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コロナ禍でもオフィスは重要な存在-オフィス拡張移転を決めたカオナビの想い

コロナ禍によって在宅勤務が定着し、オフィス解約・一部縮小を検討する企業が増えつつある。そうした中、コロナ以前と変わらずオフィスを重視する企業が存在する。2020年11月、約2倍に拡張移転したカオナビは「優秀な人材を獲得するためのベネフィットの1つとなるのがオフィス」との認識を示す。

2021年 05月 20日
コロナ禍にもかかわらずオフィスを2倍に拡張移転

JLL日本が2020年11月に実施した企業アンケート調査では、コロナ以前と比べてオフィスを「拡張した」と回答したのはわずか4.1%にとどまる。在宅勤務が定着し、オフィスを解約・一部縮小する動きが顕在化している。

そうした中、社員の個性・才能を発掘し、戦略人事を加速させるタレントマネジメントシステム「カオナビ」を提供する株式会社カオナビは、新型コロナウイルス感染拡大の第3波が到来した2020年11月24日、大型オフィスビル「東京虎ノ門グローバルスクエア」に本社オフィスを移転した。入居フロアは15階、16階。賃借面積は2フロア合計で約820坪。赤坂見附に構えていた旧オフィスと比べると床面積はおよそ2倍となる。

移転プロジェクトを指揮したのがカオナビ Chief Design Officer(最高デザイン責任者、以下CDO) 玉木 穣太氏だ。コミュニケーションデザイン事業を展開する株式会社XCOG 代表取締役社長CEOを務め、2019年11月にカオナビのミッションやビジョン等を網羅したブランドブック「Future Deck」の制作に携わった人物だ。2020年7月にXCOG 代表取締役社長CEOと兼務する形で現職に就任。デザインの力でビジネスを変革し、企業価値や競争力向上に取り組んでいる。

オフィスは社員が自由に選択できる「働く場所」の1つ

オフィスの移転理由は明快だ。業務拡大による急激な人員増に対応するため、2019年1月にオフィス移転プロジェクトが始動した。しかし、当初の計画はカオナビの将来を明文化した「Future Deck」の方向性とは全く異なるオフィスデザインで、自由度のない「日系オフィスそのもの」(玉木氏)だったという。

固定席で一日中過ごす社員を管理するためのオフィス環境。「Future Deck」で言及している社員と企業が対等な関係を構築する「相互選択関係」のポリシーに反すると感じた玉木氏はオフィスのコンセプトを刷新する。

重視したのは「価値転換」だ。玉木氏は「会社から与えられた、働く場所だけではない、自分の居場所と思えるオフィスを作りたかった」と説明する。その結果、「相互選択関係」を体現するべく、オフィスの新コンセプトは「OWN(自分の所有物)」の前にTを足した「(T)OWN」とした。OWNは所有者のようにという意味があり、まるで自分の居場所のように感じられる、街をイメージしたデザインコンセプトとなっている。

カオナビが標榜する「相互選択関係」とは、社員と企業が互いに選び選ばれる対等な関係を構築すること。会社が働く場を決めるのではなく、社員に選択肢を委ね、オフィスは「働く場」の1つの選択肢という位置づけにした。そして、オフィス内には用途や趣きの異なる多種多様なスペースを配し、街のような区画を表現した。

コロナ禍でも移転計画を見直さなかった理由

一方、順調に移転プロジェクトが進捗していたが、折しも新型コロナウイルス感染拡大を受けて状況は一転。

企業のオフィス戦略に詳しいJLL日本 オフィス リーシング アドバイザリー事業部 シニアマネージャー 柴田 才によると「コロナ禍を受けて、拡張移転計画をいったん白紙に戻す企業はかなりの数にのぼった」といい、カオナビもご多分に漏れず、減床やコスト負担等、移転計画の見直しについて議論が紛糾したという。しかし、最終的には当初の計画通りに進行することにした。

「居住環境や家族構成などを理由に在宅勤務で業務を進めるのが難しい社員もおり、そうした過酷な環境のもと会社の指示で働かせること自体、社員に選択肢が与えられておらず、『相互選択関係』のポリシーに反すると考えた。『過酷な環境(在宅勤務等)』からの『避難場所』となるオフィスを社員に提供することにした」(玉木氏)

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社内外のステークホルダーが交流する「タッチポイント」

新オフィスは2フロアで構成され、レセプション機能(15階)と執務機能(16階)をそれぞれ集約した。業務内容や気分によって働く場を選択できるABW(Activity Based Working)型オフィスをベースにする。

玉木氏が率いるブランドデザイン部は「各ステークホルダーにファンを増やす」ことを目的に活動しており、新オフィスにもその考え方が多分に盛り込まれている。

玉木氏は「遊びに来たり、コーヒーを飲みにきたり、雑談に来たりと、人が交差するような場所」と表現する。カオナビの社員のみならず、投資家や取引先、過去に在籍した同窓生(アルムナイ)、そして採用候補者など、社内外のステークホルダーとの交流が生まれる「タッチポイント」として新オフィスを機能させる考えだ。

その狙いが垣間見えるのが15階フロアだ。低めのソファや椅子等をブロックごとに設置。フロア全体が見渡せるなど、「風通しのよさ」を実感できる。また、「従業員専用の屋内公園」を意識し、人工芝と屋内テントで構成されたミーティングスペースも用意。一カ所に滞在して働き続けると、どうしても集中力が持続する時間が限られてしまうため、多種多様なスペースを設けることで働くスタイルの多様化を促している。また、大型ミーティングルーム「FIRE SIDE」は最大100人程度まで収容可能で、交流拠点としても機能する。

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また、コロナ禍を受けて、オンラインミーティング等に対応するためにシェル型の個人ブースを多数設置した。営業活動等においてオンラインミーティングが主流となる中、在宅勤務や外部のシェアオフィス等では実施できない場合もある。落ち着いて顧客対応できる場をオフィス内に整備した。

新オフィスの営業が開始されてから約5カ月(2021年4月時点)。オフィスへの出社率は全従業員の1-2割で推移する中、新たな使用方法も検討中だ。玉木氏は「企画段階」と前置きしながらも「様々なアイディアがある」と抱負を語る。

優秀な人材を獲得するためにオフィスは必要不可欠

コロナ以前から顕著になっていた仕事や働き方に対する価値観が大きく変化し、いまや給料の多寡とは別の価値を求める考え方が働き手の間で広がりつつある。玉木氏は「『その会社に所属している意味』を戦略的に作り、社員を含むステークホルダーに対して浸透させることができる会社に優秀な人材が集まり、今後も生き残っていくのではないか。その1つのベネフィットがオフィスとなる」と力を込める。

JLL日本 オフィス リーシング アドバイザリー事業部 エグゼクティブディレクター 千福 英樹は「企業の成長・成熟度に比例して、オフィスは単純に『働くだけの場』ではなくなり、オフィスにいる意味が広がっていく」と指摘する。

コロナ禍によってオフィスに求められる役割は変化しつつあるが、カオナビの移転事例を見ると、その重要性はコロナ以前よりも高まっているように感じられる。

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