記事

フリーアドレスオフィスの4つのメリットと失敗しないための注意点

フレキシブルで効率的なオフィス形態の1つとして定着した「フリーアドレス」。どのようなスタイルでどんなメリットがあるのか、「ABW」との違い、導入プロセスや成功事例、そして押さえておきたい注意点を解説する。

2023年 02月 09日
フリーアドレスとは?特徴とABWとの違い

フリーアドレスとは、従業員ごとの固定席を設けずに、その日に空いている席を自由に活用できるワークスタイルを指す。部署を超えて各専門分野のプロフェッショナルが交流することで、社内のコラボレーションや新しい発想が自然発生することを期待してスタートさせたものだという。

一方、同一視されることの多い「ABW(アクティビティ・ベースド・ワーキング)」は、オランダ生まれのワークスタイルであり、社内外を問わず業務に最適な場所や時間を自由に選択できる働き方と定義されている。ABWでは働く時間も選択でき、自宅やカフェ、コワーキングスペースなどで働くことも可能な、いわゆる働き方の概念であるのに対し、フリーアドレスはあくまで社内で従業員が働くことを前提としている物理的な執務席を指すのが異なる点だ。

フリーアドレスが注目される背景

世界的なハイブリッド型ワークスタイルへの転換という潮流が存在している

なぜ今、フリーアドレス導入を検討する企業が増えているのか。その背景には世界的なハイブリッド型ワークスタイルへの転換という潮流が存在している。

グローバルに事業展開する国内外の企業を対象にJLLが行った調査レポートによると、2022年の時点で、在宅・出社あるいはサテライトオフィスコワーキングスペース、ホテルやカフェに代表されるサードプレイスなどの働く場所や時間等の制約に対してより多くの裁量を持ち、能動的で柔軟な働き方を実践する「ハイブリッド型勤務」を行っている従業員は全体の55%に達し、ハイブリッド型を希望する従業員も60%と高い水準を維持している。

またJLLが2022年に行ったグローバル調査によると「全従業員にリモートワークを常時可能とすることを検討するか」という質問に対して、導入済み、あるいは2025年までに導入の可能性大と答えた企業は従業員5,000人未満の企業では51%、従業員5,000人以上の企業では56%という調査結果も出ている。

日本でも、2017年から政府が推進する働き方改革関連法を受け、従業員の多様な働き方を実現するフレキシブルなオフィス環境構築は、いまや企業のオフィス戦略に欠かせないトレンドとなりつつある。

こういった働き方を実現するための実践的な施策の1つとして、フリーアドレスの導入が進められているのである。

働き方の未来に関する最新版レポートをダウンロードする

フリーアドレスがもたらす4つの効果

フリーアドレスを導入することで、自社にとってどのような効果が期待できるのか。大きく以下の4つのメリットが挙げられるだろう。
 

  • 従業員の生産性功上

  • 従業員のモチベーション向上

  • オフィスのコスト削減

  • ペーパーレス化の促進

  • アイデアやイノベーションの創出

従業員にとっては、書庫や会議室に近い席などその日の業務に利便性の高い席を選ぶことで生産性が高まったり、執務席を柔軟に変更できることで気分転換に繋がり、モチベーション向上などの効果が期待できる。

働き方改革やコロナ対策としてハイブリッド型ワークスタイルを導入することで全従業員が毎日出勤する必要がなくなり、従来型の固定席は不要になる。執務席を共用するフリーアドレスはデスクの数やオフィス面積を最適化することができ、賃料や光熱費等のランニングコスト削減にもつながる。

また、フリーアドレスのオフィスは固定アドレス(席)と比較して、より多様な同僚と接する機会が増え、偶発的なコミュニケーションによる業務改善やアイデア・イノベーションも発生しやすくなるだろう。

