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アフターコロナ時代に必要なオフィス改装のポイントとは?流れと注意点

働き方の変化に対応すべく、オフィスの改装を考えている企業は少なくない。オフィス環境を一新する移転とは異なり、既存のレイアウトや内装デザインを課題に沿って改善し、従業員のモチベーションやエンゲージメントの向上が可能な執務環境へと改善する。成功へ繋げるには、戦略に則ったプロセスとポイントが欠かせない。

2021年 06月 01日
アフターコロナを見据えたオフィス改装に対する企業意識
そもそもなぜオフィス改装が必要なのか?

近年の社会情勢や働き方の変化をうけて、グローバルな経営者層のオフィス環境に対する意識も変化し、その多くが既存オフィスに何らかのアップデートが必要だと考えている。

JLLが実施した従業員1,000人以上の国内企業を中心とした経営層に対するアンケート調査の回答データからは、2020年からのコロナ禍で急激に普及したリモートワークと従来のオフィス出社を組み合わせ、さらにコワーキングスペースやシェアオフィスといったサードプレイスも含めた働き方である「ハイブリッドワーク」が主流になると考えている経営層が多いと読み取れる。

また、このような働き方の変化に対して会社側からどのようなサポートが必要かという質問に対しては「働き方改革に合わせた既存オフィスの見直し(レイアウト・改修など)」が46.8%、「サテライトオフィス(自社・外部コワーキングスペース)の設置」が43.6%、「リモートワークに適したインフラ・テクノロジーの整備・改善」が37.6%というオフィスに関する経営層の現状意識が明らかになった。

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多くの企業で、ハイブリッドワークの本格的な導入やサテライトオフィスの設置といった働き方の変化に合わせた既存オフィスの見直しが、中長期的な将来を見据えた重要な選択肢になると考えていることが窺える。

「経営層に聞く『ニューノーマルな働き方に向けた選択とは!?』」より一抜粋 出所:JLL

【企業】がオフィス改装から得られるメリットと効果

オフィス改装によるメリットは、企業側・従業員側それぞれの特性や目標によって数多く存在するが、まずは企業側の主なメリットを4つ確認しよう。

オフィス改装によるメリットは、企業側・従業員側それぞれの特性や目標によって数多く存在するが、まずは企業側の主なメリットを4つ確認しよう。

オフィス内スペースを最適化できる

1つ目はオフィス内スペースの最適化による有効利用だ。オフィス出社とリモートワークとのハイブリッド化により、従業員がオフィスに求めるニーズが大きく変化すると考えられ、この変化から使われなくなるスペース、あるいは新しく補完すべきスペースが生まれると予想される。オフィスレイアウトやデザインへニーズの変化を組み込むことで、新しいオフィス空間が創られる。

コスト削減が見込める

2つ目は、コストの見直しだ。スペースを最適化することで余剰を解消し、コスト削減に繋げたり、テクノロジー導入を目的としたオフィス改装による長期的な視点でのコスト削減や費用対効果等へ寄与する。

従業員のエンゲージメントが向上する

3つ目は、従業員による企業へのエンゲージメント向上だ。コロナ禍でオフィスの在り方が再定義され、訪れる価値のある場であることが必要不可欠となった。オフィスという空間が「ただ働く場所」ではなく「従業員にとっての企業の価値を実感できるような場所」であることが求められていることを物語っている。この変化に対し、オフィス改装は長期的な企業経営観点からも必要であるといえる。

企業のブランドイメージが向上し、採用力が上がる

4つ目は、オフィス空間を改装することで魅力が向上すれば、従業員・顧客・取引先だけでなく、就職や転職を考える人材に向けてもブランディング効果を高めることができ、採用活動にも有利に働く。改装を行う場合、写真や動画を撮影し、自社サイトや会社案内、広告等で訴求することもできる。

オフィス改装の成功事例を見る 

 

【従業員】がオフィス改装から得られるメリットと効果

続いて、従業員にとってのオフィス改装のメリットを3つ挙げる。

モチベーションが向上する

改装によって業務がスムーズに行えるようになったり、快適性が増したり、カフェテリアなどの設備が充実することで、従業員が「出社したくなるオフィス」を実現することができ、モチベーションの向上も期待できる。

コミュニケーションが活性化し生産性が向上する

オフィス改装を機に従業員同士のコミュニケーションを促すエリアを新設し、従業員の生産性向上をもたらしている企業も多い。ときには部署を超えた交流から新しいイノベーションが生まれたり、なにげない会話から業務改善のヒントを得たりすることが期待できる。

