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京都市のオフィス誘致策に反響続々、企業が京都に進出する理由は「人材採用」

日本を代表する観光地の印象が根強い京都にオフィスを開設するITベンチャーが目立っている。国内屈指の大学・学生数を誇り、新卒人材の充実度は群を抜く。少子高齢化による人材採用競争は激化する中、京都が新たなビジネス集積地となるか注目を集めている。

2022年 11月 07日
京都市がオフィス誘致の補助金制度を拡充 

日本を代表する観光地―。「京都」と聞いて多くの方々が思い浮かべる街のイメージではないだろうか。そうした中、東京などに本社オフィスを持つベンチャー企業が新たに京都市にオフィスを開設するケースが増えているという。これを受けて、京都市は、市内に初めてオフィスを開設する企業に対して補助金制度を拡充、これまで工場や研究施設中心だった企業誘致策に加え、オフィス誘致にも注力する。

京都市では2022年度から庁内横断組織「京都市企業立地促進本部」を設置し、新たな補助金制度として「市内初進出支援制度」と「お試し立地支援制度」を開始するなどこれまで京都市内に初めてオフィスを開設する企業の誘致を促す取り組みを強化している。京都市産業観光局 企業誘致推進室 企業誘致第二課長 岡田 耕介氏によると「 市内初進出支援制度はすでに13件の指定実績があり、問合せ数も60件(2022年9月時点)に達している」という。

京都市のオフィス等の初進出に関する主な補助金制度 
対象 用途 補助額
市内初進出支援制度  1. 京都市内のオフィス等へ初進出する市外企業
2. 京都市内に本社・工場等を新設する市外企業 
1. 調査、企画、研究開発またはその他管理業務を行う事務所
2.本社、工場、研究開発拠点 1
市内居住の常時雇用者数×最大20万円×2年分(最大400万円) 
お試し立地支援制度 京都市内初進出を検討する企業  コワーキングスペース、シェアオフィス (利用料+交通費)×2分の1(最大50万円)
人材採用の優位性:全国屈指の大学集積地 

補助金制度を活用したほぼすべての企業が『人材採用の優位性』を進出理由に挙げている

企業が京都へオフィスを構える一連の動きはコロナ以前から見られた。当時はLINEやSansan、パナソニックなどの大手企業が中心。一方、最近ではITベンチャーの京都進出が目立っている。

ITベンチャーが京都に目を向けるようになったのは大きく3つの理由(①人材採用、②産官学連携、③京都ブランド)が挙げられるが、岡田氏によると「中でも 補助金制度を活用したほぼすべての企業が『人材採用の優位性』を進出理由に挙げている 」という。

日本商工会議所が全国の中小企業6,007社を対象に実施した「人手不足の状況および新卒採用・インターンシップの実施状況」(2022年9月28日発表)によると「 人手が不足している」と回答した企業割合は64.9% となり、過去最高を記録した2019年調査(66.4%)に迫るなど、中小・ベンチャー企業の人材採用難は深刻だ。加えて、東京は豊富な人材層を抱えながらも、圧倒的な知名度を誇る国内大手企業や外資系企業も多く、人材獲得競争が激化している。

そうしたなか、ITベンチャーが目を付けたのが全国屈指の大学・学生数を誇る京都市だ。市内には37の四年制大学・短期大学が存在し、大学生数は約15万人。学生数・大学数において東京都区部に次いで全国2位、人口割合でみると全国1位となる。さらに理工系、芸術系(クリエイティブ系)まで幅広く網羅しており、多様な人材層を獲得できる素地がある。

「首都圏から京都へ拠点進出した企業が京都拠点で数名程度のインターンを募集したところ、10倍以上の応募があったと聞く。京都へ進出した企業が人材採用面では『ブルーオーシャン』と評価してくれる」(岡田氏)

リモートではなくリアルなオフィスが必要 

一方、コロナ禍以降、オンラインを活用したリモート面接・リモート勤務が普及拡大しており、オフィスを新規開設する必要性は低下しているように見受けられる。わざわざ京都にオフィスを開設しなくても、オンラインで対応すれば事足りるとの見方もある。

これに対して、岡田氏は「学生にヒアリングしたところ、対面型のインターンを望む学生が多い。どれだけリアルな就業体験が得られるかが重視されている 」と指摘。リモートワーク・リモート面接によって1度も顔を合わせたことがなく採用された従業員に企業への帰属意識を醸成するのは難しく、長期雇用に繋がらない。そもそも初めて社会に出る新卒人材にとってリモート主体の働き方では不安が大きい。岡田氏は「京都にオフィスを開設することでインターンの場の提供や、採用につなげようとする企業が多いのではないか」と推測する。人材採用競争で優位に立つためにはオフィス開設を通じた対面型のコミュニケーションは避けては通れない。

また、世界的な知名度を誇る京都ブランドは外国人材をも惹きつけて、外国人を採用する上でも京都にオフィスがあることは一定以上の強みになるようだ。

産学連携、京都ブランド 

大学集積地である京都市へオフィスを開設するメリットは新卒人材の採用だけにとどまらない。研究者などの大学教員だけでも約2万人を抱え、これまで大学と企業が共同研究を積み重ねてきた実績も豊富。さらに京都府・市が運営する産業支援機関や「京都リサーチパーク」に代表されるインキュベーション機能が充実しており、企業にとっては産学公連携が進めやすい環境が整備されている。京都市産業観光局 企業誘致推進室 企業誘致第一課長 藤岡 伸亮氏によると「京都の大学出身者が起業した IT ベンチャーの中には、成長を遂げた後に京都市内に拠点を設けるなど、首都圏等から戻ってくるケースが一定数ある」という。

また、歴史や文化、そして伝統工芸から最先端の電子機器まで、多種多様なモノづくり企業の集積地といった「京都ブランド」とのコラボレーションに期待を寄せる企業も見られる。例えば、3人制プロバスケットボールチームを立ち上げたITベンチャー、京町家をスタジオとしてアニメーション制作を手掛けるクリエイティブ企業などが存在する。「外国の取引先を自国に招待する際、京都の知名度で興味をひきやすい」との声もある。

企業の受け皿となるオフィス・住宅不足をいかに解消するか 

京都市では補助金の他、開発用地やオフィスを探している企業と不動産オーナーをマッチングする支援制度を用意しており、これらの相談窓口を利用することでスムーズに京都へのオフィス開設が可能

慢性化する人手不足を背景に、京都へ進出する企業はこれまで以上に増加しそうだ。一方、課題となるのが企業の受け皿となるオフィスビルやラボ、手ごろな価格のマンションが少ないことだ。京都は盆地に発展した千年を超えるまちで、建築物の高さ制限の影響もあり、中心市街地には大規模開発の余地がない。その結果、住宅価格の高騰やオフィス不足による企業・人材流出が長年の課題となっていた。そうした中、先般京都駅の南側の地域などで、建物の高さ規制や容積率を緩和する方針を打ち出すなど、このような不足の解消に動き始めている。

関西を中心に企業のオフィス移転・新規開設を支援しているJLL日本 関西支社 オフィス リーシング アドバイザリー事業部 木寺 雄也は「アクセスの良い京都駅前や四条などの中心市街地のオフィスは主要都市と比べると空室率が低く、めぼしい物件を見つけるのは難しい。京都市では補助金の他、開発用地やオフィスを探している企業と不動産オーナーをマッチングする支援制度を用意しており、これらの相談窓口を利用することでスムーズに京都へのオフィス開設が可能 になる」と説明する。

京都市が関西を代表する企業集積地となるのか、注視したい。

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