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ABWとは?メリット・デメリットと導入ポイント

オランダで確立されたワークスタイルとして働く場所や時間を自由に選択できる「ABW」。コロナ禍を受けて普及拡大しているハイブリッドワークと親和性が高く、アフターコロナに向けた新たな働き方として注目を集めている。ABWの具体的な内容や導入時のメリット、デメリットについて解説する。

2022年 08月 30日

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ABWとは?

アフターコロナの働き方として注目を集めているのが「ABW(Activity Based Working)」というワークスタイルだ。「社内外問わず、業務内容などに最適な場所を自由に選択できる働き方」と定義されており、具体的には、働く時間や場所を従業員が自由に選択できるため、その日の気分や体調に合わせて適切な場所、タイミングで仕事をすることが認められるというワークスタイルである。就業場所はオフィスの他、自宅やサテライトオフィス、カフェやレンタルスペースなど様々。従業員に裁量を与えることがABW最大の特長といえるだろう。

ABWとフリーアドレスの違い

働く場所を固定化しない、自由な働き方を体現するABWは働き方改革の一環として、オフィス内に多種多様な執務環境を整備する、いわゆる「ABW型オフィス」が注目を集めていたが、在宅勤務など社外の執務環境には目を向けていなかった。しかし、コロナ禍を受けて定着したオフィスとリモートワークを組み合わせるハイブリッドワークは、まさにABWの概念と一致する。

ABWと並んで取り上げられることが多いのが「フリーアドレス」である。両者とも従業員の働く場所の選択肢を増やす、柔軟性の高い働き方であるという点で似ているが、違いがある。

フリーアドレスは、事前に指定された固定席で働くのではなく、空いている適当な席を自由に活用することができるワークスタイルを指す。一方でABWは、社内に限らず、社外でも自由に働く場所を選択することができる。フリーアドレスはあくまで社内で従業員が働くことを前提としているが、ABWは必ずしも会社に出社する必要はない働き方だ。
 

これからのオフィス

ABWは働く時間と場所を自由に設定できるため、従業員の仕事に対する負担とストレスを緩和するだけではなく、働く意欲をさらに高めることができる

ハイブリッドワークとABW型オフィス

これまでの働き方は基本的にすべての従業員がオフィスに出社し、始業時間から終業時間まで業務に就く働き方が典型的であった。働く場所のみならず、始業時間・休憩時間が固定化されると、従業員には心理的・肉体的負担が掛かり、業務効率が低下する可能性がある。例えば、通勤に焦点を当てるとわかりやすい。郊外から都市部のオフィスへ通うために通勤ラッシュ時のストレスに耐えなければならなかった。また悪天候の影響で電車が遅延していてもオフィスへ向かうために駅で長時間待機しなければならないなどの課題があった。一方、ABWは働く時間と場所を自由に設定できるため、従業員の仕事に対する負担とストレスを緩和するだけではなく、働く意欲をさらに高めることができるため、企業と従業員双方にメリットがある。

JLLによる調査レポート「ヒューマンパフォーマンスの解読」によると、調査対象である経営者層の46.8%が、これからの働き方を実現するにあたり、会社として働き方改革に合わせた既存オフィスの見直し(レイアウト・改修など)が必要と答え、43.6%がサテライトオフィス(自社・外部コーワーキングスペース)の設置が必要と回答した。
 

出所: JLL「経営層に聞く「ニューノーマルな働き方に向けた選択とは!?」

サテライトオフィス

本社オフィス以外に設置する第二のオフィスとしての「サテライトオフィス」もぜひ検討したい。従業員の自宅に近い場所に設置されていれば、子育てや介護を行う従業員にとっては働く環境が大幅に改善することになる。実際に従業員の多様なライフスタイルを考慮し、アクセスの良いターミナル駅にサテライトオフィスを設置するなど、分散型ワークプレイス戦略を採用する企業も増えてきている。また都心ではなく地方に設置すれば、地方在住の優秀な人材獲得にもつながるため企業サイドにとってもメリットが多い。
 

