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グリーンビルディングが変える不動産の価値とは?

不動産が担う役目がここ数年で大きくアップデートされている。利益重視よりも環境に配慮したオフィスビルや建築物が優良とされる時代へと移り変わっているからだ。その移り変わりの中心で存在感の強いグリーンビルディングによって不動産の価値基準が変化しようとしている。

2021年 06月 09日
未来の鍵を握るグリーンビルディングとは?

グリーンビルディングは、省エネや脱炭素化、ビル利用者の健康促進、建物の緑化等、運営において環境性能を高め、持続可能な取り組みや設計を施した不動産を指す。グリーンビルディング化は、従来からの課題でありながらも省エネ対応へのコスト懸念等により進んでいなかったが、世界的な取り組みへの機運の高まりと政府からの後押しにより、最優先事項として考えられ始めている。昨今、オフィスビルの脱炭素化の動きが強まっているが、これは地球温暖化の要因の1つとなる二酸化炭素の排出削減が目的であり、具体策としてテクノロジーの活用等を迅速に進めている。環境問題を解決するために重要視されているグリーンビルディングは、不動産業界だけではなく広範囲にわたる環境政策の1つとして捉えられており、対応次第では不動産の資産価値にも大きく影響してくるだろう。
 

高まるオフィスビルのサステナブル化

不動産業界は、地球温暖化対策において重要な役割を担っていることや気候変動の脅威への高まりにより、環境、社会、ガバナンス(ESG)への配慮、グリーンビルディング化が主流となっていく

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グリーンビルディングへの取り組みを図る上でサステナビリティの概念は欠かせない。JLLとラサール インベストメントマネージメントが共同で制作した「2020年版グローバル不動産透明度インデックス」では、サステナビリティが新しい項目として追加されており、フランスとオーストラリアがグリーンリース条項の義務づけや建築物のレジリエンスの枠組み等により高く評価されている。サステナビリティ透明度には「エネルギー効率基準(新築建築物)」、「不動産の環境性能評価」、「エネルギー消費量ベンチマーク」、「二酸化炭素排出量の報告」等、12の評価指標が存在する。世界の二酸化炭素排出量の約40%を構成している不動産業界は、地球温暖化対策において重要な役割を担っていることや気候変動の脅威への高まりにより「環境、社会、ガバナンス(ESG)」への配慮、グリーンビルディング化が主流となっていくと考えられる。また、企業活動に必要なエネルギーを100%再生可能エネルギーで賄うことを目標とする国際的な環境イニシアチブRE100へ日本の不動産会社も続々と参画していることから、世界のみならず日本でもサステナブル化はさらに加速するであろう。近い未来の不動産の価値を考える上で、この新しい潮流に対応した取り組みを図ることは肝心である。

2020年トピック別サステナビリティ透明度
グリーンビルディングの評価基準

国際基準であるGRESBからの評価を得ることによるシナジー効果は大きく、参加数は年々増加している

環境に配慮した建物であるかを定める米国発のLEED認証
環境政策、そしてビジネスの観点からも重要な役割を担うグリーンビルディングには、様々な評価基準が定められている。米国発のLEED(Leadership in Energy and Environmental Design)認証は、ビルのエネルギー効率や環境の質、立地状況、水・資源保護、設計等による環境性能を総体的に評価し指標化した環境認証制度である。世界的に認知度の高いLEED認証を取得した物件は、稼働率や賃料が高くなるとの調査結果があり、不動産の環境対策として対外的にアピールできるため、投資対象として注目度を急激に高めている。
 
環境品質や環境効率の観点で評価する日本発のCASBEE認証

2001年に国土交通省のもと、環境配慮の要素を持つ建物の普及を目的として開発されたCASBEE認証(建築物総合環境性能評価)。建物のライフサイクルを通じた評価ができること、建物の環境品質と環境負荷の両観点から評価されていること、環境効率の考え方を土台とする評価指標「BEE(Building Environment Efficiency)」で評価されていることの3つの理念を軸に成り立っている。

投資判断として活用されるGRESB
GRESB(Global Real Estate Sustainability Benchmark、グローバル不動産サステナビリティ・ベンチマーク)は不動産分野での「環境・社会・ガバナンス(ESG)」への配慮を測り、投資家との選定プロセス時に使われる評価ツールとして世界的に活用されている。GRESBの評価項目は多岐にわたり、LEED認証等のグリーンビルディング認証取得の実績や保有不動産の環境配慮の取り組み、ESG情報開示、テナントや従業員のウェルネス等、包括的な環境対応を求められる。国際基準であるGRESBからの評価を得ることによるシナジー効果は大きく、参加数は年々増加しているという。

