの経験者は企業に所属する「雇用型」で全体の26.1%、雇用されていない「自営型」で26.6%と、およそ4人に1人がなんらかの形でテレワークを行っていたことになる

一方、パーソル総合研究所が2023年に行った調査では、雇用または派遣で働く従業員に限定するとテレワークを行ったのは9.8-12.9%と10人に1人に減っており、ほぼ全ての職種・企業規模においてテレワークが減少傾向にあることが明らかになっている。

同調査では、テレワーク時の困りごととして以下のような点を挙げている。

  • 仕事に集中できない
  • 部下の仕事の様子がわかりにくくなった
  • 業務上の指示ややりとりに支障がある
  • プリンター・机や椅子・インタネーネット回線など、仕事に必要な環境が整っていない
  • 働きながら子供の世話をしなければいけない

これらはいずれも、オフィスに出社している状態と比較して生産性の低下につながる要因であり、テレワークの課題を示している。

テレワークで生産性が下がってしまう理由

同じ仕事内容でも、テレワークになると生産性が低下するのは、企業の収益に直結する重要な課題だといえる。おもな理由は以下の4つと考えられる。

長時間労働の増加

テレワークでは、仕事とプライベートの境界が曖昧になり長時間労働に陥りやすい。日本労働組合総連合会の調査では、テレワーク導入により労働時間が増加したとの回答は51.5%にのぼる。また、休日勤務や時間外労働をしたにもかかわらず申告しなかったとの回答は65.1%と、企業が把握していないところで長時間労働が常態化していることが明らかになった。

環境整備の遅れ

テレワークを円滑に行うためには、通信環境やデスク・椅子など業務に適した環境整備が不可欠である。しかし自宅の環境は必ずしもオフィスほど整っておらず、集中して業務を行うのが難しいのが現状だ。また押印のためだけに出社が必要になるなど、テレワークに適した業務フローの整備が進んでいないのも生産性を下げる要因の1つである。

コミュニケーション不足

テレワークでは、同僚や上司と気軽に相談・雑談する機会が得られない。コミュニケーションにはウェブ会議ツールなどを使う必要があり、その場で気軽に相談できるわけではない。また電話やチャットツールでは相手の表情が見えないため意思疎通が難しくなり、情報共有の頻度や質が低下してしまう。

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モチベーションの低下

テレワークは1人で業務を行うことが多く、周囲からの視線がないため緊張感がなくなり仕事に集中できなくなる可能性がある。また職場の仲間と一緒に働いていることを実感しにくい、自分の仕事ぶりを上司が評価してくれているのか分からないなどの理由からやりがいを感じにくくなり、徐々にモチベーションが低下してしまうことも予想される。

テレワークの生産性低下を防止する方法

コミュニケーション不足によるストレスやモチベーションの低下には、意識的なコミュニケーションの機会作りも有効

テレワークにおける生産性低下を防止するためには、以下のような具体的な対策が有効だ。

業務の可視化

業務内容や手順・従業員のスキルを一覧表やフローチャートにまとめたり、ITツールを導入したりすることで、業務の全体像を把握し改善ポイントを明確にできる。それを従業員と共有することで、個々の仕事が企業の利益につながっているという意識が生まれるだろう。

人事・評価制度の見直し

テレワークに適した人事・評価制度を導入することも重要だ。例えばジョブ型雇用により専門人材を採用したり、成果物を基準にした評価制度を新たに設けたりすることで、従業員のモチベーション維持に役立つ可能性がある。

積極的なコミュニケーション

コミュニケーション不足によるストレスやモチベーションの低下には、意識的なコミュニケーションの機会作りも有効だ。業務ミーティングの冒頭に雑談の時間を設ける、ランチ会を開く、雑談専用のチャットを運用するのも一つの手である。

ツール・システムの導入

チャットツール・オンライン会議システム・電子契約・タスク管理ツール・勤怠管理システムなどテレワークに適したウェブツールやシステムを積極的に導入することで「連絡がスムーズにできない」という問題を解決し、生産性の改善が期待できる。

