SDGsやESGへの取り組みが導く不動産の在り方とは?
SDGs(持続可能な開発目標)に関連した不動産業界の取り組みが加速している。2030年までに17の目標を達成するというSDGsにおいて、不動産が果たす役割は大きく、新たな価値基準も作られている。持続可能な未来を見据え、変化する不動産の在り方について解説する。
SDGs(エス・ディー・ジーズ)とは?
2015年に国連サミットで採択されたSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)は、発展途上国への支援、エネルギー開発、働きがい、人権、環境保護等の課題を解決するために掲げられた世界的な取り組みである。
「誰一人取り残さない」を合言葉に、全ての国連加盟国が2030年に17のゴールと169のターゲットの達成を目指している。
日本では2016年に政府による「SDGs推進本部」が設置され「SDGs実施指針」を策定。SDGsの17のゴールから、日本の現状に即して以下の8つの優先項目を提示している。
- あらゆる人々が活躍する社会・ジェンダー平等の実現
- 健康・長寿の達成
- 成長市場の創出、地域活性化、科学技術イノベーション
- 持続可能で強靱な国土と質の高いインフラの整備
- 省・再生可能エネルギー、防災・気候変動対策、循環型社会
- 生物多様性、森林、海洋等の環境の保全
- 平和と安全・安心社会の実現
- SDGs 実施推進の体制と手段
達成に向け、政府は官民連携を一層深めることを重要視している。
2022年6月に帝国データバンクが実施した意識調査によると、自社におけるSDGsへの理解や取り組みについて「意味および重要性を理解し、取り組んでいる」と答えた企業は23.6%、「意味もしくは重要性を理解し、取り組みたいと思っている」との回答は28.6%となり、いずれも前回調査(2021年6月)より増加し、過半数の企業がSDGsに積極的だという結果を示している。
SDGsの17目標のうち今後最も取り組みたい項目の上位は以下の3つであり、いずれも不動産業界とも関連性の高い内容だといえる。
- 働きがいも経済成長も(12.6%)
- エネルギーをみんなにそしてクリーンに(8.3%)
- 気候変動に具体的な対策を(7.5%)
不動産業界におけるSDGsの意義と役割
気候変動対策やウェルビーイングを目的とした具体的なアクションにより、様々なステークホルダーと協働することで不動産の未来形成にも寄与していく
不動産業界におけるSDGs
全世界の二酸化炭素排出量の約40%を占めるとされる不動産はSDGsに深く関わっており、積極的に環境対策を担う責任があると考えられる。この責任を果たしていくために不動産業界は様々な取り組みを実施している。例えば、JLLのサステナビリティ戦略として「ワークプレイス」を軸に展開する取り組みが挙げられる。「建物内で発生する温室効果ガス排出量を1人当たり2%削減」や「サステナビリティと心身の健康を追求し、大規模オフィスではLEEDやWELL認証取得を目指す」、「炭素排出量実質ゼロ達成を公約」等、SDGsという目標に向け、グローバル企業として明確なゴールを掲げている。これらの気候変動対策やウェルビーイングを目的とした具体的なアクションにより、様々なステークホルダーと協働することで不動産の未来形成にも寄与していく。国際的な環境イニシアティブ「RE100」によるオフィスビルのサステナブルなオール電化を実施する取り組みも活発化しており、不動産業界におけるSDGsのトピックは今後さらに盛んになっていくだろう。
求められるSDGs不動産
2020年のコロナ禍を機に、オフィスをはじめとする建物に対し、入居者の精神的・社会的・身体的な幸福感が向上するよう健康志向で人間中心の設計が強く求められるようになった。
JLLが世界各地の意志決定者やエグゼクティブリーダーを対象に行ったヒアリング調査で、「あなたの組織が作りたいと思う場所 / 空間に関して最も重要な考えはどれですか?」という質問への回答には次のような項目が並んでいる。
- 人間中心…健康的なライフスタイル、安全性、幸福感の向上
- グリーン…地球の資源を大切にし、気候のために行動する
