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アフターコロナのオフィス戦略・改革と取り組み

リモートワークという働き方が新型コロナウイルス感染防止により定着し、これまで常識とされていた働き方やオフィスのあり方が大きく変化している。都心の一等地に業務機能を集積した広大なオフィスはウィズコロナ・アフターコロナ時代にはどのように変化していくのだろうか。オフィス戦略や働き改革の実践的な取り組みについて紹介する。

2020年 11月 17日

コロナ禍でオフィス内のマスク着用が当たり前となった(画像はイメージ)

アフターコロナ時代に求められているオフィス戦略・改革とは?

従来の働き方から大きく変化した「ニューノーマルな働き方」に対し、企業は自社の特色を活かし様々なオフィス戦略を立案し、改革を講じてきた。オフィス戦略として、オフィスコンセプトの刷新により、新しい働き方の中でも従業員の帰属意識を向上させることに繋げたり、オフィスデザインやレイアウトを変更し、ソーシャルディスタンスを保つことで従業員の安全衛生を強化したり等、変化に合わせた取り組みが挙げられる。

オフィス改革では、リモートワークの拡大に伴う「オフィスの縮小」や柔軟な働き方を加速させるためのフレキシブルオフィスを活用した「分散型オフィス」、コロナ禍で再認識したオフィスの価値を最大化させる「オフィスの増床」、オフィス勤務とリモートワークを統合した「ハイブリッドワークを実現させるワークプレイス」による新しいオフィスづくりを進める企業も少なくない。これからの働き方として欠くことのできないリモートワークと、コミュニケーションを促進するためのオフィスを組み合わせたハイブリッドワークをコンセプトとし、オフィス拡張移転した成功事例も実際に存在する。
JLLの記事「ポストコロナ時代に従業員が求める3つのオフィス機能」によると、グローバル調査で従業員がオフィスに求める機能・設備として「リラクゼーションスペース」、「フードスペース」、「屋外スペース」が上位3つとして挙げられたという。これらには「心身の健康」、「コミュニケーション」、「自然」という要素が含まれており、アフターコロナのオフィス戦略・改革を進めていく上で、今後欠くことのできないキーポイントとなってくるのではないだろうか。

アフターコロナのオフィス戦略・改革を進めていく上で「心身の健康」「コミュニケーション」「自然」という要素が今後欠くことのできないキーポイントとなる

これからのオフィスが目指すべき目的とは?

出所:JLL 「これからのオフィスの在り方:従業員のニーズに応えるオフィスづくり実践ガイド」

JLLが発表した「従業員のニーズに応えるオフィスづくり実践ガイド」では、現状のオフィスに満足している従業員は47%となり、調査時点から1年前で判明した63%に比べ、満足度が大きく低下した結果となっている。企業側はこの現状を受け止め、自社の課題に寄り添ったアフターコロナのオフィス戦略・改革を進めていく必要があると考えられる。
今まで”普通”とされてきた固定席やデスクレイアウトは、企業の今後の戦略によっては、最適化を行う必要があるのではないだろうか。仕事でのプロジェクト遂行だけではなく、従業員同士のコミュニケーション等の繋がりの価値への比重が大きくなっていることから、オフィスの新しい目的を明確にし、適応させていくことが具体的なアクションとなる。JLLが提唱するオフィスの新たな目的として以下の5つが挙げられる。

1.      学び・交流

2.      健康・ウェルビーイング

3.      従業員・顧客の愛着心

4.      従業員の帰属意識

5.      ブランド体験

従来のオフィスでは見られなかったこれらの要素を、企業ごとの特色や戦略、方向性を踏まえた上で、具体的なリノベーションへ落とし込むことにより、これから求められるであろう「理想のオフィス」を現実的に実現することができると考えられる。また、その方法は企業によって多種多様だが、オフィスの床面積を変えず既存のワークスペースを上記の目的に沿ってレイアウトを転換する等の最適化は可能だ。
本質的な課題解決の要素、そして目的を抽出するオフィス戦略を策定、そこから目的達成のためのオフィス改革を進めていくことがこれからのオフィスづくりに重要となってくる。

出所:JLL 「これからのオフィスの在り方:従業員のニーズに応えるオフィスづくり実践ガイド」

 

