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デジタルホットスポット・渋谷が東京の成長エンジンに

世界的に都市間競争が激化する中、各都市の成長エンジンとなるのがテック系企業の集積地“デジタルホットスポット”であろう。東京の代表格は「ビットバレー」の復活を期す渋谷といえる。大手テック企業が新たに竣工するAグレードオフィスの床面積6割を賃借する等、デジタルホットスポット化が著しい。多様な人材を惹き付け、新たなイノベーション創発の土壌を育む渋谷が東京の成長エンジンとなる。

2019年 09月 04日

新規Aグレードオフィスの6割をテック企業が占拠

都市間競争で注目集める“デジタルホットスポット”

世界の主要都市において一部エリアのテック企業の集積が見られるようになってきた。JLLではテック企業の集積地を都市の成長を牽引する“デジタルホットスポット”と命名。2019年に発表したJLLシティリサーチプログラムのレポート『世界のイノベーション都市』で言及した通り、イノベーションと人材の集積は都市を長期的な成長に導くためには不可欠であり、近年世界的に激化する都市間競争において最も重要な要素となっている。東京では“デジタルホットスポット”の雄として君臨する渋谷の勢いが目覚ましく、その存在感をさらに高めている。

フォーブス グロ-バル2000の上位に位置する世界的なテック企業及び日本における主要テック企業20社を対象に東京における拠点調査を行ったところ、20社のオフィス床面積は渋谷区で約20万㎡、港区で約17 万㎡、千代田区で約9万㎡と、渋谷区におけるテック企業のオフィス需要が顕著に現れた。多くのテック企業が渋谷に拠点を構え集積していることが窺えるとともにオフィス需要のけん引役となっていることが分かる。

図表:主要テック企業によるオフィス賃貸面積 (sqm)

テック企業の集積はさらに進む

しかし、渋谷のオフィスストック量は決して潤沢ということではない。2019年末時点での渋谷区のオフィスストック量(Aグレード及びBグレードオフィス合計)は、東京都心5区の中で最も少なく、まとまったオフィス床の確保は他区と比べ困難である。このような状況の中でも、近年、渋谷エリアでは駅周辺の大規模再開発計画の進捗に伴い、新築オフィスの供給が増大している。特に2018年-2019年にかけて大型ビルの竣工が相次ぎ、オフィス新規供給は合計23万㎡に及ぶ。これらの新規供給のうち約60%が上記調査対象のテック企業の入居が予定されており、主要テック企業がエリア全体を牽引するテナントとしてその存在感を見せている。グーグルは2019年に渋谷ストリームへの移転を予定しており、全オフィスフロア(22フロア)を賃借し現在の2倍の従業員数が収容可能となる。サイバーエージェントもAbema Towersへ移転し全オフィスフロア(13フロア)を賃借し、GMOインターネットグループも渋谷フクラスへ移転し全オフィスフロア(8フロア)を賃借予定である。この流れに伴い周辺のオフィスビルにもテック関連企業の入居が続き、デジタルホットスポット化はますます進むだろう。

また、渋谷は大型ビル竣工に伴うハード面の充実に加え、ソフト面でもエリア価値向上の試みが見られる。渋谷へ移転したテック企業は渋谷区と連携し若手エンジニア向けのイベントを開くなど、働きやすい街であることをPRし、優秀な若い人材確保にも積極的に取り組んでいる。企業と自治体がタッグを組み、エリアの魅力を高めようとしていることも注目すべき点であるだろう。

渋谷が持つ文化的な特色と新しい大型オフィスビルの街並みとの融合は、街に新しい息を吹き込み、多用な人材を惹きつけ、同業者との接触機会を設けることで新たなコミュニティが形成される。ひいては新しいイノベーションが生まれる土壌が形成される。デジタルホットスポット・渋谷から都市変容の実現が期待されている。

(JLL日本 リサーチ事業部 アナリスト 中村 麻子)

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