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注目されるESG投資とは?
市場動向とそのメリット

近年注目を集めている「ESG投資」とはどのような特徴があるのか、世界と日本における最新の動向とメリット・デメリット、投資家や企業がESG投資を始めるにあたって知っておきたい用語や投資の種類、始め方などを分かりやすく解説する。

2023年 09月 26日
注目されるESG投資とは?

ESGとは、環境・社会・ガバナンスの頭文字を組み合わせた言葉であり、これらの要素を考慮した投資がESG投資である。

従来、投資の価値を測る際には財務情報が用いられていたが、経済発展と共に環境問題や社会問題、企業統治の問題が浮上し、持続可能性に悪影響を及ぼすことが懸念されるようになった。

そのため近年では長期的な成長の指針として非財務情報であるESGも重要視され始め、2006年、国連が機関投資家に責任投資原則(PRI)を提唱したことからESG投資が広まった。

投資家サイドは、ESG投資の視点を投資判断に取り入れることで長期的なリスクの調整やリターン改善が期待できる。

拡大するESG投資

企業が今後社会や消費者から支持され長期的に安定して発展していくかどうかを評価する手法の1つとして、ESGに注目が集まっている

ESG投資が注目される理由

先行きが不透明な現代社会において、投資対象となる企業の将来的な価値を見極める調査(デューデリジェンス)だけでは、組織・財務・法的なリスクは把握できても、企業の社会的責任や環境問題への対策は投資に反映されにくいという面がある。

企業が今後社会や消費者から支持され長期的に安定して発展していくかどうかを評価する手法の1つとして、ESGに注目が集まっている。

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日本と世界のESG市場

2006年に国連責任投資原則(PRI)が発足した後、世界のさまざまな投資機関がPRIに署名し、その資産総額は100兆米ドルを超え世界の株式市場に匹敵するほどの勢いとなっている。

日本でも年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)がESGの観点を投資に取り入れたことで注目が集まり、投資家の主要なオプションの1つとなっている。

ESG投資とSDGsの関係とは?​ 
 
SDGs(Sustainable Development Goals)=「持続可能な開発目標」は2015年9月の国連サミットで採択された国際目標で、17のゴールと169のターゲットから構成される。国や地方公共団体のみならず民間企業による取り組みが求められている。​

​​SDGsは企業目標にサステナビリティをリンクさせることにより設定された「ゴール」だが、ESGはそのサステナビリティを重視した具体的企業活動を行うこと、つまり「手段」だと捉えられる。​

​​したがってESGに注力することにより、結果的にSDGsの目標達成につながり、最終的に持続可能な社会を実現するという関係性といえる。​

​ESG投資の​3​つのメリット・期待できる効果​
​​ESG投資が企業や個人の投資家にどのようなメリットをもたらし、どのような効果が期待できるのだろうか。​ 
 
長期的な資産形成に適している​

急成長企業への株式投資やFXは短期的に大きなリターンが期待できるが、リスクも大きいため初心者や長期投資には不向きである。​

​​対して、ESG投資は長期で安定したリターンを目指すもので、経済環境や法律・規制等の変化に対応力が高いとされる。​

投資を通じて社会のサステナビリティ向上に貢献できる

ESG投資では、環境・貧困・人権・労働環境など、SDGsのゴール達成に取り組む企業を対象に投資することになるため、投資先企業を通じて社会的課題の解決に貢献できる。​

​​環境配慮に特化した事業の資金調達手段として発行される社債「グリーンボンド(Green Bond)」や、それが含まれる投資信託を購入することも、サステナビリティ向上に寄与していることになる。​

企業としての投資であれば企業価値が高まる

投資は「投資先企業の事業を応援する」という意思表明になるが、投資先のポリシーが利益のみを追求するものであるのか、環境や人権、倫理に配慮したものかによって、投資家への評価も変わってくる。

企業がESG投資を行うことで企業の価値が上がるブランディング効果も期待できる。

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ESG投資の3つのデメリット・留意すべき点

一方、ESG投資にもデメリットや注意点がある。以下に代表的なものを3つ挙げる。

短期的リターンが小さくなる可能性がある

ESG課題は数カ月程度で解決するものは少なく長期的に取り組む必要がある。通常投資は効率性を重視して行われるが、ESG投資においては目先のリターンよりもESGへの貢献等も考慮するため、短期的な目線で見るとリターンは小さくなりやすい。

投資先の選定に必要な情報が限られている

ESG投資では、一般的な投資でみる財務情報等に加え、ESG要素の分析・評価もする必要がある。数多くの資料を探し、情報を集めて分析するなど準備や作業に多くの手間がかかる可能性もある。

グリーン・ウォッシングの企業も存在する

ESG投資の潮流に乗って投資家を集めようと実態よりも過度に情報発信を行ったり、実際はESGに取り組んでいない、あるいはESGを無視した事業活動を行っているにも関わらず、市場での評価を上げるためにESGに取り組んでいるように見せかけた「グリーン・ウォッシュ」を行う企業も存在する。単独の資料だけで判断すると、誤って投資先に選んでしまう可能性もある。