GRESBの評価を向上させる効果的な施策を見る

グリーンビルディングであることがもたらすメリット

「将来は賃料プレミアムを払ってでもグリーンビル認証取得物件を賃借したい」と回答した企業は7割に上っている

メリット 1: 資産価値の向上

事業用不動産の投資判断におけるESG情報の重要性は増加の一途をたどっており、グローバル機関投資家等は、環境・社会・企業統治(ガバナンス)に優れたサステナビリティな不動産に対し積極的に投資 する姿勢を打ち出している。

経済産業省が2019年に発表した「ESG投資に関する運用機関向けアンケート調査」では、対象48社のうち「ESG情報を投資判断に活用している」と回答した運用機関が97.9%にも達した。

他方、テナント企業側のグリーンビル認証取得への意欲も高く、2021年にJJLLがアジア太平洋地域のCRE(企業不動産)責任者550人以上を行った意識調査では「将来は賃料プレミアムを払ってでもグリーンビル認証取得物件を賃借したい」と回答した企業は7割に上っている。

実際にグリーンビルディング認証取得により当該不動産に賃料・価格ともにプレミアムが付与されることは複数の分析調査から明らかになっており、2018年に出版された書籍「Routledge Handbook of Sustainable Real Estate,2018」によると、グリーンビル認証は平均で6%の賃料プレミアムと7.6%の価格プレミアムをもたらしており、不動産の資産価値向上に有効だといえる。

グリーンビル認証を取得した不動産のプレミアム 平均 商業用不動産 住宅
賃料プレミアム 6.0% 5.4% 8.2%
価格プレミアム 7.6% 11.5% 5.5%
メリット2:今後の人材獲得や定着率にプラスの効果

2021年にJLLが実施した調査では、若い世代の従業員の多くが勤務先に高いサステナビリティを求めており、「サステナビリティ活動に従業員を積極的に巻き込む企業で働きたい」と答えた20代は78%・30代で64%、「サステナビリティのリーダー企業で働きたい」は20代で72%、「サステナビリティは従業員に当事者意識を持たせる重要な要素」と考える20代従業員も66%に上り、「今後転職を検討する場合、同一条件の求人が複数あればサステナビリティのリーダー企業を選ぶ」と答えた従業員が5割を超えていた。

すなわち、グリーンビルディング認証をはじめとしたESG向上は、企業の人材獲得や定着率に確実にプラスの効果をもたらすといえる。

メリット3:従業員のウェルネス向上
リモートートワークと出社を併用するニューノーマルのオフィス環境構築にあたっては、業務率や利便性だけではなく「ウェルネス」を視点に入れ、出社する従業員の心身の健康に寄与するようなオフィス設計が不可欠である。

グリーンビルディング化はオフィスで働くヒト=従業員の健康を高め、エンゲージメントや生産性の向上・人材確保・リクルーティング等に好影響が期待できる。

メリット4:省エネ対策・運用コストの削減

現在、オフィスビルや大規模店舗などの不動産は「環境不動産」という新しい価値基準によって評価されることがますます増えている。グリーンビルディング化に必要なテクノロジーの導入は同時に省エネを実現し、長期的なコスト削減をもたらしてくれる

メリット5:企業イメージの向上

建物の環境配慮性能を評価するLEED認証やCASBEE認証と並んで、「ヒトの健康」を主軸とし、働き方改革や健康経営の目的に適応する要素を評価する認証制度として現在注目を集めるのが「WELL認証」である。

2018年に発表された最新版のWELL認証v2は、オフィスを「空気」「水」「食物」「光」「運動」「快適性」「音」「材料」「こころ」「コミュニティ」の10のコンセプトで評価し、認証された企業はヒトを重視した社会貢献度が高い企業としての価値を社会に示すことが可能である。

「従業員の視点から考える不動産・オフィスのサステナビリティ」レポートを見る

 
サステナブルな不動産へのロードマップ
鍵となるのはパートナーシップの輪

グリーンビルディングを含む建築環境の脱炭素化は、不動産のオーナーやテナント・投資家だけではなく、地元行政・デベロッパーとの協働体制が不可欠である。社会全体にわたる数多いステークホルダーがサステナビリティという共通の目標に向けてパートナーシップの輪を広げていくのが目標達成の鍵となるだろう。

全社で足並みを揃えたサステナビリティの取り組み

サステナブルな不動産の実現には、全社で足並みを揃え、共通のロードマップを確実に進めることが欠かせない。

具体的には、担当者はまず経営陣の意思確認を行い、賛同の上で、全社的に当事者として取り組み管理する体制作りを行う。同時に十分なリソースを確保し、中間目標を含む行動計画を策定しよう。外部のノウハウや知見も取り入れたソリューションを策定し、テナント・投資家・ビルオーナーでデータやリソースを共有してパートナーシップを強化していく。

