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地方都市へオフィスを開設する企業の狙い

2022年4月に京都オフィスを開設したIT企業の株式会社じげん。地域が抱える雇用問題の解決と人材採用の強化、そして新規事業の創出も視野に入れ、地方都市と企業の双方がWin-Winの関係を構築する同社の取り組みはオフィス戦略の在り方に一石を投じている。

2022年 11月 08日
京都市にオフィスを新規開設したIT会社のじげん

前回記事「京都市のオフィス誘致策に反響続々、企業が京都に進出する理由は『人材採用』」で、日本を代表する観光都市・京都市にITベンチャーがオフィスを開設している理由について紹介した。最大の理由は人材採用にあるが、企業が東京や大阪といった大都市圏ではなく、地方都市へ目を向ける企業が増えているように見受けられる。今回、お話を伺ったIT企業の株式会社じげんもそうした一社だ。積極的に地方都市へオフィスを開設している。

じげんは2006年に創業。「生活機会の最大化」を基本理念とし、求人、転職、結婚、転居などのライフイベント領域、中古車売買や宿泊先予約などの生活領域などのウェブメディア運営を中心としたライフサービスプラットフォーム事業を展開している。

2022年4月。京町家をリノベーションした外部貸し共用オフィス「コワーキング∞ラボ京創舎」に京都オフィスを開設した。東京本社から出向した社員1名と学生インターン10名ほどが在籍する。じげんが京都市を本拠地として立ち上げた3人制バスケットボールのプロチーム「ZIGE×N UPDATERS.EXE」の運営をはじめ、人材採用や新規事業立ち上げに関するコンテンツ制作など、事業活動は幅広い。

京都オフィスを開設するにあたって、京都市が2022年度から開始した助成制度「市内初進出支援制度」を活用。市外企業が京都市内へオフィス等を初進出する際に雇用者数に対して最大20万円×2年分(市内居住者が対象)の補助金を交付するものだ。じげん 広報・サステナビリティ推進室 室長 杉原 麻裕子氏は「助成制度だけでなく、京都市にはビジネス状況やスポーツビジネスを立ち上げるにあたって競技団体やオフィスビルを紹介していただいた。拠点開設時のサポートが非常に心強かった」と振り返る。

社会課題の解決と人材採用を強化

京都オフィスでは当社として初のスポーツ事業に取り組んでいる。新規事業にチャレンジする際に若い視点は重要。SNSの運用やコンテンツ制作など、若者の柔軟な発想に期待している

京都オフィスを開設したのは、京都市が抱える社会課題を解決しながら人材採用を強化することが主な目的だ。杉原氏は「行政や学生にヒアリングしたところ、コロナ禍で期待していた学生生活を過ごすことができず、地元に大手企業はあるもののインターンシップなどで学生が企業と関わる機会が少ないと聞いた。学生に何か活躍の場を提供できないかと考えた」とし、続けて「人手不足に悩むITベンチャー等にとっては、学生数が人口の1割に達する京都市は新卒人材を採用するにあたって非常に魅力的」と説明する。

加えて、社内でスポーツビジネスに関する新規事業立ち上げを希望する社員が非常に多かったことも京都オフィスを開設する後押しになった。学生にとってスポーツビジネスに携わる経験はなかなか得られない。運営チームに所属する選手の支援を含めて、コロナ禍のタイミングだからこそ、京都オフィスを立ち上げる絶好の機会と捉えたことで、スムーズに京都進出が実現したそうだ。

「京都オフィスでは当社として初のスポーツ事業に取り組んでいる。新規事業にチャレンジする際に若い視点は重要。SNSの運用やコンテンツ制作など、若者の柔軟な発想に期待している。実際にモチベーションの高い学生が集まっている」(杉原氏)

京都市以外の地方都市にもオフィスを開設

人材採用と地方創生の両輪で多くの課題を解決できる“場”として、今後も地方都市にオフィスを開設していきたい

同社は2021年5月に発表した第2次中期経営計画において、サステナビリティへの取り組みを強化する方針を打ち出した。具体策の1つに「地域社会の創生」を掲げており、地方都市へのオフィス展開はその一環。2020年にはすでに大分オフィスを開設しており、京都オフィスはその第2弾に位置づけられる。

大分オフィスを開設した理由も人材採用と地方創生を両立することが目的だ。京都と同じく国際教育にも注力する大学が存在する半面、都市圏に比べて地元で働く機会が限られる。若者世代の人材流出という大きな課題に対して、雇用創出と若者人材の育成に貢献しながら、拠点自治体との協働プロジェクトを組成することで持続可能な地域づくりに貢献しようと考えた。

「営業活動だけのオフィスではなく、地域と連携して社会課題を解決したり、学生とコミュニケーションを深めるなど、ヒトに関わる場面で貢献したい。また、当社の課題としても首都圏での人材採用は競争がますます厳しくなってきている。そうした中、人材採用と地方創生の両輪で多くの課題を解決できる“場”として、今後も地方都市にオフィスを開設していきたい」(杉原氏)

リアルオフィスを開設する必要性

一方、地方の人材採用を強化する上で、フルリモートワークを売りにする企業も存在するが、杉原氏は「新卒採用に注力する当社では人材の育成やオンボーディングが非常に重要。リアルなオフィスは会社の存在意義にも関わっており、リアルオフィスで実際に顔を合わせて働くことは重要な価値がある。実際に当社のことを知ってもらい、ファンを増やしていくという意味でもオフィスは必要」との認識だ。

地方へ目を向ける企業は増えている

通販大手のジャパネットホールディングスがクリエイティブ人材の採用を強化するため、主要機能を東京から福岡へ移転させるなど、コロナ禍を受けて東京から地方へ目を向ける企業が増えている。

関西圏を中心に企業の地方進出を支援しているJLL日本 関西支社 オフィス リーシング アドバイザリー事業部 木寺 雄也は「ITや人材派遣業界、製造業界などでも最近オフィス進出が検討されているのが新潟市。北陸・東北・中部地方へのアクセス性に優れているのがその理由だろう。一方、高知市や広島市のように地方自治体も少子高齢化や税収増を目的に助成制度を拡充するなど、企業誘致を積極化している」と指摘する。

帝国データバンクの調査によると、2021年に首都圏から地方へ本社移転を行った企業は351社で過去最多を記録した。企業が地方へ目を向ける一連の動きはこれまで以上に加速しそうだ。

画像提供:じげん

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