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環境性能認証LEED®とは?JLL新オフィスがプラチナ取得

2023年4月、JLL日本の東京本社ビルにおいて世界的なグリーンビルディング認証であるLEED認証※1の最高レベル「プラチナ」を取得した。本稿では、JLLの取得事例をもとに、日本での取得実績が増えているLEED認証の概要と、取得に向けたポイントについて解説する。

2023年 06月 19日
JLL日本の東京オフィスがLEED認証の最高レベル「プラチナ」取得

JLL日本の本社オフィスが2023年4月19日、世界的なグリーンビルディング認証制度として知られるLEEDのインテリア設計・建設分野である「LEED v4 Interior Design and Construction: Commercial Interiors(以下、LEEDv4 ID+C: CI)」の最高レベル「プラチナ」を取得した。JLLの調査では、当該評価バージョンにおいてプラチナを取得した事例は国内で2件目(2023年4月19日時点)だ。

最先端の環境配慮型オフィスとはどのようなものなのか。今回のプロジェクトを参考に、LEED認証取得におけるポイントを紐解いていく。

JLL東京オフィスのLEEDプラチナ取得に関する情報はこちら

LEED認証とは?

LEED認証取得に向けた具体的な取り組みを紹介する前に、LEEDの概要を説明する。

世界的に地球温暖化対策が求められる中、温室効果ガスの世界総排出量の約40%を占めるとされる不動産のサステナビリティ化は喫緊の課題となっている。そうした中、オフィスや商業施設、ホテル、物流施設といった建築物等の環境性能を評価するシステムがLEED(リード)認証だ。

アメリカの非営利団体である米国グリーンビルディング協会「USGBC®(U.S. Green Building Council)」が2000年から正式に運用を開始。GBCI(Green Business Certification Inc.)が認証の審査を行っている。2022年12月末時点の世界150カ国・地域で100,281件の取得実績がある。名実ともに世界で最も普及しているグリーンビルディング認証といえるだろう。

LEED認証の評価システム

プロジェクトの形態によってLEED認証の主な評価システムは以下の5種類に分けられる。

BD+C(建物設計と建設) 新築または大規模な改修を行う建物が対象。新築、コア&シェル、学校、店舗、データセンター、倉庫と配送センター、宿泊施設、ヘルスケアが対象。
ID+C(インテリア設計と建設) オフィスや店舗、ショールーム、ホテルなどの新築・大規模改修時における一部スペースの内装工事が該当する。
O+M(既存建物の運用-保守) 既存建物における環境性能を管理・運用面を中心に評価する。既存オフィスビルや商業施設、学校、ホテル、物流施設などが対象。
ND(近隣開発) 街区単位の環境性能を対象に、二段階で評価される。計画段階から設計・施工までを対象にした計画認証(予備認証)と、開発完成後に一定期間内に申請することで最終認証を受けることができる。
Homes(ホーム) 新築または大規模な改修を行う戸建て住宅や3階以下の低層集合住宅、4階以上の中層集合住宅が対象。

認証を取得した建物・室内環境は総じて環境負荷の低減に大きく寄与していると認識されている

LEED認証の評価項目

評価項目には下記9つのクレジットカテゴリーがあり、必須条件を満たしたうえで、選択項目のポイントを加算していき、合計点によって4つのレベルに分類される。プラチナ(80ポイント以上)を最高レベルとし、以降、ゴールド(60-79ポイント)、シルバー(50-59ポイント)、標準認証(40-49ポイント)となる。認証を取得した建物・室内環境は総じて環境負荷の低減に大きく寄与していると認識されている。

1 総合プロセス
2 立地と交通手段
3 持続可能な敷地
4 水の効率的利用
5 エネルギーと大気
6 材料と資源
7 室内環境品質
8 革新性
9 地域における重要項目

JLL日本 リサーチ事業部が2023年4月に発表した「サステナブル不動産への道:ビル認証編(以下、同レポート)」によると、2022年12月末時点における日本のLEED認証取得物件は223件。最高位のプラチナを取得しているのは30件(全体の14%)だ。

CASBEEとLEEDの違い

建築物の環境性能を評価する認証制度はLEEDだけでなく、日本国内の認証制度としてCASBEEが知られている。両者ともに評価項目の方向性は「環境負荷・居住者の健康・快適性」なのだが、CASBEEは質(Quality)と負荷(Load)で評価される半面、LEEDは達成した加点項目の点数積み上げで評価される。また、LEEDは評価項目のうち条件達成が必須とされる項目があり、合計点が高いだけでは認証を得られない可能性がある。対してCASBEEは必須条件がない。

