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注目の不動産テックとは?企業が知っておくべき基礎知識と導入のポイント

世界的に注目を浴びる不動産テックについて、種類や技術・市場動向、導入のメリット、導入手順や注意点など基本的な知識を解説。企業の成功事例も紹介する。

2024年 08月 05日
不動産テックの基礎知識

不動産テックは”PropTech (プロップテック)”とも呼ばれ、AI、IoT、ビッグデータなどの最新テクノロジーを活用して不動産業界の課題解決や効率化を図る新しい取り組みである。

不動産テックの定義

日本で使われている用語「不動産テック」は「不動産(Real Estate)」と「技術(Technology)」を組み合わせた言葉で、テクノロジーを活用して不動産業界の課題解決や業務効率化を図る新しいサービスや取り組みを指す。物件情報の提供から、売買・賃貸の仲介、物件管理、投資分析まで、不動産に関わる様々な領域でイノベーションを起こしている。

不動産テックを支える技術

不動産テックを支える主な技術には以下のようなものがあり、単体および組み合わせて活用することで不動産業界に新たな価値を創出している。

技術 活用用途
AI(人工知能) 物件評価

顧客マッチング
IoT(モノのインターネット) スマートホーム/スマートビルディング

施設管理
ビッグデータ 不動産市場の分析

投資判断
VR/AR 物件内覧

シミュレーション
ブロックチェーン 取引の透明性向上

契約管理
不動産テックの発展

不動産テックの起源は1980年代後半のコンピューターの登場に遡る。当初は物件情報のデータベース化や簡易的な物件検索システムが導入され始め、2000年代にはインターネットの普及に伴い、オンライン不動産ポータルサイトが登場し、一般ユーザーが物件情報へ容易にアクセスできるようになった。2010年代からはスマートフォンの普及により、モバイルアプリを通じた物件検索や顧客対応が一般化した。

そして現在、不動産テックは急速に発展しており、従来の不動産ビジネスモデルを大きく変革している。オンライン仲介プラットフォームの登場により、物件探しや売買がより簡単になった。AIを活用した自動評価システムにより、不動産価値の算出が迅速化した。さらに、VR/AR技術の進歩により、遠隔地からの物件内覧も可能になっている。今後は、ブロックチェーン技術による取引の透明化やIoTを活用したスマートビルディングの普及など、さらなる革新が期待されている。

不動産テックと不動産DXの違い

不動産テックと不動産DX(デジタルトランスフォーメーション)は関連する概念だが、若干の違いがある。不動産テックは主に新しい技術やサービスの開発・提供に焦点を当てている。一方、不動産DXは、デジタル技術を活用して不動産業界全体のビジネスモデルや組織文化を変革することを指す。不動産DXは、テクノロジーの導入だけでなく、業務プロセスの再設計や組織の意識改革なども含む、より広範な概念といえる。

いま不動産テックが注目される理由

人口減少による市場縮小、働き方改革による業務効率化の必要性、デジタル化の遅れなどが、不動産業界の喫緊の課題となっており、不動産テックはこれらの課題に対して有効な解決策を提供できる可能性が高い

不動産テックが注目されている主な理由は、不動産業界が抱える課題の解決と効率化への期待にあるといえるだろう。

人口減少による市場縮小、働き方改革による業務効率化の必要性、デジタル化の遅れなどが、不動産業界の喫緊の課題となっており、不動産テックはこれらの課題に対して有効な解決策を提供できる可能性が高い。

具体的にはAIやビッグデータ分析による的確な市場予測や物件評価、VR/AR技術を用いた効率的な物件内覧、ブロックチェーンによる取引の透明化と効率化などが挙げられる。業務効率の向上や顧客満足度の向上、新たな収益機会の創出を目指し、不動産テックの重要性はさらに高まっている。

不動産テックの種類

不動産テックには、不動産管理、不動産取引、データ分析の三つの主要な種類がある。それぞれが異なる技術とアプローチを用いて、不動産業界の効率化と革新を推進している。

「不動産管理」領域の不動産テック

不動産管理においては、スマートビルディングや効率化ツールが活用されている。IoTデバイスを使ってビルの運営を最適化する技術や、掃除ロボットを用いたメンテナンスの自動化などのテクノロジーが実用化されており、管理コストの削減と建物の安全性・快適性の向上に貢献している。

