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名古屋フレキシブル・オフィス市場の現状と今後

東京・大阪で急成長してきたフレキシブル・オフィス市場。その勢いは地方都市にも波及し、なかでも存在感が際立っているのが日本三大経済圏の一角、名古屋である。地元経済を支えるモノづくり企業がテレワークを併用した柔軟な働き方に舵を切ったことでフレキシブル・オフィスの需要が拡大。Aグレードオフィスへの出店攻勢を仕掛けている。

2025年 05月 14日

本稿は、成長著しい名古屋フレキシブル・オフィス市場の最新動向について解説しています。本稿執筆者であるJLL日本 リサーチ事業部 担当者による下記の解説動画も合わせてご覧ください。

目次
前年比19%増で東京・大阪を上回る

日本各地の都市においてハイブリッドワークが前例のないペースで普及するなか、名古屋のフレキシブル・オフィス市場が急速に進化している。

JLL日本 リサーチ事業部が実施した最近の調査によると、名古屋中心部におけるフレキシブル・オフィスの純賃貸可能面積は20,623㎡(表1)で、前年比19%増となった。前年比13%増の大阪中心部、前年比2%増の東京都心部と比較して増加率が高いことを示している(出所:JLLリサーチ「名古屋フレキシブル・オフィス市場の展望」、2025年4月)。

大きな期待を背に、フレキシブル・オフィス事業者は主要オフィス・ビジネス地区に大規模な拠点を次々と開設しており、2024年末時点で名古屋中心部におけるフレキシブル・オフィスはコロナ前の2倍以上に増加している。

2000年代初頭から名古屋中心部へ先行出店してきたリージャスやサーブコープなどのサービスオフィス事業者は継続的に拠点を増やしており、最新鋭のオフィスビル内には大規模なコワーキング施設も開業している。
 

表1 三大都市圏のフレキシブル・オフィス市場の比較(2024年第4四半期時点)
名古屋中心部 大阪中心部 東京都心5区
市場参入 2005年 2000年代半ば 1990年代
拠点数 25 72 363
オペレーター(事業者)数 9 18 20
総貸床面積の過去5年間平均成長率 16% 11% 5%
2024年の前年比成長率 19% 13% 2%
1人当たり月額利用料(完全個室) 58,000円~150,000円 60,000円~170,000円 80,000円~232,000円
トレンド 事業者の名駅周辺への出店が顕著 新築Aグレードオフィスへの出店が目立つ グローバル事業者が最も多く市場参入している
2024年実質GDP成長率 0.2% 0.4% 0.8%
GDP規模(兆円、2023年度) 14.4(全国に占める割合は2.4%) 20.9(同左3.5%) 118.8(同左20%)
就労人口(万人、2023年度) 230 280 840

出所:JLL、オックスフォード・エコノミクス、内閣府、総務省 ※名古屋中心部は中区・東区・中村区・西区、大阪中心部は北区・中央区・浪速区・西区・淀川区、東京都心5区は千代田区・港区・中央区・渋谷区・新宿区

名古屋中心部におけるフレキシブル・オフィスの純賃貸可能面積は20,623㎡で、前年比19%増。大阪中心部、東京都心部と比較して増加率が高い

名古屋フレキシブル・オフィス市場が急成長している2つの理由
1. アジャイルなワークプレイス戦略への切り替え

変革要因の一つは、自動車輸送、精密機械、電気機械といった製造業といった伝統的な産業がアジャイルなワークプレイス戦略に舵を切り始めたことから、名古屋中心部におけるフレキシブル・オフィスの需要が高まっていることが挙げられる。人工知能(AI)の登場やデジタル化の進展、そして労働市場の逼迫により、事業拡大と人材採用を促進するツールとしてフレキシブル・オフィスのニーズが高まっているのだ。

国土交通省が2023年度に実施したテレワーク人口実態調査によると、中京圏(愛知県、三重県、岐阜県)の雇用型就労者のテレワーク実施率は22%となり、コロナ以前(2019年)の14.7%と比べて顕著な増加がみられた。

世界の主要都市と同様に、日本企業の間でもワークプレイスの最適化がますます優先事項となっており、中小企業の営業所や起業家・フリーランスのシェアオフィスといった従来の用途に加え、出張中の社員向けのオンデマンドのワークスペース、プロジェクトスペース、サテライトオフィスとしてのフレキシブル・オフィスの利用が増加している。

2. Aグレードオフィス市場の需給逼迫とコスト高騰

名古屋市中心部のAグレードオフィスの需給バランスがタイトであることも利用可能な賃貸スペースが限られ、なおかつ移転コストが高騰していることがフレキシブル・オフィスの需要増につながっている。

なお、2024年第4四半期時点で名古屋中心部のAグレードオフィスの空室率は3.1%、平均賃料は月額坪当たり24,215円となっている。

【執筆者:JLL日本 リサーチ事業部 アシスタントマネージャー 中丸 友世】

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