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拡大するESG不動産投資、商業施設にも省エネ化の波が到来

事業用不動産の投資判断として重要性が増しているのがESG情報だ。環境・社会・企業統治に優れたアセットに対して積極的に投資が行われている。こうした傾向は不動産投資も同様。巨大な資産を運用するグローバル機関投資家等は省エネ化されたサステナビリティな不動産に対して積極的に投資する姿勢を打ち出している。そうした中、不動産証券化された商業施設においてもESGの観点から資産価値向上を図る動きが見られ始めている。

2020年 02月 12日

省エネ施策に注力する大型複合商業施設「unimoちはら台」

不動産投資家の大多数が重視するESG

経産省、国交省の調査でESG重視が鮮明に

不動産投資においてESGは避けては通れない存在となりつつある。

経済産業省が2019年12月24日に発表した運用機関48社に対する「ESG投資に関する運用機関向けアンケート調査」において「ESG情報を投資判断に活用している」との回答が97.9%にのぼった。

一方、同年4月26日に国土交通省によって発表されたESG不動産の評価に関する調査結果では、国内オフィスビルに関する市場関係者を対象に「ESGに優れた不動産の価値が高まる」または「今後高まる」との回答が約80%となった。

ESG投資が世界の潮流に

環境・社会・企業統治の観点で投資判断

ESGとは「環境(Environment)」、「社会(Social)」、「企業統治(Governance)」の3つの頭文字を取り、長期的成長を促す重要要素と位置付ける考え方だ。定量的な財務情報をもとに投資判断がなされてきたが、企業や投資家に対して社会的意義のある3要素に配慮した投資活動を求めている。

2006年に国連は機関投資家に対してESGに配慮して投資を行うべきという「責任投資原則(PRI)」を提唱。日本では2015年に「世界最大の機関投資家」と称される年金積立金管理運用独立法人(GPIF)が2015年にPRIに署名した他、2019年2月、国土交通省が「ESG不動産投資のあり方検討会」を初めて会合された。

また、2019年3月には欧州議会とEU理事会で機関投資家に受託者責任の一環としてESGの考慮を義務付けることで合意されるなど、ESG投資が世界の潮流になりつつある。こうした流れは不動産投資にも大きな影響を及ぼしており、環境性能の向上等、ESGを前提とした不動産投資戦略を実践する機関投資家は増えているのが実情だ。

リテール不動産投資もESGを意識

回遊性の高いunimoちはら台の館内

世界有数の不動産投資顧問会社もサステナビリティに注力

こうした中、商業施設の運営管理業務を受託しているJLLモールマネジメント プロパティマネジメント東日本チーム 岡本 恭介は「ESGの観点から商業施設への投資に対して長期的視点で省エネ対策を施すケースが出てきた」と説明する。好例となるのがJLLモールマネジメントが運営受託する大型複合商業施設「unimoちはら台」だ。

2007年9月に開業した同施設はいわゆる不動産証券化スキームを活用した事業用投資物件として運営されてきた。そうした中、2015年2月にラサール不動産投資顧問がアセットマネージャーとして施設運営に参画したことで、積極的に施設の省エネ化が進められることになる。

世界17カ国24拠点で機関投資家や富裕層から預かった資金を運用する世界有数の不動産投資顧問会社であるラサール不動産投資顧問は近年グローバル規模で投資対象となる不動産の省エネ(グリーンビル)化を推進。施設管理を担うJLLモールマネジメントに対して具体的な省エネ施策の提案を求めるようになる。

省エネ化で高い費用対効果

館内に設置したIoTセンサーで空調を自動制御する

従前は大々的に投資を行わず、運用改善で省エネを進めてきたが、ラサール不動産投資顧問の意向もあり、設備投資を伴う省エネ化の検討を開始。共用部の照明を調光機能付きLEDに変更した他、IoTセンサーを活用した空調の自動制御システムを導入したことで、大幅な省エネ効果をもたらした。投資金額は双方合わせて7,000万円超となったが、想定を上回る費用対効果が得られた。投資回収期間はLED化で3.4年、空調自動制御システムはわずか2年に収まった。

設備、立地等の諸条件によって異なるが、大型商業施設では省エネ余地が意外に大きいという。オフィスビルの場合、テナント負担となる専有部のエネルギー使用量のほうが大きいが、unimoちはら台の場合、大型テナント・飲食店など一部のテナントは個別空調があるものの、その他のテナントの空調は全体空調と同一管理されている。商業施設は共用部だけでも施設全体の4割以上となり、それだけ空調負荷が大きい。オーナーがコストを負担して省エネ対策を実行するメリットは十分見込めるのだ。

ESG不動産は省エネ化でNOIも向上

環境配慮に欠いた不動産は投資市場から取り残される

商業施設における省エネ対策はこれまで以上に進んでいくだろう。岡本は「従前、商業施設の運営管理業務としてはテナントの売上向上を念頭において販促活動に主軸を置いているふしがあったが、省エネ化によって大々的にエネルギーコストが削減できればNOIが向上し、不動産価値に直結する」と、その理由について説明する。

unimoちはら台のような大型商業施設を投資対象とする投資家は限られている。ESG投資がこれまで以上に拡大していくことが予想される中、環境配慮に欠いた不動産は投資市場から取り残される可能性は低くはない。そういった意味では、商業施設の運営管理を担うプロパティマネジメント会社には、AMやオーナーに対して省エネ施策を提案できる知見・ノウハウがこれまで以上に求められるだろう。

岡本は「当社としては省エネ・サステナビリティに対する意識を高め、様々な情報を収集し、自施設の特徴を把握したうえで実現可能な省エネ施策、コスト削減案を提案していかなくてはならない。そのためには省エネに知見のあるビルマネジメント会社等の最適なパートナーと協働体制を構築していく必要がある」と述べている。

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