業務のアウトソーシング

従業員がコア業務に集中できないようなノンコア業務を積極的に外注化することも良い方法だ。これにより、重要な業務に専念でき、生産性の向上につながる。

これからの新しい働き方「ハイブリッドワーク」

テレワークよりも一歩進んだ働き方として注目を集める「ハイブリッドワーク」とはどのようなものだろうか。

ハイブリッドワークとテレワークの違い

ハイブリッドワークは、オフィス勤務と在宅勤務、サテライトオフィス勤務などを組み合わせて、業務内容に応じて勤務場所を選択できる柔軟な働き方である。

これに対して、テレワークは主にオフィスに出社せずに自宅で働くスタイルを指すことが多い。

ハイブリッドワークでは、個人で集中して進める業務はテレワークで行い、コミュニケーションやアイデア創出などは対面で行うといった、メリハリのある働き方が可能になる。

ハイブリッドワークのメリット

ハイブリッドワークは、テレワークと比較して以下のような数多くのメリットが期待できる。

  • オフィス面積の見直しによるコスト削減:余剰となったオフィススペースを縮小することで賃料コストを削減し、テレワークの環境整備やセキュリティ対策に費用を充当できる。
  • 採用の幅が広がる:常時出社の必要がなくなるため、遠隔地など国内外問わず幅広い人材の採用が可能になる。
  • エンゲージメント向上:従業員が自らの業務に応じて働く場所を選べるため、満足度とモチベーションが向上し、離職率の低下も期待できる。
  • ワークライフバランスの実現:就労者が自身の生活環境に合わせて働く場所を選べるため、ワークライフバランスを改善しやすくなる。仕事とプライベートの両立が促される。
  • 柔軟な働き方:業務内容やスケジュールに応じて働く場所を柔軟に変えられるため、効率的かつ効果的な業務遂行が可能になる。
  • コミュニケーション不足を解消:オフィス勤務とリモートワークの適切な組み合わせにより、コミュニケーション不足や孤独感の解消が期待できる。
ハイブリッドワークを支えるオフィス

上記のようなハイブリッドワークを可能にするオフィス環境は、従業員がオフィスと在宅勤務を柔軟に組み合わせて働くことを想定したレイアウトや設備が必要だ。

オフィスと在宅勤務の切り替えがスムーズに行えるよう、クラウドベースのツールやデータ管理システムが導入され、セキュリティ対策も十分に施されていることも欠かせない。

生産性を向上させるオフィスの在り方

回答者の41%がオフィスに「屋外スペース」を求めているという結果となった

テレワークや出社、サテライトオフィスなど、さまざまなスタイルの働き方があるが、こうした働き方の多様化に対応し、これまで以上に生産性を高めるためにオフィスデザイン環境の整備が求められる。

具体的なオフィス改革の施策をみてみよう。

フリーアドレスの導入

フリーアドレスとは、従業員ごとの固定席を設けずに、その日に空いている席を自由に活用できるワークスタイルを指す。

その日の業務に最適な場所を選べることで生産性向上が期待できるだけでなく、アイデアやイノベーションが生まれる可能性も広がる。

ABW(Activity Based Working)の導入

ABW(Activity Based Working)とは、社内外を問わず自宅やカフェ・コワーキングスペースなど業務に最適な場所や時間を自由に選択できる働き方だ。

就業場所はオフィスのほか自宅やサテライトオフィス・カフェやレンタルスペースなど様々。従業員に裁量を与えることがABW最大の特長で、このことがモチベーションを高め生産性向上につながると考えられる。

コミュニケーションを活性化させるスペースの設置

テレワークの導入により、出社日や時間が合わない相手との対面のコミュニケーション機会を確保する方法としては以下のようなものが挙げられる。

  • ウェブツールによる情報共有
  • オンラインでのコミュニケーション環境を整える
  • テレブースやミーティングルームの充実
  • コラボレーションしやすいスペースの充実
屋外スペースの設置

