オフィス休憩スペースの効果と設置方法 - 快適な職場づくりのポイント
企業に数多くのメリットをもたらす「休憩スペース」が重要視されている理由や背景、設置にあたってのポイント、より効果的な環境にするためのアイデア、成功事例等を紹介する。
企業がオフィスに休憩スペースを設置する理由と目的
各企業のオフィスの面積には限りがあり、執務や接客等に必要なスペースをできる限り多く確保したいと考える経営者や担当者も多いことだろう。
しかし、直接執務に関わりがない「休憩スペース」をオフィス内に設置する企業が増えつつある。
休憩スペースの設置が望ましいとされる背景
近年の社会環境の変化により、多様な労働者の働きやすい環境整備への関心が高まっている。これを踏まえ、2021年、国は「事務所衛生基準規則及び労働安全衛生規則の一部を改正する省令(令和 3年厚生労働省令第 188 号)」を公布・施行(※一部を除く)した。
この改正内容のうち「休憩の設備について(事務所則第19条関係、安衛則第613条関係)」では、オフィスの実状やニーズに応じて、休憩スペースの広さや設備内容を衛生委員会等で調査審議・検討し、その結果に基づいて設置するように努力することが義務付けられている。
あくまでも「努力義務」であり罰則等はないが、今後、社会的に労働環境の整った会社として認められるためには、休憩スペースの設置が欠かせなくなったともいえるだろう。
オフィスに休憩スペースを設ける理由や目的
休憩のための専用スペースを設けるのには、以下のような目的がある。
- 仕事を離れて心身の疲労回復をするため
- 休憩時間と執務時間(オンとオフ)の切り替えのため
- 従業員同士の交流を図るため
- 企業のイメージやブランド力を向上させるため
オフィスの休憩スペースがもたらす6つのメリット
オフィスに休憩スペースを設置することで、従業員にとっても企業にとってもさまざまなメリットが生まれる。おもなメリットを6つ紹介しよう。
- 他のセクションの従業員と交流する機会が生まれ、新しいアイデアが生まれたり、業務知識を学ぶことができたり、人と人とのつながりができたりする
- 執務空間から離れた場所で休憩することで、リフレッシュ効果が高まる
- 何も考えない「ぼーっとした状態(デフォルトモードネットワーク)」では脳の神経活動が活発になり、通常では思いつかないようなアイデアがひらめきやすくなる
- 従業員の職場への満足度が増し、生産性やエンゲージメントの向上、離職の抑制等が期待できる
- 外部に対する企業のブランディング効果がある
- 職場環境の良さが採用活動に好影響を与える
休憩スペース導入前に検討したい4つのポイント
自社オフィスに休憩スペースの設置を検討するにあたっては、以下の4つのポイントをおさえて計画を進めたい。
1. 従業員のニーズ
メインの目的である小休憩・ランチだけでなく、他部署との交流、来客対応、軽い運動、1人になれる個室等、従業員へのアンケートやヒアリングを通じてニーズをつかみ、それに応えられるような設備に近づけることでより満足度が高まる可能性がある。
2. 休憩スペースの目的
具体的なニーズがわかれば、休憩スペースの方向性も定まってくる。コミュニケーション重視であればオープンスペースを主体とした会話が生まれやすいレイアウト、1人の時間が求められているのであればブース席や半個室席を複数設置する等、目的に合ったプランが休憩スペースの利用率向上の鍵となるだろう。
3. 設置場所
執務室からの音や視線を遮り休憩を優先する場所が良いのか、いろいろな部署のメンバーが行き交う通路沿いが良いのか等、休憩スペースの目的に合わせて設置場所を検討する。
4. 十分な広さ
せっかく休憩スペースを設置しても、面積が狭くいつも満室では一部の従業員から不満の声が上がる可能性がある。健康経営の視点を踏まえて、が十分に休憩スペースを利用できるかどうかシミュレーションしておきたい。
