記事

事業法人の企業戦略としてのセールアンドリースバックとは?【第1回】 自社使用不動産の問題点分析

JLLでは3回にわたり事業法人の企業戦略としてのセールアンドリースバック(以下、SLB)について解説します。1回目となる本稿ではSLBの概要と自社使用不動産の問題点分析、2回目では財務から見たSLB(現リース会計基準)、3回目では会計基準変更の影響測定について検証します。

2025年 04月 25日
Introduction:地価の将来を考える

皆様の会社は、所有不動産の将来についてどのように考えているでしょうか?

国土交通省が発表している下の図をご覧ください。

出所:国土交通省「地価公示」をもとにJLL作成

商業地の公示価格の長期推移(過去50年)を振り返ると、バブル期に急上昇した地価が1991年をピークに降下し、2013年に底打つものの、2024年時点において1974年の水準を下回っています。

国土交通省に確認したところ「過去の調査地点数と現在の地点数に大きな差がある他、毎年調査地点が変化するため、単純に平均価格で比較はできない」とのことですが、商業地の公示地価が50年前とほぼ同水準であることには驚かされます。

一方、CPI(消費者物価指数)は1986年当時と比較して、2023-2024年の物価急上昇前の段階(2021年)にもかかわらず20%程度上昇しています。

日本の消費者物価指数(CPI)の推移 出所:国際通貨基金のデータをもとにJLL作成(2010年を基準年とする)

将来にわたりこの傾向が続くかどうかはわかりませんが、人口減少が加速することが予想されていることを考慮すると、地価上昇はそれほど大きくないとみておく方がよいかもしれません。
 

不動産の評価は価格から利用価値へ
購読

さらにインサイトをお探しですか?アップデートを見逃さない

グローバルな事業用不動産市場から最新のニュース、インサイト、投資機会を受け取る。

不動産が適切に活用されている場合には、所有者が評価をする際に注目すべきことは価格ではなく、利用価値であると考えられます。なぜかというと、純金など利息や配当を生まない資産と違って、自社使用している場合は「利用価値」、賃貸している場合は「賃貸収益」が享受できるからです。

では、どのように考えるべきなのでしょうか?

下の図で示したように、バブル期には非常に多くのオフィスビルが建築されました。その後、適切な維持修繕がなされている建物が多いと考えられますが、約30年を経て所有者にとって維持管理費の増大や今後の大規模改修の費用などが心配の種になっています。

法人等の非住宅建築物(事務所・店舗)のストック(延床面積) 出所:国土交通省「建築物ストック統計」をもとにJLL作成 ※バブル崩壊後は着工数が激減したため、1991-2000年の数値は1995年頃までに大半が竣工したと考えられます

日本国内では中心市街地などで、税法の耐用年数を大きく超えて使用継続されている建物もありますが、設備の陳腐化や再開発への参画、エリアに対する建物利用需要の変化などを理由に、経済的耐用年数に達する前に解体、再建築される建物の方が多いように見受けられます。

こういった状況を背景に、本稿では、自社で使用している不動産の活用方法を再検証したうえで、SLBの戦略性について考えていきます。

不動産の今後を検討できる最後のタイミング?

自社使用しているバブル期竣工のオフィスビルにおいては「あと何年間使い続けるのか?」、「その後はどうするのか?」について、立ち止まって検討するタイミングになっているといえます。

選択肢は二つ。このまま所有を継続するか、売却するかです。

比較のための主な論点は、以下の通りです。

シリーズ第1回目となる本稿では不動産を保有する際の下記7つの論点を整理することに主眼を置き、実際の数値を用いた財務検証は第2回、第3回で説明します。
 

  1. 毎年度のキャッシュアウト

  2. 毎年度の資本的支出

  3. 経済的耐用年数経過時の残存簿価

  4. 経済的耐用年数経過時の対応方法

  5. 売却の場合の想定価格

  6. SLBの検討

  7. SPLB(Sale and Partial Lease Back/部分的なリースバック) 

画像提供:PIXTA

1. 毎年度のキャッシュアウト 

築年の経過とともに、通常修繕の他に大規模改修工事が必要になってきます。今後必要になる工事項目やその費用については、建物の状態によっては予想を超える金額になることもあります。まずは、エンジニアリングレポートを取得して建物の現状と今後の出費予測を把握することが重要です。

2. 毎年度の資本的支出 

築年がある程度経過している建物であっても、その間の資本的支出額が大きい場合は、減価償却費が多額になることがあります。また、将来の減価償却費の額は、今後の資本的支出額により変動します。

【参考】法人税施行令7-8-1

例えば、次のような支出は原則として修繕費にはならず資本的支出となります。



1. 建物の避難階段の取付けなど、物理的に付け加えた部分の金額



2. 用途変更のための模様替えなど、改造や改装に直接要した金額



3. 機械の部分品を特に品質や性能の高いものに取り替えた場合で、その取替えの金額のうち通常の取替えの金額を超える部分の金額

3. 経済的耐用年数経過時の残存簿価

経済的耐用年数経過時の残存簿価のうち建物については、「2. 毎年度の資本的支出」により計算されるため、ある程度の範囲で予想ができます。その時点で解体するとなれば、解体工事費とともに除却額が特別損失として計上され、場合によってはかなりの金額が想定されます。また、土地の簿価は不変なので、将来の地価動向により、含み益または含み損が生じます。

