金利上昇局面の日本不動産市場における海外投資家の動向
大統領選の結果を受けて、米国ではインフレ懸念が再発。それに伴い日本でも金利が上昇するなど、不動産投資市場へのインパクトは避けられない。こうした金利上昇局面において海外投資家は日本の不動産市場をどのように見ているのか? 海外投資家の最新動向と今後の展望を解説する。
活況を呈す日本市場だが、海外投資家による取得が減少
JLLの調査によると、2024年第1-3四半期における国内不動産投資額は3兆8,567億円、前年同期比40%増を記録、2023年通年の投資総額を上回った。
国別に見た2024年上半期における不動産取引額において日本は170億米ドルで世界3位。対前年比でプラスとなり、2位の英国に肉薄するほどの好調ぶりである。
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一方、その好調さを支えているのは国内投資家であり、海外投資家による日本への投資額は前年同期比で大幅に減少している。JLLが調査したところ、海外投資家による取得額から売却額を差し引いた「ネット取引額」は2023-2024年の2年連続で売り越している。
日本市場のさらなる活性化には巨額の投資マネーを有する海外投資家の存在は欠かせない。海外投資家の投資戦略に詳しいJLL日本 キャピタルマーケット事業部 リサーチディレクター 内藤 康二に日本における海外投資家の動向について聞いた。
ドライパウダーの推移から読み解く海外投資家の動向
海外で金利上昇が落ち着いてきたことでコア系のファンドレイジングが徐々に増えている
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アジア太平洋地域の状況
海外投資家の動向を読み解く上で、内藤が着目するのが「ドライパウダー(投資を待機するエクイティ/投資待機資金)」の推移である。
まずは、アジア太平洋地域全体における外資系投資家のドライパウダーの状況を見ていきたい。JLLの調査によると当該地域全体で2024年に積み上がったドライパウダーは約500億米ドルであり、日本の平均的な年間投資額(約4兆円)の2年分に相当するという。
投資戦略別にみると、コロナ以前はバリューアッド・オポチュニスティック系がドライパウダーの8-9 割を占め、コア・コアプラス系が10%前後で推移していた。しかし、2024年はコア・コアプラス系が3割を占めるまでに拡大している。この理由について、内藤は「ようやくコア系のファンドレイジングが可能になってきたため」と指摘する。
「金利上昇局面では米国の10年物国債の利回りが5%となるなど、特にコア系投資家を中心にリスクフリーの国債へ投資先をシフトさせていると考えられ、不動産への投資が停滞した。しかし、海外で金利上昇が落ち着いてきたことでコア系のファンドレイジングが徐々に増えている」(内藤)
日本の状況
海外投資家による日本向けのドライパウダーもアジア太平洋地域と同様の傾向がみられる。コア・コアプラス系のドライパウダーが徐々に増えており、バリューアッド・オポチュニスティック系が微減している。
一方、日本における海外投資家のAUM(運用資産)の推移をみるとコア・コアプラス系のAUMが少しずつ伸びている。2021-2022年に比べるとドライパウダーは減少しているものの、内藤は「依然として膨大な金額が積み上がったままの状況を鑑みると、日本においてはドライパウダーが期待する利回りを提供している投資機会が限定的であり、いわゆる『買いたくても買えない』状況が継続している」と推測する。
ちなみに、2024年の日本市場における海外投資家のセクター別投資額割合をJLLが調査したところ、最も高い割合を示したのが物流施設やデータセンターなどの産業用不動産セクターで70%超を占める他、ホテルも取引額の44%を海外投資家が占めている。
その半面、コア系の投資家が好むオフィスと賃貸住宅の割合は低く、前者が10%、後者が20%程度(前年は6割超)にまで低下している。他方、商業施設は国内投資家に人気のネイバーフッド型ショッピングセンターが市場を牽引したものの、海外投資家が選好する都心商業は価格目線が合いにくい状況になっているため、海外投資家による投資割合は5%台にとどまった。
海外投資家が2025年の日本市場を活況に導く
売り先行だった海外投資家が取得と売却の双方を同時並行で進めていくことが予想され、海外投資家が2025年の日本市場を活況に導くだろう
投資機会
内藤は「2024年上半期の傾向を見る限り、海外投資家は『売り先行』の姿勢を崩していないものの、ファンドレイジングが増加傾向になり、ドライパウダーがこれまで以上に積み上がってくることが容易に考えられる。
そのため、これまで売り先行だった海外投資家が取得と売却の双方を同時並行で進めていくマーケットが到来することが予想され、「海外投資家が2025年の日本市場を活況に導く」と予測している。
セクター別では、コア系のドライパウダーの消費先として最も有望なのがオフィスであり、次いで賃貸住宅や高稼働・長期賃貸借契約を締結している物流施設などが高い人気を博すとみている。加えて、低稼働・未稼働物件など高い賃料アップサイドが見込めるバリューアッド・オポチュニスティック系の投資先は引き続き人気を維持しそうだ。
エリアにおいては2024年に続き大阪マーケットの人気が継続するものとみられる。内藤によると「万博効果のみならず、大阪マーケットに対する海外投資家の市場理解が進んでおり、東京以外の消去法として選ばれているのではなく、大阪を好んで投資する海外投資家が増えている」という。
世界的に見ても高稼働を維持するオフィスビルをはじめ、安定した稼働率を誇る不動産不動産が豊富な日本市場。コア系に適したマーケットとされ、依然として低金利によるキャッシュ・オン・キャッシュ利回りが見込める世界でも希少なマーケットとして海外投資家を魅了し続けていくだろう。
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一方で、内藤は「ドライパウダーの多くの割合を占めるのがバリューアッド・オポ系であり、リスクを取りながら妙味のある投資先をいかに発掘していくか」が、日本市場のさらなる活性化に向けた課題に挙げている。
2025年は日本市場において海外投資家がどのように活動するのだろうか? JLLは引き続き海外投資家の動向を注視していく。
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