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オフィスが先導するSDGsへの取り組みとは?具体的な施策と成功事例

SDGs達成への機運が高まる中、各企業のオフィスでできる取り組みはなにかという問いが世界的な共通課題となっている。地球規模での環境問題に直面し、自社の利益追求だけではいずれ経営が立ち行かなくなるという危機感のなか、企業がオフィスで今すぐに実施できるSDGsへの取り組みを紹介する。

2021年 12月 07日

SDGs達成への機運が高まる中、各企業のオフィスでできる取り組みはなにかという問いが世界的な共通課題となっている。地球規模での環境問題に直面し、自社の利益追求だけではいずれ経営が立ち行かなくなるという危機感のなか、企業がオフィスで今すぐに実施できるSDGsへの取り組みを紹介する。
 

持続可能な開発目標(SDGs)とは?

まずはSDGsの定義を再確認しておこう。

SDGs(Sustainable Development Goals)は日本語では「持続可能な開発目標」と表記され、2030年までに持続可能でよりよい世界を目指すための国際目標だ。2001年に策定されたミレニアム開発目標(MDGs)の後継として2015年の国連サミットで加盟国の全会一致で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載されている。

行動目標(ゴール)は以下の17に分類され、さらに169のターゲットが存在する。日本政府も「SDGs推進本部」を主体に目標達成への指針を策定し、官公庁や企業への取り組みを促している。

SDGsの17の行動目標
目標1 貧困をなくそう
目標2 飢餓をゼロに
目標3 すべての人に健康と福祉を
目標4 質の高い教育をみんなに
目標5 ジェンダー平等を実現しよう
目標6 安全な水とトイレを世界中に
目標7 エネルギーをみんなにそしてクリーンに
目標8 働きがいも経済成長も
目標9 産業と技術核心の基盤を作ろう
目標10 人や国の不平等をなくそう
目標11 住み続けられるまちづくりを
目標12 つくる責任つかう責任
目標13 気候変動に具体的な施策を
目標14 海の豊かさを守ろう
目標15 陸の豊かさも守ろう
目標16 平和と公正をすべての人に
目標17 パートナーシップで目標を達成しよう

出所:外務省『パンフレット:持続可能な開発目標(SDGs)と日本の取り組み』

SDGsに配慮したオフィスが求められる理由

SDGsの採択をきっかけに、経済発展を最優先してきた世界の潮流が転換期を迎えている。世界各地で起こる災害を引き起こす自然破壊やエネルギー問題などに対し、企業が今後SDGsへ取り組むことで未来が変容する可能性を認めつつも、実際に行動を起こす企業は依然として少数にとどまっている。

ドイツのベルテルスマン財団、持続可能な開発ソリューション・ネットワークが発行した「持続可能な開発報告書2021」によると、SDGsへの取り組みを国別で表すランキングでは、日本は165カ国中18位となり「働きがいも経済発展も」「すべての人に健康と福祉を」等のカテゴリーが前年よりも改善しているという結果が公表されている。

一方で「陸の豊かさも守ろう」の項目では前年に比べマイナスという結果となっており、昨今、急速に進む不動産業界のSDGs・ESGへの取り組みによる今後の状況改善に期待が寄せられる。様々な施策が取られるなか、企業は果たすべき責任としてオフィスでのSDGsの取り組みに一層注力していくと考えられる。ヒトが生活する上で欠かせない”働く場所”となるオフィスの運営・管理のプロセスでSDGs達成という視点を組み込むことで、環境や社会への貢献はもちろん、企業姿勢のアピールも果たし、ESG投資の対象となる可能性も高いからだ。国としてのSDGsの推進だけではなく、企業とそこに働くヒトにとって最も身近なオフィスでSDGsに取り組むことで、より包括的な効果と循環を生み出すことができるのではないだろうか。

企業戦略で重要な役目を果たすオフィスは、SDGs達成に寄与する要素を持ち合わせており、積極的な取り組みを図ることで、投資家への企業プレゼンス、ブランディングに直結する

