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Legaseedの拡張移転に見る「コロナ時代のオフィス像」

新型コロナウイルスの世界的感染拡大は働き方やオフィスのあり方を根底から覆し、オフィス縮小を検討する企業も少なくない。一方で、コロナ禍であるにもかかわらず、内装工事に2億円を投じてオフィスを拡大移転し、コロナ時代に適応したオフィス像に1つの回答を示したのが株式会社Legaseedだ。

2020年 10月 28日

「オアシススペース」と命名されたミーティングスペース。水との音や鳥のさえずりがBGMとなり、リラックスできる空間に仕上げた

コロナ禍なのにオフィスを拡張移転

10以上の驚きがあるデザイン性に富んだオフィスを開設

人材採用コンサルティング等を手掛けるLegaseedは2013年11月に創業した従業員数約40名(2021年度新卒内定者30名)のベンチャー企業だ。2020年度の新卒採用活動では17,000人から応募が寄せられるなど、就活生からの絶大な人気ぶりが話題の「若者が働きたくなる会社」である。

そんな同社が2020年9月21日、東京都港区の旧オフィスから品川駅最寄りの「品川グランドセントラルタワー」へ移転した。賃借床は235坪。2フロアに別れていた旧オフィスを1フロアに集約・拡張したものだ。

新オフィスのエントランスはテーマパークを彷彿とさせる「洞窟」とし、館内は「オフィスの∞(無限)の可能性」をコンセプトに「∞」型に執務スペースやミーティングルーム等、各スペースを配置。居心地の良いBGMが流れるミーティングスペースをはじめ、水の流れるバーカウンター、経営ビジョンを体現したモニュメント「バオバブの木」など、「初見で10以上の驚きがある」ことを意識した内装デザインがひと際目を惹く。

同社ではオフィス内を見学できるオフィスツアーを実施しており、詳細はそちらに譲るとして、単純にデザインだけのオフィスは珍しいものではない。最大の特長は、コロナ禍でも事業を継続的に成長させるための重要拠点として新オフィスを開設したことにある。

オフィスエントランスはテーマパークのような「洞窟」を想起させる

「∞」をかたどるオフィスレイアウト

バーカウンター奥の壁面は滝のように水が流れる

「永遠に愛され必要とされる会社になる」という経営ビジョンを体現したモニュメント「バオバブの木」

リモートワーク定着でオフィス縮小の機運

コロナ禍においてオフィスを縮小させ、在宅勤務などのリモートワークと併用する企業は少なくない。

企業のオフィス戦略に詳しいJLL日本 マーケッツ事業部 柴田 才は「大手企業に比べて資本的体力の少ないスタートアップ・ベンチャー企業は、コロナ禍の影響で固定費削減を目的にオフィスを閉鎖し、リモートワーク主体のオフィス戦略に舵を切る『守り』のケースが目立つ。6月以降、オフィスの空室が増えている」と指摘する。

しかし、Legaseedはコロナ禍にもかかわらず拡張移転という「攻め」のオフィス戦略を選択した稀有な存在だ。

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オフィスは戦国時代の城

在宅勤務の課題解消とステークホルダーにメリットを提供

Legaseedがオフィスの拡張移転を決定したのは2020年4月末。ご多分に漏れず同社もコロナ禍が本格化した3月末-6月まで全面リモートワークに切り替えていた。

4月末までの1カ月の間でオンライン化した営業活動や採用活動でも十分対応できることがわかったが、同時にリモートワークならではの課題も浮上してきた。在宅勤務時の同居人の存在や、仕事とプライベートの気持ちの切り替えが難しいこと、新入社員への指導、急ぎの案件では相手の状況が見えるオフィスのほうが連携を取りやすいなど、オフィスならではのメリットも強く認識することになった。

その結果、リモートワークで顕在化した様々な課題を解決しながら、顧客、従業員、そして採用活動に参加を希望する学生まで、あらゆるステークホルダーにとって大きなメリットを提供できる、コロナ禍に適応したオフィスづくりを目指すことになった。

オフィス移転プロジェクトについてLegaseed 代表取締役 近藤 悦康氏は「オフィス=戦国時代の城」に例え「組織の考え方や方針、戦略すべてが埋め込まれ、所属感や進むべき未来の在り方を感じ取るための『場』が城(=オフィス)」との認識を示す。

元々、闘う(事業活動)のための拠点となる城=オフィスはコロナ禍といえども必要不可欠という考え方が同社の根底にある。そして、新規オフィスを将来的な成長戦略の重要拠点と捉え、内装費2億円もの投資を行ったのである。

Legaseed 代表取締役 近藤 悦康氏が新オフィスのデザイン・ストーリーを自ら考案した

顧客に「訪れる価値」を生むオフィス機能

新オフィスには「実際に訪れる明確な価値」を持った6つの機能(理念浸透機能、意欲向上機能、生産性向上機能、収益貢献機能、プランディング機能、安全安心機能)を付与した。この中で注目したいのが安全安心機能と収益貢献機能だ。

