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日本の不動産投資市場の振り返りと2024年の展望

世界の不動産投資市場において唯一好調を維持した日本。一方、海外投資家による日本のオフィス投資が停滞する等、異変を危惧する声もあるが、その実態は市場環境の好調さの裏返しに過ぎない。今後、日本の不動産投資市場はこのまま好調さを維持できるのだろうか?有望な投資セクター等、2024年の日本市場を予想した。

2024年 01月 17日
世界で唯一好調だった日本の不動産投資市場

2023年、世界の不動産投資市場において最も注目されたのが日本だったといえる。

JLLの調査によると、2023年第1-3四半期における日本の不動産投資額は2兆7,483億円となり、前年同期比40%増を記録した。一方、世界全体で見た不動産投資額は前年同期比50%減の4,230億米ドル(米ドル建て)。地域別にみてもアメリカ大陸が55%減、EMEA(欧州・アフリカ・中東)が51%減、日本を含むアジア太平洋地域は24%減となり、いずれも前年同期を下回った。

不動産投資市場が世界的に停滞する中、なぜ日本だけが好調だったのか。国内外の不動産投資市場を調査しているJLL日本 キャピタルマーケット事業部 リサーチディレクター 内藤 康二は「円安」と「低金利」を理由に挙げている。

「ドル建てベースで投資する海外投資家にとって急激な円安環境は投資妙味が最も高い環境であり、優良な日本の不動産を買いやすかった。加えて、断続的に金利が上昇している諸外国とは異なり、低金利政策を継続する日本は不動産投資における借入が優位となり、キャッシュ・オン・キャッシュ・リターンが見込める。諸外国で借入を行うと、物件本来の利回りよりも低利回りになる逆転現象が起こったことも日本の優位性を際立たせた」(内藤)

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2023年の投資家動向
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マーケット環境が良好である状況下、一部の海外投資家が物件売却に動いたことで多少なりとも投資機会が増加した。それにより取得競争が少し落ち着きをみせたことで主に国内投資家が取得しやすい状況が生まれたことも投資額の堅調さを下支えした

2023年の日本の不動産投資市場について、内藤は「マーケット環境が良好である状況下、一部の海外投資家が物件売却に動いたことで多少なりとも投資機会が増加した。それにより取得競争が少し落ち着きをみせたことで主に国内投資家が取得しやすい状況が生まれたことも投資額の堅調さを下支えしたといえよう」と総括する。

その一方で、例年とは異なる“異変”も見え隠れする。内藤によると「海外投資家による都心5区のオフィス投資が停滞したこと」だという。

JLLの調査によると、2023年第1-3四半期のセクター別投資額をみると、オフィスは36%と最も高い割合を占めたが、海外投資家の投資割合(都心5区のオフィス)は7%と過去最低だったという。

なぜ、海外投資家はオフィス投資を敬遠したのだろうか。その理由について、内藤は「米国を中心に世界的にオフィス需要の回復が遅れているため、グローバル投資家の投資戦略から一時的にオフィス投資が外れたため」と解説する。

JLL日本が2023年12月に発表したレポートで2023年第3四半期末時点における世界主要都市のオフィス回帰率について言及しており、ニューヨーク51%、サンフランシスコ44%、ロンドン60%とアジア太平洋地域の主要都市に比べて低水準にとどまっている。

一方、東京のオフィス回帰率は90%あり、コロナ以前の稼働率に迫る勢いだ。内藤は「こうした背景から日本のオフィスマーケットに興味を持つ海外投資家は依然として多いのだが、海外本社の意向でオフィスへの投資に時間を擁している機関投資家やファンドは少なくない」と吐露する。

2024年の展望

キャッシュ・オン・キャッシュ・リターン(自己資本配当率)が他国よりも圧倒的に優位な状況から、2024年も良好な投資環境が継続する可能性が高い

では、2024年の国内不動産市場の行方はどうなるのだろうか。内藤は「金利の動向次第」と前置きしながらも、「金利上昇は限定的」とする市場関係者の“声”に基づいて2024年の展望を次のように予測する。

「キャッシュ・オン・キャッシュ・リターン(自己資本配当率)が他国よりも圧倒的に優位な状況から、2024年も良好な投資環境が継続する可能性が高い。そうした中、海外投資家が再び買いに転じると予想する」(内藤)

ある海外政府系ファンドは2023年に複数のオフィスビルを売却した一方で、物流施設に投資した。内藤は「一部で海外投資家が日本市場からエグジットしたとの報道があったが、投資環境が良好なうちにポートフォリオの組み換えを行うという海外投資家の商習慣上の動きに過ぎない。売却資金を運用するために再び買いに入ることになる」と指摘する。

その結果、2024年は海外投資家による投資活動が活発化するため、利回りが低下し、物件取得競争が再び激化する可能性がある。

注目セクターはオフィスビルとホテル

内藤は注目セクターの筆頭格にオフィスビルを挙げる。2019年を境に下落が続いた賃料水準に下げ止まりの気配が漂い始めたことに加え、丸の内や渋谷等の一部サブマーケットが好転したことが投資家に好感されている。

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また、今後のオフィス大量供給によってテナントの移転が喚起され、二次・三次空室による低稼働オフィスを売却する動きや、事業会社が最新鋭の賃貸ビルへ移転する際に自社ビルを売却する動き等も考えられる。そして、コロナ禍以降に顕在化した「オフィスの質への逃避」に拍車がかかり、築年が経過し競争力が低下したオフィスビルの売却も増えてくる等、オフィスへの投資機会の拡大に期待が持たれる。

「海外主要都市と比べて 日本のオフィス需要が堅調に推移していることに海外投資家の意思決定層がようやく気付き始めたことも追い風になるだろう」(内藤)

まとめ

2024年も引き続き良好な投資環境が維持されれば、日本の不動産投資市場はさらなる活性化を迎える可能性は高い。2023年に人気を博した物流施設や賃貸集合住宅に加え、海外投資家によるオフィス投資の復活も見込まれる。そして、インバウンド観光客の劇的な回復に下支えされ、内藤は「ホテル投資の活性化も期待できる」と力を込める。

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2024年の日本は引き続き、世界的に注目される不動産投資市場として人気を集めそうだ。

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連絡先 内藤 康二

JLL日本 キャピタルマーケット事業部 リサーチディレクター

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