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【2025年】賃料が急上昇している東京オフィス賃貸市場の最新動向 – 新規大量供給を控える2028-2029年までを展望する

東京Aグレードオフィス市場の賃料水準が急上昇中だ。背景には人材獲得競争とオフィス回帰がある。立地・スペックが見劣りする既存物件も空室消化が進み、需要は2025-2026年の供給物件へ滲み出す。一方、過去最高レベルの大量供給が予定されている2028-2029年まで堅調に推移するのだろうか?

2025年 05月 21日

本稿は、2025年第1四半期末時点の東京オフィス賃貸市場において賃料水準が急上昇している要因について解説しています。JLL日本ではオフィスのみならず、物流施設や商業施設(リテール)、不動産投資市場、環境不動産など、多種多様な定期レポートを発表しています。ご興味のある方は下記をご覧ください。

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オフィス賃料が急激に回復

東京オフィス賃貸市場の賃料水準が急上昇している。

JLL日本 リサーチ事業部の調査によると、Aグレードオフィス2025年第1四半期末時点における東京都心5区のAグレードオフィスの坪当たり平均賃料(共益費込み)は35,520円で前年比4.9%増を記録。2024年第1四半期以来、5期連続の賃料上昇となった。

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JLLが定義する東京都心5区のAグレードオフィス

  • 延床面積:30,000㎡以上

  • 基準階床面積:1,000㎡以上

  • 竣工年:1990年以降

  • 都心5区:千代田区、中央区、港区、新宿区、渋谷区

2020年から始まったコロナ禍を受けて、感染防止策として在宅勤務に切り替える企業が続出。支障なく業務を遂行できることが証明され、リモート主体の働き方を継続、もしくは在宅勤務とオフィス勤務を併用するハイブリッドワークが市民権を得ることになり、一時期はオフィスの存在意義が揺らぐことさえあったが、いまや隔世の感がある。

20年近く、東京オフィス賃貸市場を調査してきたJLL日本 リサーチ事業部 シニアディレクター 大東 雄人は、東京オフィス賃貸市場の活況を呈す理由について「長・短期的な2つのトレンドが重なったため」と指摘。長期的トレンドは「人材獲得競争の激化」と、短期的トレンドは「オフィス回帰の本格化」だ。

「人材獲得競争の激化」と「オフィス回帰の本格化」という長・短期的な2つのトレンドが重なったことで東京都心部のオフィス需要が喚起され、空室率低下に伴う大幅な賃料上昇を引き起こすことになった

1. 長期的トレンド:少子高齢化に伴う人材獲得競争の激化

人口減少社会に突入した日本では労働力不足が顕在化。業種を問わず人材不足が顕著になっており、企業は将来的な成長に向けて、いかに優秀な人材を新規採用し、長期雇用を維持するかが至上命題になっている。大東によると「従前、企業の人事戦略と不動産戦略は別物として扱われてきたが、オフィス環境が社員のエンゲージメント向上に大きく影響することが理解され、人事戦略の一環でオフィス移転・改修を行う企業が増えている」という。

2. 短期的トレンド:オフィス回帰の本格化

東京都が実施している「テレワーク実施率調査」によると、新型コロナ感染症が五類への移行が段階的に開始した2023年4-5月に急低下。2024年3月の51.6%から同年5月には44%に低下。オフィス回帰が本格化したことが東京都の調査から読み取れる。

「社員が自主的に『出社したくなるオフィス』を構築するためには、交通至便な都心部かつ社員の満足度向上を意識した高品質なオフィスビルへの統合移転が進んでいる。こうした長期的トレンドに、コロナ収束後に本格化したオフィス回帰という短期的トレンドが重なった。この2つの要因によって東京都心部のオフィス需要が喚起され、空室率低下に伴う大幅な賃料上昇を引き起こすことになったといえる」(大東)

優勝劣敗が顕著なマーケットから脱却しつつある

東京Aグレードオフィス238棟のうち空室率5%は27棟、空室率20%はわずか7棟しか存在しない(2025年第1四半期末時点) 出所:JLL日本 リサーチ事業部

2025年第1四半期末時点でJLLが定義する東京Aグレードオフィスは238棟存在するが、そのうち満室稼働は66%の158棟にのぼり、空室率20%超の物件はわずか7棟しか存在していない。ちなみに、2024年第3四半期末時点で満室稼働の東京Aグレードオフィスは122棟(214棟中)だった。

コロナ禍を経て好立地・高品質のオフィスビルに需要が集中する「質への逃避(Flight to quality)」が世界的なトレンドとなり、東京オフィス賃貸市場においても優勝劣敗が続いていた状況に変化の兆しが見えてきた。特に交通至便な都心5区は“空室枯渇”といって過言ではないだろう。

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具体的には、東京屈指のビジネスエリアである丸の内・大手町エリアの空室率は0.7%。2023年末に開業した大規模オフィスが空室を抱え、2023年第3四半期末時点では空室率5.3%だった六本木・赤坂エリアも2.8%まで低下している。そして新宿・渋谷エリアの空室率は1%。渋谷に限定すれば0%台を推移している。

「東京都心5区の平均空室率が2.5%まで低下しており、都心部から比較的距離のある湾岸エリアや最寄り駅から距離のある一部の物件にまとまった空室が確認できる程度。さらに、市場関係者にヒアリングしたところ湾岸エリアも良い意味で“異変”が起こっている」(大東)