経済的耐用年数については、税法の耐用年数とは違って年数が規定されていないため、不合理でない限り税法の耐用年数を準用することが認められています(公認会計士協会)。

4. 経済的耐用年数経過時の対応方法

経済的耐用年数経過時の対応については、まず、建替えが考えられます。建替え時の費用としては「3. 経済的耐用年数経過時の残存簿価」の解体工事費(損益的には除却損)と新築工事費、さらに工事期間中の仮移転費用が発生します。キャッシュアウトが相当な額になり、年度損益上も建物残存簿価の除去を含む特別損失の計上が発生します。また、完成後には相当な金額の建物が簿価計上され、その減価償却費も新たに損益に影響を与えます。

このように、建替えをするにはマイナス要素もあるため、その代案として売却が考えられます。売却するためには建物を解体し更地にする費用がかかりますが、除却する建物の残存簿価は解体費用とともに原価に含まれるため、土地に十分な含み益があれば特別損失が表面化することはありません。ただし、売却価格が簿価を下回り、全体として特別損失が生じることもあるでしょう。また、自社オフィスの移転先の手当ても必要になります。

5. 売却の場合の想定価格

所有継続のメリットもいろいろあると想定されますが、一方でいろいろな厄介ごとがあることをご理解いただけたと思います。「4. 経済的耐用年数経過時の対応方法」では(遠い)将来での売却につき説明しましたが、近々売却したらどういうことになるかを考えてみましょう。

このケースでは上記4と違い、建物の使用価値を評価することができます。購入者側から見ると、幾分古いとはいうものの改修して賃貸用にすることが可能だからです。売買価格は購入者の期待利回りからの逆算を主として決定されますが、この際、現状本社として一体利用している場合は本社仕様からマルチテナント向け仕様にする費用が差し引かれます。また、一定の稼働率に達するまで時間を要するので、その点も減額要素になります。一方、現所有者は移転先を確保し売却とともに退去することとなります。移転先の床の確保は条件によっては難しく、また、内装工事費、引越費用、オフィス移転に関する諸手続きなど費用や手間が大変になります。

6. SLBの検討

このような検討を進めていくと、一つの選択肢としてSLBの検討が浮上してきます。

SLBのメリット/デメリット

●SLB契約とは、対象物件(ここでは自社使用中の土地建物)の売買契約と賃貸借契約(現所有者が借手となる)をセットで結ぶ形態を指します。賃貸借契約は通常「定期賃貸借契約」となり、また、1棟全体を対象とすることが殆どですが、一部をSLBする契約(Sale and Partial Lease Back/SPLB)もあります。

●SLBを検討する際の主なポイントは以下の通りです。

メリット

  • 売却しても自社事務所を(すぐに)移転する必要がないこと(移転先の手配や、引越、それに伴う手続きやコストを当面抑えることができます)

  • 建物の維持管理業務が第三者に移行すること(BM(建物マネジメント業務)の従業員を他の業務に充当できます)

デメリット

  • 建物の利用に制限が生じること(購入者の意向により、利用や改修などに制限が生じます)

財務効果

  • アセットライト効果(現会計基準でファイナンスリースに該当する場合は、リース負債が計上されますが、事実上のアセットライト効果があります)※関連記事「アセットライトの戦略性」はこちら

  • 所有継続とSLBのどちらが得かの検証(売買・賃貸借の条件により多少異なりますが、購入者の利益が上乗せされるためC/Fでは所有継続の方が数値は良くなります。ただしP/L、BSについては異なる考え方が生じます…この点について第2回、第3回で説明します)

このようにSLBを実行する前には、配慮すべき多くの事項がありますが、上記メリットを考慮すると「検討してみる」価値があるものと考えられます。

なお、リースバック期間を長期にすれば、購入者にとって不動産商品であるとともに金融商品的な捉え方が拡大され、購入者層が広がります。さらに、前段で述べた通り、上記4で説明したマルチテナント化のための工事費が不要になるとともに稼働率の心配からも解放されるため、売買価格のマイナス要素が減ると考えられます。

長期リースバックの場合、売買価格とリースバック賃料が一定の相関関係にあるため、現所有者の状況によりある程度条件(リースバック賃料、売買価格など)を変えることができます。

7. SPLB(Sale and Partial Lease Back:部分的なSLB)

本社機能や支店、営業所など1棟全体を自社使用している場合であっても、働き方改革などの効果で実質的な空き床ができている、または隠されている場合があります。このようなケースでは、使用床を圧縮してその部分をリースバックするなど、余剰床を「売切り」にする手法が考えられます。

JLLではこの契約形態をSPLB(Sale and Partial Lease Back:部分的なSLB)と呼んでいます。

これにより余分な床の賃借料を削減することによってSLBの財務効果を増大することができるため、今後SLBを検討する際には念頭に置いておくことをお勧めします。

ここまで、自社使用で築年が経過している不動産について概略を整理しました。

第2回では、SLBにつき現リース会計基準による財務分析の説明をいたします。

「財務から見たセールアンドリースバック(現リース会計基準)【第2回】」はこちら

連絡先 榊 敏正

JLL日本 エグゼクティブアドバイザー

お問い合わせ

何かお探しものやご興味のあるものがありましたら、お知らせ下さい。担当者より折り返しご連絡いたします。

あなたの投資の目標は何ですか?

世界中にある投資機会と資本源をご覧下さい。そして、JLLがどのようにお客様の投資目標の達成を支援できるかお尋ねください。