ウェルネスオフィスとは?メリットや実践ポイントを解説
健康経営や社員の健康を守ることが企業の責務としてより強く求められる時代になった。ウェルネスオフィスとはどういったオフィスなのか、社員の健康に寄与するオフィス環境を構築するためのソリューションをはじめ、導入の手順や成功事例もまじえて解説する。
ウェルネスオフィスとは?定義や注目されている背景
ウェルネスオフィスとは、社員の心身の健康に配慮した快適な空間を提供するオフィス環境である。適切な空調・照明・防音といった環境整備により、社員がストレスなく健康的に働ける場を実現することで、生産性の向上などさまざまな効果が期待できる。
近年ウェルネスオフィスが注目される背景として、以下3つの社会的要因が挙げられる。
健康経営の重要性の高まり
ESG投資の拡大
生産性向上の必要性の高まり
1つは健康経営の重要性の高まりである。デスクワークによる腰痛や在宅勤務による孤独感・心理的ストレスなど、労働環境において健康課題が顕在化している。2つ目はESG投資の世界的な拡大である。働きやすい環境整備はESG投資の「社会(S)」要素として注目され、ESG投資における重要指標となっている。3つ目に働き方改革や人手不足を背景とした生産性向上も求められている。
さらに、優秀な人材の確保・定着や企業の社会的責任(CSR)活動への評価など、ウェルネスオフィスへの取り組みは多面的な経営価値を生み出す。
ウェルネスオフィスは社員の健康と生産性を両立するオフィス形態
ウェルネスオフィスのメリット
ウェルネスオフィスは、働く社員と企業双方に以下のような幅広いメリットをもたらすことを期待できる。
社員にとってのメリット
快適な職場環境は、社員の満足度を高め、企業への貢献意欲向上にもつながる。
健康増進
生産性・創造性・モチベーションの向上
ストレス軽減
メンタルヘルス改善
社員のエンゲージメント向上
健康増進
生産性・創造性・モチベーションの向上
ストレス軽減
メンタルヘルス改善
社員のエンゲージメント向上
例えば、広々とした公園に隣接したオフィスやフィットネスエリアを設置することで、社員は自然と運動習慣を身につけられる。また、自然光や観葉植物の配置・適切な空調管理により、ストレスが軽減され集中力や作業効率が向上する。さらに、リラックスできる休憩スペースの設置やカフェスペースでのコミュニケーション促進により、メンタルヘルスの改善やエンゲージメントの向上も期待できる。職場環境を改善することで得られる効果や重要性については、こちらの記事も参照していただきたい。
企業にとってのメリット
企業にとってのメリットは以下のようなものが挙げられる。
企業イメージやブランディングの向上
優秀な人材確保
業績の向上
医療コストの削減(医療費・欠勤率低下など)
ESG投資家からの評価
SDGsへの貢献
ウェルネスオフィスの導入で、健康問題による生産性低下を防止したり、医療費・欠勤率の低下といったコスト削減効果が期待できる。また、優秀な人材を確保し、定着率が向上した結果、業績向上に寄与する。社員の福利厚生を重視し、働きがいのある環境を提供することで、ステークホルダーからの信頼と評価が高まるだろう。さらにESG投資における「社会(S)」要素として評価されるほか、企業が取り組むべきSDGsのゴール実現の一環としても注目されている。
ウェルネスオフィスに認証制度
ウェルネスオフィスが健康へ及ぼす効果を示す指標として、LEED認証・Fitwel認証など世界的にいくつかの認証制度が存在する。日本では以下の2つの制度を中心にオフィス設計やオフィス改善を行うと良いだろう。
CASBEEウェルネスオフィス認証
CASBEEウェルネスオフィス認証は、IBEC(建築環境・省エネルギー機構)が提供する認証制度で、建物利用者の健康性、快適性の維持・増進を支援する建物の仕様、性能、取組みを評価する。
評価対象はオフィス用途部分全体で有効期間は5年間である。
評価は以下の3つの軸で行われる。
- 健康
- 知的生産性向上
- 安全・安心
健康面では広さや騒音、採光、空調等を、知的生産性向上ではワークプレイスのカスタマイズ性や休憩・運動スペースの充実度を、安全・安心では耐震性や建材安全性などを評価する。全ての項目を5段階で評価し、結果は一般に公表される。
ESG投資における客観的評価としても活用され、企業の人材獲得や知的生産性向上に向けた有効な指標となっている。
WELL認証
WELL認証は、米国の国際ウェルビルディング研究所のIWBI(International WELL Building Institute)が策定し、GBCI(Green Business Certification Inc.)が認証の審査を行っている、人々の健康とウェルネスに焦点を合わせた、建築と街区環境の性能評価システムで、一般社団法人グリーンビルディングジャパンによると、2024年2月26日時点での累計認証件数は48ヵ国1329件となっている。
主にオフィスビル向けの「WELL v2」と、感染症対策に特化した「WELL Health-Safety Rating」の2種類があり、WELL v2では、「空気」「水」「心」「運動」など10のコンセプトにおいて、各コンセプトの必須条件を満たした上で、選択項目によってポイントを加算して評価を行う。
書類審査と現地での性能検査を経て、獲得点数に応じてプラチナ、ゴールド、シルバー、ブロンズの4段階で認証される。日本でも健康経営やESG投資への関心の高まりを背景にWELL認証の登録・認証件数は年々増加傾向にあり、JLLの調査では、2024年第2四半期末時点で有効な認証を有する物件は57件(前期比11.8%増)となった。
