記事

通勤時の感染リスクを解消する分散型オフィスが米国で拡大の予感

コロナ下においてオフィスワーカーが考える感染リスクは「毎日の通勤」であるという結果がJLL米国の調査で判明した。米国ではオフィス再開時に従業員に安全な執務環境を提供するため、郊外や居住地に近い外部貸し共用オフィスが注目され、分散型オフィス拡大の機運が高まっている。

2020年 07月 22日
従業員が懸念する感染リスクは「通勤」

世界的にも日本の「通勤ラッシュ」の凄まじさは知られるところ。「怖いもの見たさ」か、あえて通勤ラッシュを堪能する訪日外国人観光客も少なくないという。一方、新型コロナウイルス感染拡大を受けて、「3密空間」として通勤ラッシュ時のコロナ感染リスクが危惧されるようになった。都内自転車通勤者の約2割が新型コロナをきっかけに自転車通勤を開始したとの調査報告もあり、通勤ラッシュをリスクと感じる日本のオフィスワーカーは少なくないようだ。

一方、「通勤」を感染リスクと捉える向きは日本だけでない。JLL米国が実施した職場体験調査によれば「大量輸送を伴う公共交通機関を利用して、閉鎖的な空間に多くの人々が詰め込まれて通勤することに感染リスクを感じており、従前から公共交通機関を利用してきた通勤者の3分の1は新型コロナウイルス感染拡大後の数週間から数カ月間、これまでとは違った移動方法を考えている」という結果が出たのだ。

それだけでない。パンデミック発生以降の数カ月間にわたってテレワークが定着してきたことも「通勤の不安を感じる」ようになった理由の一端でもある。JLL米国の職場体験調査の対象となった回答者のほぼ半数がテレワーク最大のメリットとして「通勤回数が減ったこと、通勤しなくて済むこと」を挙げている。

JLLグローバル リサーチ担当ディレクター キャロル・ホッグソンは「企業がオフィスの再開に向けて検討する際『どうすれば従業員が安全に職場まで通勤できるのか』という一大課題に直面する」と述べている。

分散型オフィスを計画

公共交通機関を使わなければ、増えるのは自動車通勤だ。しかし、オフィスに向かう自動車台数が増えることで、道路渋滞が悪化し、結局は公共交通機関に頼らざるを得ない従業員もいる。その結果、大手企業の中には従業員に安心・安全な執務環境を提供するべく「仕事をする場所」の選択肢を増やし、より柔軟に働けるような分散型のオフィス計画を打ち出すケースが増え始めている。選択肢としてはテレワークのみならず、会社から離れた居住地域の近くでサテライトオフィス等の外部貸し共用オフィスを利用することが多い。通勤の負担を下げることが目的だ。

JLL米国 リサーチ・戦略担当マネージングディレクター クリスチャン・ボードインは「分散型のオフィスを増やして通勤時間を短縮することが、企業にとっては公共交通機関と自動車の運転との両立にもつながる。そうすることで、自転車通勤などの可能性もより広がることになるだろう」と指摘する。

とはいえ、北米のオフィススペースの約3分の1は公共交通機関が比較的に発達した十数の都市部に集中している。「長期的に見れば大半は公共交通機関に戻ることになるだろう」とは、JLL米国 米国東部・カナダ リサーチ担当シニアディレクター ジュリア・ジョーグルズの予測だ。

郊外や居住地近くにオフィス機能を

JLLが実施した最新の「通勤に関する調査」によると、従業員が公共交通機関を利用している総数としては、ニューヨーク、トロント、シカゴの三大都市圏がトップ3に入った。ニューヨークだけでも300万人、新型コロナウイルス感染拡大前の香港では、実に1日1290万人が公共交通機関を利用していた。ロンドンでは人口の半分が移動の際には公共交通機関を利用している。

ジョーグルズは「大都市圏に加えて、その他の都市部に拠点がある企業でも、従業員の居住地に応じて、オフィスの分散化を検討するなど、フレキシブルなコワーキングスペースを複数拠点で利用するオプションなどが模索している。今後都市部のオフィスと郊外のオフィスをどう両立させるかの議論が必須となることも認識されている。新型コロナウイルス感染拡大を機に、テレワークが広まったことは確かだが『自宅に近いオフィス勤務』の可能性を考えている企業は非常に多い」とも説明する。

足元ではコワーキングスペースやサテライトオフィスといった外部貸し共用オフィスの運営事業者と契約を結ぶ企業も出てきている。その多くは候補地として重点的に郊外を考え、将来の見通しが立つまでは柔軟な働き方を従業員に提供することになるだろう。

無論、以前のように都市の中心部に多くの従業員を集めて業務を続ける企業もあるだろうが、分散型オフィスのような別の選択肢が用意されている。将来的な新型コロナ感染拡大の可能性とそれに伴う公共交通機関利用のリスクをどう捉えるかが、従業員の心理ケアにおける課題になるだろう。

お問い合わせ