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ベンチャーオフィスに最適なオフィスの種類とレイアウト・選び方

イノベーションをもたらす存在と期待されるベンチャー企業。彼ら特有のフットワークの軽さやフレキシブルな業態に適したオフィス条件とはどのようなものか。ベンチャー企業がオフィス選びをする際のポイントや理想的なレイアウト例、注意点などを解説。ベンチャー企業のオフィス選択の成功事例も紹介する。

2024年 02月 09日
ベンチャー企業とは?スタートアップ企業との違い

そもそもベンチャー企業とはどのような企業のことを指すのだろうか。英語で”venture”は「リスクを知りながらあえて挑戦する」といった意味を持ち、これから派生した和製英語が「ベンチャー企業」だ。

経済産業省の私的懇談会として開催された「ベンチャー有識者会議」とりまとめの中では、ベンチャーの定義について「ベンチャーとは、起業にとどまらず、既存大企業の改革を含めた企業としての新しい取り組みへの挑戦である」と宣言がなされている。

つまり、ベンチャー企業とは既存のビジネスを踏襲するのではなく独自の視点や技術をもとにして新しいサービスや未開拓のビジネスモデルを展開する企業のことと定義でき、投資家やVC(ベンチャーキャピタル)企業から資金調達を受けて起業する。その性質上、創業時には会社の規模は中小であることが多い。

また、ベンチャー企業とよく似た文脈で語られることの多い「スタートアップ企業」は、アメリカのシリコンバレーが発祥とされており、新しいサービスやビジネスモデルを展開するという点ではベンチャー企業と同様だが、より革新的で短期間に急激な成長を遂げるという部分がベンチャー企業とは異なる。とはいえ、ベンチャー企業とスタートアップ企業は同一のものとして捉えられている場面も少なくない。

ベンチャー企業に適したオフィスの条件

イノベーションの創出に役立つコミュニケーションスペースが備わっていること

ベンチャー企業に適したオフィスを見つけるためには、ベンチャー企業の特性をふまえ、次のような条件を兼ね備えたオフィスが望ましい。

  • 業態や会社規模が短期間で変化する可能性があるため、レイアウトや契約期間の自由度が高いこと

  • 事業の成長に資金を回せるよう、できるだけ初期費用や賃料が抑えられること

  • 社のコンセプトが伝わるような内装のアレンジが効きブランディングがしやすいこと

  • 採用を活発に行う可能性があるため、立地や設備などが求職者にとって魅力的であること

  • イノベーションの創出に役立つコミュニケーションスペースが備わっていること
     

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ベンチャー企業に適したオフィスの種類

賃貸オフィスにはさまざま形態や種類があるが、その中でベンチャー企業に適しているものを「賃料や初期費用の低さ」、「契約のフレキシブルさ」といった観点でピックアップして紹介する。

居抜きオフィス

居抜きオフィスとは、通常は退去時に撤去されるパーティションや什器などの造作物を譲渡する物件のことをいう。初期費用が抑えられ、入居や移転までの期間を短縮できるのが魅力だ。原状回復の責務や負担範囲については契約前によく確認しておこう。

セットアップオフィス

セットアップオフィスは、設備や什器があらかじめ備わっている点は居抜きオフィスと同じだが、前入居者ではなく貸主(物件オーナー)が内装工事を行う内装付き賃貸オフィスのこと。その分賃料は高くなる傾向があるが、スピード感を持って入居や移転ができ、内装工事費用が抑えられる点や、会社が急成長して早期移転する場合でも大規模な原状回復工事が不要な点がベンチャー企業にとってのメリットだ。

シェアオフィス

シェアオフィスとは、従来のようにビルやフロアを自社のみで占有して使用するのではなく、他の入居者と一部または全部を共有して使う形態のオフィスである。面積や使用人数が増えると費用がかさむ可能性もあるが、仲介手数料や敷金といった契約諸費用、什器や備品などの設備費、水道光熱費・清掃費・機器リース料などのコストがかからないのがメリットである。

コワーキングスペース

デスクやWi-Fi環境といった設備が用意され、複数の人や企業が共用できるワークスペースをコワーキングスペースという。交通アクセスの良い駅前などにあるコワーキングスペースが多く、従業員は本社へ出勤せずに通いやすい場所で働くことができる。一部の個室を除いてはオープンスペースであるため、セキュリティには特に注意が必要だ。