●安全安心機能

コロナ禍においてオフィスへ出社する従業員の健康を守る上で、ウイルス感染リスクを低減させる施策が、従業員や顧客に対して経営姿勢を示すためには必要となる。

具体的な安全安心機能としては、マスクやアルコール消毒などの人的な感染対策だけでなく、ウイルス感染対策用のサーモグラフィカメラによる自動体温計測システム、マスクを装着したままで対応可能な顔認証システムを導入。加えて空気中のウイルス・細菌を半永久的に酸化分解する空気触媒を散布する。執務空間・ミーティングスペースの机上には飛沫対策用のパーティションも設置している。

フリーアドレスを採用した執務スペース(コロナ下では固定席化)。オフィス内はウイルス・細菌を半永久的に酸化分解する空気触媒を散布

●収益貢献機能

収益貢献機能としては、新オフィスを営業活動に最大限生かすことを念頭に置いている。

同社の営業スタイルは顧客のもとへ訪問するのではなく、自社オフィスに顧客に訪問してもらい営業することを重視している。オフィスを1つのショールームに見立てることで、企業理念や従業員の働く姿勢を含めてサービスを提案することができ、実際に成約率を向上させてきたためだ。

近藤氏は「現在の主軸事業の人材採用コンサルティングだけでなく、経営者が直面するあらゆる課題をトータルで解決する企業を目指している」と述べており、経営者に様々な提案をするにはオフィスに足を伸ばしてもらうことが近道と考える。

そのための施策としてオフィス内の一角に「CXOサロン」と呼ばれる経営者層限定で利用可能な会員制ラウンジを設けた。バーカウンターの他、個別ブースを用意。また、オフィス内にセミナー動画などを撮影するスタジオを開設し、撮影動画はアプリを通じてサロン会員に配信するという。

会員制の高級ラウンジ「CXOサロン」。出張の合間でも気軽に利用できる

配信用の動画を撮影するスタジオブース

新オフィスに導入したシステム等を顧客へ販売する新事業

一方、新オフィスに導入したウイルス感染対策や内装・ITシステムと顧客を結び付ける「コネクティング事業」を新ビジネスとして立ち上げる予定だ。オフィスに訪問した顧客がどのような課題を抱えているのかヒアリングする中で、Legaseedのオフィスに導入したシステムを販売提案していく。

近藤氏は「オフィスの支払い賃料が増える分、収益性を高めていかなくてはならない。その新たな手法がコネクティング事業」と力を込める。

オフィス内装に2億円を投じた理由

Legaseedの新オフィスは企業の成長戦略を担う重要な戦略拠点と位置づけ、働き方改革のみならず、顧客を惹きつけ、新たなビジネスの場とすることを明確に企図している。しかし、コロナ禍で経済の先行きが見通せない中、オンライン化で一定の成果を挙げていた同社では「オフィスに多額の投資をする」ことへの疑問の声も上がっていたという。

対して、近藤氏はオフィスに多額の投資を行うことに決めた理由について「今期(2020年9月決算)の成長率は133%。来期はその2倍の業績を予想している。人材・組織体制が固まり、来期は間違いなくいけるという確信があったので、オフィス投資にチャレンジすることができた」と説明する。

また、事業活動のオンライン化が進んだことで、名古屋支社を東京本社に合併し、オフィス賃料を削減できたことも後押しになった。近藤氏は「以前は主要都市に支社展開していく予定だったが、コロナ禍で方針を改めた」といい、オンライン化と新オフィスの顧客吸引力を駆使して、コアオフィス主体で事業活動に注力していくという。

「上場後にオフィス投資」とは真逆の考え

また、近藤氏は「ベンチャー企業の多くは上場後に好立地かつ高品質のオフィスを開設することが多い」というが、同社のオフィス戦略は大きく異なる。

「上場したら社員が舞い上がり、高品質のオフィスにするとさらに舞い上がり、業績が下がる企業が多いということを信頼する方からアドバイスされた。当社も将来的には上場を目指しているが、上場前に新規オフィスの開発に挑戦することで、財務体質に問題がないこともわかるし、従業員の『覚悟』を後押しするのも大きな目的だった」(近藤氏)

新オフィス本格稼働前に、従業員にオフィス内を見学してもらったところ、賞賛や感激よりも「これだけのオフィスを用意されたらやるしかない」とプレッシャーを楽しむような感想も寄せられたそうだ。

JLLの企業アンケート調査では「在宅勤務を経験したもののオフィスへ戻りたい」と回答したのは61%にのぼり、特にミレニアム世代・Z世代でその傾向が顕著だった。

従業員の7割を20代の「若手」が占めるLegaseedでは新オフィス開設後のオフィス出社率は95%にのぼる。移転の合間に2カ月ほど利用していた外部貸し共有オフィスでの出社率が5割に留まっていたことに対して、新規オフィスが従業員にとって適度なカンフル剤となったのはいうまでもないだろう。

コロナ禍に適応したオフィス像の回答例

一部の大手企業がオフィス戦略の見直しを大々的に発表しているものの具体的内容は開示されておらず、withコロナ・afterコロナ時代に適応した「ニューノーマル」なオフィス像は暗中模索の状態といえるだろう。

そうした中、いち早く1つの回答例を示したLegaseedのオフィス戦略は多くの企業にとって示唆に富むのではないだろうか。

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