出所:JLL 「サステナブルな不動産:熱い思いを行動に」

先導集団に当たるグループが採択する戦略・取り組みトップ5
 

グリーンビルディングを含む不動産のサステナビリティへの取り組みについては、企業により先導的/進行中/駆け出しの3段階に分けられ、先頭集団にあたるグループでは、サステナビリティ目標を明確に策定し人員や予算などの経営資源も確保できている。

彼らの採択する戦略や取り組みとして、テナント側は「フットプリントの最適化」「責任ある調達」「再生可能エネルギーによる自家発電」「建築資材の生産・廃棄に伴うCO2の削減」「グリーンリース契約」、投資家側は「再生可能エネルギーの調達」「建物レベルの性能・エネルギーのリアルタイムモニタリング」「グリーンリース条項」「埋め立てゴミの削減」「建物性能とメンテナンスの最適化技術の導入」などが挙げられる。

テナント 投資家
1. フットプリントの最適化
2. 責任ある調達慣行
3. 再生可能エネルギーの自家発電
4. 建築資材の生産・廃棄に伴う温室効果ガス排出量の削減
5. グリーンリース契約
1. 再生可能エネルギーの調達
2. 建物レベルの性能・エネルギーのリアルタイムモニタリング
3. グリーンリース条項
4. 埋め立てごみの削減
5. 建物性能とメンテナンスの最適化技術の導入

出所:JLL 「サステナブルな不動産:熱い思いを行動に

グリーンビルディングに関連する成功事例
LEED認証取得事例 ニュータニックス・ジャパン合同会社
 

ニュータニックス・ジャパン合同会社は、サーバー等のハードウェアを削減するソフトウェアを開発し二酸化炭素排出量の大幅な削減に寄与するなど、創業時から「サステナビリティ」を重視している。その一環として、2020年6月に「丸の内永楽ビルディング」15階に開設した新オフィスにおいて、国際的なグリーンビル認証である「LEED ID+C」のゴールド認証を取得した。

LEED ID+Cはおもにテナント専有部を対象にしているため、ビルオーナーとの連携に注力し改装を実施。多数の植栽を配したバイオフィリックデザインや、立った状態でデスクワークを行える昇降型デスク、環境に配慮したキッチン設備等を導入し、従業員の健康増進と高レベルの環境配慮を意識した。
さらに、ビル本体の省エネ対策や二酸化炭素排出量の削減に間接的に寄与する公共交通機関への至便性等の項目が評価され認証取得につながった。
 

カーボンフットプリントを資本に転換した海外事例 エリクソン
 

モバイル通信トラフィック処理機器で世界40%のシェアを誇るエリクソンでは、カーボンフットプリントの新たな削減策の選定・サステナビリティ目標の達成・その実現に適したテクノロジーの導入が喫緊の課題であったため、JLLにて総合的なソリューション提供を行った。

専門チームがJLLの独自技術である「エネルギー&サステナビリティプラットフォーム(ESP)」を使用し国際基準に準拠した省エネ性能のベンチマーク調査を行い、ESPプログラムを実施した結果、2年目の初期段階ですでに目標を大きく上回る25%以上の省エネ化、節水や廃棄物削減・リサイクルなど100項目以上のサステナビリティの取り組みを特定、維持費の減少、更新コストの削減など大きな成果をもたらした。

 
サステナビリティ化成功事例 商業施設「unimoちはら台」
 

千葉県市原市の大型複合商業施設「unimoちはら台」では、2015年より、JLLモールマネジメント(JMM)、ラサール不動産投資顧問株式会社、設備管理を受託するイオンディライト株式会社と協働し本格的に省エネ対策を推進してきた。

2014-2018年の4年間に共用部電気使用量を約30%削減に成功するなどの成果が高く評価され、2018年度には経済産業省関東経済産業局が主宰する「エネルギー管理優良事業者等関東経済産業局表彰」に選定、続いて一般財団法人省エネルギーセンターが主宰する「2019年度省エネ大賞会長賞」を受賞した。
 

CRE戦略とグリーンビルディングの今後の関係性

グリーンビルディングはこれからのCRE戦略を考える上で欠かせない。保有不動産を最適化し、将来を見据えた価値向上が必要不可欠な時代が訪れている。利益至上主義の企業戦略が評価されていた時代は過ぎ去り、環境配慮を根底に社会的利益を重視するビジネス戦略にこそ経済的利益がついてくる時代となった。国内大手企業も次々に環境対応を取り入れた戦略へとシフトしている中、柔軟に適応することが求められている。

グリーンビルディングに関連したサステナビリティ戦略を見る

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