バーチャルオフィス
 

バーチャルオフィスは、住所・電話番号・法人登記などのオフィス機能だけをレンタルするもので、物理的なオフィス空間は存在せず、実際の業務は自宅などで行うことになる。フルリモートが可能な業種や、初期費用・賃料を最小限に抑えたいベンチャー企業にとってはメリットが大きい。ただし、士業や人材派遣業など、実体のある事務所の設置が法で義務付けられている業種もあるため、自社に見合った条件を事前に確認しておこう。

レンタルオフィス・サービスオフィス

レンタルオフィス・サービスオフィスと呼ばれる形態のオフィスでは、執務スペースだけでなく、施設内の会議室やコミュニティスペース・IT環境などビジネスに必要なサービスを幅広く利用できる。サービスオフィスはよりサポートが充実し、来客対応や電話応対、秘書業務まで料金に応じ利用できるところもある。レイアウトや内装の自由度は低いものの、総務的な業務を減らし営業や開発といった主業務に注力できるのが大きなメリットだ。

ベンチャー企業のためのオフィス選びチェックリスト

オフィスを選ぶ際のチェックポイントは数多くあるが、企業の規模や業務内容などによってどこを重視するべきか変わってくる。ここでは、ベンチャー企業のオフィス選びで特に重要なポイントを挙げる。

ブランドを表現できるオフィスであるか?

ベンチャー企業は歴史が浅く社のコンセプトやイメージが世に広く知られる前の段階であるため、コーポレートカラーやロゴ、デザインなどでブランドを表現できる場としてオフィスを活用したい。

通勤しやすい利便性の高い立地か?

優れた人材はベンチャー企業にとって生命線ともいえる。オフィスの立地や通勤の利便性は採用時の大きなアドバンテージとなり、エンゲージメント向上にもつながるだろう。また知名度が高く人が集まるエリアでは外部からの来客に対して好印象となる。

初期費用は負担になりすぎない金額か?
 

ベンチャー企業は成長力にすぐれている一方で、起業直後ほど資金が少なく収益が不安定な傾向がある。採用や研究開発に十分な資金を確保できるよう、設備や什器、敷金などの初期費用は負担になりすぎない予算を設定したい。

柔軟な契約内容であるか?

ベンチャー企業では、事業の成長に合わせてオフィス環境のニーズが短期間で変化する可能性がある。長期契約を条件にオフィスを借りてしまうと移転時期が制限され、事業に支障をきたすおそれがある。そのため、契約期間などが柔軟な物件を選びたい。

今、ベンチャー企業に注目されているオフィス街

立地や風土・自治体の制度などを背景に、いま特にベンチャー企業が注目している代表的なビジネスエリアを紹介する。

五反田

品川区五反田駅周辺は従来飲食店が集まるエリアとして知られていたが、近年、他のエリアの再開発で高騰した賃料と比較して値頃で入居できるオフィスが多いことや、新幹線・空港などへのアクセスのよさ職住近接が叶う立地特性などを理由に次第にベンチャー・スタートアップ企業が集積するようになった。

2018年には気鋭のベンチャー企業数社が業界団体「五反田バレー」を立ち上げ品川区と連携。エンジニアへの助成金制度などが実施され、400社以上のベンチャー企業が拠点を置く「ベンチャーの聖地」とも評された。

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渋谷

「若者の街」と言われ、カルチャーの発信地だった渋谷。現在も都内屈指の繁華街であると同時に、連続的な再開発により大型の複合施設が次々と誕生。オフィス街としての側面が色濃くなってきている。なかでも次世代のビジネスの中核を担うIT・テクノロジー産業に関して、渋谷は「デジタルホットスポット」と呼べるほどの集積地となっており、2019年にJLLが行った調査では主要テック企業の東京におけるオフィス床面積は渋谷区が約20万㎡でトップだった。

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渋谷区はこれらの企業と連携し若手の人材確保にも取り組んでいる。IT・テック系ベンチャー企業は渋谷にオフィスを構えることでさらなる交流やイノベーションが期待できるだろう。

