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2025年の日本不動産投資市場動向の展望と2024年の振り返り

活況を呈した2024年の日本不動産投資市場。国内投資家が市場を牽引し2024年第1-3四半期の投資額は2023年通年を上回る好調ぶりとなった。本稿では、2024年の不動産投資市場を振り返り、オフィス、ホテル、大阪市場など、2025年の注目セクターを解説する。

2025年 01月 22日
2024年に世界の舞台に返り咲いた日本経済

2024年における日本の不動産投資市場を振り返る前に、日本経済の力強い回復についておさらいしておきたい。

日経平均株価の推移をみると、バブル経済最盛期に1989年12月に記録した38,915円をピークに、バブル経済の崩壊と共に日本経済は長期的低迷期-いわゆる失われた30年-に突入したのはご存じのとおりだ。2009年にはリーマンショックに端を発する世界経済の全面暴落によって日経平均株価はピーク時から80%下落し、7,054円の最安値を記録した。そして、2024年に入り、ようやく日経平均株価はピーク時を超え、42,000円超の史上最高値を更新した。

日本経済の回復は株価だけにとどまらない。為替レート(ドル・円)、消費者物価変動率(インフレ率)、そして賃金上昇率のいずれの指標を見ても急上昇しており、失われた30年以前の水準にまで回復していることが窺える。

こうした事象をうけて、JLL日本 リサーチ事業部長 赤城 威志は「株価の復活のみならず、経済の自立的好循環に必要な適度なインフレ、賃金上昇、そして金利のある正常な時代が訪れた。すなわち“失われた30年”を経て、日本経済は新時代に突入したと考えられる」と指摘している。

企業活動も活発だ。円安を背景に、輸出を中心とした製造業の業績が拡大、設備投資額も伸びている。個人消費も物価上昇が進む中、賃金上昇に支えられ堅調さが保たれている。

企業活動は製造業のみならず、非製造業…特にサービス業の業績回復が鮮明で、ビジネスセンチメントも過去最高水準まで向上している。11月に発表された2024年第3四半期のGDPが前年比年率換算で+0.9%となったのは国内需要の堅調さが反映している結果である。

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日本に対する直接対内投資もここ数年で大きく伸張し、2023年末時点の残高が50兆円を超え、対GDP比で9%に達している。赤城は「地域紛争などによって地政学的状況が目まぐるしく変化するなか、企業がグローバルサプライチェーンを再編する動きが顕在化しており、巨額の投資が日本に向かっている」と指摘。熊本における半導体工場の新規開発をはじめ、グローバルIT企業などによるAI向けデータセンターの開発計画が次々と発表されている。

さらに、訪日外国人観光客数はコロナ禍で激減したが、2024年通年では3,500万人を突破し、コロナ以前のピークを上回る見通しである。消費額も8兆円超えが見込まれている。

赤城は「従前より日本経済は内需が牽引してきたが、海外からの投資を活用して国内経済を活性化することが少子高齢化時代に突入した日本経済にとっては必要不可欠となり、今後はその重要性が増していくだろう」と力を込める。

2024年の日本不動産投資市場

2024年1-3四半期の投資額は2023年通年の投資額を超えており、2024年通年を想定すると投資額は5兆円程度、コロナ以前の2019年通年の数字を超える

2024年は日本経済の“復活の年”となったのが、その勢いは不動産投資市場の活況ぶりへと繋がっている。2023年に世界で唯一好調だった日本の不動産投資市場は2024年になって更なる飛躍を遂げている。

JLLが地域・都市別の不動産投資額について調査したところ、2024年第3四半期末時点の世界全体の不動産投資額は対前年比26%増となった。中でも、日本を含むアジア太平洋地域は前年比82%増となり、アメリカ大陸(20%増)や欧州(8%増)を凌駕する堅調さを見せた。

都市別では東京が世界一位となるなど、日本の不動産投資市場の好調さが際立っている。JLLの調査によると、2024年第3四半期末時点における日本の不動産投資額は3兆8,500億円、対前年比で41%増を記録した。

不動産投資市場を調査しているJLL日本 リサーチ事業部 シニアディレクター 谷口 学は「2024年1-3四半期の投資額は2023年通年の投資額を超えており、2024年通年を想定すると投資額は5兆円程度、コロナ以前の2019年通年の数字を超える」と予測する。

2025年はオフィスの投資割合が増加

では、日本の不動産投資市場を牽引したセクターとは何か?