より快適な職場環境を実現する休憩スペースのアイデア
気持ちの切り替えができてリフレッシュ効果が高まるため、執務スペースと休憩スペースが相互に見えないようなレイアウトが望ましい
休憩スペースを新たに設置する際に、会議室をそのまま使う・パーテーションで区切るといった簡易的な対策や、デザインやレイアウトの工夫でより快適な環境を実現するためのアイデアを紹介する。
リラックスできる色彩
色は、それぞれ特定の心理的効果を与えるといわれている。
コラボレーションが求められるスペースでは創造性を刺激するような鮮やかで明るい色を取り入れることが多く、集中力が必要なエリアでは青や紫といった色調が好まれる。ゆっくりと心身を休める場所では、安心感をもたらし目に優しい緑が最適とされる。
意図を明確にしたインテリアの色彩設定は従業員へ休憩スペースの目的を伝えるメッセージにもなる。
バイオフィリックデザイン
「バイオフィリック」とは、「バイオ(生命・自然)」と「フィリア(愛好・趣味)」を合わせた造語で、人間が本能的に持つ「自然とつながりたい」という欲求に基づいたデザイン手法である。
具体的な方法として、休憩スペースに観葉植物やリビングウォールを設置する、石や木など自然素材の内装や家具を取り入れる、緑豊かな公園の見える窓側に休憩スペースを作る等が挙げられる。サイネージに自然風景や植物の画像を映すだけでもストレス緩和に効果があるという。
スペースの確保
休憩スペースを設ける際は、従業員数や利用目的に合った広さを確保する必要がある。食事や小休憩が十分にできる広さとソファや椅子の数を見積もり、設置したい。
可能であれば、体調がよくないときや1人で考えごとをしたいときに使えるプライベートゾーンも設けるとよい。
執務スペースとの区別
休憩スペースの目的によって異なるが、仕事をしている仲間や上司、電話の音などから離れた場所であるほど、気持ちの切り替えができてリフレッシュ効果が高まるため、執務スペースと休憩スペースが相互に見えないようなレイアウトが望ましい。
昼食や仮眠などまとまった時間を過ごす場所として利用するのであれば、あえてフロアや部屋を変えるのも良い。一方、小休憩やコミュニケーションのためのスペースであれば、執務フロアの一部に間仕切りをつける程度に留めるなど、デスクとのアクセス性や執務スペースからの集まりやすさを重視するのもいいだろう。
休憩スペースに有効な設備
休憩スペースの広さや位置が決まれば、必要な設備の手配を始めよう。より快適で効果的な休憩スペースをつくりだすために、以下のような設備・什器の導入を検討してみてはどうだろうか。
個人スペース/グループスペース
来客や打ち合わせの多い職場では、1人で静かな環境で考えをまとめたり、集中して資料を読んだり、リフレッシュしたりできるパーソナルサイズのスペースがあるとよい。
一方、複数人でテーブルを囲んで雑談やミーティングができるようなスペースがあれば、日常の仕事とは別の角度や視点で話し合うことができ、新しい発想やコラボレーションが生まれるきっかけにもなる。
ソファや本棚
デスクとは異なる環境での小休憩はより効果的であり、さらにデジタル機器を離れて読書をすることは目にも優しく、気分の切り替えにも有効だ。
エクササイズマシンやグッズ
デスクワークの多いオフィスでは特に軽い運動は心身のリフレッシュに大きな効果をもたらし、従業員のウェルネスや生産性の向上が期待できる。
エアロバイクやストレッチ用のマシン、ヨガマット、卓球台など、スペースに合わせて身体を動かせる設備の導入を検討してみるのもよい。
カフェスペース
サードプレイスとしてカフェで仕事をするビジネスパーソンも多いが、オフィス内にカフェスペースを設置すれば、休憩はもちろんミーティングや作業を行う場所として機能し、従業員にとっては移動時間や費用が抑えられ大きなメリットがある。さらに社外のカフェと比較してセキュリティリスクも低減できる。