オフィスでSDGsに取り組むことで得られるメリット

企業戦略のプロセスにおいてSDGsに配慮した取り組みは、CSR(Corporate Social Resposibility:企業の社会的責任)に関連させて行う等、CRE戦略に組み込まれるケースが多い。

企業価値・ブランドイメージが向上する

SDGs実現に向けて、環境・社会・企業統治の観点で、企業が行う社会的活動を評価し投資するESG投資の概念が注目され始めたことにより、サステナビリティの要素が欠かせなくなってきている。企業戦略で重要な役目を果たすオフィスは、従業員の働きがいや健康を示すウェルビーイングの構築、オフィスビルの脱炭素化、省エネルギー対策等、SDGs達成に寄与する要素を持ち合わせており、積極的な取り組みを図ることで、投資家への企業プレゼンス、ブランディングに直結する。

新たな人材発掘につながる

JLLが不動産・オフィスのサステナビリティについて従業員が勤務先企業への要望をヒアリングしたレポートによれば、「気候変動は世界が抱える最大の課題」、「勤務先には持続可能なビジネス慣行を」、「企業にとってサステナビリティの取り組みは必須」と考えている従業員は20代の若い世代が最も多く、約8割前後と40代の社員と比較してそれぞれ10-15%多かった。

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出所:JLLレポート「従業員の視点から考える不動産・オフィスのサステナビリティ」

従業員の満足度が向上し、離職率低下につながる

また、SDGsに配慮したオフィスへの取り組みは、従業員のエンゲージメントの向上による離職率の改善、施設の管理・運営の最適化によるコスト削減と、環境や社会への貢献だけでなく、長期的な視点で企業へのメリットとして効果が現れやすい。

将来的なリスクヘッジができる

企業戦略におけるSDGs達成に向けたオフィス最適化は、環境や社会、企業の包括的な循環を作り出すことが可能と考えられ、そのためには、従来の考え方を転換していくことがこれからの時代を先導する企業として欠かせない過程となってくるだろう。
 

これからのオフィスのSDGs戦略とは

”脱炭素化”という響きは、遥か遠くに感じるかもしれないが、テクノロジーによる最新技術を駆使することで、SDGs達成へ寄与するだけでなく、長期的な観点で企業への費用対効果も生み出すことができる

オフィスビル全体の脱炭素化

SDGs達成のための17の目標「エネルギーをみんなにそしてグリーンに」にも該当するオフィスビルの脱炭素化。2030年までに二酸化炭素排出量を45%削減するというスケジュールが提示されたパリ協定を機に、企業の”オフィスビルの脱炭素化”への取り組みが活発になっている。世界の二酸化炭素排出量の約40%を不動産が占めるとされる現状から、オフィスビルの脱炭素化は持続可能な環境や社会を作っていく上で大きな役割を果たす不動産業界のグリーンビルディング化の機運が高まっていることから、企業としても積極的に省エネ対策を講じているケースも多い。例えば、不動産テックのIoT技術を用い、オフィス内に設置されたセンサーで測定した温度や照度を基準とし、空調や照明を自動で最適化することで高い省エネ効果を発揮し、二酸化炭素排出を削減するケースも見られる。”脱炭素化”という響きは、遥か遠くに感じるかもしれないが、テクノロジーによる最新技術を駆使することで、SDGs達成へ寄与するだけでなく、長期的な観点で企業への費用対効果も生み出すことができるのだ。

働くヒトのウェルビーイングを重視したオフィス環境づくり

ヒトが働く上で欠かせないオフィス環境の最適化は、従前から企業の課題とされてきたトピックであり、SDGsやESGに配慮した取り組みの中で重要な項目となっている。オフィス環境の最適化は、ヒトの健康に関係する安全衛生だけでなく、心理的安全性を高め、個人のウェルビーイングを向上し、組織全体のパフォーマンスを改善することにも繋がる。最近では、従業員やクライアントであるステークホルダーのウェルビーイングを意識したオフィスを評価する、CASBEEウェルネスオフィス評価認証やWELL認証も存在し、SDGs達成やESG投資に向けた企業の戦略的な取り組みにも影響している。

SDGsに配慮したオフィスへの取り組みは、ただ闇雲に行うのではなく、企業戦略としての道のりを策定し、計画的に進めていくことが重要となる。そのためにはSDGsという壮大な目標をまず本質的に理解し、ESG投資等の広い観点を持ちつつ、環境問題解決への行動を積極的に行っていくことが、今後の企業の繁栄に深く関連してくるだろう。

これからのワークプレイスに必要な考え方とは?

