記事

遊休不動産の活用・再生を重視する日本企業のCRE戦略

企業が利用する不動産を戦略的に管理・運用していくCRE戦略の重要性が日本でも認知されるようになった。遊休不動産をいかに再生するべきか、日本企業が頭を悩ませている。

2020年 04月 06日

バブル崩壊でCRE戦略の注目度高まる

企業価値を向上させるCRE戦略

バブル崩壊によって「土地神話」が崩れ去り、経済環境によって不動産の資産価値が大きく損なうということに直面した日本企業。不動産は「右肩上がり」ではなく、リスク資産と認識されるようになった。これによって日本企業がCRE戦略の重要性に着目するようになる。中でも、多くの土地を保有しているにもかかわらず有効活用してこなかったインフラ系大手企業や大手新聞社などが積極的にCRE戦略に取り組むようになってきた。

とはいえ、CRE戦略の中身は実に多様だ。例えば生産性向上のためのオフィスリニューアルを実施することもCRE戦略の一つであり、自社ビルを売却した後に賃借するセール&リースバックを実施する、はたまた老朽化した不動産を建て替えて収益化することもCRE戦略に含まれる。

では、CRE戦略とは一口に言って、どのようなものなのか。国土交通省「企業不動産の合理的な所有・利用に関する研究会(企業不動産研究会)報告書(平成19年3月)」によれば、CRE戦略とは「企業不動産について、『企業価値向上』の観点から経営戦略的視点に立って見直しを行い、不動産投資の効率性を最大限向上させていこうという考え方」と定義している。

企業にとって不動産は事業活動を展開するための「場所」であり、本業以外に収益拡大をもたらす「資産」という2つの側面を持つ重要な存在だ。企業インフラである不動産をいかに戦略的に扱っていくか。CRE戦略によって不動産コストの削減と資産価値向上を両立させていくことは企業の経営戦略に直結する。CRE戦略の本質は「企業が保有・利用する不動産全般を一元管理し、最適な状態にすること」といえるだろう。

欧米企業は全体最適化、日本企業は部分最適化

CRE戦略において欧米企業と日本企業ではその捉え方に大きな違いが見て取れる。CRE戦略についてコンサルティングサービスを提供しているJLL日本 ステラテジックコンサルティング事業部 事業部長 相川 正敏は「グローバル展開する欧米企業はCRE戦略の重要性にいち早く着目し、経営層が直轄する形でCREに特化した担当部門を整備するなど、経営戦略にCREが組み込まれている」と指摘する。欧米企業のCRE戦略は不動産全般をグローバルで一元管理し「全体最適」を図っているのが特長といえるだろう。

一方、日本企業の場合はCRE専門部署を整備している例は少なく、不動産の管理業務を総務部が兼務していることが多い。結果的に日本企業は不動産を個別にみて問題解決にあたっているケースが非常に多いのが実情だという。欧米グローバル企業におけるCRE戦略が「全体最適化」であるならば、日本企業のCRE戦略は「部分最適化」に注力しているともいえる。

遊休不動産の活用・再生

「部分最適化」における象徴的なニーズは遊休不動産の活用・再生だろう。不動産の取得価格が低いことや雇用創出といった観点から有効活用されていない不動産を保有し続けている日本企業は少なくない。しかし、経済のグローバル化が進み、日本企業も世界を舞台に事業活動を展開するようになると、厳しい競争の中、限られた資源を成長分野に再投資する必要がある。余分な不動産を保有し続けるわけにはいかなくなってきた。

そのため、都心の一等地にありながら老朽化して賃料収益が伸びない賃貸物件、利用者が少なくなった社員寮、交通アクセスが不便な郊外の遊休地など、いわゆる「収益化」できない不動産を再生し、資産価値を高めていくことも経営戦略にとっての喫緊の課題となっているのだ。例えば、賃借オフィスの余剰スペースを見直すことで支払い賃料を削減し、その賃料削減分を保有不動産のバリューアップに投資することで「コスト削減」と「資産価値向上」をCRE戦略で両立させることが可能になる。

「塩漬け」不動産をいかに再生するか

企業が保有する不動産には資産価値が高い「一等地」がある半面、オフィスやレジデンスを建設しても需要がついてこず、有効活用しにくい土地がある。老朽化したため、郊外の工場を閉鎖して賃貸物件に建替えようにも需要が見込めない。はたまた売却しようにも簿価を下げることになり財務上のロスが発生するなど「塩漬け」になっているCREは少なくない。こうした有効活用しにくい不動産をいかに対処していくべきだろか。

そのアプローチは多岐にわたるが、相川は「社会情勢の変化や事業の安定性などを精査し、どのようなアセットタイプにすれば資産価値が最大化するか様々なケースを何通りものシミュレーションを行っていく」と述べるように、単純に収益化できるケースは皆無だ。

JLL日本 ステラテジックコンサルティング事業部が手掛けた遊休不動産の活用事例としてはレジ・商業施設開発による遊休地活用をはじめ、未活用状態の不動産の用途変更による収益化、土地出資型共同事業による遊休地の売却、会計上メリットが大きい「定借分譲マンション」の開発、権利関係が複雑で解体できない郊外型の居住用不動産のバルクでの売却案件などがある。

JLLが手掛けた遊休不動産活用の一部事例

●定借分譲マンション
有効活用しにくい郊外の土地に定借期間を70年に設定してマンションデベロッパーが分譲マンションを建設し、エンドユーザーに販売。定借期間70年分の地代のうち何割かを「前払い地代」として土地オーナーが受け取り、土地を売却したのとほぼ同等のキャッシュを一括で得ることができ、自己投資がないので不良債権化のリスクもない。

●土地出資型共同事業
単純に土地を売却するのではなく、デベロッパーが分譲マンションを建設し、分譲マンションと土地を併せて売却。共同開発によって土地代だけでなく、分譲マンションの利益を乗せて売却益が得らえる。一方、デベロッパーは土地取得に関わるコスト負担がなく、双方にメリットが大きい。

●住宅団地のバルク売却
高度成長期に建てられた郊外の老朽化した住宅団地(同一敷地内に複数棟の建物で構成された住宅団地)の再生は大きな社会問題となっている。権利関係が複雑であり、建替えができず、収益化も困難な住宅団地(総戸数1,000戸超)につき管理組合や他の区分所有者との権利関係の調整/整備等に取り組み、資産価値を高めて売却した。

CRE戦略でリスク管理を

日本において「CRE戦略」とはニーズが高い「遊休地活用・再生」と捉える向きがあり、前述した通り、JLLの元にも多くの相談が寄せられている。しかし、相川は「CRE戦略に本格的に取り組むのなら、やはり不動産ポートフォリオを分析し、どのような資産構成にしていくかを全社的に検証していくべき」と指摘する。

例えば、不動産コストを精査したくても、海外のオフィスは現地子会社が契約しており、その賃料が妥当なのか日本にある本社では判断できない。もしくはM&Aで傘下に収めた子会社が保有する不動産に瑕疵が存在し、何らかの問題が発生した場合、本社は「知らなかった」では済まされない。このような日本企業が抱える経営課題はCRE戦略で解決することが可能だ。不動産ポートフォリオ全体を管理する真の意味でのCRE戦略を実践することで、こうしたリスクを回避できるとともに、不動産コストの適正化や収益最大化が実現できるのだ。

CRE戦略のためのポートフォリオ管理について見る

お問い合わせ