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ハイブリッドワークを成功に導くリンクアンドモチベーションの新たな働き方「Compatible Work」

オフィスとリモートワークを組み合わせた「ハイブリッドワーク」を採用する企業が増えているが、そのメリットを最大限活かせていないケースも少なくない。リンクアンドモチベーションが2022年から開始した新たな働き方「Compatible Work」からハイブリッドワークを成功させる秘訣を紐解いた。

2022年 08月 02日
Contributors:
  • 柴田 才
ハイブリッドワークを活かせていない企業が増えている?

コロナ以降、オフィス勤務とテレワークを組み合わせた「ハイブリッドワーク」を採用する企業が増えている。テレワーク導入で余剰となったオフィス床を返却ないし縮小移転することで、賃料コストの削減も可能。浮いたコストは新たな働き方(ハイブリッドワークなど)の構築に向けて再投資するための絶好の機会になっている。

ハイブリッドワークとは?

ハイブリッドワークはテレワークとオフィスを併用した働き方を指す。テレワークを採用することで柔軟な働き方を実践しながら、孤独感・心理的負担の増加といったテレワークならではの課題解消、さらに社内外とのコミュニケーション活性化、偶発的な会話などから派生するイノベーション創発などを期待し、オフィス勤務も推奨する。働き方の選択肢が増えることで、従業員のエンゲージメントの向上を実現し、ひいては人材採用活動でも優位性を保つことができる。

とはいえ、形だけハイブリッドワークを実現しても、そのメリットを最大限享受できているかといえば、これがなかなか難しい。例えば、某IT企業ではコロナ感染者数の抑制に合わせて2021年10月から週2日のオフィス勤務を義務付けたものの、オフィスでなくても対応できる個人ワークに終始し、経営層が期待していた共創・協働を促進する場とはならなかったという。また、オフィス出社を事前登録制とした某企業の場合、出社を希望するのは一部従業員に固定化され、他の多くの従業員はテレワークを選択。帰属意識の低下を危惧するなど、ハイブリッドワークを使いこなせていない残念な事例がみられるようになっている。

では、どうすればハイブリッドワークのメリットを最大限発揮することができるようになるのか。経営学、社会システム論、行動経済学、心理学などの学術的成果を取り入れた基幹技術「モチベーションエンジニアリング」によって組織課題の解決や従業員の成長支援などの各種コンサルティングサービスを提供している株式会社リンクアンドモチベーションが実践する新たな働き方に、そのヒントがありそうだ。

 

賃料7割削減、オフィスからIT・ヒトへ再投資

コスト削減分は「Compatible Work」実現に向けたITへの投資に加え、従業員のベースアップを実行。床面積の削減分をどこに再投資するのか、働き方を見直す上で重視した

リンクアンドモチベーションは2021年10月4日、東京・銀座の中央通り沿いに位置する大規模複合施設「GINZA SIX」から、同じく銀座・昭和通り沿いの「歌舞伎座タワー」へ本社機能(東京統合拠点)を移転した。従前のオフィス面積1,900坪弱から530坪程への大幅な縮小移転である。

「Compatible Work」を推進したリンクアンドモチベーション システムデザイン室 ユニットマネジャー 野間 和子氏は「コロナ禍を受けてテレワークとリアル出社を持ち合わせた形で働き方を新たに設計したほうがいいと考えた」と説明する。

この東京本社をはじめ、全国各地に構えた7つのオフィス(グループ会社のオフィス含む)すべてのあり方を見直し、賃借床の返却・縮小移転で総床面積を約6割削減、賃料は約7割削減した。コスト削減分は「Compatible Work」実現に向けたITへの投資に加え、従業員のベースアップを実行。野間氏は「床面積の削減分をどこに再投資するのか、働き方を見直す上で非常に重視した点だ」と説明する。

企業のオフィス戦略に詳しいJLL日本 オフィス リーシング アドバイザリー事業部 ディレクター 柴田 才は「ハイブリッドワークは柔軟な働き方を従業員に提供することでエンゲージメントを向上させ、優秀な人材獲得と雇用の維持に大きく寄与する働き方改革といえる。一方、コロナ禍でオフィス市場が軟化している今、業績好調なIT企業などがより交通利便性が高く、ハイスペックなオフィスビルへ拡張移転するケースも見られる。再投資の形は様々だが、いずれも人材採用を意識している」と指摘する。

人材獲得を目的とした企業のオフィス移転事例をみる

 

「Compatible Work」とは?