テクノロジーを通じたSDGsオフィスの最適化

テクノロジーが果たすSDGs達成への役割は大きく、オフィスだけでなく、企業の資産最適化プロセスに寄与している。JLLがグローバル企業・投資家を対象にサステナビリティへの取り組みについて調査を行ったレポートでは、サステナブル化の鍵を握るのはテクノロジーだという認識が垣間見える回答が確認できた。SDGs達成に関連する二酸化炭素排出量削減の目標に対応するための投資対象項目を問う設問では、半数以上の54%の企業が新しいソリューションを支えるテクノロジーへの投資が大きな変化をもたらすと回答している。また、39%の投資家はデジタルソリューションが最大の投資対象となると答えている。SDGs達成には、テクノロジーのような革新的なソリューションが必要であり、企業や投資家もその事実を理解し、何らかのアクションが必要だと考えていることが窺える。

SDGsの取り組みとしてオフィスで企業が実践できること7選

事業としての取り組みにとどまらず、オフィス環境の改善や日々の業務の工夫によって企業がSDGsのゴールに貢献できることは意外にも数多い。ここでは7つの実践を取り上げて解説する。

ペーパーレス化・省エネ推進

従来は用紙代・印刷代や保管・廃棄などのコスト削減の観点で推進されてきたオフィスのペーパーレス化だが、紙の原料である森林の伐採や焼却時のCO2排出量を減らすことで、17の目標のうち「目標15:陸の豊かさも守ろう」にも貢献できる。

省エネも同様で、自社のコストを意識した電力使用の見直し・削減だけでなく「目標7:エネルギーをみんなに、そしてクリーンに」の達成にも寄与する。

プラスチック製品の削減

プラスチック製品の使用を減らすことで、海洋生物の生態系破壊を食い止める「目標14:海の豊かさを守ろう」に貢献できる。

外食産業や小売店ではすでに多くの企業が実施している、包装材や食器などのプラスチック製品からサステナブル素材への転換だが、一般消費者向けでなく自社オフィスにおいてもカフェスペースオフィス文具・消耗品のパッケージなどで脱プラスチックは推進可能だ。

防災対策の徹底

SDGsの「目標11:住み続けられるまちづくりを」には、まちの一角をなすオフィスにおいても防災が欠かせない。

デスクや什器、パソコンなどの機器の固定、避難経路の確保、消火器や非常用野水と食品・救急薬・救助機材などの備蓄、防災訓練の実施、地域との連携など、企業としての取り組みに加え、オフィスで働く従業員ひとりひとりが防災意識を持つことが企業全体の防災にもつながる

働き方改革の推進

働き方改革の推進により、多様な働き方の実現や従業員のウェルビーイングを意識したオフィス環境構築が進めば、誰もが人間らしく働ける社会の実現を目指した「目標8:働きがいも 経済成長も」の実現に寄与する。

評価体制の見直し/育児休暇取得の促進

「目標5:ジェンダー平等を実現しよう」を進めるためには、既存の評価体制を見直したり、育児を担うのは女性(母親)という性別役割分担の意識を改革し、性別によらない育休取得制度を実現していくことなども有効だ。