オフィスデザインのコンセプトが導くアフターコロナの働き方改革

従業員の働き方をどのように改善・改革できるのかは、オフィスコンセプトという企業の想いが鍵となってくる

それでは、オフィス戦略・改革の概念をもとにしたオフィスコンセプト・デザイン・レイアウトには、どのような事例が存在するのだろうか。コロナ禍でオフィス統合移転したN社の成功事例では、移転プロジェクト下での緊急事態宣言でコロナ禍の働き方への課題を解消するための設計変更等のアップデートやオフィスコンセプトの再検討を経て、本社オフィス移転が完了した。7フロアに分散していたフロアを統合し「コミュニケーション活性化」を念頭とした多目的のコラボレーションエリア設置等、臨機応変にコロナ禍での課題解決要素を組み込んだ取り組みが講じられた。これらの取り組みにより、優秀な人材確保や長期雇用等の成果に繋がる成果も生まれている。
その他にもABW型オフィスの導入オフィスの価値を重視し拡張移転した<b>成功事例が多様に存在する中で、共通しているのが、企業独自のオフィスコンセプト</b>だ。オフィス戦略や改革を進める上で、目的やゴールを具現化するオフィスコンセプトは、オフィスデザイン・レイアウトを通して企業DNAをより具体的に表現できる。それだけでなく、オフィスを通して従業員が企業側の想いを体感できるため、帰属意識の向上に繋がり、モチベーション促進等に寄与し、働き方改革の役割も担ってくる。従業員の働き方をどのように改善・改革できるのかは、オフィスコンセプトという企業の想いが鍵となってくるのではないだろうか。

働き方改革の要「ワークプレイス改革」を見る

 

コロナ後のオフィス戦略を模索する段階

JLL日本が2020年5月に発表したレポート「(re)entry 『ニューノーマル』における業務ガイド」 では、新型コロナウイルスの感染状況を3つのフェーズに分け、オフィス戦略再考時の注意点を解説している。

緊急事態宣言発令中の「コロナ感染拡大期」をフェーズ1。緊急事態宣言解除後にオフィス出社を段階的に解禁し始める(リエントリー)現在の状況をフェーズ2。そして、抗ウイルス薬やワクチンが開発され、コロナ禍が終息した「ニューノーマル(新常態)」をフェーズ3と定義した。

オフィス改革など、企業のCRE戦略に詳しいJLL日本 インテグレーテッドポートフォリオサービス事業部 事業部長 兼 コーポレート営業本部 事業部長 高橋 貴裕は「現在は多くの企業がオフィス出社を再開させるフェーズ2に該当し、 現在はフェーズ3の『ニューノーマル』に向けて働き方やオフィスのあり方、それに伴う組織体制等、新たなオフィス戦略を模索するタイミング 」と指摘する。

レポート「(re)entry『ニューノーマル』における業務ガイド」より抜粋 出所:JLL

コロナ後にオフィスのあり方が「変わる」との回答は80%超 出所:JLL

アンケート回答時から半年程度が経過した現在、企業のオフィス戦略再考の動きは本格化  している。ウィズコロナ・アフターコロナに向けた新たなオフィス戦略を模索している段階だ。高橋は「事業部ごとにオフィス出社とリモートワークの割合をどうするか等の検証が行われている。ウィズコロナ時代のオフィス戦略の方向性が見えてくるのはワクチンが開発されるであろう来年以降」と予測する。

オフィス閉鎖・縮小に動き始めた企業

フットワークの軽いベンチャー・スタートアップ企業だけでなく、コロナ禍による業績低迷を受け、賃料削減を目的にオフィス縮小に舵を切る大手企業も出始めている。リモートワークの浸透により、オフィスに出社する総数が激減。これまで機能集積による拡大傾向にあったコアオフィスで余剰スペースが生まれ、持て余すようになっているためだ。

コロナ感染拡大以降、在宅勤務のみならず、職住近接が魅力のサテライトオフィスを活用したリモートワークやリゾート地で働きながら余暇を楽しむワーケーションなど、働き方やオフィスに対して様々な選択肢が浮上する。高橋は「 今後は自宅とオフィスの中間となる拠点づくりが大きく注目されるだろう 」との見解を示す。

柔軟な働き方がオフィス戦略の主流に

オフィス出社を解禁し始めたフェーズ2にあたる現在、今後のオフィス戦略の方向性は「フレキシビリティ重視」に向かいつつある。コアオフィスとリモートワーク併用を経て、規模・立地・グレードなど、オフィス環境の最適化を模索する段階にあり、リモートワークを実施するためのフレキシブルオフィス(コワーキングスペース、シェアオフィスなどの外部貸し共有オフィス)を活用する動きが広がっている。

高橋は「外回りの間に気軽に立ち寄ってメールチェックや資料作成など、簡単なデスクワークができる場所としてフレキシブルオフィスはコロナ禍でより需要が高まった。1人で完結する業務は在宅勤務で対応し、セキュリティや集中できる執務環境が必要な場合はフレキシブルオフィスを活用する。働く環境を自由に選択でき、使った分だけ費用が発生するので利用者側のメリットが大きい」と説明する。

フレキシブルオフィスが需要を底上げ

こうした フレキシブルオフィスの台頭は、オフィス戦略のトレンドが仮に「縮小」に傾いたとしてもオフィス需要の総体的な減少に歯止めをかける 可能性を秘めている。高橋は「これまでビルを賃借してオフィスを開設していた一般事業会社に代わって、フレキシブルオフィスを運営する事業者による床需要が穴埋めするだろう」と予測する。