JLLでは2024年のセクター別投資額について調査したところ、最も割合が高かったのはオフィスで37%。次いでホテル21%、物流施設18%、賃貸住宅14%、リテール8%と続いた。

2020年以前はオフィスが50%程度を占めていたが、コロナ禍でリモートワークやハイブリッドワークが定着。加えて賃料水準も低下したため、2023年にはオフィス投資の割合が33%まで低下したが、2024年になると37%増に転じており、谷口は「2025年以降もオフィスへの投資割合が増加する」と予想している。

海外投資家の投資意欲が回復

これまで投資機会が限定的だった海外投資家によるバリューアッド・オポチュニスティック系の投資戦略に見合った投資機会が増えてくる

一方、日本の不動産投資市場を牽引してきた海外投資家による投資はまだ道半ばといった状況のようだ。

日本全体の不動産投資額に占める海外投資家の割合の推移を見ていきたい。

2020年にコロナ禍に突入したが、日本の安定した社会性や安定稼働を続けるオフィスなどが評価され、2020年の海外投資家による投資額は34%を占める結果となったが、2022年頃からの世界的な金利上昇を背景に不動産投資市場が停滞するに伴い、日本への投資額も減少が続いているのが現状だ。

JLLの調査では、2020-2022年は海外投資家の買い越しが続いていたが、2023年に売り先行となり、売却活動が目立つようになった。

一方、谷口は「海外投資家が買いに転じる兆しがうかがえる」と指摘する。日本特化型ファンドの運用資産額(AUM)の推移をみると、2022年まで増加が続き、2023年にAUMが減少に転じたが、2024年第1四半期では再び増加に転じている。

こうした兆候を受けて、谷口は「海外投資家の投資意欲が戻ってきており、2025年以降は投資額が増えてくるだろう。事業会社による不動産売却の増加や物価高を背景とした賃料上昇によって、海外投資家が得意とするバリューアッド・オポチュニスティックの戦略に見合った投資機会が増えてくる」との見解だ。

2024-2025年の注目セクター【東京オフィス】

画像提供:PIXTA

2023年における東京オフィス市場の賃料は下落局面にあったが、わずか1年で急激な回復を遂げている

JLLでは、各セクターの賃料サイクルの流れを示したプロパティクロックを毎四半期に発表しているが、東京Aグレードオフィスの賃料水準が2024年第2四半期から回復局面に位置するようになった。2023年における東京オフィス市場の賃料は下落局面にあったが、わずか1年で急激な回復を遂げている。

東京のオフィス賃貸市場を調査しているJLL日本 リサーチ事業部 シニアディレクター 大東 雄人によると「グローバルに比べて、東京オフィス市場の空室率が急激に低下している」ことが背景にあるという。

2024年第3四半期末時点の空室率をみると、サンフランシスコで30%超、ワシントンDCで20%超、シドニー・ニューヨークで15%超、パリ・ロンドンで7%超を記録しているが、東京はコロナ禍であるにもかかわらず5%弱にとどまり、現在は3%台まで回復している。

JLLがグローバル都市を対象に調査しているオフィス回帰率では、コロナ前を100%とした場合の東京の回帰率は80%。半面、米国の主要都市(40-60%程度)やロンドン(60%)はオフィス回帰が限定的だ。

  • JLLが定義するAグレードオフィス
対象エリア(中心業務地区) 延床面積 基準階面積
東京(千代田区、中央区、港区、新宿区、渋谷区) 30,000㎡以上 1,000㎡以上
大阪(中央区、北区) 15,000㎡以上 600㎡以上
福岡(中央区、博多区) 15,000㎡以上 600㎡以上
東京Aグレードオフィス市場の動向
 

2024年第3四半期末時点の東京Aグレードオフィスの月額坪当たり賃料は3万4,610円となり、前年同期比で3.1%増、3四半期連続で賃料が上昇している。空室率は3.1%まで低下しており、需給がひっ迫している。

都心5区の主要マーケットをみると、最も賃料が高い丸の内・大手町エリアで空室率1.8%となり、まとまったオフィス床を確保するのが難しい状況になっている。

外資系企業が集積しているとされる六本木・赤坂エリアの空室率は5.3%と相対的に高いが、昨年、大規模なAグレードオフィスが一定程度の空室を抱えたまま竣工したことで空室率が高くなっているが、成約が進み、2025年以降は空室率の回復が予想される。

新宿・渋谷エリアの空室率は1.8%と低く、なかでもIT企業が集積する渋谷エリアに限定すると空室率は0%台で推移しており、空室が枯渇した状況だ。

JLLが定義するAグレードオフィスは東京に214棟存在するが、空室率20%以上の物件はわずか7棟しかなく、122棟が満室稼働となり、2023年頃から顕在化してきた「オフィスの質への逃避(Flight to quality)」が引き続き鮮明になっている。

