【中間決算】2024年下半期に向けた日本の不動産市場動向
活況を呈した2024年上半期の国内不動産投資市場。オフィスと賃貸住宅セクターが注目を浴び、インフラ系事業会社や上場REITなどの国内投資家が存在感を示した。今後は日銀によるさらなる金利引き上げが予測され、不動産市場への影響が危惧される中、2024年下半期に向けて日本の不動産市場の動向を振り返る。
2024年上半期の日本不動産市場は引き続き堅調に推移
2024年1月に発表したJLLの記事「日本の不動産投資市場の振り返りと2024年の展望」において、2024年は引き続き日本の不動産市場が活況を呈すと予測した。2024年も半ばを過ぎ、その予測はどのように推移しているのだろうか?
本稿では、2024年上半期における日本の不動産市場の動向を振り返り、下半期の注目セクターを展望した。
まずは2024年上半期の状況を整理したい。
JLLの調査によると、2024年上半期における世界全体の不動産投資額は2,879億米ドルとなり、前年同期比4%の微減となった。地域別にみるとアメリカ大陸は同期比10%減、EMEA(欧州、アフリカ、中東)は1%増、そして日本を含むアジア太平地域は7%増となった。
国内外の不動産投資市場を調査しているJLL日本 キャピタルマーケット事業部 リサーチディレクター 内藤 康二は「3つの地域の中でもアジア太平洋地域の成長が際立っている。その中でも日本は同期比21%増の2兆6,105億円を記録し、都市別にみると東京の不動産投資額は世界1位になるなど、継続的な成長がみられる世界的に珍しい市場」と説明する。
一方、日本における海外投資家による2024年上半期の投資割合が前年同期比で42%減となった。内藤によると「現在はマーケット環境が良好であるため、利益確定やファンドの償還期限を迎えた海外投資家が売り手に回り、国内投資家が買い手となっている状況。売り一辺倒ではなく、妙味のあるセクターに対して海外投資家も積極的に投資している」とする。
その象徴的な事例がシンガポール政府系ファンドのGICが2024年8月30日に発表した先進物流施設「DPL横浜戸塚」への投資だ。同ファンドは2023年に8億米ドル以上を投じ、ブラックストーンから物流施設6棟を取得したことも発表済。日本の先進物流施設に対する需要が引き続き成長すると予想、積極的な投資姿勢が垣間見える。
2024年上半期の注目セクター
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2024年上半期に注目されたセクターはオフィスと賃貸住宅(レジデンシャル)
2024年上半期のセクター別投資割合ではオフィスが44%を占め、次いでホテル16%、物流施設15%、賃貸住宅15%、リテール8%となった。
こうした中、内藤は 2024年上半期に注目されたセクターとしてオフィス、賃貸住宅(レジデンシャル)を挙げる。
オフィス
上場REITや私募REITといった国内投資家が分配金利回りを厚くするべく優良オフィスビルに積極的に投資し、2024年上半期の投資割合は44%に拡大
- 国内投資家が積極的に投資
2023年通年では海外投資家が投資を手控えた結果、2023年通年におけるオフィスの投資割合は33%にとどまった。しかし、2024年になると上場REITや私募REITといった国内投資家が分配金利回りを厚くするべく優良オフィスビルに積極的に投資し、2024年上半期の投資割合は44%に拡大した。
内藤は「オフィス回帰が進む日本だが、立地やスペック、グレードによって稼働率が二極化する『質への逃避(Flight to quality)』が顕在化しており、上場REITなどが稼働率が悪化したオフィスの入れ替えを積極的に行っていることも投資額が積み上がった要因になっている」と説明する。
- 海外投資家はバリューアッド・オポ投資に着目
現在のオフィス投資市場を牽引するのは国内投資家だが、海外投資家の動向はどうか? 内藤によると「引き続き優良な投資機会を模索しているが、バリューアッド/オポチュニスティック投資に目を向けている」という。
「件数こそ少ないが、上場REITの保有する低稼働・低収益物件を取得し、バリューアップ工事やリーシング戦略によって稼働率を高め、最終的に国内投資家へ売却するケースが目立っている」(内藤)
- 国内投資額の21%を占める大阪で目立ったオフィス投資
大阪エリアにおけるオフィス投資も活況を呈しているという。取得しているのは国内投資家…特に電力や鉄道などのインフラ系事業会社だという。
「大阪では新規大量供給によってオフィス賃貸市場の停滞を危惧する声もあがっていたが、現時点では杞憂に終わっている。『サンマリオンタワー』をオリックス不動産投資法人が取得した事例など、複数のオフィス投資が見られた。大阪の不動産投資額は日本全体の21%を占めた。“牽引した”とまでは言えないまでも一定以上の“存在感”を示している」(内藤)
賃貸住宅(レジデンシャル)
海外投資家による投資活動が一巡した現在のタイミングを受けて国内投資家が積極的に投資している
社会環境の変化に強く、安定した需要を誇る賃貸住宅も引き続き人気を博しているが、内藤によると「オフィス同様、国内投資家の積極的な投資姿勢が鮮明になっている」という。
「長期安定的に運用できる賃貸住宅に投資してきた海外投資家の属性はコア系・コアプラス系が主流。2-3年前から積極的に投資を行い、長期運用のポートフォリオを構築してきたが、現在はリファイナンスなどに伴う売却や資産入れ替えの必要がなく、必然的に投資額が減少している。海外投資家による投資活動が一巡した現在のタイミングを受けて国内投資家が積極的に投資している」(内藤)
投資機会
2024年下半期に注目すべき2つのセクター
2024年上半期における日本の不動産投資市場は堅調に推移したが、2024年下半期はどうなるだろうか? 内藤は注目セクターとして物流施設とホテルを挙げる。
物流施設
同時期に新規開発が重なったこれらの物件でリースアップが完了し、2024年下半期頃から出口を迎える物件が増加すると推測
物流不動産市場には国内外の投資家が続々と参入し、2022年第4四半期から投資額が急増。内藤は「同時期に新規開発が重なったこれらの物件でリースアップが完了し、2024年下半期頃から出口を迎える物件が増加する」と推測している。
「売却が予想される物件はボックスタイプのBTS(Build to Suit:オーダーメイド型)で、売却価格100億円弱が中心。買い手は実需目的のエンドユーザーから国内外投資家まで幅広い」(内藤)
ホテル
他のセクターと異なり、ホテルセクターはコア投資、バリューアッド・オポ投資の両面からアプローチできることから国内外から多くの投資家を惹きつけている。訪日外国人観光客の本格的な回復もあり、ホテル投資市場は引き続き活況を呈すると予測される。
日銀の金利引き上げ後も日本は引き続き国内外の投資家を惹きつける
2024年下半期に向けて、引き続き日本の不動産投資市場は堅調に推移しそうだが、今後日本の不動産投資市場に大きな影響を及ぼしそうなのが金利の動向だろう。
日本では2024年3月、実に17年ぶりとなるマイナス金利政策の解除を決定。同年7月には政策金利の誘導目標を15bps引き上げ0.25%とし、今後さらなる利上げを行う可能性について含みを持たせたが、内藤は「日銀は景気後退を割けるべく慎重に利上げをしてく方針とされ、短期間で100bps以上の金利上昇は考えにくい」と指摘する。
レバレッジ効果は若干薄らいでいるものの、依然として高いキャッシュ・オン・キャッシュ・リターンが見込める世界で唯一の市場である日本は引き続き国内外の投資家を惹きつけることが期待できる。
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