「不動産取引」に関わる不動産テック

不動産取引では、バーチャルツアー、オンラインプラットフォーム、デジタル契約、ブロックチェーン技術などが活用されている​​。バーチャルツアーは遠隔地からでも物件の内覧が可能となり、取引の幅を広げている。またオンラインプラットフォームやデジタル契約の普及は、より迅速な意志決定や契約などの取引を可能にしている。

「データ分析」を活用した不動産テック

これからの不動産業界ではビッグデータ解析やAIによる需要予測が重要な役割を担っていくと予想される​。データを活用した精度の高い市場動向予測が可能となり、リスクマネジメントや資産価値の最適化が実現するだろう。AIが大量のデータから抽出した有用なインサイトは、戦略的な意思決定にも活用が期待できる。

不動産テックの市場動向

不動産テック市場は急速に拡大しており、グローバルでも日本国内でも耳目を集めている。技術革新と業界のデジタル化ニーズに支えられ、今後も成長が見込まれている。

グローバルな市場規模と成長率

不動産テック市場は世界的に成長フェーズにあり急速に拡大している。Grand View Researchの発表したレポートによると、世界の不動産テック市場の規模は、2022年から2030年にかけて年平均成長率(CAGR)15.8%で成長し、972億70万米ドルに達すると予想されている。

海外の不動産テック企業ではZillow、Compass、Airbnbなどが有名だ。一方、日本の不動産テック業界もプレイヤーが増加しており、不動産テック協会が公開している「不動産テックカオスマップ」では100社以上の企業が様々な領域でサービスを提供していることが見てとれる。特にAIやIoT・ブロックチェーンを活用したソリューションが急増しており、不動産業界全体のDX(デジタルトランスフォーメーション)を加速させている。

日本における不動産テックの現状

日本における不動産テック市場は諸外国に比べるとまだ成長途上とされるが、徐々に普及が進んでいる。日本市場の課題としては、高齢化社会による需要の変化や都市部の土地不足といった社会環境、既存の商慣習や規制・デジタルリテラシーの低さ・データの標準化の遅れがDXの障壁となっていることなどが挙げられる​が、これらの課題を乗りこえるべく積極的に技術導入を進める企業も増えている。

不動産テックの導入によるメリット

不動産テックの導入は、業務効率化、顧客体験向上、働き方改革推進、環境配慮など多岐にわたるメリットをもたらす

不動産テックの導入は、業務効率化、顧客体験向上、働き方改革推進、環境配慮など多岐にわたるメリットをもたらす。

効率化とコスト削減

不動産テックは業務プロセスの自動化を通じて大幅な効率化とコスト削減を実現する。AIやIoTを活用した物件管理システムにより、設備保全やエネルギー使用量の最適化が可能になるほか、データ分析によるスピーディな市場予測や価格設定の最適化により収益性の改善も見込める。さらにペーパーレス化やオンライン取引の普及により、事務処理コストの削減も期待できる。

顧客体験の向上

不動産テックは顧客体験を飛躍的に向上させる可能性を秘めている。AIを活用して個別最適化されたレコメンデーションにより、顧客ニーズに合った物件提案が可能になる。

VR/AR技術を用いたバーチャルツアーは遠隔地からの転居や移転を検討する顧客へ時間や場所の制約なく物件内覧を提供できる。チャットやオンラインでの相談システムにより、24時間365日の迅速な顧客対応が実現、成約率の向上も期待できるだろう。

働き方改革の推進

不動産テックは働き方改革の推進にも寄与している。

業務管理システムにより場所や時間にとらわれない柔軟な働き方が可能になり、AI やRPA(Robotic Process Automation)による定型業務の自動化は、従業員の負担を軽減し、より創造的な業務に注力できる環境を作る。データに基づく迅速な意思決定により業務効率が向上し、長時間労働や属人的な業務プロセスが改善される。これらの効果で従業員の生産性や満足度が向上、優秀な人材の確保・定着にもつながるだろう。

環境への配慮と投資価値の向上

不動産テックは環境配慮にも大きく寄与する。IoTセンサーやAIを活用したスマートビルディング技術により、エネルギー消費の最適化やCO2排出削減が可能なグリーンビルディングが実現。LEED(Leadership in Energy and Environmental Design)やCASBEE(建築環境総合性能評価システム)などの環境認証取得や環境性能データの可視化は、投資家からのESG投資の評価向上にもつながる。