フリーアドレス導入に失敗する7つの原因

利点も数多いフリーアドレスだが、中には導入したものの浸透しなかったり不満が出たりして廃止したという声も聞く。そうなってしまう原因を知って失敗を回避したい。

  1. 導入の目的がはっきりせず、従業員の理解が得られない

  2. 従業員の所在が把握できず、連絡や業務進行に支障をきたす

  3. 新入社員と先輩社員の席が離れサポートが不十分になりがち

  4. 過度な雑談で生産性が下がる

  5. 書類や所持品の管理が困難である

  6. セキュリティ面で懸念がある

  7. 統括管理者が不在の場合にトラブル時の解決が難しい

いずれも想像がつく状況ではないだろうか。次の章で、これらの諸問題についての対策を挙げていくので参考にしてほしい。

フリーアドレス廃止を回避し、成功させるコツ

データに基づいた自社の働き方に最適なオフィスデザインは、フリーアドレス定着の大きな決め手になる

上で述べたようなフリーアドレス導入の失敗を招く要素が自社に見受けられる場合は、以下のような対策でひとつひとつ課題を解決し、成功に近付けていきたい。

オフィス利用率の分析を通してフリーアドレスの成功率を高める

フリーアドレスでは基本的に座る席は従業員に任せられるため「使いにくい」、「不快」と感じる場所は次第に利用されにくくなっていきデッドスペースが生まれる一方で、利便性の高いスペースはいつも席が埋まって固定席化するなど、従業員の不満を誘う可能性がある。

これを回避する方法の1つに、IoTを活用して人の動きや室温などをセンサーで計測し、オフィス利用状況をリアルタイムにモニタリング・分析し、スペースの利用率をデータ化するツールの導入が挙げられる。

データに基づいた自社の働き方に最適なオフィスデザインは、フリーアドレス定着の大きな決め手になるだろう。

ソロワークスペースなどの導入で生産性の低下を防止する

フリーアドレスのオフィスではより活発な交流や会話が生まれるメリットが見込めるが、なかには1人で集中して行うのに適した業務も当然存在する。また取引先や支社とのオンラインミーティング時にはできるだけ周囲の雑音が入らない環境のほうが望ましい。

これらの要求を満たすことのできる個室やブースを「ソロワークスペース」と呼び、オフィス内に設置することで、時と場合に応じた最適な執務環境を提供できるようになる。

スマートオフィス化(ペーパーレス化・重要システムの導入)を通じて効率化を図る

スマートオフィスとは、IoTやAI・ロボットなどのスマートデバイスを用いて従来より業務効率や生産性を向上させたオフィスのことを指す。

座席が固定されないフリーアドレスでは利用後、席上に自分の荷物を一時保管することができないため、書類などを常に移動させる必要がある。そのためフリーアドレスの導入と同時並行でペーパーレス化を進める必要がある。荷物を保管する個人ロッカーの設置はもちろん、どこからでも最新の資料にアクセスできるIT環境を整えれば、各自の固定デスクに書類を保管する必要がなくなるばかりか業務のスピードも向上するだろう。

また、社内のどこにいるのかが日によって変わるフリーアドレスオフィスでは、各自とスムーズに連絡を取れるようなシステム・ツールの導入と共有が欠かせない。

ビデオ会議や仮想オフィスツール、グループウェアによる社内外のコミュニケーションのほか、経費や請求書の自動処理、電話の取り次ぎといったバックオフィス業務のDX化も進め効率化をはかっていく必要がある。

フリーアドレスに向いている企業・向かない企業

さまざまなメリットが期待できるとはいえ、業務や職場によっては必ずしもフリーアドレス化が適していない企業もやはり存在する。以下にその特徴を紹介するので、導入検討時の判断材料としてほしい。

以下のような業態・業種の企業は本質的にフリーアドレスに適しない、あるいは恩恵があまり期待できないといえる。

  • 特許に関わる商品開発など機密性の高い情報や個人情報を多く扱う企業

  • もと従業員数が少なく、固定アドレスのままでも十分な交流が維持できる企業

業務のDXやペーパーレス化が進んでおらず、多くの紙の資料を各自が参照して業務を行っているような企業では、フリーアドレス化すると混乱を招くのではないかという懸念が生じるかもしれない。

しかし逆にいうと、フリーアドレスの導入はDX化やペーパーレス化に踏み切る絶好の機会となるため、積極的に導入を検討することをおすすめする。

フリーアドレス導入に向けてのステップ

自社の課題や導入の目的を明確にし、現場の従業員と十分に共有しておくことが不可欠

メリットや必要性を理解してフリーアドレスの導入を決定した場合、具体的にはどのような手順で始めればよいのだろうか。以下に一般的なステップを紹介する。

一般的な手順
1 フリーアドレス導入の目的や自社の課題解決にどう役立つのかを明確にする
2 現状のオフィスの利用状況や課題をデータにもとづき整理し改善点を確認する
3 フリーアドレスの対象となるのは全社なのか特定の部署なのか検討し、オフィス移転を含めた計画を策定する
4 最適な座席数・レイアウト・多目的ゾーンなどを設計する
5 移転やレイアウト変更のスケジュールを決定し、業者への見積もり依頼と発注を行う
6 運用ルールの制定と各部署への周知を行う
7 フリーアドレス化に伴う工事や作業を実施する