働きやすさを重視したオフィスデザイン・レイアウトの導入

世界的に多様な働き方が認められつつある現在、新しいオフィスのありかたは、オフィス起点ではなくヒト起点の要素が盛り込まれたオフィスデザインへと変容しつつある。

その一例として、ABWフレキシブルオフィスへの転換はSDGsの「目標8:働きがいも、経済成長も」へとつながるポイントだ。

また、JLLの調査レポートによれば、従業員の8割が、自然の採光や緑化・屋上庭園など、自然とのつながりを感じられるバイオフィリックデザインのオフィスビルを期待していることも分かっている。

ユニバーサルデザインの導入

SDGsの「目標11:住み続けられるまちづくりを」への取り組みには、建物にユニバーサルデザインを取り入れていくことも含まれる。

ユニバーサルデザインが導入されているオフィスは、SDGsに貢献しているとして評価される可能性がある他、従業員の満足度や採用における企業好感度も向上するだろう。
 

オフィスで社員1人1人が取り組めるSDGs

経営者や総務などの担当者だけがSDGsを意識しても、全社的に取り組みが進まないという悩みもあるだろう。

そこで、社員1人1人が日常的に行える取り組み例を具体的に紹介する。
 

  • マイボトルやカップ、箸などを持参する
  • 夏はクールビス、冬はカジュアルな防寒着で冷暖房を控えめにする
  • 備品や消耗品は過剰包装をしていないものを選択する
  • 印刷物を減らしクラウド保存や共有に切り替える
  • 社内のゴミ分別を見直し、リサイクル比率を増やす
  • 郵送やFAXからメールに変更する
  • 多様な働き方の同僚や上司部下をお互いに認め合う
オフィスでのSDGsを実現している成功事例

まだ数は少ないとはいえ、オフィス内でSDGs推進を実現している企業は確実に増えている。一足早く成功している企業の実例を紹介しよう。

カーボンフットプリントを資本に転換した事例

世界屈指の情報通信技術企業では、カーボンフットプリントの新たな削減策の選定、サステナビリティ目標の達成、その実現に適したテクノロジーの導入を検討。

パートナーに選ばれたJLLは、JLLの独自技術である「エネルギー&サステナビリティプラットフォーム(ESP)」を駆使し、空調の設定値や稼働スケジュール、運用条件の調整など、省エネ化に向けた適切な改善を行った。

結果、5年間で13.5%削減という当初の省エネ目標を大きく上回り、わずか2年間で25%以上の省エネ化を達成した。

「LEED-EBOM」認証を取得した事例

とある国内大手企業では、自社所有ビルの改修にあたり、JLLから運用指針やマニュアルの作成、エネルギー分析、各種の監査実施といったサポートを受け、国際的な建築物環境性能評価システムであるグリーンビルディング認証「LEED-EBOM※1」の最高評価ランクである「LEED-EBOM」プラチナ認証を取得した。

商業施設の共用部電気使用量を30%削減した事例

千葉県に位置する 大型複合商業施設では、アセットマネージャー、設備管理会社と協働し、2本格的に省エネ対策に取り組んだ。

IoT技術を駆使し、照明・空調の省エネを実施した結果、2018年には共用部電気使用量を約30%削減に成功し、省エネ大賞・省エネルギーセンター会長賞等を受賞した。

オフィスでSDGsを成功させるための4つのポイント

これからの企業がSDGsの各ゴール達成に貢献しオフィスでの取り組みを成功させるには、以下の4つのポイントを押さえておくと、よりロードマップを描きやすくなるだろう。

  1. 従業員をサステナビリティ戦略に不可欠な存在と位置づけ、取り組みに関与する幅広い機会を用意する
  2. バイオフィリックデザインの導入により、オフィスの緑化を推進する
  3. 経営陣の社会的影響力を利用し、責任ある行動をとることで組織全体へのドミノ効果を引き出す
  4. SDGsやサステナビリティの意識が高いミレニアル世代から推進に協力してくれる人材を抜擢する

オフィスビルに代表される不動産やそこで活動する企業は、持続可能な世界を実現するための重要なファクターとして社会から認識されていることを受け止め、SDGsのゴール達成にオフィスから取り組んでいきたい。

SDGsに配慮したオフィス戦略を考える

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