不動産テック導入の手順

自社に不動産テックの導入を検討している企業は、以下の手順を参考に、ステップごとに進めよう。

  1. 準備・計画:現状の課題分析と目標設定を行い、導入によるメリットと必要な資源を明確化する。社内の理解と協力を得ることも重要だ。
  2. 導入分野・ベンダー選び:優先度の高い分野を特定し、信頼性と実績のあるベンダーを選定する。デモや試用期間を設けて適合性を確認することや、ベンダーと綿密なコミュニケーションをとることが成功の鍵となる。
  3. ツール・ソフトウェアの決定:自社の課題に最適なツール・ソフトウェアを、機能や使いやすさ、既存システムとの互換性、セキュリティ面、コスト等を考慮して選定する。
  4. 導入の実施:段階的な導入計画を立て、パイロット運用から始める。従業員向けのトレーニングプログラムを実施しスムーズな移行を図る。初期トラブルも早期に解決しておこう。
  5. モニタリングと改善:導入後の効果を定量的に測定し、問題点を特定して迅速に対応する。従業員や顧客からのフィードバック収集も改善に効果的だ。
  6. 定期的な技術のアップデート:不動産テック関連の技術は引き続き進化が予想されるため、最新の技術動向を常に把握し、必要に応じてシステムをアップデートする。
不動産テック導入の注意点と成功のコツ

初めて自社に不動産テックを導入する際にはいくつか気をつけるべき点もある。失敗しがちな点への対策と、成功のためのコツを紹介する。

注意すべき点と対策

不動産テック導入時には以下のような点に注意し、対策を用意しておこう。

  • 技術への過度の依存を避け、人間の判断や経験との適切なバランスを保つ
  • セキュリティリスクへの対策を怠らず、顧客データの保護に万全を期す
  • 既存の業務プロセスとの整合性を考慮し、段階的な導入を心がける
  • 社内に抵抗感がある場合に対しては、十分な説明と研修などを行い理解と協力を得る
導入を成功させるには

不動産テック導入に取り組む際には、以下のポイントをおさえて成功させよう。

  • 業界動向や最新技術に関する情報収集を継続的に行い、自社に最適なソリューションを見極める
  • 信頼できるパートナーを選定し、長期的な協力関係を構築する
  • 明確な目標設定とKPIの策定を行い、導入効果を定量的に測定する
  • 従業員や顧客からのフィードバックを積極的に収集し改善を図る
  • 経営陣のコミットメントと全社的なデジタル化への意識改革を行う

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不動産テック導入の成功事例

不動産テックを取り入れたオフィス改革や移転に成功した企業の事例を紹介する。

【NTTデータビジネスシステムズ】ITインフラを整備することで電力消費量削減

経営課題の解決に向けたITソリューションを開発・提供する株式会社NTTデータビジネスシステムズは、クラウド受付や会議予約システム、クラウドPBXの活用、ウェブ会議化などのICT設備環境の整備を通じて、オフィスワークと同等でテレワークが可能な執務環境を用意することに成功。ITインフラを整備することで電力消費量削減、ペーパーレス化などの環境対策も視野に入れる。

他にも防犯カメラや入退室管理、AI顔認証による不審者検知システム、災害対策室を設置し、結果として、優秀な人材確保、長期雇用、帰属意識の向上にもつながる、従業員から魅力的な本社オフィスが実現した。

【unimoちはら台】IoT技術でエネルギー使用量を大幅削減

京成千原線「ちはら台」駅にある大型複合商業施設「unimoちはら台」は、不動産テックを活用した省エネ対策が高く評価され、経済産業省の「エネルギー管理優良事業者等関東経済産業局表彰」に選定されたほか、一般財団法人省エネルギーセンターが主宰する「省エネ大賞」で省エネルギーセンター会長賞を受賞した。

省エネ大賞に選定された取り組みは「無線通信を活用した空調・照明の消費電力削減」で、IoT技術を駆使し、センサーで測定した温度や照度を基準として、空調と照明を自動的に制御するものだ。高い省エネ効果を発揮し、年間105万5,000kwhの使用電力量を削減することに成功した。

JLLの不動産テック支援
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