多様な働き方を実現でき、ウェルビーイングが向上する

オフィス改装とハイブリッドワークを両輪とした多様な働き方を推進することで、通勤などに充てていた無駄な時間を家族との団欒や趣味・休息などの時間に振り替えることができ、心身の健康(ウェルビーイング)の向上も期待できる。
 

オフィス改装の種類

オフィス改装にはいくつかの種類がある。それぞれの特徴を解説する。

全体的な改装

新しい働き方の実践、オフィスや企業イメージの刷新、さらに老朽化が進んでいるなど、オフィス環境を全面的に改装する。工事の自由度が高く、これまでの課題を一気に解決できる可能性も高まるが、その半面、費用や期間がかかり、工事中の執務スペースの確保なども必要だ。

部分的な改装

特定の目的に合わせて一部スペースを改装したり、予算が限られ優先順位をつけて改装を行う場合には部分的な改装を検討する。受付や会議室・コミュニケーションゾーンなどの一部機能の新設などが該当する。

全体的な改装に比べて費用は抑えられるが、課題解決に向けた効果はやや限定的なものになる。

オフィス改装とオフィス移転を選ぶ基準とは?

企業にとってオフィス改装とオフィス移転という選択肢がある場合、どちらがより良い結果につながるのだろうか。

改装と移転、それぞれの特徴からどちらが向いているのかを比較してみよう。

オフィス改装 オフィス移転
コスト・予算 相対的に低い 相対的に高い
スペース 収容人数に余裕がある 収容人数に余裕がない
稼働年数 比較的新しい 比較的古い
立地 従業員のニーズに合っている 従業員のニーズに合っていない

現在すでにオフィスが老朽化している場合や、ブランディングイメージと立地がマッチしていない場合、出社人数に対しオフィスのスペースに余裕がなく今後も増加が見込まれるといった場合はオフィス移転を視野に入れて検討するのが望ましい。

オフィス移転に関して詳しく見る

対して、比較的新しくスペースにも余裕があるが、設備やレイアウトが従業員の働き方にマッチしない場合は、従業員へのヒアリングやIoTセンサーなどのテクノロジーを活用したデータ分析に基づき、最適なオフィス環境の設計・改装を行うことで、コストを抑えながらもより効果的な結果が得られるだろう。

職場環境改善に繋がるオフィス改装の流れ

オフィス改装を成功させるには、未来を見据えた目的が重要

1. オフィス改装の企業目的を明確にする

オフィス改装は会社にとって一大イベントであり、これからの企業戦略にも大きく関わってくるからこそ、目的という根幹の部分を固め、進行することがオフィス改装の成否を分けるといっても過言ではないだろう。優秀な人材の確保、従業員の帰属意識やモチベーションの向上、SDGsやESGに対応したオフィスの最適化等、様々な目的が挙げられる。その中でも、昨今オフィス改装の目的として多く挙げられるのが、アフターコロナの働き方に対応したオフィスの最適化だ。これからの従業員の働き方や企業戦略を見据え、”これからのオフィスへの最適化”という喫緊の課題に追われる企業も少なくない。JLLが発表した「ヒューマン・パフォーマンスの解読 - 従業員の成功と、業績向上のための ワークプレイスの設計とは」の調査レポートでは、高パフォーマーの70%がフレックス勤務やフレックスタイム、在宅勤務を実施しているというデータが確認できた。また、これらの高パフォーマーは、最もオフィスを懐かしんだグループというデータもあり、リモートワークだけでなくオフィスワークの価値も重要視しているという傾向が窺える。これらの調査データから、従業員の生産性やモチベーションを考慮したオフィスには、アフターコロナの働き方の要素が不可欠であり、再定義された働く場の価値を持つことが今後を生き抜いていく上での鍵となる。オフィス改装を成功させるには、未来を見据えた目的が重要なのである。

2. オフィス改装の予算やスケジュールの確定

オフィス改装の根幹の部分となる「目的」と同じく重要なプロセスといえるのが予算やスケジュールの確定だ。オフィス改装プロジェクトのパートナーや工事業者と事前に予算を確定し、企業全体のスケジュールを考慮したスケジュールを組み立てておくことで効率的に進めることが可能となる。また、オフィス改装の目的だけでなく、企業戦略や企業ブランドを本質的に理解し、オフィス戦略から改装工事のコンサルティングを行う専門的なパートナーを採用する企業も、アフターコロナのオフィス戦略を考慮し、多く見られるようになった。ハード面となる予算とスケジュールを計画的に決めておくことは、オフィス改装を効果的に進めるために不可欠な要素となる。