「Compatible Work」を実践するための新オフィスはハイブリッドワークに適したフリーアドレス席を採用している。東京統合拠点の座席数は330ほど。ここにはグループ会社を含めて800名超が勤務することになるが、在席率50%(2022年6月現在)に制限しているため、オフィス出社は従業員1人あたり週1回程度のローテーション制としている。 システムデザイン室が、グループ会社を含めた各会社や部署の事業内容の親和性や関連性を加味して、曜日ごとのローテーションを選定した。床面積は従前比で7割弱縮小したが、地方拠点からも含めて人の出入りがかなり多いことなどを考慮し、執務空間を大幅に縮小したものの会議室は従前の数を維持している。

また、執務室は3つの事業グループ毎に執務可能なエリアをゾーニングしているが、従業員のエンゲージメントを維持するため、指定エリア内での座席位置等の使い方はそれぞれに委ねている。一方、テレワークは基本在宅勤務とし、外部貸しのサテライトオフィスなどは活用していないという。

 

ハイブリッドワークの効果を最大化するための施策

具体的な行動イメージを理解してもらえるように、きちんと言語化しないと「Compatible Work」の実現は難しい

リンクアンドモチベーションが推進する「Compatible Work」はオフィスとテレワークを併用する働き方であり、一見すると「ハイブリッドワーク」と同義のように見受けられるが、最大の特長は「労働生産性の向上」と「従業員エンゲージメントの向上」の同時実現を果たし事業成長を実現するべく、オフィスとテレワーク双方の活用メリットをマニュアル化し、従業員に具体的な使用例を提示している点にある。野間氏と共に「Compatible Work」の制度設計に携わったシステムデザイン室 金子 めぐみ氏によると「具体的にはテレワークとオフィスにわかれているため、それぞれのメリットを最大限活かせるような業務設計とルールづくりを行った」という。

オフィス出社とテレワーク制度を並列利用することは比較的簡単にできるが、そうした舞台を整えても最大限有効活用できなければ意味がない。そこで、システムデザイン室では「Compatible Work」という働き方とはどういったものかを長期間かけて議論し、「労働生産性と従業員エンゲージメントを同時に高める働き方」と定義付けした。さらに、具体的な行動例をすべての従業員に浸透させるためのマニュアルを作成。金子氏によると「移転作業と並行してCompatible Workにおけるオフィスの運用検討を進めていき、移転後に新しいオフィスでどういった行動をすればメリットがより高まるのかを具体的に詰めていった」という。

「Compatible Work」では、オフィスワークは「協働/一体感の醸成」、「偶発/他者からの学び」、「情理/他者理解の促進」、「共感/同一感覚の共有」、テレワーク(バーチャル)は「集中/業務効率の向上」、「計画/計画的なタスクの進行」、「合理/型化業務の遂行」、「同報/事実の一斉伝達」といった、それぞれ5つのメリットがあると定義されているが、これだけでは具体的にどのような行動を取ればいいのかわからない。金子氏は「例えば『協働』の行動例として『みんなで一斉に行ったほうが効率的な作業は一緒にやりましょう』、『会議を行う場合はブレストベースの会議にしましょう』など、具体的な行動イメージを理解してもらえるように、きちんと言語化しないと『Compatible Work』の実現は難しいと考えた」と説明する。

JLL日本 柴田 才は「コロナ禍以降、ハイブリッドワークを実践する企業は実際に増えており、アフターコロナ時代の新たな働き方と目されているが、単純にコミュニケーション活性化の場としてオフィス出社を推奨するケースが少なくない。技術的にテレワークが可能になった今でもなぜオフィスが必要なのか、その意義を従業員に浸透させていかなければ不満が噴出する可能性が高い。リンクアンドモチベーションのように詳細な具体的行動例をマニュアル化するのは、分別のある“おとな”には不要なように思えるが、ハイブリッドワークをうまく機能させるためには必要不可欠な取り組みではないか」との見解を示す。

「Compatible Work」は2022年4月から本格的に始動したため、その成果を見極めるのは当分先となる。金子氏は「しかるべくタイミングでそのような効果が得られたのかを見極め、今後のオフィス戦略の方向性を決めていきたい」と今後を語る。

リンクアンドモチベーションの新たな働き方がどのような結果となるか、今後も注目していきたい。

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