これからの働き方改革の目的と戦略を再定義
「働き方改革」が叫ばれるようになって久しいが、2020年以降はコロナ禍という新たなファクターが加わったため、従来の枠組みや概念では対応できなくなってきている。ニューノーマルの視点を持ったオフィス戦略や働き方改革の見直しに必要なポイントを解説する。
今までの働き方改革の目的と取り組み
日本における「働き方改革」は、2017年に厚生労働省により発表された「働き方改革実行計画」に基づき、賃金や労働環境の改善、ライフスタイルに合わせた柔軟な働き方の実現などを目標に推進されてきた。よりよい労働環境や働きやすさは従業員のパフォーマンスやロイヤルティを向上させ、業績の成長や人材確保、対外的なブランディングなど、企業にとって最重要課題ともいえる諸問題の解決・改善につながるため、すべての企業にとって避けて通れないものであり、多くの企業が取り組んできた。
企業が直面する「働き方改革」の課題
2020年からのコロナ禍により社会全体にパラダイムシフト(価値観の転換)が起こり、多くの企業が、それまでの「全社員が都心のオフィスにフルタイムで出勤する」といった前提によらない多様な働き方を現実的に検討する必要に迫られた。しかし、2021年にJLLの実施した調査レポートによれば、一時的なテレワークや在宅勤務を余儀なくされた日本企業の従業員のうち、オフィスでの勤務と比べ「より生産性が高い働きができた」と回答したのは21%にとどまり、単純に在宅勤務が歓迎されるわけではないことも判明している。
こういった状況のなか、真に求められる働き方改革や、企業の担当者が選ぶべき最適な施策とはどのようなものなのか、見極めは非常に難しくなっている。
▼企業が従業員のためにできることは?自社オフィスは従業員の多様なニーズを満たしているのかどうかを確認する方法は?等、専門家がオフィスの新しい役割とワークプレイスの未来を形作るためのアイディアや課題について議論した以下の動画もぜひ参考に。
これからの働き方改革に不可欠なオフィス戦略
ニューノーマルのオフィスには、より柔軟な働き方に対応できる設計が求められている
ニューノーマルの要素を包括した今後の働き方改革では、自社にとって最良のワークプレイスとはどのようなものかを把握し、それに沿った事業拠点の決定とニューノーマルに対応するテクノロジーの導入などの検討が必要である。先行きの不透明さが残る中でも、一定のロードマップを策定し、今できる施策から実行していくことが不可欠であろう。
従業員の新しい期待に応えたオフィスデザインへの見直し
ニューノーマルのオフィスには、過去と比較してより柔軟な働き方に対応できる設計が求められている。ただ「自社にとっての最適解」は千差万別なため、従業員の生産性やスペース利用率といったデータを時系列で収集・活用し、どのような仕事の進め方が自社にとって望ましいのかを検討すべきである。また多くの従業員は、対面での交流や商談、同僚との共同作業を望んでいるというデータもあり、それらの目的を満たせる場としてのオフィスを念頭にデザインを見直していく必要がある。
ニーズに沿ったオフィス立地戦略の策定
自社従業員のニーズや、クライアントおよび各ステークスホルダーに向けての利便性やブランディング方針等を絞り込んだら、その条件に合った立地戦略を開始する。財務状況への影響、企業カルチャー、業務の効率化などに加え、コロナ禍によって従業員の居住地が都市から郊外へと分散する傾向もふまえて最適な立地を選定する必要がある。
新しい戦略の実行と効果検証
経済が動き出しつつあるものの、いまだアフターコロナの世界がどうなるのかは確定的ではない。こういった状況では、大きな先行投資の前に、特定の拠点などを対象に新しいオフィス戦略の実証実験を行い、計測結果と効果測定の結果をもとに、全社的な新基準を導き出すべきだろう。
オフィスの価値を再考し、独自の戦略を見出した成功事例
企業として、多角的な視点を持ちつつ、人間中心デザインによるオフィス戦略を実践していくことは、これからの働き方改革に欠かせないポイント
最後に、いち早く新しい時代の働き方改革に着目し、コロナ禍の2021年1月に新しく本社オフィスを開設した企業の事例を紹介する。人材サービス事業を展開するB社は、複数の事業拠点を統合し、将来的に事業規模を拡大していくための戦略拠点として移転プロジェクトを始動。労働生産性の向上や社内コミュニケーション活性化に加え、顧客に対して自社サービスの品質を体感してもらうため、オフィスを「おもてなしの場」としても活用している。独自の企業特性を活かし、コロナ禍でのオフィス戦略をアップデートしたことにより、従業員の新しい働き方も見出すという結果にも繋がっている。企業として、多角的な視点を持ちつつ、人間中心デザインによるオフィス戦略を実践していくことは、これからの働き方改革に欠かせないポイントとなってくるだろう。