京都

観光都市としての印象が強い京都だが、近年京都にオフィスを開設するITベンチャーが目立っている

実は京都市では、2022年から庁内横断組織「京都市企業立地促進本部」を設置し、新たな補助金制度として「市内初進出支援制度」と「お試し立地支援制度」を開始するなど、京都市内にオフィスを開設する企業の誘致を促す取り組みを強化しているという。

京都は学生の街としても知られ数多くの大学が存在する。多彩な人材を積極的に確保したいベンチャー企業にとって、採用面でも非常に魅力的なエリアだといえよう。

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福岡
 

九州随一の都市である福岡は、「日本におけるアジアのゲートウェイ都市」と位置付けられ、海外へ展開する企業の拠点としても数多くのオフィスが集積する。

2015年から始まった再開発プロジェクト「天神ビッグバン」による大規模オフィスビルの建築ラッシュは、「50年に一度」と評され、2026年頃まで途切れることがない。空港やターミナル・商業エリア・周辺の居住空間がコンパクトにまとまった都市機能を持つ福岡は、ベンチャー企業にとって採用面でもメリットが大きい

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ベンチャー企業におすすめのオフィスデザイン・レイアウト

席が固定されないオフィスでは、その日によって部署や役職を超えたコミュニケーションが生まれやすく、ベンチャー企業の原動力となる「イノベーション」の創出も期待できる。

オフィスのレイアウトは業種・業態によりさまざまだが、ベンチャー企業におすすめのデザイン・レイアウトを紹介する。コスト負担の観点から、すべてを実現するのは現実的ではないが、共用スペースを充実するなど、ベンチャー企業向けのテナントサービスを提供しているオフィスビルも存在する。

コミュニケーションを活性化させるスペース

従来のオフィスでは各自のデスクを設置する固定レイアウトが主流であったが、複数人で効率的に座席を共有するフリーアドレス制、業務内容に合わせて勤務時間・場所を選べるABW(Activity Based Working)などハイブリッドワークを導入する会社が増えてきた。

席が固定されていないため、部署や役職が異なる同僚が隣に座るなど偶発的なコミュニケーションが生まれやすく、「イノベーション」の創発も期待できる。

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多様性を尊重するフレキシブルレイアウト
 

近年では世界的にさまざまな働き方を実現するためのオフィス改革が進み、日本にも確実にその波が押し寄せている。本社オフィスに全従業員が出社するのではなく、リモートワークやサテライトオフィスを組み合わせることでオフィスの面積を縮小する企業も多く、コスト削減が期待できる。また、自由度の高い「フレキシブルスペース」を設け、ミーティング・コミュニケーション・休憩・ランチなど多様な用途に生かせるレイアウトはベンチャー企業にとっても検討の価値がある。

屋外スペース

従業員のウェルネスは、福利厚生面だけでなく生産性の向上からも重要だ。JLLが世界10カ国・3,300人超のオフィスワーカーを対象にしたグローバル調査では、回答者の41%がオフィスに「屋外スペース」を求めているという結果となった。

屋上緑化やワークプレイスとしても利用できるテラスなどの共有スペースを持つオフィスビルを検討するのも有効な方法だ。

リラクゼーションスペース

上記の調査でオフィスワーカーが希望するオフィス設備の1位となったのは「リラクゼーションスペース」だった。適切な休息とリラクゼーションは心身の健康維持に寄与し、パフォーマンスの維持に貢献する。

また、このスペースによってコミュニケーションが育まれ、チームビルディングやコラボレーションを促進することも期待できる。

ソロスペース(個人ブース)
 

フリーアドレスやABWを採用したオフィスではコミュニケーションやフレキシビリティが高まる一方で、クライアントとのオンラインでの打ち合わせ、静かな環境で集中して進めたい作業、高いセキュリティ性が求められる業務などに対して利便性が低下するリスクもある。

ボックス席タイプのゆるやかな個人スペースや、個室型のしっかりとしたスペースまで、自社の業務に合わせたレイアウトを取り入れることで両方のメリットを共存させることができるだろう。

