CRE戦略が導き出すこれからの企業価値とは?
企業の重要な経営資源を効率的に管理・運用し、企業価値を向上させていくCRE戦略が今改めて必要とされている。CRE戦略を成功に導くには、企業が保有する土地や建物の経営資源を有効的に活用し、経営サイクルを回すだけでなく、資産管理コストや企業の環境に配慮した取り組みなどが求められる。この必要不可欠な要素を取り入れた企業価値の向上を後押しするこれからのCRE戦略について解説する。
改めて問われるCRE戦略の定義
CRE戦略が日本企業で本格的に取り入れられるようになったのは記憶に新しい。”CRE戦略「ジャパンウェイ」の現在地”では、コストが掛かっても生産性の向上や働きやすさを重視し、長期的な利益の向上に繋げていく「働き方改革」が追い風となりCRE戦略に取り組む企業が少なからず増加したことが述べられた。
CRE戦略は、平成19年3月に発表された国土交通省「企業不動産の合理的な所有・利用に関する研究会(企業不動産研究会)報告書では、「企業価値向上の観点から経営戦略的視点に立って見直しを行い、不動産投資の効率性を最大限向上させていこうという考え方を示すもの」と定義されている。企業不動産に関するトレンドが変化する今、企業価値を向上させるCRE戦略の必要性が改めて問われているのだ。
資産価値を向上させるCRE戦略が今必要とされる理由
ニーズの変化を俊敏に察知し資産価値をリアルタイムで最適化していくためには、CRE戦略が今後さらに必要となってくる
企業が保有する資産の価値が人々のライフスタイルや嗜好の移り変わりによって大きく変化している。具体的には、ECの拡大や多様な働き方を促進するコワーキングやフレックススペースの台頭等による消費者の需要が変容し、資産価値の最適化が必要となってきていることが理由の1つとして挙げられる。JLLが発表した、保有資産の付加価値を向上させる効果的なアプローチ手法に関するレポートでは、アジア太平洋地域の一等地にある投資物件の約50%が築20年以上経過し、老朽化・低収益の建物として400億米ドル相当が棄損されていることが述べられている。これらのニーズの変化を俊敏に察知し資産価値をリアルタイムで最適化していくためには、CRE戦略により資産のパフォーマンス向上、収益拡大や運用コストの削減に繋げていくことが今後さらに必要となってくるであろう。
CRE戦略を導入することによるメリット
企業不動産の最適化によるコスト削減
CRE戦略導入のメリットの1つとしてコスト削減が挙げられる。企業不動産の管理費や共益費などのコストを根本的に見直すことで企業経営にもたらす影響は大きい。ファシリティマネジメントチームによる戦略総務や、昨今話題となっている不動産テクノロジーを有効活用することで、オフィススペースの最適化に繋がる。企業内部の現状を見直し、CRE戦略による最適化で得られる長期的な企業のメリットは大きいと考えられる。
ESG情報やCSR視点でのCRE戦略による社会的価値の創出
CRE戦略を最大限に活用することで企業の社会的なイメージを向上させることにも繋がる。 企業不動産の投資判断として重要視されているESG情報やCSR(企業の社会的責任)からの視点は、CRE戦略を実践する上で必要不可欠だ。企業が利益追求のためだけでなく、環境や社会、企業を取り巻くステークホルダーに対して課題解決などの働きかけを継続的に実践することの必要性が高くなってきているからだ。ESG情報やCSR視点でCRE戦略を実践していくことにより、企業の社会的価値が向上する。
遊休不動産の活用・再生による不動産投資の効率化
時代のトレンドと共に経営資源を最大限に有効活用することで、不動産投資の機会も増加する。昨今 遊休不動産の活用・再生により、収益化できない不動産を再生し、資産価値を高めていく経営戦略が日本企業のCRE戦略で重要視されており、これは不動産投資の効率性向上にも大きく寄与する。こうした経営資源である不動産の価値を有効活用、最適化することで収益最大化が実現できるのだ。
効果的な資産価値の向上へ導くCREマネジメントサイクル
CRE戦略により効果的な価値を創出していくには、プロセスでのPDCAが欠かせない。”CRE戦略強化によるこれからの企業価値の向上”の記事でも重要性が述べられていたCREマネジメントサイクルは戦略を管理する手法によって得られる効果も変わってくる。経営者層と実務を行う層が共通の理解と認識によりリサーチ・プランニング・プラクティス・レビューのサイクルを効率的に回していくことが不可欠となり、実効性の高いCRE戦略の実現が可能となる。
出所::国土交通省
企業の特性を活かし海外不動産を一元管理したCRE戦略の事例
海外に不動産を所有する企業も少なくない昨今、グローバル視点でのCRE戦略の最適化により保有資産の価値を向上させる事例も見られる。海外拠点によって異なる契約内容を不動産テックのシステムで一元管理することにより、コスト等の重要な情報を常時閲覧できるように最適化を図った。言語や商習慣が異なるため、システム上での管理が難しいとされてきたポートフォリオマネジメントをテクノロジー活用により実現させたのだ。データを一元管理するCREマネジメントで、賃貸借契約等に関する交渉を有利なタイミングで行え、他部署からの問い合わせにも対応しやすくなったという。グローバルCREマネジメントはこれからの日本企業に欠かせない戦略手法の1つとなってくるだろう。
不動産投資を最大化させるESG観点のCRE戦略
ステークホルダーの「安全衛生」を最優先に
サステナビリティを向上させるためESG = 環境・社会・企業統治に配慮する企業に重視した投資が昨今のトレンドともいえる。例えば、オフィスビルの「安全衛生」が挙げられる。JLLが2020年6月に実施した「 新型コロナウイルスによるオフィスに求める要件に関する意識調査」ではオフィスビルの資産価値を維持するための「安心への投資」の重要性が明らかとなった。ステークホルダーの「安全衛生」を最優先事項に置いたオフィスビルを維持し、管理していくCRE戦略の実践は今後必須となるであろう。
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社会的配慮における企業価値の最大化
ESGの「社会」にあたる観点でのCRE戦略は、CSR活動の内容や成果に結びつく。従業員やテナント、パートナー、地域コミュニティなど、企業を取り巻くステークホルダーに対して、社会的な責任があり、そのステークホルダーも巻き込んだ取り組みを継続的に展開することが必要となる。例えば、社内での女性管理職登用を促進する目標を掲げ、具体的な数値目標設定し、取り組むことで企業の社会的イメージの向上に繋がり社会的価値の創出を実現できる。
環境に配慮した省エネ対策で高める不動産価値
ESG観点での省エネ対策は長期的に持続可能な経営へ寄与するだけでなく、環境配慮への効果にも繋がる。ESG投資の機運が高まることでオフィスのグリーン化が注目されているのは、省エネ対策のために設備投資に対し長期的に費用対効果が得られるなど、コストを負担して省エネ対策を実行しても十分なメリットが見込めるからだ。
「環境配慮に欠いた不動産は今後取り残される」といわれるように不動産投資の評価でESG観点の重要性は今後ますます高くなるであろう。これらの要素を網羅するにはCRE戦略の実践でさらなる知見やノウハウが求められるのは顕著であろう。
企業を取り巻く環境が激しく変動する中、企業の経営資源を最大限有効に活用するには、CRE戦略の実践がこれから必須条件となることはいうまでもない。日々の変化と共に柔軟かつスピーディーに適応・進化し続けることが企業を成長させ、激動の時代を生き抜く鍵になるだろう。
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