【大躍進】2024年の日本ホテル投資市場の行方
2024年の国内不動産投資市場で最も有望視されているのが「ホテル」だ。訪日外国人観光客の急激な回復、安定した需給バランス、円安・低金利等を背景に、国内外の投資家がホテル投資に熱視線を浴びせている。JLLのホテル投資の専門家に「2024年の日本ホテル投資市場の行方」を聞いた。
2024年の不動産投資市場で「ホテル」が注目される理由
2023年、世界の不動産投資市場において唯一好調だった日本。JLLのコラム「日本の不動産投資市場の振り返りと2024年の展望」でも言及したが、中でも2024年に有望視されているのがホテルセクターだ。
ホテル投資市場が2024年に注目される理由は何か。ホテル投資市場で多数の売買取引を支援しているJLL日本 ホテルズ&ホスピタリティ事業部 マネージングディレクター ヘッド オブ インベストメントセールズ 阿部 有希夫 ジェームズは「訪日外国人観光客数の本格的な回復、円安による消費・投資への優位性、バランスの取れた新規供給等、ホテル投資を推進する複数の要因が重なっているため」と指摘する。
訪日外国人観光客が本格的に回復
コロナ禍での行動制限によって宿泊需要は激減したため、ホテル投資は冷え込んだ。しかし、2022年10月に水際対策が大幅に緩和されて以降、訪日外国人観光客数は右肩上がりで回復している。
阿部は「2023年の訪日外国人観光客数は2019年比で28%減と回復途上だが、あくまで平均値。同年12月は2019年平均をやや上回っている。航空便の回復の遅れ、訪日中国人観光客が戻らないといった“逆風”が続く中、コロナ前の水準まで回復しているのは非常にポジティブだ」と力を込める。
観光客数の増加に伴いホテルパフォーマンスも回復傾向だ。JLLが把握しているデータ※1によると、2023年の各月OCC(客室稼働率)はすべて2019年を下回っているものの、各月のADR(客室平均単価)はすべて2019年を上回った。
その結果、ホテルのパフォーマンスを測る重要指標であるRevPAR(1日当り販売可能客室数当り宿泊売上)は一部エリアを除き、2019年の水準を超えている。
ADRが2019年比を上回る
OCCが回復途上でありながら、ADRが2019年を上回った一つの要因は「人手不足」
OCCが回復途上でありながら、ADRが2019年を上回った理由について、阿部は「ホテルの人手不足が一つの要因」と分析する。
「コロナ禍でOCCが低下したホテル業界では人員整理の波が押し寄せたが、コロナ明けの2023年も人手が戻らず、すべての客室を販売できないという現象が起こった。さらに水道光熱費や原材料費の高騰もあり、採算性の観点からADRを引き上げるホテルオペレーターが急増したためだ」(阿部)
円安が観光客数の回復に寄与
一部メディアでホテルの宿泊費高騰が話題にのぼっており、日本人にとってはADRの上昇は影響が大きいようだ。
しかし、日本は円安の影響もあり、ドルベースの訪日外国人観光客にとってはADRが上昇してなお割安感があり、魅力的な食、清潔感、安全性等、世界的にみても人気観光地としての地位を維持し続けている。また、日本人観光客も円安で海外旅行を控える半面、沖縄や京都、東京といった観光地へ旅行する動きが顕在化しており、ホテルのパフォーマンス改善の一助となっている。
「2011-2019年の訪日外国人観光客数は年平均23%増を記録した。2019年にインバウンド3,000万人という政府目標を達成し、2030年には6,000万人という新たな目標が掲げられた。政府が観光業界を全面的に支援するというメッセージとなり、ホテル業界の将来性を考える上でも追い風といえるだろう」(阿部)
安定的な需給バランスもホテル投資市場の追い風に
画像提供:PIXTA
良好な市場環境とホテルパフォーマンスの回復を見ると、新規プレイヤーの参入が増えることが予想されるため、今後ホテルの開発が増える可能性はあるものの非常に健全な供給環境
JLL日本のコラム「【外資系ホテルの日本進出が加速】ホテル誘致に失敗しない『オペレーターセレクション』とは?」で触れたように、2023年以降、外資系ホテルの新規供給が目立つ。コロナ前、新規供給増となった大阪・京都ではホテルパフォーマンスが低下したが、今後の影響はどうなるのだろうか。
結論からいうと、過剰供給の心配はない。
