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ABWとフリーアドレスの違いとは?どちらを導入すべきか判断基準を考える

オフィスに固定席を設けないスタイルのフリーアドレスと、働く場所をオフィス外まで広げ時間も固定しないABW(Activity Based Working)。両者の違いとそれぞれのメリット・デメリット、導入する場合の判断基準とは?

2024年 11月 20日
ABW(Activity Based Working)とは

ABW(Activity Based Working)は、従業員が業務内容や状況に応じて働く場所や時間を自由に選択できる働き方のことである。オランダで初めて提唱されたとされるこのワークスタイルは、個人作業・アイデア出し・打ち合わせなど、業務をアクティビティ(活動)ごとに分類し、それぞれに最適な環境を選べることが特徴だ。

働く場所はオフィス内の個室や共有スペースだけでなく、在宅勤務やカフェなど社外も含まれる。働き方改革やテレワークの普及拡大を受け、日本企業での導入も増加している。
 

フリーアドレスとは

フリーアドレスとは、オフィス内で従業員が固定席を持たず、その日の状況に応じて自由に席を選んで働くワークスタイルである。

部署を超えたコミュニケーションの活性化や社外活動の多い従業員が増えた際のスペース効率化によるコスト削減が期待できる。チームごとにエリアを決める「グループアドレス」など、様々な運用方法がある。

ABWとフリーアドレスの違いは?

両者の主な違いは、フリーアドレスがオフィス内の座席利用ルールであるのに対し、ABWは働く時間と場所の両方を含む包括的な働き方の概念という点だ。

フリーアドレスはオフィス内での勤務が前提だが、ABWは自宅やカフェなど社外での勤務も含む。またフリーアドレスが座席の効率的運用を目的とするのに対し、ABWは従業員の主体性と生産性向上を重視する点も大きな違いである。

ABWは働く時間と場所の両方を含む包括的な働き方の概念であり、座席利用ルールを定める「フリーアドレス」はABWの一部にあたる

ABWとフリーアドレス、自社に最適なのは?

ABWとフリーアドレスは共通点もあるが、いくつかの点では異なっている。ここでは、自社ではどちらを導入するべきか迷った時に役立つ判断基準を紹介する。

目指す企業の姿で判断する

企業のありたい姿や将来像を基準に選定する。たとえば、従業員の自律性を重視し、より柔軟な働き方を推進したい場合はABWが適しているといえるだろう。一方、オフィス内でのスペース効率化が優先課題であれば、フリーアドレスから始めるのが望ましい。

従業員の働き方やニーズで判断する

業務のデジタル化が進んでいる企業や、従業員の自由な働き方へのニーズが高い企業はABWとの親和性が高い。また、外勤が多い営業部門と内勤が多い管理部門が混在する場合は、フリーアドレスによるスペースの有効活用が効果的である。

オフィス環境と設備で判断する

集中ブースや打ち合わせスペース、リフレッシュエリアなど多様な執務環境が整っている場合はABWの導入がスムーズだ。一方で標準的なオフィス環境の場合は、まずフリーアドレスを導入し、将来的なオフィス移転や改装のタイミングでABWへ移行することを検討しよう。

上記の基準に照らしても迷う場合は、専門家に現状の課題を伝えてアドバイスを受けるのも有効だ。さまざまなオフィスタイプの導入実績や、オフィス改革・オフィス移転の支援経験を持つJLLにぜひ相談してみてほしい。

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フリーアドレスやABWを導入する手順

フリーアドレス・ABWのいずれも執務環境の大きな変化が伴うため、適切に進めなければ従業員の混乱を招き、業務に支障をきたしかねない。以下のステップに沿って丁寧に進めよう。

フリーアドレスの導入ステップ
 
  1. 導入目的と課題の明確化

  2. 改善点の洗い出し

  3. 対象部署の選定

  4. 座席数やレイアウトの設計

  5. スケジュール決定と発注

  6. 運用ルールの制定と各部署への周知

  7. 工事や作業の実施

フリーアドレス制を導入する際は、まず自社の目的と課題を明確にし、従業員と共有の上で進めよう。従業員の声や要望と、データを活用したスペースの利用状況やコミュニケーションの実態を把握することで、より効果的な導入が可能となる。

各ステップの詳細や注意点、成功のコツなどについては以下の記事でも詳しく説明しているので、ぜひあわせて参考にしてほしい。

フリーアドレスオフィスの4つのメリットと失敗しないための注意点

ABWの導入ステップ
 
  1. 導入目的と課題の明確化

  2. 社内の現状把握

  3. オフィスレイアウトの設計

  4. 導入環境の整備

  5. サードプレイスの活用を検討

  6. 定期的な見直し

ABW(Activity Based Working)の導入時も、フリーアドレス同様に明確な目的設定と現状分析が不可欠である。従業員の働き方やニーズを丁寧に調査した上で、それに適したレイアウト設計を行い、必要な制度改革やIT環境の整備を進める。