ウェルネスオフィスの具体的な施策例
健康経営につながるウェルネスオフィスを実現する手段には、具体的にどのようなものがあるのだろうか。エリアや施策別に紹介する。
執務スペース
社員が長時間過ごす執務室では、空間の形状、環境、設備の3要素が重要となる。奥行きや天井高による開放感、レイアウト変更の柔軟性を確保し、温度・湿度・照明などの環境を最適化する。また、上下昇降デスクの導入や集中ブースの設置により、作業内容に応じて働く場所を選択できる環境を整備する。
共用部
エレベーター、カフェ、トイレなどの共用部は、社員の快適性と業務効率に直結する。ミーティングや作業など多目的に使えるコミュニケーションスペースは、社員間の交流を促進する場として重要である。
建物全体とビル管理
自社所有のビルでは、建物全体の性能もウェルネスオフィスを念頭に管理する必要がある。外観や内装のデザイン、耐震性、BCP対策など、認証制度の基準を参考に見直そう。
設備管理では清掃や点検を徹底し、テナント間の交流推進や意見聴取により満足度を高める。またツールを活用したCO2濃度や温湿度の見える化により、快適な環境を維持するための運用改善を行う。
エネルギー対策
断熱・遮熱効果のある建築外皮や省エネ設備の導入により、効率的なエネルギー利用を実現する。ビル内のエネルギー使用状況をモニタリングし、無駄のない運用を行う。また、空気環境データを収集・分析し、気流解析やIAQチェックなどを通じて最適な空間を実現する。
適切な休憩スペース
適切な休憩スペースを用意することで生産性や創造性の向上が期待できる。ソファや本棚を設置し、デジタル機器から離れてリフレッシュできる空間を用意しよう。またエクササイズマシンやヨガマットなど運動設備の導入や、カフェスペースの設置も心身のリフレッシュに寄与する。
オフィスの緑化
観葉植物、グリーンウォール、グリーンカーテンなど、オフィス緑化にはさまざまな手法があるため、自社のスペースや状況に合ったものを選ぼう。どの座席からも緑を感じられる環境により、生産性向上やストレス軽減、空気清浄化が期待できる。また窓からの眺望に自然要素を取り入れることで、より効果的なバイオフィリックデザインが実現する。
ウェルネスオフィス実現にはさまざまな角度からのアプローチが有効
ウェルネスオフィス導入の手順と成功ポイント
企業がウェルネスオフィスの導入を検討した際の進め方は以下のとおりだ。ステップに沿って自社に最適な方法を見極め、効果を検証しながら進めよう。
- 目的を明確にする
- 社員の事前ヒアリングを十分に行う
- 適切なゾーニングとレイアウト設計を行う
- 専門家と連携し、アドバイスを受ける
- 振り返りと評価、継続的な改善を続ける
ウェルネスオフィス導入の成功には、まず現状の課題を明確に把握し、具体的な目標設定を行うことが重要だ。アンケートやワークショップを通じて社員の声を丁寧に集め、実際のニーズに即した施策を立案する。限られた予算の中で最大の効果を得るため、優先順位を明確にし、段階的に実施することも有効である。
また、定期的な効果測定と改善のサイクルを確立し、社会情勢やビジネス環境の変化に応じて柔軟に見直しを行うことで、持続的な効果が期待できる。
ウェルネスオフィスの施策は多方面にわたるため、自社に最適な手法に迷うことがあるかもしれない。そのような場合は、過去にウェルネスオフィス・オフィス改善の事例について多数の実績を持つJLLにぜひ相談してほしい。
ウェルネスオフィス導入の成功事例
JLLは「Future of Work」実現のため、2022年11月21日に東京本社を「東京ガーデンテラス紀尾井町」、2022年12月19日に関西支社を「日本生命淀屋橋ビル」に移転した。 東京本社オフィスでは、自然光や植物などの自然を取り込み、内と外を繋ぎ、人が緩やかに集いコミュニケーションが生まれる空間を構築。
関西支社では、大阪の景色や大阪にちなんだアートとインテリアを楽しみながら、社内外のコミュニケーションを増幅する場として、JLLシンガポール、香港、ロンドンなど各国の専門チームとも連携した「グローバル」な要素を表現した。
その結果、本社・関西支社オフィスの両方が、人々の健康の観点から建築や街区の環境性能を評価するWELL認証のWELL v2 pilotで最高ランクの「プラチナ」認証を取得したことからも注目を浴びている。
また「第36回日経ニューオフィス賞」においては、ウェルネスオフィスの視点も評価され、本社オフィスが「ニューオフィス推進賞・クリエイティブ・オフィス賞」、関西支社が「近畿ニューオフィス奨励賞」を受賞した。
ウェルネスオフィス導入のご相談はJLLへ
健康経営やESG投資への注目度の高まり、そして働き方改革の推進により、ウェルネスオフィスの導入は今後ますます多くの企業にとって重要な経営課題となるだろう。社員の健康と働きがいを重視し、持続可能な成長を目指す企業にとって、オフィス環境の見直しは避けて通れない。
JLLは自社オフィスにおいて、WELL認証のプラチナ認証を取得するなど、ウェルネスオフィス構築の豊富な実績を持っています。グローバルネットワークを活かした最新知見と、データに基づく戦略的なアプローチにより、企業の健康経営を実現するオフィス環境づくりをサポートします。企業規模や業態に応じた最適なウェルネスオフィスの導入について、ぜひJLLにご相談下さい。