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Withコロナ時代のオフィス戦略とは?

コロナ禍でリモートワークが定着したことで、これまで常識とされていた働き方やオフィスのあり方が大きく変化しようとしている。都心の一等地に業務機能を集積した広大なオフィスはWithコロナ・Afterコロナ時代にはどのように変化していくのだろうか。

2020年 11月 17日

コロナ禍でオフィス内のマスク着用が当たり前となった(画像はイメージ)

コロナ禍で変わるオフィス・働き方

緊急事態宣言は解除されたものの、いまだ収束の見通しが立たないコロナ禍において、オフィスの存在意義を再考する機運が高まっている。

経済環境の停滞に伴う業績悪化に加え、コロナ感染拡大防止策として緊急措置的に多くの企業が採用したテレワーク・リモートワークが浸透し、これまで都心の一等地に広大な床面積を確保してきたオフィスのあり方を見直す企業が増えてきているのだ。

コロナ後のオフィス戦略を模索する段階

JLL日本が2020年5月に発表したレポート「(re)entry 『ニューノーマル』における業務ガイド」 では、新型コロナウイルスの感染状況を3つのフェーズに分け、オフィス戦略再考時の注意点を解説している。

緊急事態宣言発令中の「コロナ感染拡大期」をフェーズ1。緊急事態宣言解除後にオフィス出社を段階的に解禁し始める(リエントリー)現在の状況をフェーズ2。そして、抗ウイルス薬やワクチンが開発され、コロナ禍が終息した「ニューノーマル(新常態)」をフェーズ3と定義した。

オフィス改革など、企業のCRE戦略に詳しいJLL日本 インテグレーテッドポートフォリオサービス事業部 事業部長 兼 コーポレート営業本部 事業部長 高橋 貴裕は「現在は多くの企業がオフィス出社を再開させるフェーズ2に該当し、 現在はフェーズ3の『ニューノーマル』に向けて働き方やオフィスのあり方、それに伴う組織体制等、新たなオフィス戦略を模索するタイミング 」と指摘する。

レポート「(re)entry『ニューノーマル』における業務ガイド」より抜粋 出所:JLL

コロナ後にオフィスのあり方が「変わる」との回答は80%超 出所:JLL

アンケート回答時から半年程度が経過した現在、企業のオフィス戦略再考の動きは本格化  している。Withコロナ・Afterコロナに向けた新たなオフィス戦略を模索している段階だ。高橋は「事業部ごとにオフィス出社とリモートワークの割合をどうするか等の検証が行われている。Withコロナ時代のオフィス戦略の方向性が見えてくるのはワクチンが開発されるであろう来年以降」と予測する。

オフィス閉鎖・縮小に動き始めた企業

フットワークの軽いベンチャー・スタートアップ企業だけでなく、コロナ禍による業績低迷を受け、賃料削減を目的にオフィス縮小に舵を切る大手企業も出始めている。リモートワークの浸透により、オフィスに出社する総数が激減。これまで機能集積による拡大傾向にあったコアオフィスで余剰スペースが生まれ、持て余すようになっているためだ。

コロナ感染拡大以降、在宅勤務のみならず、職住近接が魅力のサテライトオフィスを活用したリモートワークやリゾート地で働きながら余暇を楽しむワーケーションなど、働き方やオフィスに対して様々な選択肢が浮上する。高橋は「 今後は自宅とオフィスの中間となる拠点づくりが大きく注目されるだろう 」との見解を示す。

柔軟な働き方がオフィス戦略の主流に

オフィス出社を解禁し始めたフェーズ2にあたる現在、今後のオフィス戦略の方向性は「フレキシビリティ重視」に向かいつつある。コアオフィスとリモートワーク併用を経て、規模・立地・グレードなど、オフィス環境の最適化を模索する段階にあり、リモートワークを実施するためのフレキシブルオフィス(コワーキングスペース、シェアオフィスなどの外部貸し共有オフィス)を活用する動きが広がっている。

高橋は「外回りの間に気軽に立ち寄ってメールチェックや資料作成など、簡単なデスクワークができる場所としてフレキシブルオフィスはコロナ禍でより需要が高まった。1人で完結する業務は在宅勤務で対応し、セキュリティや集中できる執務環境が必要な場合はフレキシブルオフィスを活用する。働く環境を自由に選択でき、使った分だけ費用が発生するので利用者側のメリットが大きい」と説明する。

フレキシブルオフィスが需要を底上げ

こうした フレキシブルオフィスの台頭は、オフィス戦略のトレンドが仮に「縮小」に傾いたとしてもオフィス需要の総体的な減少に歯止めをかける 可能性を秘めている。高橋は「これまでビルを賃借してオフィスを開設していた一般事業会社に代わって、フレキシブルオフィスを運営する事業者による床需要が穴埋めするだろう」と予測する。

