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2020年上半期の東京オフィス賃貸市場から占う今後の行方

コロナ禍で在宅勤務を導入した企業が急増したことで、オフィスの存在意義を見直す機運が高まっている。オフィス需要の増減はそのまま投資対象としてのオフィスの魅力に直結する。コロナ禍に揺れた2020年上半期の東京Aグレードオフィス市場から、今後の行方を考察した。

2020年 10月 16日

8年ぶりにオフィス賃料反転

堅調に推移してきた東京Aグレードオフィス市場がコロナ禍によって一転、約8年ぶりに賃料水準が下落することになった。

JLL日本 リサーチ事業部の調査によると、東京Aグレードオフィス市場第2四半期末時点で月額坪当たり賃料は40,042円、対前四半期比で0.7%減となった。2012年から33四半期、年数にして8年余りもの長期間、賃料上昇が継続してきたオフィス市況もついに軟化の兆しが見え始めた。

賃料下落も空室率は依然として1%未満

とはいえ、今回の賃料反転を額面通りに受け止めるのは早計だ。2020年第2四半期末時点の東京Aグレードオフィスは賃料水準こそ下落に転じたが、平均空室率はいまだ0.7%。空室率1%を下回り、需給がタイトな状況は依然として続いている。

空室率だけ見れば、いわゆるオーナー優位の状況だが、なぜ賃料が下落に転じたのだろうか。JLL日本 リサーチ事業部長 赤城 威志によると「その要因は様々だが、新型コロナウイルス感染拡大による先行きの不透明感からオフィス移転を中断し、様子見に転じたテナントが数多く存在した」ことが1つの理由だという。

また、今後の不透明感を考慮したビルオーナーが従前通りの強気の賃料提示を控えるようになったことも「賃料下落」として顕在化してきたものと考えられる。中でも、成長著しいIT産業に支えられ、新規オフィス賃料を急伸させてきた渋谷エリアは、その反動からか他の主要ビジネスエリアに比べて賃料下落率が拡大している。

今後のオフィス供給量に注目

今後のオフィス市況を読み解く上で注目すべきは新規供給量だろう。2018年-2020年には3年連続でAグレードオフィスの新規大量供給が重なり、その最終年となる2020年は前述した通り、コロナ禍の影響を受けて賃料水準が下落に転じた。

その半面、今後の供給量は限定的に推移する予定だ。2020年には680,000㎡の新規供給がなされたが、2021-2022年の新規供給は限定的になる見込みだ。東京五輪の開催年に間に合わせる形で2020年までに新規供給が積み上げられたが、その後の2年間は供給が著しく減少する。そして2023年は新規供給が一気に増加するものの2024年には再び供給が絞られる。

空室率から見たオフィス賃料の行方

JLL日本リサーチ事業部ではこれらの供給動向を踏まえ、2023年には空室率が4%弱まで上昇すると予測している。とはいえ、赤城は「1%を下回る現在の空室率と比べると『市況悪化』と感じられるが、オフィス市況の賃料が反転する分水嶺が『空室率4-5%』とされており、賃料の大幅下落に転じるような状況にない」と強調する。

その結果、2020年-2021年はコロナ禍による景気低迷の影響を受けて賃料が下落。しかし新規供給が限定的であるため2022年頃にはコロナ禍から回復。賃料下落から反転し、わずかな上昇に転じるとみる。2023年は新規供給が多いものの、翌2024年は供給が限定的で、経済回復が継続すると考えられることから、わずかながら賃料上昇が継続すると予測する。赤城は「ここ1、2年の調整を経て、再び正常化していくだろう」との見解だ。

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                         在宅勤務定着でオフィス需要はどうなる?

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オフィス需要の将来的な行方を左右しそうなのが在宅勤務といえるだろう。コロナ禍によって多くの企業が採用した在宅勤務が思いのほか機能したことで、オフィスの存在意義を見直す企業も出始めている。今後のオフィス需要にとって多大な影響を及ぼす在宅勤務の完全定着は、そのまま投資先としてのオフィスの魅力を低下させる可能性を秘めている。

しかし、在宅勤務が定着したからといって単純にオフィスを削減・閉鎖することになるとは限らない。緊急事態宣言以降に本格化した在宅勤務だが、半年ほどの「在宅経験」を経て様々な課題に直面する企業も少なくないためだ。

赤城は「対面交流がなくなり気軽に相談できない、仕事をプライベートの区別がつきにくい物理的に仕事の場所が確保できない、人的管理の問題等が挙げられ、在宅勤務だけでは快適な働き方は実現できず、オフィス勤務の重要性が再認識され始めている」と指摘する。


また、雇用者側にとっての最大のメリットはオフィススペース等の固定費を削減できることとだが、オフィス勤務ならではの生産性の維持・向上が難しいことや、社員同士のコミュニケーション不足によってイノベーション創発の機会が減ることも大きな痛手となるだろう。雇用者・被雇用者双方にメリットとデメリットがあり、これらを踏まえたコロナ時代に対応した働き方・オフィスのあり方の「答え」を見出すのは一筋縄ではいきそうもない。

赤城は「コロナ後の日本特有の契約形態や会計ルール、そして人事戦略も含めて企業は長期的にオフィス戦略を検討している。コロナ禍を機に働き方・オフィスのあり方は緩やかに変化していくだろうが、ドラスティックにすべての企業が何らかの対応を取り、これがオフィス市場に打撃を与えることは考えにくい」と締めくくった。

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連絡先 赤城 威志

JLL日本 リサーチ事業部長

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