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【前編】2024年に過去最多の大量供給を迎える大阪オフィスマーケット

2024年、過去最大のオフィス新規供給がなされる大阪。市況悪化を懸念する声が聞こえてくるが、JLLでは「供給集中期」と定義し、短期的には需給バランスに影響を及ぼすが、中長期的には大阪オフィスマーケットにとって好材料になると分析している。本稿では前・後編の2回にわたり大阪オフィスマーケットを展望する。

2024年 05月 07日
はじめに

1973年、「大阪大林ビル(現北浜ネクスビルディング)」と「大阪国際ビルディング」が竣工した。大阪初の100m超のオフィスビルとして、通称“黒ビル”、“白ビル”と呼ばれるランドマークビルが誕生した。以後、半世紀の時を経て、2024年に大阪オフィスマーケットは過去最多の新規供給を迎える。本項ではこの新規供給が大阪オフィスマーケットにどのようなインパクトを与えるのかを考察する。

新規供給量の動向

Aグレード中心の新規供給は短期的には需給バランスの悪化を生み出すが、中長期的には大阪のオフィスマーケットにとって好材料

図1:大阪オフィスマーケットの新規供給動向 出所:JLL日本

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図1は大阪のオフィス新規供給量の推移を示したものである。2008-2027年までの20年間の新規供給量は55.1万坪、1年あたり2.7万坪となっている。

大阪の新規供給の特徴として、新規供給がAグレードに集中していることが挙げられる。20年間の新規供給量のうち46.7万坪がAグレードで、全ストックに対するAグレードの割合は85%となっている。

この要因は、大阪(地方都市全般)におけるオフィス供給への警戒感が供給サイドで高まったことが一因として考えられる。1990年前後のバブル経済崩壊後の東京一極集中の進展によって、大阪をはじめとする地方都市のオフィス需要が減退し、需給の悪化とともに賃料下落が進んだ。このため、事業者が大阪でオフィス供給を行う際には、オフィスビルとして市場競争力の高い好立地かつ最新スペックを備える大型ビル=Aグレードを中心にした。

Aグレード中心の新規供給は短期的には需給バランスの悪化を生み出すが、中長期的には大阪のオフィスマーケットにとって好材料であることは間違いない。

かつて、90年代のバブル経済期はBグレード以下の小型のオフィスビルが乱立。2000年代前半のファンドバブル期にはオフィスビルとしての立地やスペック、規模といった競争力に疑問のあるビルが乱立した。しかし、現在進行している新規供給の大半は、梅田や御堂筋沿いといった大阪の顔と言うべくオフィスエリアで行われている。

2024年の大量供給は「過剰」ではない

本稿のタイトルを「2024年 過去最多の大量供給を迎える大阪オフィスマーケット」としている。これが過剰供給を意味するのかどうかについて言及したい。

結論を先に述べれば、筆者は「過剰」という見方をしていない

2024年の新規供給量は確かに単年では過去最多であるが、単年の新規供給だけで大阪のオフィス市況を判断すべきではない。

供給のボリューム面に着眼すれば、前回の大量供給期(2008-2013年)は26.3万坪、平均4.4万坪。一方、今般の新規供給集中期(2022-2027年)の新規供給量は20.3万坪、1年あたりの新規供給量は3.4万坪であり、前回を下回っている。また、その後の8年間(2014-2021年)は新規供給抑制期となり、同期間の新規供給は8.4万坪、1年あたりの新規供給量は1.1万坪に減っている。

新規供給抑制期を迎え、大阪ではオフィスの著しい需給のひっ迫を招き、多くのテナント(企業)が十分なオフィススペースを確保できず、需要が潜在する結果を招いた。途中、コロナ禍となったために結果的に潜在した需要が顕在化することはなかったが、足もとではオフィスを拡張する動きや立地やビルスペックを改善するために移転をしたいと考えるテナントのニーズが再び増えている。

こうした背景を踏まえると、供給のボリューム面だけに着眼すれば、2024年はテナントにとっても歓迎すべき好機であり、2024年の過去最多の新規供給は過剰供給ではなく、「供給集中期」という見方をするのが妥当である。

