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不動産テックの有望株「IoT」がオフィスを変革する

金融分野におけるFintech、教育分野におけるEdotech等、ITテクノロジーによって業務効率化等を推進する動きが様々な産業で拡大中だ。不動産分野では「Proptech(不動産テック)」と呼ばれているが、高い需要が見込まれているのがIoTセンサーを活用したビッグデータ・ソリューションに他ならない。

2020年 03月 09日

IoTを駆使した不動産テックが普及拡大

多様化するサービス

2015年頃から日本で勃興した「不動産テック」なる言葉。当初は物件情報サイトが整備される程度だったが、その後、物件管理システムが登場。その注目度はうなぎのぼりだ。

一般社団法人 不動産テック協会が2019年8月22日に発表した「不動産テック カオスマップ(第5版)」による分類では、VR・AR、IoTなどの最新テクノロジーをはじめ、物件情報・メディア、仲介業務支援、管理業務支援をはじめ、ローン・保証、マッチング、価格可視化・査定、クラウドファンディング、シェアリングエコノミーなど、実に多彩な不動産テック・サービスが開発・提供されており、その存在感は日増しに高まっていることが窺い知れる。

では、今後本格的に普及しそうな不動産テックとは何か。不動産テックによる新サービスの開発・コンサルティングを手掛けるJLL日本 テクノロジー データ&インフォメーションマネージメント ビジネステクノロジー(TDIM) 金子 志宗は「不動産の価値向上を目的としたIoTセンサーを用いた不動産テック・サービスの普及拡大がいち早く進む」と予想している。

IoTとは?

IoTとは「Internet of Things」の略語であり、「モノのインターネット」と訳される。従前、パソコン同士をネット回線でつなぐことが主流だったが、スマートフォンやスマートスピーカー、テレビや家電製品など、様々な「モノ」がインターネットと繋がることで、デジタルデータを容易に伝達することを可能にしたテクノロジーである。

 

IoTによって様々な機器が繋がり、情報伝達と情報収集が飛躍的に進み、様々なサービスが生まれる(画像はイメージ)

IoTセンサーで設備機器を制御

不動産テックは総体的にBtoCビジネス…居住用不動産を中心に普及しているが、IoTは事業用不動産においても様々なシーンで活用されている。例えば、オフィスビルや商業施設等にIoTセンサーを設置し、温度や照度を計測。一定水準に達すると空調、照明を自動制御するケースや、トイレを利用する際の待ち時間を軽減させ、適切なタイミングで清掃することが可能にするためにトイレの利用状況をIoTセンサーで捕捉するケースなどがある。

また、複数のベンチャー企業が鎬を削るスマートロック(施錠システム)やセキュリティカメラシステム等は事業用不動産におけるIoTを活用した不動産テック関連サービスとして広く認知されるようになった。

このようにIoTによって従前の設備機器では把握できなかったデータを収集でき、遠隔操作できる。収集したデータを蓄積し、人工知能(AI)に学習させることで、より精緻に自動制御することが可能になる。現在ではオフィスビルの様々な設備機器をIoT化することで建物1棟をテクノロジーで管理するスマートビルの実例も存在する。

IoTを駆使してオフィス環境を改善

ヒトによる経験、ノウハウ、知識、人脈など、専門性の高い事業用不動業界では不動産テックの普及は限定的だが、金子は「オフィスのファシリティに関する不動産テックが最も進化している」との見解だ。その理由はテナントへ付加価値の高いサービスを提供する上で、視覚的にもわかりやすいためだという。大手デベロッパーが保有ビルに多言語対応の受付ロボットや清掃ロボットを導入するのはその一端ともいえるが、IoTを活かしたサービスはオフィス環境を改善し、ワークプレイス改革を推進したいテナントにとって有用性の高く、今後の需要拡大が見込まれる。

例えば、JLLではクライアントの意思決定を後押しする不動産テック・サービスを提供しているが、近年需要の高まりを感じるのがIoTセンサーを各デスクに設置し、当該座席の着席時間から利用頻度を導き出すサービス「IoTアナリティクス」だ。従前、オフィスの座席数が多いのか少ないのかを把握するためには、アンケート調査を実施するか、人の手で在席数をカウントする他なかったが、これでは正確なデータが取れない。

一方、IoTセンサーを用いれば24時間絶え間なくデータ収集ができ、より鮮明にオフィスの実態を浮き彫りにできる。テレワークやサテライトオフィス勤務等、働き方が多様化する中で、オフィス環境の最適化を図るのが難しくなっている。そうした環境下において、IoTセンサーを駆使したオフィス利用率調査を行うことで、座席数のみならず、会議室の規模・数など、より使いやすいオフィス環境を構築するのに寄与する。

IoTセンサーをオフィスへ導入することで想定されるメリット

①オフィス利用状況の可視化:現状のオフィスの座席利用率等をIoTセンサーで計測し、使用頻度の高い座席とそうでない座席を可視化することができる。会議室の利用率等も可視化できる。

②オフィス環境の適正化:①で可視化した利用率データをもとに、座席数や会議室数の数が適正かどうかを把握することが可能。オフィス移転やリニューアル時に利用率データから課題を抽出し、解決策を導き出すことができる。

③従業員のストレス測定:IoTセンサーで従業員のストレス度合いを判断し、心的リスクがあれば事前にケアすることで従業員のメンタルヘルスを守ることができる。

④空調・照明などの設備機器の自動制御・遠隔操作:IoTセンサーによって人の存在を感知したエリアは空調や照明を稼働させ、人がいないエリアは停止させることで省エネに寄与する。

JLL「オフィス利用率調査」の「利用率ヒートマップ」ウェブ画面。各座席の利用率を表示し、よく使われるエリアやあまり使われないエリアを把握することができる。

不動産・テック業界を橋渡しできる人材育成が急務

ビッグデータを収集でき、AIやVRといった他のテクノロジーと連携しやすいIoTは、その汎用性の高さから不動産テックの核となりえる重要な存在だ。一方で、金子は「IoT機器単体では、その有用性を最大限発揮できず、利用者には物足りない」とも指摘する。

例えばスマートロックの場合、遠隔で施錠・解錠できるだけでは従前と比べて利便性はそこまで高くない。スマートロックでデータ収集し、セキュリティレベルを計測するなど、需要に合致したサービスを開発しなければ不動産業界に広く普及していくのは難しい。

一方、JLLが提供しているIoTアナリティクスサービスは、センサー/データに詳しいテクノロジー側の人間の提供する情報を基に、経験を積んだオフィス開発チームの分析を合わせることで、信頼性の高いサービスを提供している。

不動産テック・サービスの多くは技術開発側から発信され、不動産側のニーズに必ずしも応えているわけではない。応用力が求められるIoTも同様だ。金子は「テクノロジーと不動産の2つの業界に通じる人材が少ないことが不動産テックの普及拡大の最大の阻害要因になっている」との認識を示す。テック業界と不動産業界、専門性の高い2つの業界を橋渡しできるコンサルタントの育成がIoT、ひいては不動産テックの普及拡大には不可欠のようだ。

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