オフィス投資が日本・韓国の不動産市場を牽引
オフィスとリモートワークを併用するハイブリッドな働き方が世界的に定着し、欧米主要都市の多くはコロナ以前のオフィス出社率にいまだ手が届いていない。オフィス需要の不透明感によって世界的にオフィス投資を手控える動きが続いているが、日本と韓国ではオフィス投資が不動産市場の活況を牽引している。
本稿はJLLグローバル記事「Why some office markets are still hot」を翻訳したもので、世界的に投資活動の回復が遅れるなか、日本と韓国のオフィス投資が活況を呈している理由について解説しています。
なお、JLLでは不動産投資に関する多種多様なサービスを国内外問わず一気通貫で提供しています。ご興味のある方は下記関連ページをご覧いただくか、不動産市場に対する質問などのご要望がありましたら下記フォームからお問合せください。
日本と韓国で脚光浴びるオフィス投資
世界的に金利水準が高止まりするなか、アジア太平洋地域全体の不動産取引は減速傾向から抜け出せないでいる。中でも、リモートワークの普及拡大によって需要の先行きが不透明なオフィスビルは投資家の厳しい視線に晒されているが、数少ない“希望の星”と見なされているのが日本と韓国である。
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韓国:国内大手企業のオフィス拡張計画が投資市場に好影響
JLLの調査によると、韓国では2024年第1四半期のオフィス投資額は前年同期比で141%増加した。同年3月に世界的な資産運用会社であるブラックストーンがソウルの優良オフィス資産「アークプレイス」を韓国の不動産ファンドであるコラムコに約5億8,800万米ドルで売却したと報じられており、本取引は2024年において韓国最大の不動産取引額を記録したという。
韓国でオフィス投資額が増回している理由について、JLL韓国 キャピタルマーケット インベストメントセールス&アクイジション マネージャー アダム・キムは「海外投資家がオフィス投資に戻ってきていないが、国内投資家が好立地かつ高品質のオフィスビルに信頼を寄せていることが一因」だと指摘する。
「大手コングロマリット(財閥グループなどの大規模企業集団)が積極的にオフィス拡張を計画し、設備の整った最新鋭の設備を有するオフィス床の需要が急拡大していることがオフィス投資市場を活性化させている」(キム)
日本:上場REITやインフラ企業がオフィス投資を牽引
日本では、2024年第1四半期のオフィス投資額が前年同期比32%増加した。国内外の不動産投資市場を調査・分析しているJLL日本 キャピタルマーケット事業部 リサーチディレクター 内藤 康二は「国内投資家…特に上場REITや私募REITは、分配金利回りをさらに厚くするべく優良なオフィスビルを積極的に取得している」と説明する。
例えば、2024年における主要なオフィス投資事例の一つにオリックス不動産投資法人が190億円(1億2,000万米ドル)で取得した「サンマリオンタワー」が挙げられる。
加えて、内藤によると「コロナ禍で旅客需要が激減したことで業績が悪化した鉄道会社が象徴的だが、日本のインフラ企業は収益源の多様化を目指して不動産投資市場に参入し、その存在感を発揮している」という。
オフィス回帰率の高さが投資家の信頼を深めている日本
JLLの調査では、2024年第1四半期におけるアジア太平洋地域全体のオフィス投資額は前年同期比1%減の126億米ドルにとどまった。それにもかかわらず、日本と韓国に対する投資家の関心度は高まり続けているという。日韓の企業業績を支えている堅調な市場ファンタメンタルズが背景にある。
JLLのデータによれば、2024年第1四半期末時点における日本のAグレードオフィスの空室率は4.2%となり、3四半期連続で低下。2024年下半期に向けて賃料が回復するとみている。
日本でも多くの企業でオフィス回帰が本格化しており、JLLの調査では日本(東京)のオフィス復帰率が85%に達している。こうしたデータによって、投資家は日本のオフィスビルの稼働率に対する信頼を深めているという。
「海外投資家は築年が経過したオフィスビルや主要ビジネス地区から離れた郊外型のオフィスビルなど、付加価値の高い投資機会に注目している。ドル建てベースで投資する海外投資家にとって相対的に割安に感じられ、かつマイナス金利の解除が決定されたとはいえ低金利環境は継続している。こうした状況から、海外投資家は日本の不動産投資市場を非常に好意的に捉えている」(内藤)
マイナス金利解除後の日本の不動産投資市場に関する記事はこちら
過去2年間で賃料水準2桁増の韓国
日本と同様に好条件が揃う韓国も海外投資家を魅了している。キムによると「2024年第1四半期における韓国のオフィス空室率は3.6%だったが、過去2年の大半の期間は空室率1%台を推移している。ソウルは他のアジア太平洋地区の都市に比べてコロナ後のオフィス帰還率が著しく高いため、ソウルのAグレードオフィスの賃料水準は過去2年間で2桁の伸びを見せている」という。
韓国では2028年までに110万㎡に及ぶ新規供給が市場に投入される見込みだが、JLLはこの賃料上昇フェーズは少なくとも2026年まで続くと予想しており、キムは「韓国で最近行われた総選挙の行方を見極めるべく、静観していた不動産投資家が今後2四半期にわたり積極的に投資する」との見立てだ。
投資機会
低金利により市場優位性を保ち続ける
今後数年にわたり、オフィスビルは日本と韓国、双方の不動産投資市場にとって主要セクターであり続けるだろう。
キムは「韓国は多様な投資家に対して魅力的かつ多様な投資機会を提供している。他のアジア太平洋地域の主要市場に比べて低リスクであり、分厚い投資基盤を誇る隣国・日本よりも競争が少ない」と力を込める。
一方、日本の不動産投資市場について、内藤は「金利の安定性がオフィス市場に対する投資家の信頼感をゆるぎないものにするだろう」と予想する。
「特に融資コストに敏感な海外投資家や外資系ファンドは、米国や欧州よりも相対的に低金利である日本への投資を嗜好する可能性が高い。他国で金利が下がるまでは、良好な資金調達環境が継続する日本が優位性を保ち続けるだろう」(内藤)