アジア太平洋地域のライフサイエンス不動産市場
コロナ禍を受けて健康・ウェルビーイングに注目が集まる中、アジア太平洋地域のライフサイエンス企業はさらなる事業拡大に向けて国内外で不動産戦略を強化しようとしています。本レポートではJLLが実施した調査をもとにライフサイエンス業界にける不動産需要の将来展望について分析しました。
コロナ禍におけるワクチン開発で一躍脚光を浴びたライフサイエンス業界が飛躍の時を迎えている。少子高齢化に対応するための医療体制の構築、健康・ウェルネス意識の高まりによる高品質な医療サービスの開発など、人々の期待が高まる中、ライフサイエンス企業の多くは国内外で事業成長の足場を固める段階に入っている。
JLLが実施したアンケート調査によると、アジア太平洋地域に本社を構えるライフサイエンス企業のCRE責任者の82%が「2025年までにライフサイエンス企業の集積地としてアジア太平洋地域の重要性が高まる」と回答。さらに「全世界で使用する不動産スペースのうち、今後10年間でアジア太平洋地域の比重が高まる」との回答が87%を占めた。その背景には、①質の高い人材の供給力、②地域内で存在感を高めるライフサイエンス企業の集積、③消費需要の高まりの3つの要素があり、これらの3つの要因はアジア太平洋地域全体の不動産需要の増加に寄与すると考えられている。また、ライフサイエンス業界が注目する都市としてシンガポール、上海、北京、香港の4都市を挙げており、これらの都市では2025年までにライフサイエンス不動産の需要増加が予想される他、アジア太平洋地域での事業拡大を志向するライフサイエンス関連のグローバル企業は、その他の魅力的な都市として、ムンバイ、東京、シドニー、パース、ベンガルール、ジャカルタなどを挙げている。
一方、ライフサイエンス業界で人材の獲得競争が激化する中、「高品質の不動産を確保することが優秀な人材の獲得に不可欠」との回答は全体の83%を占めたものの、アジア太平洋地域ではライフサイエンス企業が求める高品質かつ専門性の高い不動産の供給が限定的であるため、今後の需要増に対応しきれない市場もあり、なかでも日本、タイ、香港、シンガポールは将来的に旺盛な需要が期待されるものの、企業の希望条件に合致した不動産を確保することが難しいと見られている。しかし、デベロッパーや投資家にとっては一部の市場に見られる供給不足は、テナント企業が長期的に不動産を確保し、賃料プレミアムを支払うインセンティブにつながる可能性がある。