- 本物志向…企業文化やブランドアイデンティティへの強い意識の促進
- インクルーシブ…強力なコミュニティの中での多様性と公平性の促進
- レジリエンス(強靭性)…将来の危機に革新的に適応できるレジリエンス
- 仮想オフィス…日常生活を向上させるツールとデジタルで繋がる
二酸化炭素排出量削減やサステナビリティ目標を達成するために、不動産が重要な役割を果たす必要性はかつてないほど高まっており、企業は気候変動への対応を求められている。
ESG投資の視点で見る不動産
ESGやSDGsの要素をバランス良く取り入れ、総合的に不動産を評価する時代となっている
ESG投資と不動産
不動産におけるSDGs達成に向けた取り組みを評価し、企業の将来性に焦点を当てたESG投資の注目度も高まっている。2006年に国連が公表した責任投資原則(PRI)がきっかけで、投資家が環境(Environment)、社会(Society)、企業統治(Governance)の視点で事業活動等を分析し、投資先を選定するESG投資が拡大した。
ESG投資が盛んになった背景として、地球温暖化対策や日本における少子高齢化等の課題が挙げられる中、これらの問題を解決することが不動産価値に直結すると考えられるようになったためだ。財務や業績等の利益だけを判断要素としていた従来の投資ではなく、ESGやSDGsの要素をバランス良く取り入れ、総合的に不動産を評価する時代となってきていると考えられる。
高まる投資家からの注目
JLLのレポートによれば、世界の不動産投資家の60%以上が気候変動問題に取り組んでおり(または1年以内に取り組む予定)、少なくとも80%はESG専門のリーダーやチームを設置し、戦略上の必須事項としていることが明らかになっている。
また、気候変動リスクが経済リスクをもたらすことに78%の投資家が同意しており、そのうち35%は強く同意している。
投資家たちが今後10年を脱炭素化の重要な局面・機会・課題と捉えていることは明らかで、ESGは投資の最重要課題といっても過言ではない。
SDGsへの取り組みによる効果
帝国データバンクによる2022年SDGs に関する企業の意識調査では、SDGsの取り組みによって66.5%の企業が効果を実感しており、具体的な効果として「企業イメージの向上(37.2%)」や人材の定着率の向上につながり得る「従業員のモチベーションの向上(31.4%)」など、ブランディング効果を挙げる企業が多く見られた。
ついで「経営方針等の明確化(17.8%)」や「採用活動におけるプラスの効果(14.0%)」、「取引の拡大(新規開拓含む)(12.3%)」、「売り上げの増加(11.1%)」等、多様なメリットを享受している他、SDGsをビジネスチャンスとして捉え、実際に売り上げが向上した企業も現れ始めている。
この流れは今後さらに加速していくのではないだろうか。
SDGs達成に寄与する不動産の取り組みと事例
ヒトの生活に密接に関わる不動産だからこそ、SDGsへの取り組み策は幅広く、積極的に実践することで得られる効果は大きい
不動産テックの活用による省エネ化
SDGsという国際目標を達成するために、クライアント向けの不動産サービスでも様々な取り組みが実施されている。商業施設の事例では、不動産テックのIoT技術を活用し、施設の空調や照明等の共用部電気使用量を約30%削減するという成果を収め、省エネ施策によるサステナブル化の成功例も存在する。IoTセンサーを駆使し、測定した温度や照度を基準とした空調と照明の使用量を自動的に制御し、高い省エネ効果に繋げたのだ。ヒトの生活に密接に関わる不動産だからこそ、SDGsへの取り組み策は幅広く、積極的に実践することで得られる効果は大きいと考える。
環境に配慮したグリーンビルディング化
さらにインサイトをお探しですか?アップデートを見逃さない
グローバルな事業用不動産市場から最新のニュース、インサイト、投資機会を受け取る。