そもそも、 東京Aグレードオフィス賃貸市場は2020年上半期末時点でも空室率1%を下回り、コロナ禍といえどもタイトな需給は継続中 だ。そして、オフィス面積が縮小トレンドに入り、空室率が高まると同時に賃料水準も下がれば、企業のオフィス戦略は再び「拡張」へと戻りそうだ。

Withコロナは「分散型オフィス」が主流

リモートワークの拡大でコアオフィスの余剰スペース問題、ウイルス感染防止と柔軟な働き方を実現できるフレキシブルオフィスの台頭。この2つのトレンドからコロナ後のオフィス戦略を推測すると、 コアオフィスの他、外部貸し共用オフィスや在宅勤務を包括的に活用する「分散型オフィス」が主流 になりそうだ。

そして分散された各オフィスは独自のメリットを有し、各オフィスが独自の長所を備えて有機的に連携する執務環境が主流となるだろう。

高橋は「異なる機能を有する複数のオフィス拠点を包括的にマネジメントすることが今後のオフィス戦略に求められることになる」と予測。在宅勤務のメリットは通勤時間の無駄を解消し、それぞれのライフワークにあった働き方が可能になることだ。一方、機密性の高い業務や集中力が求められる場合は最寄りのサテライトオフィス、同僚とのコミュニケーションが求められる業務はコアオフィスといった形で、働き手を取り巻く環境に最適な執務環境を「選択」できるオフィス戦略こそWithコロナ時代に必要な視点だ

ABWで「オフィス戦略」から「ワークプレイス戦略」へ

その成否を握るのは「ABW(Activity Based Working)」の考え方だろう。 仕事の目的に合わせて働く環境を選択できるABW の概念はこれまでオフィス単体で採用されてきたが、今後は全拠点が対象となる。単一オフィスを改革する「オフィス戦略」ではなく、働く場全体を総合的に改革していく「ワークプレイス戦略」の視点が求められる。そして、高橋は「 オフィスに最適な機能を持たせるためには、どんな働き方を求めるのか、会社でじっくり見極める必要がある 」と述べている。

業務や気分によって働く環境を選べるABW型のオフィス(画像はイメージ)

オフィスの価値を再認識

コロナ禍でオフィス規模を縮小する動きは顕在化しているが、いわゆる「オフィス不要論」にまで発展するわけではない。 コロナ禍で在宅勤務へ切り替えたことで、オフィスならではの価値を再確認して拡張移転した企業も存在する。

高橋は「在宅勤務が浮き彫りにしたのは従業員のコミュニケーション不足だ。従業員がオフィスに集まることの意義が再認識された。ある大手企業はリモートワークで業務はすべて遂行できるものの、オフィスが事業成長に不可欠であることを認識し、従前通りオフィスを重視する姿勢を続けている」と説明する。

グローバルなオフィス戦略が必要

コロナ禍における日本企業のオフィス戦略で見落としている点があるとすれば「グローバルCRE戦略」だろう。日本国内だけでなく海外のオフィスを含めていかにコントロールすべきか、国や人同士が分断されたコロナ禍でその問題は顕在化しているのだ。

高橋によると「グローバル展開を前提とする外資系企業は賃借・所有不動産を本社で一元管理するグローバルCREマネジメント体制を整備しており、フェーズ1の段階から世界各地のオフィスの使用状況を把握し、従業員の安全を確保しながら早々にコロナ禍対策を打つことができた」という。

一方で、 日本企業は各拠点任せでCREマネジメントを行っているため、コロナ禍対策が後手に回り、各拠点の感染対策にも差が生じる等、管理体制に不安が残る 結果となった。

加えて、高橋は「 CREマネジメントを一元管理するのはコロナ禍のような緊急事態での早期対応だけでなく、コスト削減にも大きな効果 がある」と指摘する。

コロナ禍の影響で、空室率が上昇傾向にあるオフィス市場は世界的に見て少なくない。オーナーとテナント間で賃料交渉が本格化している市場もある。海外拠点の多い企業であれば交渉次第で、日本円にして月に数千万円のコスト削減を実現できる可能性があるが、現地のオフィス市況や現地オフィスの契約状況を本社で一元管理していないと交渉のタイミングを逃すことになりかねない。

高橋は「コロナ禍の影響が比較的軽微な日本国内はオーナーに値下げを求める動きはまだ限定的だが、コロナ禍の影響が深刻な海外は状況が異なる。 海外の情報を把握し、日本の本社がグローバルで一貫したCRE戦略を打ち出す ことがコロナ禍のリスク管理に繋がる」と締めくくった。

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