ESG投資の7つの投資種類

ESG投資はおもに次の7つの種類に分類される。それぞれの内容を確認してみよう。

ESGインテグレーション

PRI(国連責任投資原則)では、投資分析と意思決定のプロセスにESGの課題を組み込むことを原則としており、現在、世界的なESG投資の主流になっている。

ESGインテグレーションは、ESG投資の観点と従来の判断基準である財務状況を統合(インテグレーション)する投資手法であり、仮にESGの取り組みが高い評価を受けていたとしても、財務状況がすぐれない場合は投資の対象として適当ではないと判断することもある。

コーポレートエンゲージメントと議決権行使

ESG投資を行う企業や投資家は投資先企業と建設的な目的を持った対話を行うことが推奨され、この対話を「エンゲージメント」という。具体的な方法は企業への取材、経営層との面談、会議での意見表明などがあるが、そのうちの1つとして株主が株主総会での決議に参加し、事案に対して賛否を投票する「議決権行使」がある。これにより、投資先企業の事業方針や運営をより望ましい方向へと導き、長期的・持続的な成長を促す。

国際規範に基づくスクリーニング

国際規範スクリーニングは、国際的な機関や団体の示す、環境破壊や人権侵害などの指針に反した企業を投資対象から除外していく手法である。具体的な参照ルールには「国連グローバルコンパクト(UNGC)」10原則や「OECD多国籍企業行動指針」「国際労働機関(ILO)規範」などがある。

UNGCは2000年に提唱された規範で世界160カ国・1万3,000を超える団体が署名(2015年)しており、企業活動における児童労働や差別、環境破壊、贈収賄などを禁じている。

国際労働機関(ILO)が定める基準には「条約」と「勧告」の2つがある。条約は国際労働基準にもとづき労働時間やハラスメントなどについての190以上の条約で構成されていて、批准国は実施する義務を有する。勧告には法的な拘束力はないが、200以上の努力義務が設けられている。

ネガティブ・スクリーニング

ネガティブ・スクリーニングは、社会的責任や環境に対する基準を満たさない企業や、ギャンブル・武器製造・ポルノといった反社会的または非倫理的(ネガティブ)な事業を行う企業を投資対象から外す手法をいう。

ポジティブ・スクリーニング

ポジティブ・スクリーニングは、環境保護や人権・従業員への配慮、ガバメント(企業統治)などに積極的に取り組む企業を選んで投資する手法で、1990年代に欧州から広がった。

ポジティブ・スクリーニングには労働環境や多様性への対応など複雑な評価項目が存在するが、それらを開示していない企業も多く、多様な項目の情報分析が必要になるため、大手の機関投資家などを中心に行われている。

サステナビリティ・テーマ型投資

再生可能エネルギーや持続可能な農業などを展開する企業に対して投資を行うのが「サステナビリティ・テーマ型投資」である。

投資家は次のような事業を行っている企業を選んで投資することになる。

  • 再生可能エネルギー

  • 持続可能な農業

  • 水資源

  • グリーンテクノロジー

上記のような一連の環境改善事業用途に限定した債券「グリーンボンド」も近年注目を集めている。

インパクト・コミュニティ投資

インパクト・コミュニティは、社会的な課題の改善・解決を目的とする事業を行う企業や業界に投資し、その結果(社会へのインパクト)を評価する投資手法である。

ESGの取り組む企業をピックアップして投資するポジティブ・スクリーニングと類似しているが、貧困層や途上国への教育事業や医療事業など「投資行動を通じて社会的インパクトを与える」という投資者の目的意識がより強調され、同時に運用収益も期待できる投資先が選ばれる。
 

ESG投資まとめの表

投資の種類 概要
ESGインテグレーション ESG投資の観点と従来の判断基準である財務状況を統合した手法
コーポレートエンゲージメントと議決権行使 株主総会での議決権行使をはじめ、投資先企業と建設的な目的を持った対話を行う手法
国際規範に基づくスクリーニング UNGCやLOなど国際機関の示す規範に沿わない企業を投資先から除外(スクリーニング)する手法
ネガティブ・スクリーニング 社会的責任や環境の基準を満たさず、反社会的または非倫理的(ネガティブ)な事業を行う企業を投資対象から外す手法
ポジティブ・スクリーニング 環境保護や人権・従業員への配慮、ガバメント(企業統治)などに積極的に取り組む企業を選んで投資する手法
サステナビリティ・テーマ型投資 再生可能エネルギーや持続可能な農業などを展開する企業に対して投資を行う手法
インパクト・コミュニティ投資 社会的な課題の改善・解決を目的とする事業を行う企業や業界に投資し、その結果(社会へのインパクト)を評価する投資手法

ESG投資の始め方

投資家や企業がESG投資を行う方法には株式・債券・投資信託の3種類がある。

  • 株式投資:ESG経営を行っている企業を個別に調査し、株式を購入する。知識や調査プロセスが必要となるが、より詳細に投資先の情報を入手することで明確な意図を持って投資することができる。