漠然とフリーアドレス化すれば良いわけではなく、自社の課題や導入の目的を明確にし、現場の従業員と十分に共有しておくことが不可欠だ。

また、オフィスの中で利用率の低いエリアを割り出したり、人の動きからコミュニケーションの課題を把握したりするには、従業員へのヒアリングに加え、「IoTアナリティクス」などを利用した客観的なデータがあればより成功が確かなものになる。

フリーアドレス導入成功事例

働き方改革の推進が求められるなか、主要な取り組みの1つであるフリーアドレス化をはじめとしたフレキシブルなオフィス構築・運用に成功している先進的な企業の事例を3社紹介する。

アサヒグループホールディングス

飲料・食品メーカー大手のアサヒグループホールディングスは、2020年から全社的にリモートワークを導入し、新たな働き方の実現に向けて、本社オフィスの全面改修および営業拠点55カ所を約半数へ統合集約するという全社的なワークプレイス改革を実行した。

大規模な執務環境の変化にあたっては、移転プロジェクトの意義・コンセプトについて従業員に丁寧に説明し、効率化だけではなく新しい働き方への期待を高めるアプローチを心がけたという。

在宅勤務とオフィスでのフリーアドレスを併用することで、コスト削減を実現しつつグループ感のシナジーを発揮。「新しい発見、体験ができる場」、「チームビルディングなどのマネジメントが発揮できる場」、「アイデア創出などの活発なディスカッションの場」、「グループとしての一体感を感じられるエンゲージメントの場」として動き出している。

プレシャスパートナーズ

採用コンサルティング事業を手掛ける株式会社プレシャスパートナーズは、新宿区主催の「2018年度ワーク・ライフ・バランス推進企業表彰制度」でアイデア賞を受賞するなど、独自の働き方改革が高く評価されている。

同社では2019年、西新宿の本社オフィスリニューアルを実施し、全席をフリーアドレス化。さらに執務空間の一角にはカフェテリアを新設し、ファミレスタイプのボックス席やスタンディング席を増設するなど使い勝手の良いオフィス環境を構築した。

リニューアルにあたっては若手社員も多く参画した部門横断型チームを組成し、ハード面だけでなく社内制度や業務改善などソフト面を含めた意識改革を推進。その結果、業績拡大と業務時間の削減を両立させるなど、従業員満足度の向上を実現した。

京都電子計算

京都新聞グループのIT企業として地方自治体や大学などを中止とした業務システムやパッケージソフト開発・ネットワークの構築運用などの多彩なITソリューションを提供する京都電子計算株式会社は、2022年5月に本社オフィスを移転し、テレワークとオフィスワークを組み合わせたハイブリッドな働き方を開始した。

日本有数の観光地である京都では、ビルの高さに制限があり、約1000坪という大規模な床面積の移転先確保が難しいという地域特性があったが、全面フリーアドレスを採用し、複数のワーキングスペースを活用したハイブリッドワークの導入でフロア面積を約800坪まで削減、新規開発中のビルの4フロアに移転が決まった。

複数のビルに分散していた旧オフィスの課題であった労働環境の格差が改善され、コミュニケーションの向上人材採用の安定化など新たな働き方を実践できる執務環境の整備に成功した。

これからの働き方を反映させたフリーアドレスオフィス

世界的にダイバーシティ経営への転換が進み、より柔軟な働き方が求められるこれからの時代、それに対応できるフリーアドレスのオフィス構築は企業の今後を左右する重要なファクターだといえる。

現在の従業員のみならず、社外や投資家・採用人材に向けても、未来を見据えた企業であることが目で見て分かるフリーアドレスオフィスの導入は、多くの企業にとって検討の価値が大いにあるだろう。

具体的な進め方や自社に最適なワークプレイス戦略に迷ったら、 JLLのレポートをはじめとする専門家の知見をぜひ参考にしてほしい。

これからの時代に求められるワークプレイス戦略とは?

お問い合わせ

何かお探しものやご興味のあるものがありましたら、お知らせ下さい。担当者より折り返しご連絡いたします。