3. 目的やオフィス戦略に沿ったデザイン・レイアウトを決める

オフィスデザイン・レイアウトは企業の理念やコンセプトが映し出されるからこそ、入念に決めることが必要だ。昨今では、オフィスコンセプトの最適化により、企業ブランディングに繋げ、優秀な人材確保、従業員の帰属意識の向上に結びつける企業も少なくない。ニューノーマルな働き方により様々なオフィスタイプが生まれている中、企業のオフィス戦略や目的を体現するオフィスデザイン・レイアウトを見つけ出すことが肝となってくるだろう。オフィス改装は、そのような戦略的な観点で進め、形にしていくことが重要であり、プロセスの中でも成否を分ける内装デザイン・レイアウトは、多様な視点を持って進めていくことが要となる。
 

新しい働き方に合ったオフィス改装ポイント

近年のオフィスデザインに欠かせない要素として必要性が高まっているのが、従業員の安全性やウェルネスを確保する工夫だ。

企業がオフィス改装を計画するにあたって考慮しておきたいポイントを3つ挙げるので参考にしてほしい。

1. ヒトの健康と安全を第一に考えたオフィスファシリティ

従来のオフィスデザインで必要とされていたスペースの効率化やコストパフォーマンス・対外的なイメージアップといった点に加えて、近年のオフィスデザインに欠かせない要素として必要性が高まっているのが、従業員の安全性やウェルネスを確保する工夫だ。

ヒトの安全衛生や健康管理をサポートするためのオフィスファシリティの導入を改装時に組み込んでいる企業も多く、入館データで利用率を容易に追跡できるVergesense(ヴァージセンス)AI清掃ロボットによる清掃品質の向上など不動産テックを導入しオフィス環境をアップデートさせている。

2. 柔軟な働き方を実現するABW(アクティビティ・ベースド・ワーキング)型のオフィスデザイン

オフィス改装を実施する企業の目的の1つに必ず入っているといっても良い程採用されているABW(アクティビティ・ベースド・ワーキング)型オフィスデザイン。オフィス改装に対する企業の現状意識でも述べられているように、働き方改革を目的としたオフィスデザインの見直しを急務と考える経営層は、従業員にとって効果のあるABWの意義を戦略段階で取り入れ、オフィスデザインに反映している。昨今では、ABWの要素を取り入れることで、企業のブランドイメージを底上げするという多角的な戦略でオフィス改装を実施するケースも存在する。このようなケースは、組織の中核を成す拠点の価値を最大限に発揮した、進歩的な企業戦略であるともいえる。

3. 最新テクノロジーの活用

戦略的に新しいオフィスをデザインするにあたっては、最新のテクノロジーを活用することが欠かせない。従業員の行動データを分析しスペースの最適化やコミュニケーションの改善案を策定するほか、ソーシャルネットワーク、CRMツール、プロジェクト管理ツール等を取り入れることでハイブリッドなオフィス環境が構築できるだろう。
 

オフィス改装の具体的アイデア紹介

t企業が従業員のモチベーションや生産性を向上させ、帰属意識をより高められるようなオフィスを目指した改装のアイデアをいくつか紹介する。

コラボレーションスペース

従来の効率を優先したオフィスレイアウトから、ヒトを中心としたABW型オフィスへと転換する企業も増えつつある。ヒューマン・エクスペリエンスを向上させ、イノベーションを創出するための場として、気軽に打ち合わせができる社内カフェスペースや共用スペースなどの「コラボレーションスペース」の設置が有効と考えられる。

フリーアドレス制導入

全従業員が固定された座席を使用する従来のワークスタイルから、従業員ごとの固定席を設けずその日に空いている席を自由に活用できるフリーアドレス制への転換は、部署を超えて各専門分野のプロフェッショナルが交流することで、社内のコラボレーションや新しい発想の創出が期待できる。

休憩スペースの拡大

フロア面積のうち、執務スペースに対して、コーヒーマシンや上質なインテリアを備えカジュアルな打ち合わせや昼食・短い休憩等に使える魅力的な休憩エリアを従来より拡大する企業も増えている。ストレスを軽減する職場環境の改善は、オフィスでの従業員の健康を支えるとともに離職率を引き下げてくれる可能性も持っている。

