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テナントサーベイ:オーナーに求められるコロナ後のオフィスビルに必要不可欠な「安心への投資」

世界中を未曽有の事態に陥れている新型コロナウイルス感染拡大は、オフィスビルの在り方にどのような影響を及ぼすのだろうか。オフィスビルの管理運営業務を担うJLL日本 不動産運用サービス事業部では、このほど自社管理オフィスの入居テナントに対してアンケート調査を実施。そこから浮彫になったのは、テナントリレーションを強化し、オフィスビルの資産価値を維持するための「安心への投資」の重要性だった。

2020年 07月 29日

コロナ下で変化するテナントニーズ

コロナ感染拡大を機にテナントがリモートワーク本格導入

新型コロナウイルス感染拡大によって、最も大きな変化が表れたのはリモートワークの本格導入が拡大したことだろう。人と人の接触を抑制することで感染拡大を防ぐことが最重要課題とされ、日本政府は緊急事態宣言を発令し、全国的に経済活動の自粛要請がなされた。多くの従業員が集積し、「働く場」として機能するオフィスも多くの企業は自主的に閉鎖。代替案として採用されたのが在宅勤務を主体とするリモートワークであった。

JLL日本が実施したアンケート調査でも、この傾向が顕著に現れている。新型コロナ感染拡大前(2020年2月以前)、感染拡大後(2020年3月以降)を比較して、リモートワークを導入したかどうかを質問したところ、感染前に導入していた企業は40.6%にとどまっていたが、拡大後の導入状況は73.2%にまで拡大。リモートワーク導入率は約33%増加し、コロナ下で働き方が大きく変化したことを示している(図1)。

図1:リモートワークの導入可否

併せて「リモートワーク業務化率」について質問した。これは新型コロナ拡大前・拡大後を比較して、リモートワークで行う業務割合の増減を調査する目的だ。その結果、アンケートに回答した全社平均で感染拡大前は6.5%だったが、拡大後(緊急事態宣言中)は28.8%と、業務化率は4.4倍となった。さらにリモートワーク導入済企業だけに絞ると、コロナ前の業務化率は16.3%だったが、緊急事態宣言中は39.5%と、2.4倍に拡大している。より多くの業務でリモート対応していたことが判明した。そして、今後のリモートワーク導入についての考えについては「検討中」が69と最も回答数が多いものの、「増やす」が47、「減らす」はわずか3となり、引き続きリモートワーク導入に前向きなテナントが多いことが窺える。特にコロナ前からリモートワークを導入していたテナントの半数が今後「増加させる」と回答している点が興味深い。

建物オーナーはテナントニーズの変化に対応すべき

新型コロナ感染拡大をきっかけに、なかば「強制的」にリモートワークに移行せざるを得なかったものの、従前のように全社員がオフィスへ一極集中することに対しては「通勤ラッシュ時のストレス」や「移動時間の無駄」といった従前からの問題点も浮上しており、そもそもリモートワークに対する従業員側の潜在的なニーズは高かった。そして、コロナ下でリモートワークを経験し、コミュニケーション不足や業務管理の不備といった想定していたデメリットよりもメリットのほうが大きかったことを実体験し、緊急事態宣言終了後もリモートワークを継続する企業が続々と声を上げているものと思われる。

このリモートワーク導入拡大の傾向は、働き方やオフィスの在り方が新型コロナの影響を受けて変化する象徴的な事象といえる。つまりオフィスに対するテナントニーズそのものが大きく変化しているとも考えられ、建物オーナーはそのニーズの変化に対応していく必要があるのではないだろうか。

アンケートから見えてきた「オフィスビル に求める要素」

レーダーチャート分析

今回のアンケート調査は、緊急事態によって働き方やオフィスの在り方を見つめなおす企業が増えていることを示唆している。リモートワークに関する調査結果はその一端といえるが、次にオフィスを利用する、もしくは入居する際の選定基準として、テナントが「オフィスに求める要素」について新型コロナウイルスがどのような影響を及ぼしているのか見ていきたい。

「オフィスに求める要素」について、新型コロナ感染前・感染後それぞれの段階で、重要視する要素を1位―5位で順位付けを行った。回答項目は「共用施設」や「ビルのランドマーク性」、「セキュリティ」、「BCP設備」など、17項目を用意し、それぞれをソフト(3要素)・ハード(3要素)の2つのサービス区分に分類(図2)。回答1位-5位にそれぞれ5点―1点を加点し、6要素の合計点をレーダーチャートで分析した(図3)。

図2:項目分類表

図3:レーダーチャート分析

ウイルス対策は90%が重視

コロナ拡大後に点数が伸びたのはハード面における「利用者環境」である。項目別にみると「セキュリティ」と「衛生環境」を含み、消毒液の有無や、日常清掃、抗菌シートによる内装等を含んでいることから、回答者は新型コロナ感染防止を念頭に置いているものと考えられる。コロナ前・後を項目別順位で比較すると「衛生環境」はコロナ前5位からコロナ後は1位に躍進した。また、点数で比較しても、コロナ前とコロナ後では点数が約2倍と突出した伸びを見せている。