ABWを導入した場合のシミュレーション

では、ABWを導入した場合、どのような勤務体系となるのだろうか。どこを仕事場にするのか、またどのような時間帯で勤務することになるのか、一例を紹介していく。

主な仕事場

ABWでは基本的にどこを執務スペースにしても構わない。通常の就業スタイルのようにオフィスの執務スペースで作業をするもよし、リラックスしながら自宅で作業をしても問題ない。本社オフィス以外にサテライトオフィスが用意されていれば、オフィス機能が十分な環境で働くこともできる。その他、行きつけのカフェや飲食店、旅行先で仕事をする「ワーケーション」も可能だ。また、最近では駅ナカやショッピングモール内に個室型ワークブースが登場している。

主な業務時間

ABWでは勤務時間が自由という点が挙げられる。通常の勤務体系では就業時間が固定化されるケースが多いが、ABWの働き方は勤務時間を自由に決められ、午前中はプライベートに充て、午後から夜にかけて執務時間とすることも可能だ。勤務時間を柔軟に決められるという点ではすでに多くの企業が導入しているフレックスタイム制と似ているが、ABWには必ず勤務しなければならない「コアタイム」の概念がない


ABWを導入する5つのメリット

ABWはワークライフバランスを取りやすく、より一層前向きな気持ちで仕事に取り組むことができる。

ABWを導入する5つのメリット

実際にABWを導入した場合、主に以下の5つのメリットが考えられる。

1. 作業効率・生産効率の向上
2. 従業員の意欲向上
3. 備品などの費用削減
4. 人材採用時の優位性
5. アイデア創出に寄与

作業効率・生産効率の向上

ABWは勤務場所が固定されないため、従業員が気分転換やリラックスして仕事に向き合うことができる。その結果、オフィスの中だけで仕事をするよりストレスがたまりにくく、作業効率や生産効率の向上に寄与すると考えられている。

従業員の意欲向上

自分の好きな場所、時間に仕事をできるというだけで、プライベートが充実するため自然とメリハリのついた生活を送ることができるようになる。従来の働き方では就業時間が固定化していたが、ABWはワークライフバランスが取るやすく、より一層前向きな気持ちで仕事に取り組むことができる。

コスト削減

オフィス勤務を前提にした従前の働き方ではオフィスにあらゆる機能を集約し、さらに従業員全員分の座席を用意する必要があった。しかし、ABWではフリーアドレス席の導入などにより、オフィス面積を最適化することができ、賃料コストの削減につながる。

人材採用時の優位性

従業員に働き方の裁量が与えられるABWでは、働きやすい企業として人材採用時の企業イメージの向上に寄与する可能性が高く、従業員が企業に対して帰属意識を高め、ひいては業務に対するモチベーション向上への効果も考えらえる。また、働く場所を問わないABWでは、育児や介護で時間的制約の大きい人材や地方に住む人材を採用するにも適している。

アイデア創出に寄与

環境を変えて仕事をすることで新たな刺激を受けることができる。固定席方のオフィスでは隣の席など、会話をする同僚も固定化されがちになるため、オフィス内にも環境が異なる多種多様な執務スペースを設けることで、より多くの同僚と接する機会が生まれ、偶発的なコミュニケーションが事業アイデアやイノベーション創発の機会を増やすことにつながる。

ABWを導入する4つのデメリット

画期的な働き方に感じられるABWだが、デメリットも存在する。導入時の主なデメリットは以下の4点が考えられる。

1. 勤怠管理が難しい
2. 準備とシステム円滑化に時間がかかる
3. 導入前と変化がない
4. 従業員のモチベーションに差が生じる可能性

勤怠管理が難しい

誰が、どこで、いつ働いているのか、ABWにおいて部下の労務管理が最大の課題といえるだろう。従業員全員がオフィスに出勤する従前の働き方は勤怠管理がしやすいが、それぞれが自由な場所・時間で勤務をしているABWでは勤怠状況を把握するのが難しい。

