日本の物流施設の投資機会が増加
グループ内での取引が顕著だった日本の物流不動産市場が変化の兆しを見せている。多様化する投資家層、開発プロジェクトの増加を背景に、物流施設への投資機会が増加。低金利政策の優位性もあり、日本の物流不動産市場に国内外の投資家が注目し続けている。
海外投資家が物流施設に巨額投資
第三者間による先進大型物流施設のポートフォリオ取引が立て続けに成立しており、不足しているとされてきた物流施設への投資機会が増加傾向にある
日本で先進大型物流施設がグループ外部に売却されることは少なく、物流施設の主な供給元である国内大手デベロッパーや開発ファンドはグループ内で組成したファンドや系列のJ-REITに売却するケースが多かった。つまり、開発パイプラインのない投資家が物流施設に直接投資する機会が限定されていたのである。しかし、その状況は変わりつつある。
日本の物流施設への投資額の推移 出所:JLL日本
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例えば、2022年12月にガウ・キャピタルがブラックストーン・グループから7物件、約800億円(約5億4,000万米ドル)で物流施設ポートフォリオを取得した他、2023年4月にはメイプルツリー・ロジスティクス・トラストがCBREインベストメント・マネジメントから6物件、660億円(約5億米ドル)で取得。同4月にはシンガポール政府系投資会社のGICがブラックストーン・グループから6物件、約1,000億円(約8億米ドル)で取得するなど、第三者間による先進大型物流施設のポートフォリオ取引が立て続けに成立しており、不足しているとされてきた物流施設への投資機会が増加傾向にある。
物流施設の投資機会が増加している2つの理由
物流施設の投資市場の流動性が高まるにつれ、グループ内に出口を持たない開発ファンドやデベロッパーも新規開発に乗り出すことができるようになった
こうした変化の背景には2つの理由がある。1つは、多様な投資戦略を嗜好する投資家が増加したこと。もう1つは開発案件の増加である。
1. 多様な投資家の増加
投資市場の流動性が低かった2010年代前半までは、開発物件の出口戦略を自前で用意する必要があり、海外投資家も国内デベロッパーもグループ内にJ-REITやコアファンドを組成しなければならなかった。その結果、新規供給された物流施設のほとんどはグループ内で取引されるに留まっていた。
一方、2015年以降は国内生命保険会社や年金基金が物流施設への直接投資を開始するなど、投資家層は厚みを増し、物流施設の投資市場の流動性が高まるにつれ、グループ内に出口を持たない開発ファンドやデベロッパーも新規開発に乗り出すことができるようになった。こうした新規参入者による開発物件が最近になって売買市場に出回り始めている。
2. 開発プロジェクトの増加
また、物流施設に対する需要が加速度的に拡大し続けたことで、開発プロジェクトも増加し続けている。2023年は首都圏だけで300万㎡の新規供給が予定されている。これは2015年に供給された床面積の約3倍となる。グループ内のコアファンドやJ-REITが竣工後にすべての物件を保有できなくなったため、グループ外部への売却が増加している。
投資機会
日本の物流施設の供給量(2023年第1四半期末まで) 出所:JLL日本
自前で出口を持たない開発ファンドやデベロッパーによる物流施設の開発が増加し、堅調な需要を背景に開発プロジェクトも顕著に増加した。それらの結果、限られたプレイヤーしかできなかった物流施設への直接投資が様々な投資家に開放され始めている。取引される物件も規模、面積、稼働状況など様々で、コアからオポチュニスティックまで多様な投資家のニーズを満たしうる。
世界的にみても低金利政策を維持する日本は不動産投資市場としての優位性を備えている。今までは投資機会がなく参入できなかったプレイヤーも物流施設に対する投資機会を模索し始めており売買額は今後も増えていくだろう。