新規供給集中期(2022-2027年)の動向

今般の新規供給集中期(2022-2027年)の進捗は 2023年12月末時点で26%が竣工済、同期間に竣工済のビルの稼働率は88%

図2:大阪オフィスマーケットの今後の新規供給量(グレード・エリア別) 出所:JLL日本

今般の新規供給集中期(2022-2027年)の進捗は 2023年12月末時点で26%が竣工済、同期間に竣工済のビルの稼働率は88%となっている。竣工前のリーシング活動が活発に行われるタイミングがコロナ禍であり、テナントの動きに鈍さがあった上に大阪では高額賃料帯となるビルが多数含まれる中でのこの稼働率は順調な進捗といえる。

図2は大阪オフィスマーケットにおける今般の新規供給集中期(2022-2027年)のグレード・エリア別の新規供給量の推移を示したものである。

グレード別にみると、今般のAグレードが93%、 Bグレードが7%となっている。エリア別にみると、梅田46%、淀屋橋31%、本町10%、その他13%となっており、大阪を代表する3つのオフィスエリアが全体の87%を占めている。今般の新規供給集中期の主役はAグレードかつ大阪屈指の好立地のビルであることが鮮明となっている。

2024年の新規供給の目玉はエリアとしてみれば梅田であろう。「JPタワー大阪」、「イノゲート大阪」、「グラングリーン大阪」は大阪を代表する新たなランドマークビルとなる。いずれもオフィスだけではなく、商業、ホテル、住宅、エンターテイメントなど多岐にわたる複合開発である。

これらの開発によって梅田は「働く、遊ぶ、暮らす」街として、エリア全体の地域ポテンシャルをさらに向上させるための起爆剤となろう。リーシング状況は個々に濃淡あるものの、引き合いを含めると総体的に50%程度とみられる。

Aグレードオフィスの高額賃料帯にテナントはついてくるか?

かつての大阪であれば、ほぼ一方通行でオーナー側の妥協(賃料ディスカウント)によってリースアップが進む傾向があったが、今般はテナントも相応の妥協(賃料を許容)することになるのではないか

大阪では経済活動が本格的に回復しオフィス需要が戻りつつある 画像提供:PIXTA

唯一かつ最大の懸念事項はこれらの物件の高額賃料帯にどこまでテナントがついて来られるかどうかである。各物件の優れたクオリティからすると入居を検討するテナントはいくらでもいるといっても過言ではないが、賃料負担がネックとなるのが実情である。

一方、オーナーの設定する賃料も物件の属性からすると、けっして割高の賃料設定であるわけではない。こうした状況となった場合、どのような着地となるのだろうか。

かつての大阪であれば、ほぼ一方通行でオーナー側の妥協(賃料ディスカウント)によってリースアップが進む傾向があったが、今般はテナントも相応の妥協(賃料を許容)することになるのではないか。

その理由は、コロナ禍以前、長期にわたって大阪のオフィスの需給が著しくひっ迫したことで、オーナーが大阪でも賃料(継続を含む)が上昇することに気づき、実現したことで、むやみにディスカウントに頼るリースアップをしなくなったことが考えられる。

また、テナントも必要なオフィススペースは確保できるときに確保しないと、不本意なスペースどころかスペース自体を確保できないというリスクに晒されることを体感しており、オーナーとの交渉を合理的に判断(妥当な賃料の受入れ)するといった変化がみられるようになっている。

大波乱はない

こうした背景を踏まえ、筆者の考えるメインシナリオは、オーナーの募集条件とテナントの予算が双方10%程度歩み寄った条件で着地するとみられる。この条件下であれば、かつて新築のランドマークビルが高稼働するまでに2-3年を要したようなことにはならず、今般の新規供給集中期に大阪オフィスマーケット全体に大きな波乱をもたらすことにはならないだろう。

【後編】では、大量供給による賃料・空室率への影響を詳細に分析すると共に、大阪オフィスマーケットの今後の行方について考察する。

【後編】へ続く

オフィスデータの定義

  • 調査対象エリア:大阪市中心5区(北区、中央区、浪速区、西区、淀川区)のオフィス集積エリア
  • グレード:Aグレード(延床面積:15,000㎡/4,538坪以上、基準階面積:600㎡/182坪以上、築年数:1990年竣工以降)、Bグレード(延床面積3,300-15,000㎡/1,000-4,538坪未満、築年数:1982年竣工以降)

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【執筆者:JLL日本 関西支社 リサーチディレクター 山口 武】

連絡先 山口 武

JLL日本 関西支社 リサーチディレクター

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