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日本式経営の課題は不動産のグローバルマネジメントにあり

海外拠点のオフィス賃料の負担に苦悶する日本のグローバル企業は少なくない。日本企業の海外進出を支援しているJLL日本 インテグレーテッドポートフォリオサービス事業部 事業部長 高橋貴裕は「海外拠点に対するガバナンスが効いていない」ことが根本的な要因だと指摘する。

2018年 05月 21日

日本企業の海外拠点の統治は緩慢

本社が国内外全体の不動産コストを一括管理する考え方は「グローバルCREマネジメント」と呼ばれ、20年以上前から欧米企業により実践されてきた。日本企業の海外進出は10年以上前から本格化。一部の大手企業になると1000に及ぶ関連子会社が存在するほどだ。しかし、日本企業は欧米企業に比べてガバナンスは極めて緩慢だという。

「日本企業の海外拠点は現地法に基づいて設立された現地法人であることが一般的。資金繰りや会計処理、労務管理、法務管理など、自ら行い、独立性が強い。不動産は保有していれば資産、賃借していれば費用扱いとなり、いずれにしても自分のB/S、P/Lに計上することになる。そのため、不動産は現地法人の管轄となり、本社が口出しできないのが日本式経営の課題ともいえる」(高橋)

海外法人に強い権限- 海外拠点の不動産マネジメント

欧米企業が海外拠点を一元管理する理由は、不動産を経営上の重要なインフラとみなしているからだ。海外に1000もの拠点があれば賃料コストを総額で見るとその額はあまりにも巨大だ。不動産コストは「人件費に次ぐ固定費」と呼ばれ、全社的に管理することで利益率向上に直結する。欧米では不動産を管理する専門チームが存在し、強い権限が与えられているそうだ。

翻って日本企業の海外子会社は「別会社」であるため、本社といえども簡単に口を挟めない。本社が現地の情報を把握することも難しい。例えば、現地法人がオフィスの賃貸借契約を結ぶ際、本社は承認するかどうかの判断することになるが、賃料水準が適正かどうか判断できる材料がない。本社の承認に時間がかかり、契約切れとなると事業活動に支障がでるので本社は承認せざるを得なくなる。

一部の日本企業が改革に乗り出す- 海外拠点の不動産マネジメント

不動産におけるコストの見直しは利益率向上に直結する数少ない手法である。にも関わらず、高橋は「2010年頃から日本企業もCREマネジメントの重要性に気づき始めたが、実際に改革に踏み切る企業はごく一部にとどまっているのが現状」と説明する。そのごく一部の企業では、不動産を管理する総務部が経営に寄与するべく率先して不動産コストの削減に乗り出し、成果を上げ始めているという。高橋は「とある企業の総務部の取り組みが社長賞の最終候補に残った」と述べる。このように危機感を募らせ、実際に行動に移す日本企業も出始めている。JLL日本 インテグレーテッドポートフォリオサービス事業部はこうした日本企業から依頼を受けて海外拠点の「適正化」に向けたソリューションを提供しており、クライアントからの反応は上々だ。

アウトソーシングするメリットはマンパワーを補完する目的もあるが、高橋によると「ジョブ・ディスクリプション(職務記述書)の問題が大きい」と指摘する。欧米企業では職務内容が詳細に決められ、それ以外の業務は任務外となる。そのため「賃貸借契約書の精査」もしくは「賃料相場の調査」といったイレギュラーな業務は自分の職務範囲に含まれず、現地スタッフの協力が得られないためだ。

外部の「プロ」を起用する意味- 海外拠点の不動産マネジメント

海外に多数の拠点を展開する日本企業がグローバルCREマネジメントを実践するためには不動産に精通した外部のプロを起用するのが近道となるはずだ。不動産に関わるコストとして最も大きいのが賃料だ。コスト削減のためには賃料単価を下げるのが具体的な方法だが、高橋によると「現地のオフィス市況にあわせてオーナーと交渉できるかどうかが重要」だという。世界80カ国、300拠点超でグローバル展開するJLLの場合、世界中の主要都市の市場をカバーできる。また、賃料単価を下げるだけでなく、オフィス面積を調整し賃料総額を削減することも視野に入るべきだろう。こちらもJLLはワークプレイスのコンサル部隊を有し、世界規模で対応可能だ。高橋は「働きやすさを追求したワークプレイスを再構築しながら賃借面積を削減することも不可能ではない」と述べる。また、賃料削減の具体的手法を提案するだけでなく、現地法人と本社との橋渡し役として社内調整なども担う。最初のステップとして現状を把握していないクライアントが非常に多く、まずは不動産コストの「見える化」のためのデータベースづくりが第一歩になる。この時に市場性が強く、言語・単位・商習慣等が異なる世界中の不動産契約を統一項目にデータベース化させることは相当に専門性が高い。また、現地法人が賃貸借契約書をどこに保管したかわからないといったケースもあり、こうしたイレギュラーな事態にもJLLは対応する。

海外拠点に対してガバナンスを強化することがグローバルCREマネジメントの第一歩だ。オフィス環境を見直すことでコスト削減のみならず、労働生産性の向上も実現可能になるはずだ。

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