一方、大量供給とされた2023年竣工のAグレードオフィスは竣工前のテナント内定率が66%であったが、市場全体では需給バランスの分岐点とされる「空室率5%」に達することはなかった。大東は「コロナ禍のような事態になっても空室率が5%に届かなかったことを考えると、2025年の東京中心部のオフィス需給はひっ迫した状況が続くのでは」と予測する。

「2025年も港区を中心に新規大量供給が計画されている。しかし、2025年竣工予定物件の内定率は高く、空室率の大幅な悪化には至らないだろう。そして、2026年竣工予定のAグレードオフィスの一部で、すでに国内外の大手企業が入居を発表するなど、既存ビルでまとまった空室が確保できず、テナントの視線は新規供給物件に向かい始めている」(大東)

平時を前提にした場合、2025年末時点の賃料水準は坪あたり35,000円、年間の賃料上昇率3%と予測する。

2024-2025年の注目セクター【ホテル】

画像提供:PIXTA

新規供給の少なさによってRevPAR(1日当り販売可能客室当り宿泊売上)の成長が見込め、多くの投資家が日本市場への関心を高める大きな要因となっている

JLL日本が2024年3月に発表したコラムで「2024年は日本のホテル投資市場が大躍進を遂げる」と予測した通りの結果となった。

アフターコロナを迎えるなか、訪日外国人観光客(以下、インバウンド)が本格的に回復。2024年1月から9月までのインバウンド数はコロナ以前の2019年の同期間と比較しても10%増となった。

ホテル投資市場に詳しいJLL日本 ホテルズ&ホスピタリティ事業部 インベストメント セールズ エグゼクティブヴァイスプレジデント チャーリー・マックルダウイは「2024年9月は2019年同月比でインバウンド数が急激に伸びた。日本政府は2030年までにインバウンド6,000万人という野心的な目標に掲げるなど、政府が観光産業を積極的に主導していることがホテル投資市場にとっても大きな追い風となっている」と解説する。

ホテルセクターに対する追い風はインバウンドだけではない。

例えば、世界の主要観光地と比較してもホテルの宿泊費や物価などが“値ごろ”である点は、ADR(客室平均単価)が継続的に成長するための優位性となっている。マックルダウイは「例えば、東京とロンドンのフルサービス・ミッドスケースホテルのADRを比較しても東京のほうが値ごろであり、外食費も非常にリーズナブルだ。日本はインフレ率が相対的に低いため、インバウンド需要を喚起し続けている」と指摘する。

もう1つのホテル投資市場の追い風となりそうなのが、新規供給量の少なさだ。

JLLの調査によると、2019年から新規供給量が低下し、コロナ禍でホテル投資が激減。さらに昨今の建築費高騰を受けて、日本における2024年に建設中のホテル開発プロジェクト(客室数)は既存ストック比でわずか1.8%に過ぎない。

これはアジア太平洋地域全体の7%と比較しても非常に限定的であり、特に東京と福岡の新規供給量は少ない。マックルダウイは「RevPAR(1日当り販売可能客室当り宿泊売上)の成長が見込め、多くの投資家が日本市場への関心を高める大きな要因となっている」と説明する。
 

日本の主要観光エリア概観
 

東京:ラグジュアリーホテルのパフォーマンスはコロナ以前と比較しても非常に高くなっており、アッパースケール、ミッドスケールも好調に推移している。多くのインバウンドを惹きつけており、宿泊価格の引き上げが可能。

大阪:ラグジュアリー、ミッドスケールでRevPARの上昇が目立つ。コロナ前の2018年と比較すると、東京と同じレベルでRevPARが大幅に上昇している(2019年はG20の開催など、ホテル市場に対する特殊要因があったため、2018年と比較)。2025年の大阪・関西万博開催に向けてホテルセクターに対する投資家の需要がさらに過熱することが予想される。

京都:世界的に有名な外資系ラグジュアリーホテルが東京よりも高いADRを実現しており、特に観光シーズンとなる春・秋シーズンのパフォーマンスは東京を凌駕。一方、ミッドスケールホテルは直近5年間の新規供給が多く、東京や大阪に比べて回復が遅れている。

2025年の日本ホテル投資市場の展望

JLL日本 ホテルズ&ホスピタリティ事業部が国内ホテルセクターの当事者間取引を調査したところ、2023年通年の国内ホテルセクターの取引総額は5,700億円と記録的な金額が積み上がったが、2024年は100億円を超える大型取引が対前年比で増加するなど、第3四半期末時点で5,800億円に達した。

