【2025年】賃料が急上昇している東京オフィス賃貸市場の最新動向 – 新規大量供給を控える2028-2029年までを展望する
東京Aグレードオフィス市場の賃料水準が急上昇中だ。背景には人材獲得競争とオフィス回帰がある。立地・スペックが見劣りする既存物件も空室消化が進み、需要は2025-2026年の供給物件へ滲み出す。一方、過去最高レベルの大量供給が予定されている2028-2029年まで堅調に推移するのだろうか?
本稿は、2025年第1四半期末時点の東京オフィス賃貸市場において賃料水準が急上昇している要因について解説しています。JLL日本ではオフィスのみならず、物流施設や商業施設(リテール)、不動産投資市場、環境不動産など、多種多様な定期レポートを発表しています。ご興味のある方は下記をご覧ください。
オフィス賃料が急激に回復
東京オフィス賃貸市場の賃料水準が急上昇している。
JLL日本 リサーチ事業部の調査によると、Aグレードオフィス2025年第1四半期末時点における東京都心5区のAグレードオフィスの坪当たり平均賃料(共益費込み)は35,520円で前年比4.9%増を記録。2024年第1四半期以来、5期連続の賃料上昇となった。
JLLが定義する東京都心5区のAグレードオフィス
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2020年から始まったコロナ禍を受けて、感染防止策として在宅勤務に切り替える企業が続出。支障なく業務を遂行できることが証明され、リモート主体の働き方を継続、もしくは在宅勤務とオフィス勤務を併用するハイブリッドワークが市民権を得ることになり、一時期はオフィスの存在意義が揺らぐことさえあったが、いまや隔世の感がある。
20年近く、東京オフィス賃貸市場を調査してきたJLL日本 リサーチ事業部 シニアディレクター 大東 雄人は、東京オフィス賃貸市場の活況を呈す理由について「長・短期的な2つのトレンドが重なったため」と指摘。長期的トレンドは「人材獲得競争の激化」と、短期的トレンドは「オフィス回帰の本格化」だ。
「人材獲得競争の激化」と「オフィス回帰の本格化」という長・短期的な2つのトレンドが重なったことで東京都心部のオフィス需要が喚起され、空室率低下に伴う大幅な賃料上昇を引き起こすことになった
1. 長期的トレンド:少子高齢化に伴う人材獲得競争の激化
人口減少社会に突入した日本では労働力不足が顕在化。業種を問わず人材不足が顕著になっており、企業は将来的な成長に向けて、いかに優秀な人材を新規採用し、長期雇用を維持するかが至上命題になっている。大東によると「従前、企業の人事戦略と不動産戦略は別物として扱われてきたが、オフィス環境が社員のエンゲージメント向上に大きく影響することが理解され、人事戦略の一環でオフィス移転・改修を行う企業が増えている」という。
2. 短期的トレンド:オフィス回帰の本格化
東京都が実施している「テレワーク実施率調査」によると、新型コロナ感染症が五類への移行が段階的に開始した2023年4-5月に急低下。2024年3月の51.6%から同年5月には44%に低下。オフィス回帰が本格化したことが東京都の調査から読み取れる。
「社員が自主的に『出社したくなるオフィス』を構築するためには、交通至便な都心部かつ社員の満足度向上を意識した高品質なオフィスビルへの統合移転が進んでいる。こうした長期的トレンドに、コロナ収束後に本格化したオフィス回帰という短期的トレンドが重なった。この2つの要因によって東京都心部のオフィス需要が喚起され、空室率低下に伴う大幅な賃料上昇を引き起こすことになったといえる」(大東)
優勝劣敗が顕著なマーケットから脱却しつつある
東京Aグレードオフィス238棟のうち空室率5%は27棟、空室率20%はわずか7棟しか存在しない(2025年第1四半期末時点) 出所:JLL日本 リサーチ事業部
2025年第1四半期末時点でJLLが定義する東京Aグレードオフィスは238棟存在するが、そのうち満室稼働は66%の158棟にのぼり、空室率20%超の物件はわずか7棟しか存在していない。ちなみに、2024年第3四半期末時点で満室稼働の東京Aグレードオフィスは122棟(214棟中)だった。
コロナ禍を経て好立地・高品質のオフィスビルに需要が集中する「質への逃避(Flight to quality)」が世界的なトレンドとなり、東京オフィス賃貸市場においても優勝劣敗が続いていた状況に変化の兆しが見えてきた。特に交通至便な都心5区は“空室枯渇”といって過言ではないだろう。
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具体的には、東京屈指のビジネスエリアである丸の内・大手町エリアの空室率は0.7%。2023年末に開業した大規模オフィスが空室を抱え、2023年第3四半期末時点では空室率5.3%だった六本木・赤坂エリアも2.8%まで低下している。そして新宿・渋谷エリアの空室率は1%。渋谷に限定すれば0%台を推移している。
「東京都心5区の平均空室率が2.5%まで低下しており、都心部から比較的距離のある湾岸エリアや最寄り駅から距離のある一部の物件にまとまった空室が確認できる程度。さらに、市場関係者にヒアリングしたところ湾岸エリアも良い意味で“異変”が起こっている」(大東)
東京Aグレードオフィス市場の賃料・空室率(2025年第1四半期末時点)
エリア | 賃料(共益費込) | 空室率 | |||
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円/坪 | 前四半期比 | 前年比 | 2024年末 | 前四半期比 | |
東京都心5区 | 35,520 | 1.4% | 4.9% | 2.5% | -0.3% |
丸ノ内/大手町 | 43,829 | 1.2% | 6.4% | 0.7% | -0.3% |
六本木/赤坂 | 34,539 | 1.3% | 2.6% | 2.8% | -1.6% |
新宿/渋谷 | 31,668 | 2.1% | 9.0% | 1.0% | -0.7% |