観光庁のデータによると、2012-2023年の10年間で日本における宿泊施設の数は年平均1.3%増にとどまっており、新規供給は東京、大阪、京都、沖縄の4都市に集中している。
さらに、2023-2026年における日本のホテル新規供給は既存ストックと比較しても低水準。阿部は「良好な市場環境とホテルパフォーマンスの回復を見ると、新規プレイヤーの参入が増えることが予想されるため、今後ホテルの開発が増える可能性はあるものの非常に健全な供給環境」と評価する。
加えて、開発コストが高騰していることも、供給量の抑制に繋がり、既存ホテルのパフォーマンスへの影響は小さいと予想している。
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ホテルオペレーターも市場環境をポジティブに評価
ホテルオペレーターも2024年のホテル市況に前向きだ。
日本を含むアジア太平洋地域のホテルオペレーターを対象にしたJLLのアンケート調査「Hotel Operators‘ Sentiment Asia Pacific」(英語版のみ)によると、ホテルの売上から経費等を差し引いた「GOP(営業総利益)」の2024年の見通しについて、回答者の67%が「2019年よりも上がる」と回答している。阿部は「給与水準や水道光熱費、原材料費が上がっている中でも、多くのホテルオペレーターは利益を出せると確信している」と指摘する。
「低金利」で海外投資家から評価
日本を含めたアジア太平洋地域の主要投資市場を比較すると、他市場のイールドギャップはマイナスになっているが、日本は3%程度見込める
世界的にみても数少ない低金利政策を維持する日本では、キャッシュ・オン・キャッシュ・リターン(自己資本配当率)が他国よりも圧倒的に優位な状況にあり、投資家にとっては引き続き魅力的な不動産投資市場として評価されている。阿部によると「日本を含めたアジア太平洋地域の主要投資市場を比較すると、他市場のイールドギャップはマイナスになっているが、日本は3%程度見込める。レンダーの融資姿勢も積極的であることから、投資環境は世界的にみても非常に良好」という。
日本のホテル投資市場はコロナ禍に突入した2020年以降、投資額は減少していたが、アフターコロナを迎えつつあった2022年後半頃から投資額が回復に向かう。2022年は事業会社によるホテル・ポートフォリオの大型取引があり、投資額が伸びた。2023年は300億円超の大型取引が複数あったことに加え、中型・小型の取引も活性化したバランスの取れた状況だったといえる。
「2023年6月頃からホテルのパフォーマンスが劇的に改善したため、投資家も本格的にホテル投資の再開を検討し始めた」(阿部)
JLLの2023年取引支援事例(一部)
JLLの調査では、2023年第4四半期末時点の日本の不動産投資額は6,464億円、セクター別投資割合を見るとホテルは14%となり、2022年通年の9%から大幅に拡大していることがわかる。
2024年のホテル投資市場はさらなる飛躍を遂げる
ホテルに人手が戻りつつあり、販売可能な客室数が増えることで、2024年はホテルパフォーマンスのさらなる回復が見込まれる
客室在庫を抱えながらもパフォーマンスはコロナ前に迫る勢いを見せた2023年。足元ではホテルに人手が戻りつつあり、販売可能な客室数が増えることで、2024年はホテルパフォーマンスのさらなる回復が見込まれており、阿部は「日銀の金利政策がリスク要因になる可能性がある」と前置きしつつも「2024年はホテルへ投資する絶好の機会」と強調する。
投資機会
様々なグレード・カテゴリーが充実する日本のホテル市場は、機関投資家や上場REITに代表されるコア・コアプラス投資家が好む賃貸借物件をはじめ、バリューアッド・オポチュニスティック投資家が好みリブランド等で収益向上を図るホテルマネジメント物件まで幅広い受け皿があり、収益最大化に向けてホテルアセットマネジメント・サービスを活用するオーナー・投資家も増えている。そして、ホテル投資の新機軸としてアパートメントホテルやブランデッドレジンデンスなども注目され、新規プレイヤーの参入も増えそうだ。2024年のホテル投資市場は国内外の投資家がしのぎを削り、さらなる飛躍を遂げるのではないだろうか。
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