デベロッパーと投資家のためのブランデッドレジデンスガイド
大幅な利上げや建築コスト高騰を受けて世界の不動産市場において有名ホテルなどのブランド名を冠した「ブランデッドレジデンス」に対する注目度が急上昇している。自動車やアパレルなどの消費財ブランドの参入も相次ぐ。本レポートでは、ブランデッドレジデンスの魅力をはじめ、開発・投資の際の検討事項などを解説する。
ブランデッドレジデンスとは?
ここ数年、ホテルデベロッパーや投資家の間で、ブランデッドレジデンス(ホテルなど有力ブランド名を冠したレジデンス)を組み込んだ複合用途開発への関心が急激に高まっている。ホテルとレジデンスの相乗効果により、宿泊者・居住者双方に充実した体験を提供でき、なおかつ、レジデンス区画の売却益が投資家へのリターン向上にもつながるため、とりわけラグジュアリーセグメントでは非常に重視されるようになってきている。
ブランデッドレジデンスが誕生したのは1920年代に遡る。セントラルパークを一望できるラグジュアリーアパートメントを併設した「シェリーネザーランドホテル」がニューヨークに開業したのが始まりだ。そして、東南アジア屈指のリゾート地であるプーケットに1988年に開業した「アマンプリ」がアジア太平洋地域初のブランデッドレジデンスとされている。
ブランデッドレジンデンスの歴史を紐解くと、市場を牽引してきたのがラグジュアリーホテルブランドである。市場リーダーと目されるのはマリオットインターナショナル(リッツカールトン、セントレジス)、フォーシーズンズ、アコー(フェアモント、パンヤンツリー)であり、近年急成長を遂げているのがマンダリンオリエンタルとローズウッドだ。前者は17棟、後者は18棟の開発を控える。
さらに近年では消費財ブランドがブランデットレジデンス市場へ進出している。ポルシェデザイン、アストンマーティンといった自動車系、アルマーニやミッソーニなどのアパレル系が代表的な事例だ。
ブランデッドレジデンスが増える背景
ブランデッドレジンデンスは主に富裕層(HNWI)をターゲットとしているため、ラグジュアリーやウルトララグジュアリーセグメントに集中している。こうした住戸は本邸や別荘として活用されるが、立地によって用途が左右される。本邸用のブランデッドレジデンスは都市部・人口密集地域に立地する一方、別荘向けはリゾートデスティネーションに立地する傾向がある。コロナ禍で勤務形態の自由度が高まった結果、観光地としての性格が強い市場でブランデッドレジデンスが急増しており、コロナ収束後もこの傾向が続く見通しだ。さらに、過去数年で富裕層の数・資産規模が拡大していることもブランデッドレジデンス市場にとっては追い風になっている。
有名ホテルのブランド名に付随する付加価値や知名度を利用することで、デベロッパーや投資家にとっては優良な顧客体験を提供するという「品質保証」を得ることができる。かつ新規参入が相次ぐ市場で差別化を図る一助にもなる。いまや世界中で富裕層向けの不動産開発おいてにブランデッドレジデンスを組み込むケースが増えている。
ブランデッドレジデンスのメリット
コロナ禍や地政学的リスクによって世界経済の先行きに不透明感が顕在化し、大幅な利上げや建築コストの高騰を引き起こした。この結果、デベロッパーや投資家の間では、従来のホテル開発プロジェクトの採算性に対する懸念が深まり、その半面、ブランデッドレジデンスへの関心が高まることになった。また、デベロッパーや投資家のみならず、買主やブランドにとっても経済的メリットがもたらせることもブランデッドレジデンスに注目が集まる理由となっている。ステークホルダーが享受できるメリットを下記にまとめた。
デベロッパー・投資家のメリット
- ノーブランドの高品質住宅に比べてプレミアム価格を設定できる
- 買主からの手付金をプロジェクト資金に充当できる
- ホテル単体の開発よりも高リターンを得やすく、資産価値にプレミアムがつく可能性
- ブランドイメージを活かし、競合物件との差別化や販売効率の改善につなげることができる
買主のメリット
- ブランド名が取得物件の品質保証として機能する
- ブランドの名称使用を許諾することで投資リスクの不安を解消
- ブランドが提供する多彩なサービスを「アラカルト方式」で自由に利用できる
- 不在中の維持管理やセキュリティなどをブランドに一任でき、不動産所有に伴う手間を解消
- レンタルプログラム活用による賃料収入で管理費の補填、投資資金の回収も可能
- 住宅相場を上回る付加価値を備え、長期的なリセールバリューをもたらす
ブランドのメリット
- 住宅市場への参入による事業拡大や多角化を推進
- プレミアムを上乗せした利益を確保でき、投資目標を達成しやすくなる
今後、ブランデッドレジデンスは世界のあらゆる地域で不可欠なビジネスモデルになる見通しだ。米国やアジアなどで確固たる地位を築いており、今後は欧州や中東、アフリカなどの市場でも著しい成長が予想されている。