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ウェルビーイングな賃貸オフィスビルが増殖中

時代のニーズと共に進化を続けてきたオフィスビル。コロナ禍を受けて「ウェルビーイング」を意識した新規開発が急増中だ。屋上庭園やテナント専用の食堂・ラウンジ・カフェ等を整備し快適かつ安全なオフィスライフを支援する他、人材採用にも貢献する。リモートワークの普及でオフィスの存在意義が揺れる中、オフィス回帰を促す施策として注目されている。

2022年 10月 11日
ウェルビーイングを提供する新規オフィス開発

新たに開発されるオフィスビルを俯瞰すると共通点が見えてくる。キーワードは「ウェルビーイング」だ。

企業のオフィス戦略に詳しいJLL日本 オフィス リーシング アドバイザリー事業部 ディレクター 柴田 才は「例えば、東日本大震災の教訓から耐震性や非常用発電機などの高度なBCP対策が新規開発されるオフィスビルに採用され、今や当たり前のスペックになっている。時代のトレンドを反映してオフィスビルは進化を続けているが、アフターコロナを受けて、ウェルビーイングが重視されるようになっている」と説明する。

ウェルビーイングとは?

ウェルビーイング(well-being)とは世界保健機構憲章で言及され「肉体的・精神的・社会的にすべてが満たされた状態」を示す概念である。日本では少子高齢化に伴う労働人口減や医療費の増加などの社会的課題に対応するため、従業員の健康管理に積極的に投資する「健康経営」を行う企業が多かったが、さらに一歩踏み込み、従業員の幸福度を高めることで、事業成長のみならず企業のブランド価値向上にも寄与するウェルビーイングへの注目度はこれまで以上に高まっている。

他方、コロナ禍を受けて従業員の安心・安全の確保、健康維持がこれまで以上に強烈に意識されるようになった。例えば、コロナ発生直後の2020年6月にJLL日本が実施したテナント企業へのアンケート調査では「安全性に関する投資」を希望する声が急増しており、企業側の努力だけではなく、企業が入居するオフィスビルに対してもウェルビーイングが求められるようになった。

新規オフィス開発にみるウェルビーイング機能

直近5年間で竣工した大規模オフィス42棟の付帯設備を調査したところ、最も多かったのが「緑地・広場・テラス」で実に60%近くで導入

JLLの記事「ポストコロナ時代に従業員が求める3つのオフィス機能」によると、世界10カ国、3,300名超のオフィスワーカーに対するグローバル調査においてオフィスで働く際に希望する機能・設備として「リラクゼーションスペース」、「フードサービス」、「屋外スペース」が上位に挙げられた。これらはいずれもウェルビーイングに関する項目だ。

では、コロナ以降に日本で竣工したオフィスビルではどのようなウェルビーイング機能が備えられているのだろうか。

JLL日本 オフィス リーシング アドバイザリー事業部が直近5年間で竣工した大規模オフィス42棟の付帯設備を調査したところ、最も多かったのが「緑地・広場・テラス」で実に60%近くで導入されており、「ラウンジ」や「フィットネス」も少なからず導入されていることがわかった。

例えば、現在開発中の虎ノ門・麻布台プロジェクトは「緑に包まれ、人と人をつなぐ『広場』のような街」を開発コンセプトとし、街区全体で国際環境認証制度LEEDの取得を目指す他、医療機関を核としてスパ、フィットネスクラブ、レストラン・フードマーケット、広場、菜園を連携させ「街区に住み、働くことのすべてが『ウェルネス』に繋がる仕組み」を導入予定だという。

また、2022年7月に竣工した「九段会館テラス」でもオフィスワーカー専用の屋上庭園内に健康家具や仮眠室などを整備し、健康に配慮した働き方を支援する。

これらの付帯設備には従業員のモチベーションアップや人間関係の改善、帰属意識の向上などの効果を見込んでいる。コロナ禍で問題視された企業・従業員同士の分断を解消することを目的に、企業・従業員の間に良好な関係性を生み出すための仕掛けとなる。

柴田は「緑(屋外スペース)だけにとどまらず、管理栄養士が監修した身体にいい食事を提供するテナント専用のカフェやラウンジを提供するケースが目立ってきた。働くだけではなく、1日の多くを過ごすオフィスという“場”で従業員がいかに快適かつ安全に過ごせるかといった企業の命題に応える形で、ビルオーナー側がウェルビーイングに着目したのではないか」と分析する。

大阪でもウェルビーイングなオフィスビルが増えている

ウェルビーイングなオフィスビルに入居している企業は「従業員に配慮している」ことを対外的にアピールすることに繋がり、実際に採用応募者が5倍に増えたという事例もある

全国に先駆けて最先端のオフィスビルが開発される東京では確かにウェルビーイングの要素を取り入れたオフィスビル開発がトレンドになっているが、実は大阪でもウェルビーイングなオフィスビルの新規開発が相次いでいる。

大規模オフィスビル

その代表例は「大阪梅田ツインタワーズ・サウス」だ。2022年3月にオフィスフロアが竣工。約1,000㎡の屋上庭園、コラボスペースやフィットネスを備えたオフィスワーカー専用フロア、管理栄養士が監修した食事を提供するカフェなどを備えている。

また、大阪中央郵便局跡地で現在開発中の「(仮称)梅田3丁目計画」もウェルビーイング機能が満載だ。オフィスエリアのエントランスロビー全体を「ビジネスとウェルネスを両立させるフロア」として緑豊かなルーフトップガーデンをはじめ、オフィスワーカー専用に約500席もの食堂、カフェ、ラウンジ、フィットネスなどを用意する。

中規模オフィスビル

大規模オフィスビルだけでなく、ウェルビーイングを取り入れる中規模ビルも存在する。2021年8月に竣工した「本町サンケイビル」は、感染症対策としてビル入館からオフィス入室まで非接触化した他、ワークプレイスとしても活用できる屋上テラスを備え、ウェルビーイングに関する建物環境認証「CASBEEスマートウェルネスSランク」を取得している。

「建物の規模によらずウェルビーイングを重視する姿勢がビルオーナー側で広がっている。ウェルビーイングなオフィスビルに入居している企業は『従業員に配慮している』ことを対外的にアピールすることに繋がり、実際に採用応募者が5倍に増えたという事例もある」(柴田)

既存従業員のみならず、人材採用面にも貢献するウェルビーイングなオフィスビル。アフターコロナ時代に向けて、ウェルビーイングが耐震性能同様に「あって当たり前」の存在になるのか、今後を注視していきたい。

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