JLLが世界10カ国・3,300人超のオフィスワーカーを対象にしたグローバル調査では、回答者の41%がオフィスに「屋外スペース」を求めているという結果となった。

屋上緑化を施し、ワークプレイスとしても利用できるテラスなどの共有スペースを設けることも、従業員のウェルネスと生産性の向上が期待される。

リラクゼーションスペースの設置

同調査にて、オフィスワーカーが希望するオフィス設備で最も多かったのは「リラクゼーションスペースだった。適切な休息とリラクゼーションは心身の健康維持に寄与し、パフォーマンスの維持につながる。

さらにこのスペースでコミュニケーションが育まれ、チームビルディングやコラボレーションを促進する可能性もある。

ソロスペース(個人ブース)の設置

クライアントとのオンラインでの打ち合わせや、静かな環境で集中して進めたい作業、高いセキュリティ性が求められる業務などは、ボックス席タイプのゆるやかな個人スペースや、機密性の高い個室型ブースなど業務に合わせた個人用の執務スペースを取り入れることで、さらに生産性を高められるだろう。

テレワークを想定したオフィスデザインの成功事例

テレワークやリモートワークを取り入れた働き方を導入し、従業員の生産性を低下させることなく推進できている企業の成功事例を紹介する。

在宅勤務とオフィス勤務を使い分けられるオフィス構築に成功

飲料メーカー大手のアサヒグループホールディングスは、2021年から約1年かけオフィスの拠点統合集約やワークプレイス改革を実施。完全フリーアドレス席の導入と在宅勤務を併用し、全従業員の3-5割の座席数でのオフィス運用に成功している。

従業員対象のアンケートでは「集中して個人ワークに対応できるようになった」、「通勤時間を業務やプライベートに充てられる」といった声も寄せられているという。

多様なワークスタイルに対応できる新オフィス

エイコーは、2022年に東京本社オフィスを「Fo-me」と名付けた新オフィスへ移転、フリーアドレス方式を導入し、8つの理想的なワークスタイルを目指した。

新オフィスは「電子化が進み、出社しなくてもできる業務が増え、どこでも同じ環境で仕事ができる」「周りを気にせず、気軽にオンラインでのコミュニケーションをとっている」「オフィスではオフィスでしか出来ない複数人での共同作業や対面でのコミュニケーションをとっている」といった生産性向上につながる条件を満たしている。

ICT設備改善でテレワークの従業員にも充実の執務環境を

NTTデータビジネスシステムズは2021年、7フロアに分散した旧本社オフィスを、社員同士の会話・交流から生まれるイノベーション創出に向けた働き方や仕事の進め方に対応した新オフィスに移転。

新オフィスでは、ドキュメント電子化や自動化、ウェブ会議などを推進、ICT設備環境を整備することでオフィスワークと同等でテレワークが可能な執務環境を整備した。

グッドデザイン賞を受賞したJLLの新しいオフィス

JLLは2022年に自社が提唱する「Future of Work(働き方の未来)」と多様な働き方の実現に向け、東京本社と関西支社の移転を実施。ABW型オフィスを採用し、テクノロジーとデータの活用、コミュニケーションの促進、従業員のウェルビーイング向上、サステナブルなオフィス環境などの実現を目指した。

「第36回日経ニューオフィス賞」にて「ニューオフィス推進賞・クリエイティブ・オフィス賞」と「2023年度グッドデザイン賞」(東京本社)、「近畿ニューオフィス奨励賞」(関西支社)を受賞

現在、東京・大阪ともに新オフィスのオフィスツアーを実施している。参加すればオフィス移転のアイデアや、チェックリスト作成に欠かせない戦略立案などのヒントも得られるだろう。

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JLLは企業のオフィス移転・オフィス改善に豊富な実績を持ち、これからの社会でより重要となるテレワークやハイブリッドワークを導入したオフィス構築をサポートしています。

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