オフィスビル等の資産に対し、積極的に環境性能を高め、サステナブル化の取り組みや設計を施したグリーンビルディングは、SDGsへの貢献度が高い。建物の脱炭素化という外的な要素だけでなく、オフィスビルの利用者のウェルビーイングにも配慮しているため、SDGsの目標達成に必要な要素を満たしている。不動産セクターのESG対応の国際的な評価指標となるGRESB等も制定されており、SDGs観点で不動産の価値を定める指標が重要視され始めている。不動産の新しい価値が生まれ始めていることは明確であり、SDGsが起因しているといってもよいだろう。この過渡期でいかに不動産業界の先を読み、先手で動いていくことが、これからの時代の波に乗る手がかりとなってくるだろう。
企業が実施している、あるいは実施する予定の取り組みは
JLLが300以上の企業に対し「あなたの組織で採用済、または採用する予定があるものは?」とたずねた調査では、「廃棄物の削減」「エネルギーパフォーマンスのモニタリングとベンチマーキング機能」「水使用量の削減」などですでに実施済みの企業が50%を超え、2025年までの実施も80%に達していた。
また「サプライチェーン全体にわたる責任ある調達」「再生可能エネルギーの調達」「建物のパフォーマンスと運営を最適化するテクノロジー」なども2025年までの達成が80%近くを占め、企業が高いパーセンテージで多くの項目に取り組んでいることが見てとれる。
イニシアチブ - これらの取り組みのうち、あなたの組織で採用済み、または採用する予定があるものは何ですか?(企業回答数:327) | ||
---|---|---|
イニシアチブの種類 | 既に実施済み | 2025年までに実施予定 |
廃棄物の削減 | 52% | 28% |
エネルギーパフォーマンスのモニタリングとベンチマーキング機能 | 51% | 35% |
水使用量の削減 | 50% | 31% |
サプライチェーン全体にわたる責任ある調達 | 46% | 33% |
再生可能エネルギーの調達 | 44% | 35% |
建物のパフォーマンスと運営を最適化するテクノロジー(エネルギー、建物運営システム、センサー等) | 42% | 39% |
循環経済の考え方を可能な限り取り入れる | 41% | 37% |
持続可能なデザインの原則またはカーボンフットプリントを意識した不動産開発、改装、または内装工事 | 39% | 42% |
入居および取得の際に、気候変動リスクとリジリエンスを考慮する | 38% | 40% |
新規開発に内包される二酸化炭素の削減 | 38% | 40% |
入居先決定の際に、建物のグリーンビル認証(lEED, BREEAM, WELL認証)を優先させる | 35% | 43% |
自家発電による再生可能エネルギーの生産 | 35% | 35% |
グリーンリース条項を含める | 34% | 40% |
カーボン・オフセットの導入 | 30% | 42% |
出所:JLLレポート「脱炭素化に向かう不動産」
これからのサステナビリティ戦略
サステナビリティ向上のプロセス
SDGsのゴール達成を見据えたサステナブルな取り組みは、今後の不動産業界の戦略の要ともいえる。
具体的なプロセスは次の3段階で考えると良い。
- 現状把握…エネルギーや水、廃棄物などのデータ管理と検証
- 改善実施…テクニカルビルディングアセスメント、省エネルギー、水削減な
- サステナビリティ性能の継続管理…継続的なモニタリングとベンチマーク評価、効果検証など
SDGs不動産の鍵を握るパートナーシップの輪
世界的な流れであるSDGsのゴール達成やネットゼロといった目標も、不動産業界や企業だけの力で達成することは困難である。
しかし幸いなことに、JLLがアジア太平洋地域のCRE(企業不動産)責任者550人以上を対象に行った調査によれば、意欲的なネットゼロ目標を達成するうえで、地元行政・投資家・デベロッパー・テナントの協働体制が不可欠との回答はテナント企業の90%、投資家の78%を占めている。
ビルオーナーとテナントに協働と意思疎通を確約させる「グリーンリース」を導入するテナントや投資家も増加している。
今後の不動産におけるSDGsの取り組みは、クライアントやパートナーといったステークホルダーを巻き込み、アクションの輪を大きく広げていくことが成功への最重要施策といえるだろう。