また、CASBEEではファシリティのスペックやエネルギー計算結果に対する評価に加え、耐震性、大気汚染や風害、騒音、日照生涯といった敷地外への影響に関する項目が多い点も特徴とされる。加えて、取得費用も相対的にCASBEEのほうが安価とされている。

LEED認証の取得件数が日本でも増加

日本の建築物等は223件と世界22位に留まっているが、直近5年間でみると1年あたり平均24件取得。2013-2017年の5年間の取得実績平均15件/年と比較すると、着実に増えている

LEEDの取得件数が日本でも増えている。JLL日本 リサーチ事業部の同レポートによると、LEED認証を取得している建築物等は2022年12月末現在、世界150カ国・地域で100,281件。そのうち日本の建築物等は223件と世界22位に留まっているが、直近5年間でみると1年あたり平均24件取得。2013-2017年の5年間の取得実績平均15件/年と比較すると、着実に増えていることがわかる。

サステナビリティ戦略を推進する外資系テナント企業

近年の日本でLEED認証を取得した企業として目立つのが外資系のテナント企業だ。例えば、仮想化基盤を提供するグローバル企業であるNutanixの日本法人であるニュータニックス・ジャパンは2020年6月に丸の内エリアに開設した新オフィスにおいてLEED認証の「ゴールド」を取得した他、グリーンビルディングジャパンが公開しているLEED認証取得リストには日本ロレアルやMSD製薬、BMWなどの名も挙がる。

JLLの記事「オフィス環境のサステナブル化に必要な長期的視点とは?」によると、外資系企業の本社が策定した「サステナビリティポリシー」において、執務環境にLEED認証取得を目標に掲げる企業も少なくない。グローバル企業は共通のサステナビリティ戦略としてLEED認証の取得を義務付けるケースも少なくない。

また、不動産・インフラ分野でESG(環境・社会・ガバナンス)への配慮を測り、投資先を選定する際の指標として用いられている国際的な評価ツールである「GRESB(グレスビー/グレスブ)」の参加者が評価スコアを向上させる要件としてLEED認証を含むグリーンビルディング認証の取得が挙げられており、LEED認証を取得する1つの要因となっているようだ。

LEED取得で差別化を図るオフィスビル

一方、テナントの受け皿となるオフィスビル側の取得実績も今後増えていく可能性がある。オフィス市場に詳しいJLL日本 リサーチ事業部 シニアディレクター 大東 雄人は「外資系企業の誘致を視野に現在進行中の大規模再開発でLEED認証やWELL®認証※2を取得する事例もあり、実際に外資系企業が入居を発表した事例もある。オフィスの大量供給を控え、ビルの競争力を向上させ、競合と差別化を図るためにもLEED認証をはじめとするグリーンビルディング認証を取得するオフィスビルが増えていくのではないか」との見解だ。

JLL日本がLEED認証取得を目指した理由

 

JLLはグローバルで定めた企業目標(Purpose)において、「気候変動対策」、「健康的な空間」、「包括的な場所」の3つの領域を設定しており、約1,000㎡を超えるオフィスではLEED認証(ゴールド以上)とWELL認証(シルバー以上)を取得する方針を打ち出している。

そうした中、JLL日本では2022年11月に都内3カ所に分散していたオフィスを統合移転した。新本社オフィスは合計床面積が3,789㎡となったことでLEED認証とWELL認証のプラチナの取得を目指すことになった。LEED認証のターゲットは冒頭に触れた通りインテリア設計・建設分野である「LEEDv4 ID+C: CI)」となる。

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LEED認証取得に向けた具体的な取り組み
入居ビルの選定

今回のLEEDの評価システムでは、内装における省エネ性能のみならず、入居するビルの環境性能も加点対象となる。例えば、前述した評価項目「立地と交通手段」において、公共交通機関が充実している立地は自動車による炭素排出量削減に寄与するため、「建物の敷地境界から400m以内(敷地境界を400mオフセットした範囲内)の建築密度」や「建物の歩行距離400m以内のバスおよび800m以内の電車本数」などの要件を満たす必要があった。そのため、グリーンビルディング認証の取得支援など、環境関連の多彩なサービスを提供しているJLL日本 エナジー&サステナビリティ事業部が移転先の選定にも携わっている。

当該ビルが選定された理由として、前述した立地条件の他、省エネ型空調システムを採用したことでビル自体のエネルギー効率が非常に高かったことや、雨水の再利用による節水効率の高さといったLEED取得に向けて評価の高い高効率設備が整っていたことも挙げられる。