そもそも、 東京Aグレードオフィス賃貸市場は2020年上半期末時点でも空室率1%を下回り、コロナ禍といえどもタイトな需給は継続中 だ。そして、オフィス面積が縮小トレンドに入り、空室率が高まると同時に賃料水準も下がれば、企業のオフィス戦略は再び「拡張」へと戻りそうだ。
 

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ウィズコロナは「分散型オフィス」が主流

リモートワークの拡大でコアオフィスの余剰スペース問題、ウイルス感染防止と柔軟な働き方を実現できるフレキシブルオフィスの台頭。この2つのトレンドからコロナ後のオフィス戦略を推測すると、 コアオフィスの他、外部貸し共用オフィスや在宅勤務を包括的に活用する「分散型オフィス」が主流 になりそうだ。

そして分散された各オフィスは独自のメリットを有し、各オフィスが独自の長所を備えて有機的に連携する執務環境が主流となるだろう。

高橋は「異なる機能を有する複数のオフィス拠点を包括的にマネジメントすることが今後のオフィス戦略に求められることになる」と予測。在宅勤務のメリットは通勤時間の無駄を解消し、それぞれのライフワークにあった働き方が可能になることだ。一方、機密性の高い業務や集中力が求められる場合は最寄りのサテライトオフィス、同僚とのコミュニケーションが求められる業務はコアオフィスといった形で、働き手を取り巻く環境に最適な執務環境を「選択」できるオフィス戦略こそウィズコロナ時代に必要な視点だ

ABWで「オフィス戦略」から「ワークプレイス戦略」へ

その成否を握るのは「ABW(Activity Based Working)」の考え方だろう。 仕事の目的に合わせて働く環境を選択できるABW の概念はこれまでオフィス単体で採用されてきたが、今後は全拠点が対象となる。単一オフィスを改革する「オフィス戦略」ではなく、働く場全体を総合的に改革していく「ワークプレイス戦略」の視点が求められる。そして、高橋は「 オフィスに最適な機能を持たせるためには、どんな働き方を求めるのか、会社でじっくり見極める必要がある 」と述べている。

業務や気分によって働く環境を選べるABW型のオフィス(画像はイメージ)

オフィスの価値を再認識

コロナ禍でオフィス規模を縮小する動きは顕在化しているが、いわゆる「オフィス不要論」にまで発展するわけではない。 コロナ禍で在宅勤務へ切り替えたことで、オフィスならではの価値を再確認して拡張移転した企業も存在する。

高橋は「在宅勤務が浮き彫りにしたのは従業員のコミュニケーション不足だ。従業員がオフィスに集まることの意義が再認識された。ある大手企業はリモートワークで業務はすべて遂行できるものの、オフィスが事業成長に不可欠であることを認識し、従前通りオフィスを重視する姿勢を続けている」と説明する。

グローバルなオフィス戦略が必要

コロナ禍における日本企業のオフィス戦略で見落としている点があるとすれば「グローバルCRE戦略」だろう。日本国内だけでなく海外のオフィスを含めていかにコントロールすべきか、国や人同士が分断されたコロナ禍でその問題は顕在化しているのだ。

高橋によると「グローバル展開を前提とする外資系企業は賃借・所有不動産を本社で一元管理するグローバルCREマネジメント体制を整備しており、フェーズ1の段階から世界各地のオフィスの使用状況を把握し、従業員の安全を確保しながら早々にコロナ禍対策を打つことができた」という。

一方で、 日本企業は各拠点任せでCREマネジメントを行っているため、コロナ禍対策が後手に回り、各拠点の感染対策にも差が生じる等、管理体制に不安が残る 結果となった。

加えて、高橋は「 CREマネジメントを一元管理するのはコロナ禍のような緊急事態での早期対応だけでなく、コスト削減にも大きな効果 がある」と指摘する。

コロナ禍の影響で、空室率が上昇傾向にあるオフィス市場は世界的に見て少なくない。オーナーとテナント間で賃料交渉が本格化している市場もある。海外拠点の多い企業であれば交渉次第で、日本円にして月に数千万円のコスト削減を実現できる可能性があるが、現地のオフィス市況や現地オフィスの契約状況を本社で一元管理していないと交渉のタイミングを逃すことになりかねない。

高橋は「コロナ禍の影響が比較的軽微な日本国内はオーナーに値下げを求める動きはまだ限定的だが、コロナ禍の影響が深刻な海外は状況が異なる。 海外の情報を把握し、日本の本社がグローバルで一貫したCRE戦略を打ち出す ことがコロナ禍のリスク管理に繋がる」と締めくくった。

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