準備とシステム円滑化に時間がかかる

ABWを導入するとなれば、従業員同士の共有事項やルールの徹底、ワークプレイス環境の整備など、様々な準備が必要になる。その結果、円滑に稼働するまで相応の時間がかかると予想される。

従業員のモチベーションに差が生じる可能性

従業員に一定の裁量を与えるABWは業務効率化やアイデア創出といったメリットもある半面、プライベートを重視しすぎる従業員が現れる可能性もある。また、すべての従業員がオフィスに出社する従前の働き方は、業務に行き詰った際、上司や同僚に気軽に相談することができるが、ABWは自由に働ける半面、孤立化する可能性がある。

導入前と変化がない

ABWを導入するだけでは、社内環境や従業員の仕事に対するモチベーションが劇的に変化するとは断言できない。例えば、ABW型のオフィスに変更しても同じ座席を使い続け、最終的に固定席化するケースもありえる。新しい働き方であるABWの活用方法などが従業員に浸透するまでには時間がかかるため、JLLではABWへ移行する前段階から新しい働き方の意義や本質を従業員に浸透させる「チェンジマネジメント」を実施している。
 

ABWをスムーズに導入する方法

]では、ABWを導入した場合、どのような勤務体系となるのだろうか。どこを仕事場にするのか、またどのような時間帯で勤務することになるのか、一例を紹介していく。

主な仕事場

ABWでは基本的にどこを執務スペースにしても構わない。通常の就業スタイルのようにオフィスの執務スペースで作業をするもよし、リラックスしながら自宅で作業をしても問題ない。本社オフィス以外にサテライトオフィスが用意されていれば、オフィス機能が十分な環境で働くこともできる。その他、行きつけのカフェや飲食店、旅行先で仕事をする「ワーケーション」も可能だ。また、最近では駅ナカやショッピングモール内に個室型ワークブースが登場している。

主な業務時間

ABWでは勤務時間が自由という点が挙げられる。通常の勤務体系では就業時間が固定化されるケースが多いが、ABWの働き方は勤務時間を自由に決められ、午前中はプライベートに充て、午後から夜にかけて執務時間とすることも可能だ。勤務時間を柔軟に決められるという点ではすでに多くの企業が導入しているフレックスタイム制と似ているが、ABWには必ず勤務しなければならない「コアタイム」の概念がない
 

ABWを導入するにあたってどうすれば円滑かつトラブルなく稼働させられるか考える必要がある。

以下の3つに要点をまとめた。

1.ABWを導入する目的・ゴールを考える
2.従業員全員でABW導入時の課題・デメリットに向き合う
3.働きやすい環境づくりをする


ABWを導入する目的・ゴールを考える

経営層が独断で改善するのではなく、従業員1人1人の意見もしっかりと聞き、向き合うことが大切

「なぜABWを導入するのか」を明確にし、ゴールや目指すべき姿に合わせて筋道を立てていく必要がある。例えば、従業員同士のコミュニケーション不足を解消したい、従業員の自立心を促したいなど、社内の状況に合わせた目標設定をするところから始めるべきだろう。

従業員全員でABW導入時の課題・デメリットに向き合う

ABWを導入した当初は、あらゆる課題や問題が発生するだろう。それらの問題を経営層が独断で改善するのではなく、従業員1人1人の意見もしっかりと聞き、向き合うことが大切だ。経営層からは見えない問題や改善策が、従業員から豊富に意見される可能性もある。一番大切なのは「経営層、従業員問わず社員一丸となって会社を作り上げていく」という意識だ。

働きやすい環境づくり

社内環境やレイアウトもABWに応じた形に変えていく必要がある。例えば、いつ従業員が執務スペースで作業を行ってもいいようにフリーアドレス形式にする、どの席にもネットワーク環境を整えておくなどが求められる。またハイブッドワークを円滑に進めるためにソーシャルネットワーク、CRMツール、プロジェクト管理ツール等のデジタルツールの導入も欠かせない。その他の社内環境に関しても従業員の意見を聞きながら最善の形を目指すのがいいだろう。