ソロワークスペース・集中ブース

コロナ禍を経て急増したオンラインでの打ち合わせや商談は、今後も引き続き行われていくと予想される。しかし従来型のオフィスレイアウトでは、周囲の声や電話の呼び出し音などでオンラインミーティングに適さないことも多い。また1日の業務の中で、集中したい作業については、オフィス内ではリモートワークと比較して気が散ると感じる従業員もいるだろう。個室や半個室のソロワークスペースを設置することで、オフィスのよさとリモートワークの集中性を両立した環境が実現する。

バイオフィリックデザインの採用

植物には空気を浄化したり、ヒトの血圧を低下させストレスホルモンを削減させる効果がある。オフィス内に植物を配置したり、リビングウォールや屋内庭園を設置したり、あるいはサイネージに自然風景や植物の画像を映すだけで、従業員の幸福感や健康が向上するというデータも報告されている。

オフィス改装時に気をつけたいポイント

オフィス改装の計画策定時に気をつけておきたい点をいくつか挙げる。

原状回復を考慮する

賃貸オフィスの場合、退去時には原状回復(入居前と同じ状態にすること)の義務がある。契約時に設置されていたパーテーションや備え付けの家具・什器などを撤去した場合、保管・廃棄する際に思わぬ手間と費用がかかる可能性もあるため、物件の所有者に工事の区分や原状回復がどこまで必要なのかを確認しておこう。

施工可能範囲の確認

改装にともなう工事は、物件ごとに可能な範囲が定められている。建築基準法により改装してはいけない箇所や、共用部分の改装は基本的に不可となるため、事前に施工可能な範囲をしっかりと把握しておくことが必要だ。

消防法の遵守

建築物に適用される消防法は、火災の際に被害を最小限に食い止め適切な避難ルートを確保することを目的としている。改装に伴い間仕切り壁を追加する場合は消防法に従って所轄の消防署へ届け出なければならない。また火災報知器・スプリンクラー・防火扉等の細かい設置規程も確認しておこう。

業者選びは慎重に

オフィス改装業者は、施工実績・各法令の知識と遵守・アフターサービス等を比較して選定するようにしたい。過去の改装事例を確認し、自社の改装後のイメージに近い施工を行っている業者を選ぶとうまく行きやすいだろう。

オフィス改装成功事例

改装により新しい働き方を実現するオフィスデザインを実現した企業の事例を3つ紹介する。

本社オフィスを中心に、ABW型オフィスへと生まれ変わったA社

企業の原動力である「ヒト」が最大限のパフォーマンスを発揮できるワークプレイスを目標に、5年間でグローバル本社ビルのリニューアル工事を完成させた化粧品・ヘルスケア大手のA社。

全社的なチェンジマネジメントを行い、フォーカスチームやユーザーとのワークショップを重ねることで、ワンフロア全体を部署を超えて新価値創造促進の場に生まれ変わらせる等、革新的なオフィス構築に成功した。

全社的に新しい働き方「リモートスタイル」を導入したB社

飲料・食品大手のB社は、全国数十か所の営業拠点を統合集約するとともに、本社オフィスの全面改修に成功。完全フリーアドレス席の導入と在宅勤務を組み合わせ、在籍人員の3-5割の座席数へと転換をはかった。

全従業員が業務遂行に最適な環境で最大限の能力を発揮し、期待を超える価値を創造するため、リモートワークとオフィスワークを組み合わせた「ワーク&ライフのイノベーション」を叶えるワークプレイス改革を行った。

ウェルビーイングを体現し、自発的に生産性を高めるC社のオフィスデザイン

「人の温かみ」を重視した異色のコンサルサービス企業C社では、3度の移転を通じ、クライアント先に常駐する社員たちが「帰ってきたくなるオフィス」の構築を実践。

新オフィスに設置した150人超を収容できるオープンスペースでは、毎月1回の全社員による定期イベント開催のほか、採用や社員の結婚式二次会まで幅広いコミュニケーションの場となっており、コンサルファームでありながらも社内の一体感を重視し、それを醸成するオフィス戦略に寄与している。

成功に繋がったオフィス改装事例に共通する要素

様々なオフィス改装の成功事例から見てとれるのは、企業自身の特性を活かしながら、組織を成す「ヒト」と、その働き方にフォーカスし、課題の明確化と具体的な解決策を組み込んだプロセスを策定していることだ。表面的なオフィス改装は長期的な視点で費用対効果を得にくい時代となっている。専門的なコンサルティングも活用し、多様な働き方と従業員のウェルネスに配慮した客観的かつ戦略的な視点で進めることが鍵となる。

オフィス改装 成功事例一覧

 
戦略的なオフィス改装を支援するJLL

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