  • 債券投資:ESGに関する債券を購入する。債券で調達した資金の用途は限定されており、企業は債券購入者へ活動報告の義務があるため、投資先の活動を把握しやすくなる。

  • 投資信託:ESGに対する取り組みを重視しているファンドを選んで投資信託を行う。投資のプロフェッショナルであるファンドに投資を任せることになるため、調査などのコストを削減してより効果的な投資が可能であり、分散投資でリスク低減効果も期待できる。

まずは上記のいずれかを選択、あるいは組み合わせを決定することから投資をスタートさせよう。
 

ESG投資家が注目する不動産とは

不動産業界は地球温暖化対策のなかで重要な役割を担っており、気候変動の脅威が高まるにつれ、グリーンビルディング化は今後も世界的に推進されるだろう。

ESG投資先にはさまざまな業種業界があるが、不動産においてもESG投資の機運は確実に高まっている

例えばオフィスビルにおいては、立地などによる短期的な収益性だけではなく、従業員の健康状態や環境配慮された建物であるのか、セキュリティ対策は十分になされているのか、災害時の対応力はどうか…といったESGを念頭においた中長期的な視点で投資判断をするケースが増えている。

なかでも注目されている「グリーンビルディング」は、広範囲にわたる環境政策の1つとして捉えられており、LEED認証・CASBEE認証などの認証制度を獲得した不動産は信頼できる投資対象として価値が上昇している。

グリーンビルディング

グリーンビルディングとは、より環境に配慮したサステナブルな建築と健康的な職場環境を実現した不動産であり、省エネや脱炭素化、ビル利用者の健康促進、建物の緑化等、運営において環境性能を高め、持続可能な取り組みや設計が施されている。

不動産業界は地球温暖化対策のなかで重要な役割を担っており、気候変動の脅威が高まるにつれ、グリーンビルディング化は今後も世界的に推進されるだろう。

ESG投資にあたりグリーンビルディングかどうかを見分けるには、以下の認証や評価制度が参考になる。

  • LEED認証:LEED(Leadership in Energy and Environmental Design)認証はアメリカで発足した環境認証制度で、ビルのエネルギー効率や環境の質、立地状況、水・資源保護、設計等による環境性能を総体的に評価し指標化する。世界的に認知度が高く、LEED認証を取得した物件の稼働率や賃料が高いという調査結果も報告されている。

  • CASBEE認証:日本では2001年に国土交通省により環境配慮の要素を持つ建物の普及を目的としてCASBEE認証(建築物総合環境性能評価)が開発された。建物のライフサイクルを通じた評価ができること、建物の環境品質と環境負荷の両観点から評価されていること、環境効率の考え方を土台とする評価指標「BEE(Building Environment Efficiency)で評価されていることの3つの理念を軸としている。
省エネ化に対応した商業施設

近年では商業施設への投資に対しても、ESGの観点から長期的視点で省エネ対策を施すケースが増えている。
 

設備投資の一例としては、不動産テックの代表的なツールであるIoTセンサーを活用した空調の自動制御や照明を調光機能付きのLEDに変更することで大幅な省エネを実現。投資費用は7,000万円を超えたものの、回収期間はLED化で3.4年、空調自動制御システムではわずか2年に収まった。

こういった環境に配慮した商業施設の不動産価値は今後ますます高まっていくと予想される。

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ESG投資を考える企業へ、JLLが提供できること

不動産投資の中でも、今後メインストリームになっていく可能性の高いESG投資。

不動産領域でのESG投資を始めるにあたっては、不動産に対する知識はもちろん、グローバルな市場知識や投資家の動向、デューデリジェンスのプロセス、将来的なライフサイクルへの見通し、過去のデータなど幅広い専門的な知見が欠かせない。

自社にそれらのスキルを持つ人材が揃っていない場合は、経験豊富で信頼できるパートナーを持つことが成功の鍵を握る。

JLLでは、不動産投資・運用を考える企業に向け、オフィス・物流施設・商業施設(リテール)から事業用地にいたる不動産投資や資産価値の最大化、不動産鑑定評価など、投資の成功をサポートするために各分野に精通したスペシャリストが戦略やニーズに合わせた対応と提案を行っている。

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ESG投資に関するよくある質問
質問:ESG投資って何?

従来のような財務状況だけではなく、環境・社会・ガバナンスというESG要素を考慮した投資のこと。

ESG投資のメリットは?

長期的な資産形成、社会のサステナビリティへの貢献、企業価値の向上などが期待できる。

日本ではESG投資が遅れているって本当?

世界では2006年、国連が機関投資家に責任投資原則(PRI)を提唱したことからESG投資が広まり始めたが、日本で注目されるまでには時間がかかっていた。

日本でESG投資が遅れている理由は?

企業や投資家への情報開示や周知、企業の意識改革などが遅れていたことが理由と考えられる。

ESG投資を成功させる秘訣は?

専門的な知識を持ち、投資対象についての情報を十分に検討して投資先を決定することが必要だが、自社で難しい場合は信頼できる外部エキスパートの力を借りるのが成功の秘訣である。

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