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ABW型オフィスのデザイン

ABW型オフィスは、従業員の多様な生き方を尊重した、これからの働き方を象徴するオフィスといえる。仕事内容によって自由に働く場所や時間を選べるABWの長所を取り入れたABW型オフィスでは、個人の多様な需要に応じたスペースを用意することで従業員の満足度・生産性の向上に寄与する。
ここからは、ABW型オフィスのデザインで参考になる事例を紹介していく。

フリーアドレス席

ABW型オフィス導入にあたり、オフィスの全部あるいは一部にフリーアドレス席を導入することになるだろう。個人の固定席を取り除くのであれば、従業員の私物を置くスペースがなくなるなどといった不便を解消するために、パーソナルロッカー設置等の工夫が必要になる。

コミュニケーションを活性化させるコラボレーションスペース

オープンなコラボレーションスペースを設置することは、従業員同士の活発なコミュニケーションにつながる。チームメンバー同士の交流に限らず、部署間を超えた情報交換やアイデア共有など、イノベーションが生まれるきっかけになり、また他者との交流から得られる刺激は従業員の満足度やモチベーション向上につながる。

個人の集中力を高めるプライバシースペース

コミュニケーションを促すように設計されたオフィスでも、従業員が一人で集中できるスペースを取り入れることも重要である。ウェブ会議に対応した個室ブースや、従業員が一人で考え事をしたり、瞑想を行うことのできるクワイエットルーム等、オープンスペースからの雑音がストレスにならないための工夫も効果的である。

オフィス環境を最適化するIoTセンサー

ABW型オフィスのオフィススペースを最適化するためのデジタルツールも有効である。座席に人感センサーを設置し利用状況を計測することで、利用頻度が低いフリーアドレス席を減らし、代わりにミーティングルームを設置するなどの代替策を考えることができる。定期的なモニタリングと測定結果に基づく改善提案を通じて、無駄な執務スペース・賃料コストの削減を実現し、生産性の高いオフィスづくりへと繋げることができる。

働き方改革に沿ったオフィス改善ポイントを取り入れる

ABW型オフィスの成功事例
資生堂グローバル本社オフィス成功事例

資生堂グローバル本社オフィス「GLOBAL VISION CENTER」は「全従業員が常にブランドを体感し、ビューティーイノベーション創発」を実現するべく、ABW型オフィスへのリニューアルに踏み切った。オフィス開業後の従業員アンケート調査では、回答者の96%が改装後のオフィスについて創造性を喚起するオフィス環境になったと回答する等、大きな成功を収めている。

働き方の変容に対する不安感や拒否感を解消するために、全社規模のチェンジマネジメントやワークプレイス変革の意義・理解を得るためのイベント開催を通じて、社員の主体的な関わりのための基礎を築くプロセスにも力を入れた。リニューアルしたABW型オフィスには、自然を感じリフレッシュしながら部門間を超えたコミュニケーションを活性化させるスペース新価値創造フロア「イレブン」や、社員のウェルビーイングを促すためにカフェスペースやリラックスエリアなどのスペースを設けている。

用途に応じて移動できるABW型オフィス事例

用途や趣の異なるさまざまなスペースからなるABW型オフィスを実現した事例もある。リセプション機能と執務機能を各フロアに集約し、社員の業務内容や気分によって働く場所を選択できるようなオフィスデザインになっており、オープンスペースに加え、人工芝を敷き詰めたミーティングスペースや、オンラインミーティングに対応できるシェル型の個人ブースを多数設置するなど、用途に応じて移動できるようになっている。

また社員に限られず、社内外のステークホルダーとの交流が生まれるようなタッチポイントを生み出す機能も備わっている。低めのソファや椅子等を設置することで、風通しの良さを実感できるスペースを作り出し、大人数収容可能な大型ミーティングルームは交流拠点として機能する。

まとめ

ABW型オフィスを導入することによって従業員のモチベーションが上がる一方で、新たな形だからこそ問題が起こることも考えられる。全ての従業員が快適に働けるよう、意見を聞きながら創意工夫をしていくことが最も重要だといえる。

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