コワーキングスペースなどのサードプレイス活用も視野に入れて柔軟な働き方を実現したい。導入後も定期的な見直しを行い、環境変化に応じて継続的な改善を図ることが成功への鍵となる。

ABWの詳細については以下の記事でも詳しく解説しているので参照してほしい。

ABWとは?メリット・デメリット、導入方法、オフィス事例
 

ABW・フリーアドレス導入時の注意点と成功のポイント

ABWやフリーアドレスの導入時には執務環境が大きく変わるため、以下のような点にも留意して成功につなげたい。

上司と部下の信頼関係を築く

固定席からフリーアドレスやABWに移行した際には、物理的な距離が離れることで従来の直接的な管理や指導が難しくなることが懸念される。

チャットツールやオンラインミーティングを活用した新しいコミュニケーション体制を確立し、業務の進捗状況を共有できる仕組みを整備しよう。また従業員の自律的な働き方を尊重し、相互信頼に基づいたマネジメントスタイルへの転換を図る必要がある。

段階的な導入

全社一斉導入ではなく、特定の部署・スペースのみの試験運用から始めることも一考に値する。想定外の課題の早期発見や、必要な設備・ルールの見直しが可能となるためだ。

このような試験的な運用を行うオフィスを「パイロットオフィス」ともいい、自社にとって最適なオフィス形態が完全に定まっていない時期や、社内に急激な変化に対する抵抗感が強い場合などに特に有効である。

試験運用で得られた知見を活かし、課題への対処を行った上で本格導入に移行することで、スムーズな全体への展開が期待できる。

設備・運用両面での環境整備

セキュリティや業務上のトラブルの心配なく円滑に働けるよう、以下のような物理的なインフラ整備は不可欠だ。

  • ペーパーレス化に向けたクラウドサービスの導入

  • モバイル端末の配布

  • セキュリティ対策

同時に、

  • 勤怠管理や評価制度の見直し

  • ITサポート体制の構築

  • メンタルケアの充実

など制度運用面での整備も重要となる。両面からの適切な環境づくりが、生産性向上とワークライフバランスの実現につながる。

ABWやフリーアドレスの導入を専門家に相談する

ABW・フリーアドレス導入時には、現場の働きやすさやセキュリティが損なわれないようハードとソフト両面の環境整備が欠かせない

ABW・フリーアドレス導入の成功事例

ここからは、多数の導入例の中から、フリーアドレス・ABWの導入により成果を上げている企業の事例を紹介する。

ABW成功事例:資生堂グローバル本社オフィス

2021年4月末にリニューアル工事が完了した資生堂グローバル本社オフィスは「GLOBAL VISION CENTER(以下、資生堂GVC)」と名付けられた地上22階地下2階のオフィスビルだ。

グローバル本社にふさわしい事業戦略拠点として「全従業員が常にブランドを体感し、ビューティーイノベーション創発」を実現できるABW型オフィスへと生まれ変わった。

オフィス開業後の従業員アンケート調査において、回答者の96%が改装後のオフィスを「創造性を喚起するオフィス環境になった」と回答。同オフィスは2021年度の日経ニューオフィス賞を受賞している。

フリーアドレス成功事例①:GMOあおぞらネット銀行

インターネット銀行事業を展開するGMOあおぞらネット銀行は、2019年12月「渋谷フクラス」にオフィスを開設した。

約300席のうち、ネット銀行業務のオペレーションやコールセンターなど一部固定されたエリアは存在するものの、大半はフリーアドレスを採用し執務スペース内に様々な機能をもたせている。

ファシリティや各エリアの利用目的をあえて指定せず、パートナー(従業員)が主体的に活動でき、自由な発想を生み出しやすい快適な環境づくりに主眼を置いたという。

フリーアドレス成功事例②:アサヒグループホールディングス

飲料・食品メーカー大手のアサヒグループホールディングスは、2021年4月以降、全国の営業拠点55カ所を26カ所へ統合集約を順次進める他、2022年2月には吾妻橋本社オフィスの全面改修を完了させた。

全国規模の地方拠点集約統合とリニューアルについては、大幅にオフィス面積が縮小されるため「出社しても座席を確保できない」など従業員にとって心理的な懸念が生じるなか、丁寧な説明と新しい働き方へのワクワク感を醸成。

新オフィスはフリーアドレスを採用、在宅勤務と組み合わせて出社人数を従業員比30%に抑え、拠点集約による床面積縮小による影響を最小限に抑えつつ使い勝手の良いオフィス空間を実現した。

オフィス改革・最適化のご相談はJLLへ

フリーアドレスやABWを含む、オフィスタイプの選定や、戦略的なオフィス改革について、選択肢の多い現在だからこそ、どの形態が自社にとって最適なのか判断に迷う企業も多いのではないだろうか。

オフィス最適化で迷ったときは、豊富なオフィス移転・オフィス改革の実績を持つJLLにぜひご相談を。

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