内装工事の施策

LEED「プラチナ」取得に向けて実施した内装工事に関する主な取り組みは以下の8項目となる。

1 オフィス選定時より周辺の環境・エネルギー・水の効率を考慮(オーナーとの交渉含む)
2 エネルギー消費量を抑えた照明設計、機器の選定
3 ビル側での的確なエネルギー計測箇所の設定と、それを利用したモニタリングベースコミッショニングの実現
4 水の効率的利用満点(超節水型器具の採用、共用部の水栓も交換)
5 材料と資源に配慮した設計と建材・家具選定
6 ASHRAE(アメリカの基準)に比べ1.3倍の換気量、かつ高効率フィルタの採用
7 オープンオフィスとし、質の良い眺望に配慮
8 音環境に配慮した設計

前述した通り、LEED認証は9つのクレジットカテゴリーに設定された必須条件を満たしつつ、選択項目の合計点でランクが決まる。それぞれのクレジットに対して実施項目が細分化されており、具体的な取り組みは多岐にわたる。

例えば「4 水の効率的利用」項目であれば、トイレの水を流す1回分の水量に対して具体的な指標が定められており、今回のプロジェクトでは当該項目について満点評価を目指すために専有部のみならず、共用部のトイレ水栓を変更するなど、オーナーの協力が不可欠な点も多かった。

また、「2 エネルギー消費量を抑えた照明設計、機器の選定」では、最低限の照度を確保しながらエネルギー使用量を抑えるため、照明の出力について設計者との連携を強化した他、「5 材料と資源に配慮した設計と建材・家具選定」においては、LEEDのクレジットを取得した建材・什器などの使用が求められており、今回のプロジェクトでは椅子、タイルカーペット、モニターアームなどに採用している。これらの建材は日本で販売されていないものも多く、実際にLEED認証を取得している既存プロジェクトをみても、材料に関する評価項目の得点が伸びていない。当該評価項目は日本国内のプロジェクトでは得点するのが最も難しい項目とされている。

LEED認証取得のポイント

 

物件選定時からLEED認証取得を前提としたプランを遂行できたことが成功の要因

今回のLEED認証取得プロジェクトにおいて最も難しかった点について、プロジェクトを担当したJLL日本 エナジー&サステナビリティサービス事業部長 松本 仁は「LEED認証取得に必要な要件を精査するのはもちろん、すべての工事関係者に伝達し協力をとりつけ、実行しなければならなった。海外発の環境認証であるため、認証取得要件が日本の商習慣、文化とは異なるため、理解してもらうのが最も難しかった」と説明する。

一方、自社の移転プロジェクトであったため、物件選定時からLEED認証取得を前提としたプランを遂行できたことが成功の要因ともいえる。JLL日本 エナジー&サステナビリティサービス事業部 シニアサステナビリティマネージャー 渡部 まきは「通常、グリーンビルディング認証の取得を相談される場合、移転先がすでに決まった段階からプロジェクトに参画することが多い。その場合、入居ビルの性能によってはクライアントが希望するランクを取得するのが困難なケースは少なくない」と指摘する。

また、JLL日本 エナジー&サステナビリティサービス事業部 アシスタントエンジニアリングマネージャー 山本 武史は「移転先を決めてからLEED認証を取得する場合、特に外資系企業はグローバル本社とのせめぎ合いになる。例えば、本社からはゴールド取得を求められる半面、入居ビルの環境性能を鑑みるとシルバー取得が限界といったケースだ。それゆえ、LEED認証取得を視野に入れて移転先の選定を行うべき」とアドバイスする。

LEED認証は目指すランクが高くなるほど、要件が難しくなる。事前に検討を開始する時期を早め、入居先のビルの仕様を確認することが重要だ。今回のプロジェクトでは、設計・施工の期間が短く、LEEDの加点に寄与する材料・機器・家具を選定することを諦めざるを得ない場面もあったという。LEED認証取得に関する豊富な知識・経験を有し、物件選定から工事のプロジェクト管理まで一気通貫で対応できるリソースを持つ専門家の協力が不可欠だ。

LEED認証に関する問い合わせはJLLへ

JLL日本 エナジー&サステナビリティ事業部では、ビルオーナー、テナント企業、投資家など、幅広い顧客を対象にグリーンビルディング認証取得を支援している。今回JLL本社オフィスでLEED認証を取得した経験を活かし、更なるサービス向上を実現。不動産サステナビリティに関する多種多様な課題を解決するサービスを提供していく。

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※1 米国の非営利団体、米国グリーンビルディング協会USGBC(U.S. Green Building Council)が開発・運用し、GBCI(Green Business Certification Inc.)が審査する認証制度。

※2 米国の国際ウェルビルディング研究所IWBI(International WELL Building Institute)が策定し、GBCI(Green Business Certification Inc.)が審査する、人々の健康とウェルネスに焦点を合わせたBuilt Environment(建築や街区の環境)の性能評価システム。

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