東京Aグレードオフィス市場の賃料・空室率(2025年第1四半期末時点)
エリア 賃料(共益費込) 空室率
円/坪 前四半期比 前年比 2024年末 前四半期比
東京都心5区 35,520 1.4% 4.9% 2.5% -0.3%
丸ノ内/大手町 43,829 1.2% 6.4% 0.7% -0.3%
六本木/赤坂 34,539 1.3% 2.6% 2.8% -1.6%
新宿/渋谷 31,668 2.1% 9.0% 1.0% -0.7%

出所:JLL日本 リサーチ事業部

例えば、郊外の既存ビルにオフィスを構える中小・スタートアップ企業が人材採用を目的に、交通至便性には多少目をつぶり、賃料が値ごろでありながら高品質なビルが多い湾岸エリアに着目するケースが増えているという。

その半面、湾岸エリアや住宅地に近い一部エリアのAグレードオフィスを高級レジなどに建て替える動きもあり、大東は「建築コスト次第」と前置きしながらも「今後は用途変換や建替えを踏まえて優勝劣敗の線引きがさらに明確になる」とも指摘する。

2026-2027年に向けた東京オフィス賃貸市場の展望

東京都心部ではAグレードオフィスの開発プロジェクトが目立つ 画像提供:PIXTA

既存ビルにめぼしい空室が見当たらず、オフィス需要は都心郊外の既存ビルに波及しながらも2025-2026年の新規供給物件へとシフトしている

急回復をみせる東京オフィス賃貸市場だが、今後の見通しは明るい。

従前から懸念材料として挙げられるのが、2025-2026年と連続する新規大量供給(2025年・50万㎡、2026年・40万㎡)の行方だった。しかし、60万㎡もの新規供給があった2023年を経て2024年第4四半期末時点の空室率が2%台まで低下。「既存ビルにめぼしい空室が見当たらず、オフィス需要は都心郊外の既存ビルに波及しながらも2025-2026年の新規供給物件へとシフトしている」(大東)という。

「2025年に竣工(予定)したAグレードオフィスは8棟。3月までに5棟が竣工したにもかかわらず空室率は低下を続けている。既存ビルの空室が枯渇しており、新規供給物件の内定率も堅調。多くの市場関係者の予想を良い意味で裏切ったといえるだろう」(大東)

2025-2026年竣工(予定)オフィスへ移転を発表した主な企業

企業 2025年竣工 2026年竣工
野村不動産 BLUE FRONT SHIBAURA
本田技研工業 虎ノ門アルセタワー
KDDI TAKANAWA GATEWAY CITY THE LINKPILLAR 1 NORTH
伊藤忠商事 赤坂トラストタワー
神戸製鋼 TAKANAWA GATEWAY CITY THE LINKPILLAR 2

出所:各社が発表したプレスリリースをもとにJLL作成

2025年に竣工物件の多くが高水準の内定率(稼働率)となっており、プレスリリースによる正式発表はないものの、2026年竣工物件に対する大手企業の移転情報が一部で報じられている。

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大東は「世界経済が平常通り」であることを前提に「2027年の新規供給は相対的に少ないため、向こう3年間は需給がひっ迫した状況が継続する」と予想する。

驚異的な新規大量供給が予想される2028-2029年の影響は?

東京Aグレードオフィスの需給と空室率の推移。2028-2029年は過去最高の大量供給が見込まれている 出所:JLL日本 リサーチ事業部

一方、2028-2029年には過去最高の供給量(80万㎡)を記録した2003年を凌駕する新規供給(2年平均)が計画されている。

2025-2026年を圧倒する新規供給を受け、JLLの現時点での予測を「2029年末時点で空室率4%近くへ上昇」としているが、大東は建築費の高騰によって供給が後ろ倒しになる可能性について指摘する。

「2025-2026年の新規供給物件でさえ当初予定していた竣工時期から数カ月の遅れが見られ、直近では『中野サンプラザ』建替え計画が白紙になっている。2028-2029年の新規供給が計画通りに進まず、供給時期の後ろ倒しや計画自体の見直しによって供給床が減る可能性があり、2027年以降も需給が好調さを維持する可能性は決して低くない」(大東)

賃貸市場の好調さを背景にオフィス投資が復活へ

JLLアジア太平洋地域の発表によると、円安と低金利を背景に日本の不動産投資市場は世界的に注目を浴びており、2024年の不動産投資額で日本は世界3位(1位米国、2位英国)となった。この勢いは続き、2025年第1四半期の投資額は前年同期比20%増の137億米ドルとなり、第1四半期の投資額としては直近5年間で最高水準を記録。今後も好調さを維持すると予想されている。

そうしたなか、オフィス賃貸市場の賃料上昇トレンドを背景に、2025年はコロナ禍で停滞していたオフィス投資が本格的に復活を遂げようとしている。海外投資家のオフィス回帰の動きが顕在化し、「三桁億円」の大型取引が目立つようになり、今後はAグレードオフィスのみならず、賃料アップサイドを狙える既存ビルやBグレードオフィスへの投資増が期待されている。

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テナント企業は選択肢を広げておく必要がある

一方、この賃料上昇局面はテナント企業にとって歓迎したくない状況といえる。多くのテナントが定期借家契約を締結しており、契約更新時の賃料負担増は避けられない状況になっている。そのため、大東は「『Stay or Move(契約更新と移転)』をできるだけ早期から検討し、様々な選択肢を確保しておくべき」と指摘する。

需給のひっ迫が予想される2025-2027年。JLLのようなオフィス市場の専門家に早期段階から相談し、対応策を講じていくことがテナント企業に求められそうだ。

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