本格的なカフェの設置が難しい場合でも、ハイエンドなコーヒーマシンの設置など、従業員のニーズに合わせたカフェ機能を導入すれば満足度を向上させることができるだろう。
ウェルビーイングを意識したオフィスデザイン
こういったウェルビーイングを意識したオフィスデザインは、従業員がオフィスに求めるものを聞き取り、整理することから始める
近年ますます健康経営の重要性が増しており、働く環境の質を上げていくことは、従業員の精神的・身体的な状態を改善するだけでなく、雇用確保や採用、投資家からの評価にまで大きく寄与する。
こういったウェルビーイングを意識したオフィスデザインは、従業員がオフィスに求めるものを聞き取り、整理することから始めるとよい。
JLLが日本国内のオフィスワーカー1,500人と意志決定層・経営者620人に対して行ったアンケート調査結果によれば、従業員がオフィスに求めるものは「ハイブリッドな働き方」や「サテライトオフィスの利用」、「コラボレーションスペース」、「カフェテリア」、「ウェルビーイングが実現できるオフィス」等が上位に挙げられたが、意志決定層の回答と従業員とではギャップがあることが分かった。
従業員がどんなメリットを求めているかを理解し、それを損なわないよう配慮しながらオフィスデザインを設計することが成功の鍵といえるだろう。
注目されるウェルネスオフィスの考え方 (WELL認証、CASBEE ウェルネスオフィス)
「ウェルネスオフィス」とは、従業員の心と体の健康を高められるようなオフィス環境をいい、社内的には従業員のエンゲージメントや生産性の向上、離職率の低下、対外的には採用条件のプラス要素や株主へのプレゼンスなど、企業にさまざまな効果をもたらすと注目を集めている概念だ。
オフィスのウェルネス指数を客観的に示す指標としてはいくつかの認証制度が存在するが、なかでも有力なツールが、WELL認証とCASBEEウェルネスオフィス認証である。
WELL認証とは、環境・エネルギー性能といった効率的な要素に加え、ヒトの健康や快適性にも焦点をあてた空間のデザインや運用・構築手法等を評価する。企業の間で重要視されている働き方改革や健康経営の目的に沿った要素を評価することから、注目度が高まっている。
CASBEEウェルネスオフィス認証は、IBEC(一般社団法人 建築環境・省エネルギー機構)が提供する「CASBEE-ウェルネスオフィス」の評価マニュアル及び評価ツールから導き出された結果を第三者が審査するビル認証制度の1つで、建物利用者の健康性と快適性の維持・増進を支援する建物の仕様、性能、取組みを客観的な数値で表すことができる。
適切な休憩スペースの設置は、ウェルネスオフィスの実現の重要な要素の1つとなるだろう。
休憩スペースを取り入れた成功事例
休憩スペースを含め、従業員のウェルビーイング向上に貢献するオフィス設計により第36回 日経ニューオフィス賞を受賞した、JLLの東京・大阪の新オフィスの事例を紹介したい。
JLLオフィスでは、定量的に測定可能な光・水・音に関する環境や質の向上、従業員同士のコミュニケーションやコレボレーションの促進などを図り、心の健康や意欲を改善。身体と心がリフレッシュでき、創造性も向上する効果が得られている。
休憩スペース設置のメリットやポイントをふまえて検討を
オフィスの休憩スペースの新設や充実は、一見直接の収益をもたらさない施策に思えるが、長期的には従業員の生産性とエンゲージメントを上げ、定着率向上や採用率アップ、対外的なブランディングや投資家への訴求等、数多くのベネフィットが期待できる。
自社の従業員のニーズをしっかりと把握し、今回の記事で紹介したポイントも踏まえ最適な休憩スペースの設置に向けて検討を進めてほしい。