今回のアンケート調査では「今後ウイルス対策を重視するか」を質問したところ、約90%弱が「重視する」と回答したことからも「利用者環境」、特に「衛生環境」に対する意識の高まりが窺える。今後のオフィスビル運営においては、これまで以上にウイルス対策が求められ、より具体的な対策を講じられないオフィスは入居選定時に「選ばれない物件」となる可能性すら考えられるだろう。

ビル管理者の存在感が高まる

一方、「PM/BM対応」では、特に「管理者対応」に関心が集まった。コロナ下という緊急事態に際し、「ビル内におけるソーシャルディスタンスの考え方」や「感染者が表れた場合、ビル閉鎖の有無」など、テナント側はビル管理者に対してビル管理に関して様々な情報交換がなされた。ある種のテナントリレーションが強化され、ビル管理者の存在感が高まったと考えられる。

半面、点数が下がったのはソフト面の「ビルブランド」とハード面の「区画・専有部」だ。前者の項目は「ランドマーク性」「ビル内観・外観」「環境性能」「先進設備の有無」で構成される、いわばビルの見栄えを前提として人材採用や企業のブランド価値向上に資する項目といえるだろう。点数が下がった理由として考えられるのは、例えば人材採用面における「ビルブランド」の訴求力が低下するなど、新型コロナによって対面コミュニケーションの機会が減少している中で、ビルブランドに対する重要性が相対的に低下したという実利志向の表れと推測できる。

「区画・専有部」は「フロア内テナント数」「区画条件」「眺望」で構成されるが、これらの項目は短期的に変更できるものではない。新型コロナへの火急的対応が求められ、ビル全体に対する関心が高まっている中で、個別の区画専有部への意識が相対的に低下したものと考えられる。

オフィスビル運営に多大な影響を与えたのは東日本大震災が挙げられる。震災後にはオフィスビルの耐震性が何よりも重視され、特にAグレードオフィスを中心に非常用発電設備などのBCP対策が著しく進化したことは言うまでもない。新型コロナもオフィスビル運営の在り方に一石を投じ、ゆくゆくは高度なウイルス対策がスタンダード化する可能性は十分にありえる。

ビルオーナー(投資家)はどう対応するべきか

「従業員を守る」ハード面の安全性がより重視される時代へ

前述したレーダーチャート分析の結果を踏まえると、テナントの「ビルブランド」重視の考え方から、従業員の健康を守るためのハード面の安全性確保がより重要視されるようになっている。特にコロナ下(緊急事態)であっても、安定的にビジネスを継続できるオフィス環境をテナントに対して提供することが、ビルオーナーには何より求められている。震災時にも事業継続性(BCP対策)が求められ、その対策を講じたことでオフィスビルは著しい進化を遂げたが、今度はウイルス感染という目に見えず、いつ終わるかもわからない脅威に対抗するためのBCP対策が求められている。

オーナー・投資家へJLLからの提言

緊急事態宣言が解除され、徐々にオフィスを再稼働させるテナントも増え始めている。そうした中で、今後ビルオーナーが重視すべきキーワードは「安心への投資」だ。

この「安心への投資」はハード、ソフト両面、2通りのアプローチが考えられる。ハード面の戦略としては「衛生環境の向上」と「BCP機能の拡充」を念頭に置くべきだろう。いままでは見栄えのするビル外観や、リニューアルによる内観のイメージチェンジがオフィスビルの資産価値を向上させる戦略として注力されてきた。しかし、コロナ後は表面上の投資効果が見えにくい衛生環境の向上やBCP機能の拡充が求められる。BCP対策備品やELV・階段への抗菌対策等への投資がリーシング戦略のなかで存在感を高めていくことが予想される。

一方、ソフト面の戦略として重視すべきは「テナントリレーション強化」であろう。アンケート調査では、依然としてビルブランドの重要度が高いものの相対的な重要度の低下がみられた。対して、事業継続に対するテナントの不安の解消がビル側に求められ、その点でオーナー、あるいはオーナーの窓口としての管理者のテナント対応(テナントリレーション)はより重視されるだろう。

【調査概要】

調査内容:新型コロナウイルスによるオフィスに求める要件に関する意識調査

調査手法:インターネット&電話調査

調査対象:JLLが管理受託するオフィスのテナント

調査時期:2020年6月8日-2020年6月19日

有効回答:138

実施会社:ジョーンズ ラング ラサール株式会社

※「リモートワーク業務化率」の算出方法

リモートワークを許可されている社員の割合と、該当社員が担当する全業務のうちリモートワークで行っている業務の割合を乗ずることで、1社あたりの業務のうちどれだけの業務がリモートワークで行われているかを示す概算業務化率を算出した。それぞれの割合については【①10%未満、②10%以上-40%未満、③40%以上-60%未満、④60%以上-90%未満、⑤90%以上】の各選択肢の回答から中間値を用いている。