堅調な需給ファンタメンタルズ、他国に比べて魅力的なイールドスプレッドなどを背景に、マックルダウイは「2025年のホテル取引額(当事者間取引)は7,250億円」と予想する。

2025年は引き続きホテルセクターが日本の不動産投資市場の一翼を担っていきそうだ。

2024-2025年の注目セクター【大阪圏】

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2024年第3四半期末時点の大阪圏不動産投資は対前年比で128%増となり、2023年通年を超える金額となった

2024年上半期における大阪圏の不動産投資額は過去最高を記録したが、その勢いが続いている。JLLの調査によると、2024年第3四半期末時点の大阪圏不動産投資は対前年比で128%増となり、2023年通年を超える金額となった。JLL日本 関西支社 ディレクター 山口 武は「10年前と比較すると、大阪圏の存在感が飛躍的に高まっている」と述べる。

注目したいのがホテルセクターだ。大阪圏のセクター別投資割合をみると、ホテルの投資割合は過去10年平均では17%だったが、2024年第3四半期末時点でホテルが43%を占め、オフィス(24%)を大きく引き離している。山口は「日本屈指の観光資源である京都や大阪を擁しており、大阪圏の不動産投資市場においてホテルの存在感は別格」と説明する。

また、日本全体でみると投資額が減少傾向にあるオフィスセクターも大阪圏では堅調だ。東京23区のオフィス投資額において2014年を100とした場合、2024年は41まで低下しているが、大阪圏は2014年と同水準であり、対前年比で投資額が増加している。

「海外投資家は東京ではオフィスを買い控えているものの、大阪でのオフィス投資は積極的だ。彼らは大阪のオフィス賃貸市場の好調さを評価していることが背景にある」(山口)

ターニングポイントを迎える大阪オフィス賃貸市場
 

大阪では2022-2027年まで高価格帯のAグレードオフィスが新規大量供給され、特に2024年は“過去最多”とされるなど、需給悪化に伴う賃料下落の可能性がリスク要因といわれていた。しかし、当該期間における新規供給のうち72%がすでに竣工、成約状況も70-75%と堅調に推移している。賃料単価も大きなディスカウントは行われておらず、3万円の大台を上回る水準を維持する事例が散見されるという。

関連記事「2024年に過去最多の大量供給を迎える大阪オフィスマーケット」を読む

山口は「これにより供給要因による需給悪化を過度に警戒する必要性がなくなった。2023年がボトムとなり、2024年以降は上昇局面に転じた」とし、賃料が高価格帯の新規供給が増加しても空室率の上昇が小幅にとどまり、賃料水準も維持できたことから二次・三次空室の発生や賃料下落の可能性は、2025年以降は消滅したといっても過言ではない。

2025年の日本市場は2024年を凌駕する

金利上昇局面でも資金調達環境は引き続き良好に推移し、多様な投資プレイヤーが参入することで物件取得競争が激化することで、不動産価格は微増もしくは横ばいが続く

以上を踏まえて、谷口は2025年における日本の不動産投資市場について次のように予測する。

  • 鉄道やエネルギー関連のインフラ系企業が事業戦略の一環で不動産投資事業に本腰を入れており、かつ生保や年金基金による不動産投資の増加、欧米系の海外投資家が日本市場に再参入する可能性が高く、投資需要は更に高まると予想される。

  • 株式市場からの圧力で企業が保有不動産を売却するケースも増えており、遊休不動産の売却やセールアンドリースバックなどのアセットライト経営を選択する企業が増えてくることが予想される。企業の保有不動産売却の増加によって多様な投資機会が創出され、プレイヤーの多様化、取引の活発化と日本の不動産投資市場のさらなる拡大が期待される。

  • インフレによって運営コストが上昇し、収益性の低下が危惧されるなか、上場REITや私募REITのようなコア投資家を中心に利益確定売りが増加するケースもみられるようになってきた。金利上昇局面でも資金調達環境は引き続き良好に推移し、多様な投資プレイヤーが参入することで物件取得競争が激化することで、不動産価格は微増もしくは横ばいが続く。

  • 不動産投資額は2024年通年で5兆円に達し、コロナ前の2019年を超えてくると予想する。2025年は買い手・売り手双方に良好な投資環境となる。

堅調に推移した2024年を上回り、2025年の日本の不動産投資市場は更なる活況を迎えるだろう。

※本稿は、2024年11月と12月に実施したJLL日本のセミナーイベントの講演内容をもとに作成しました。本稿で言及している各種データや詳細情報についてご興味のある方は下記よりお問合せください。

連絡先 赤城 威志

JLL日本 リサーチ事業部長

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