ベンチャー企業のオフィス移転の流れ

ベンチャー企業のオフィス移転や新規開設は、基本的には一般的な企業と同様に次のような流れで進める。

【移転前】

  • 希望する条件と予算をリスト化し、どこまで採用できるか検討

  • 新オフィスの選定(下見、内装打ち合わせ、工事手配など)

  • 移転の場合は現オフィス管理者への手続き(解約予告通知、原状回復工事の打ち合わせなど)

  • 引越し業者の選定と手配、ネットワーク回線等の移転手続き

  • 新オフィス設備等準備

【移転後】

  • 新オフィスのレイアウトや動線を再チェック、必要に応じて修正

  • 各種手続き・届出、取引先への通知

  • 移転の場合、前オフィスの原状回復工事を開始
     

自社に最適な賃貸オフィスを探す

ベンチャー企業がオフィスを借りる際の注意点

ベンチャー企業のオフィス選択にあたってもっとも注意が必要なのは、オフィスへのニーズが短期間で変化する可能性があることだ。

全社的な事業コンセプトの変更、事業の新規立ち上げや撤退、急速な成長に伴う人員増などは、大手企業やレガシー企業では比較的起こりにくいが、ベンチャーでは珍しくない。

そのような場合に長期間の定期借家契約が移転の足かせになる可能性があるため、柔軟に賃借条件を設定できる物件や、初期費用・退去費用が抑えられるシェアオフィスやコワーキングスペースも視野に入れてオフィスを探す方法もある。

またベンチャー企業の事情として、創業期には決算が赤字になる企業も少なくない。エリアやオフィスビルの規模によっては入居審査で黒字であることが条件となっている物件もあるため注意が必要だ。

ベンチャー企業のオフィス選定・移転の成功事例

ベンチャー企業の特性に合わせたオフィス選定や移転に成功した2社の事例を紹介する。

事例1:株式会社じげん・京都オフィス開設

おもにToC領域のウェブメディア運営を中心に、ライフサービスプラットフォーム事業を展開している株式会社じげんは2022年4月、京町家をリノベーションした外部貸し共用オフィス「コワーキング∞ラボ京創舎」に京都オフィスを開設。学生インターン10名とともに事業をスタートさせた。

開設にあたっては、京都市が2022年度から開始した助成制度「市内初進出支援制度」を活用したほか、スポーツビジネスの立ち上げに関わる競技団体やオフィスビルの紹介など拠点開設時のサポートが受けられ、非常に心強かったという。

京都市が抱えていた「インターンシップなどで学生が企業と関わる機会が少ない」という問題と、人手不足に悩むITベンチャーの課題がマッチングしたwin-winのオフィス開設を成功させた。

事例2:株式会社Legaseed・品川オフィス移転

人材採用コンサルティング等を手掛けるLegaseedは、2020年9月、東京都港区の旧オフィスから品川駅最寄りの「品川グランドセントラルタワー」へ、2フロアに別れていた旧オフィスを1フロアに集約・拡張移転した。

まるでテーマパークのような「洞窟」をモチーフとしたエントランス、「オフィスの∞(無限)の可能性」をコンセプトに「∞」型に配置された執務スペースやミーティングルーム、水の流れるバーカウンター、経営ビジョンを体現したモニュメント「バオバブの木」など「初見で10以上の驚きがある」ことを意識した内装デザインが印象的だ。

しかし、このような凝ったデザインが同社の最大の特徴ではなく、コロナ禍でも事業を継続的に成長させるための重要拠点として新オフィスを開設したことがポイントだという。リモートワークで顕在化した様々な課題を解決しながら、顧客・従業員・学生まであらゆるステークホルダーにとって大きなメリットを提供できるオフィスづくりが成功し、従業員のエンゲージメントやモチベーションの向上、採用にも大きく寄与している。

ベンチャー企業のオフィス移転のカギは

ベンチャー企業には、レガシー企業にはない組織の機動力やビジネスモデルの柔軟性などさまざまな特性がある。

オフィス新規開設や移転にあたっては、この特性を十分に理解した上で最適なオフィスを選びたい。

選定時の疑問や判断に迷う点があれば、 JLLのオフィスワーカーを対象とした調査レポートや、専門家の知見をぜひ参考にしてほしい。

オフィス移転を成功させる秘訣はこちらから

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