最新のオフィスに欠かせないユニバーサルデザインとは?レイアウトと事例も紹介
従業員や顧客・取引先などの多様性に対応するため、オフィス改善の必要性に迫られている企業の経営者や担当者に向けて、オフィスのユニバーサルデザインについての基礎知識・導入のメリット・ガイドラインや具体例などを解説する。
ユニバーサルデザインとは?ユニバーサルレイアウトやバリアフリーとの違い
ユニバーサルデザインとは、年齢・性別・障害の有無にかかわらず、すべての人が利用しやすいデザインを目指す概念
ユニバーサルデザインという単語は耳にしたことがあっても、具体的にどのようなデザインなのか把握している人は少ないのではないだろうか。
そもそも「オフィスデザイン」とはどのような概念なのか、その上で、ユニバーサルデザインの基礎知識と、混同しやすい「ユニバーサルレイアウト」、「バリアフリー」についても定義を説明する。
オフィスデザインとは
オフィスデザインとは、働く環境を最適化し従業員の生産性や満足度を向上させるための空間設計を指す。家具の配置・照明・色彩・音響など物理的な要素と、フリーアドレスや個室ブースなど働き方に関する要素の両方が含まれる。
ユニバーサルデザインとは
ユニバーサルデザインとは、年齢、性別、国籍、障害の有無といった個人の違いにかかわらず、すべての人が利用しやすいデザインを目指す概念である。建物や製品・情報など多岐にわたる分野で適用され、視覚障害者向けの点字案内や車椅子使用者がアクセスしやすいスロープなどがその一例だ。
しかし、特定の人々専用に設計するのではなく、あくまでもすべての人々が快適かつ安全に利用できる環境などを設計することがユニバーサルデザインの目的となる。
ユニバーサルレイアウトとは?フリーアドレスとの違い
ユニバーサルレイアウトとは、オフィス内の全ての執務席を標準化し、誰もが同じ条件で利用できるようにするレイアウト方式である。具体的には、バリアフリーの動線や多様な働き方に対応できる柔軟なスペース配置などが挙げられる。
一方、フリーアドレスとは、従業員が固定の席を持たず自由に席を選んで働く方式を指す。ユニバーサルレイアウトは、均質化を図ることで誰もがアクセスしやすい職場環境を提供するのが目的だが、フリーアドレスは働く場所の自由度を高める目的を持っている。
バリアフリーとは
バリアフリーとは、障害者や高齢者が社会生活を送る上での物理的・社会的・制度的・心理的な障壁を取り除くことを指す概念である。
オフィスにおいては、段差の解消、広い通路の確保、多目的トイレの設置などが具体例として挙げられる。ユニバーサルデザインが全ての人を対象とするのに対し、バリアフリーは特定のニーズに焦点を当てている。
ユニバーサルデザイン・ユニバーサルレイアウト導入のメリット
ユニバーサルデザインとは、年齢・性別・障害の有無にかかわらず、すべての人が利用しやすいデザインを目指す概念
オフィスにユニバーサルデザインやユニバーサルレイアウトを導入することは、障害を持つ従業員や妊娠中・高齢の従業員はもちろんのこと、オフィスを利用する全員にとって多くのメリットをもたらし、多様な人材を確保することにもつながる。
以下におもな導入のメリットを紹介する。
通路幅の確保により、オフィス内の移動や災害時に避難がスムーズになる
段差の解消等により日常業務が安全に遂行できる
空間認識性が上がる
身体への負担が軽減される
備品管理がしやすくなる
コミュニケーション向上
カスタマイズ性の向上
「従業員の働きやすさを重視する企業」としてのブランディング効果
上記のうち、いくつかのメリットについて、さらに詳しく説明する。
空間認識性が上がる
ユニバーサルデザインやユニバーサルレイアウトは、統一された明確なレイアウトや視覚的に分かりやすいサイン・色彩計画などによって、自分の位置や目的地を容易に把握できるようになり、オフィス内の空間認識性を向上させる。
他拠点の従業員や新規スタッフ、来客や取引先にとっても迷うことなくスムーズに移動でき、業務効率の向上につながるだろう。
身体への負担が軽減される
ユニバーサルデザインの家具や機器の導入で、さまざまな体格・特性を持った従業員の身体的負担軽減も期待できる。
高さ調節可能なデスクや人間工学に基づいた椅子は、個々の体格に合わせた快適な作業姿勢を保ち、適切な照明設計や騒音対策により、目や耳への負担も軽減される。これらの要素が相まって、長時間のデスクワークによる疲労を軽減し、従業員の健康維持と生産性向上に貢献する。
備品管理がしやすくなる
統一された什器や標準化された作業環境を整えることで、備品の配置や数量の把握が簡単になり、管理や利用が効率的になるほか、不要な備品の削減にもつながる。
コミュニケーション向上
オープンな空間設計や多目的利用できる共有スペースを設置することにより、従業員同士や部門間の交流が促進される。また、共有スペース入り口の段差など障壁をなくすことで、障害を持った従業員が社内のどこにでもアクセスできるようになれば、より平等なコミュニケーションを取れる環境が叶うだろう。
カスタマイズ性の向上
ユニバーサルデザインの導入で、個々のニーズに合わせたカスタマイズ性も向上する。例えばモジュール化された家具や可動式のパーティションを採用することで、プロジェクトやチーム構成の変化に応じて柔軟にレイアウトを変更できる。
ユニバーサルデザインやユニバーサルレイアウトのデメリットや注意点
ユニバーサルデザインやユニバーサルレイアウトを導入するにあたっては、以下のように、一部注意すべき点もある。自社の状況に合わせて対策を取っていこう。
部署の区別がつきにくくなる
ユニバーサルレイアウトを導入すると、オープンスペースが増え、各部署の境界があいまいになりやすい。これにより、特定の業務に集中しにくくなることや、情報の漏えいやセキュリティ面での懸念が生じる可能性がある。業務に支障が出る部署に関しては、適切なゾーニングやパーティションの使用を検討しよう。
役職が分かりにくくなる
多様な働き方の実現に向けてフリーアドレスを採用した場合、従業員の座席が固定されないため、役職や担当者の識別が難しくなりがちだ。そのため迅速な意思決定やコミュニケーションが滞る可能性もある。役職ごとのバッジやデジタルサインなどで識別を容易にする工夫が求められる。
初期費用がかかる
ユニバーサルデザインやユニバーサルレイアウトへの転換期には、設備や家具の更新、レイアウト変更など多額の初期投資が必要となる。しかし長期的な視点で見れば、従業員の生産性向上や離職率の低下など、コストメリットが期待できるため、コスト分析は長期かつ総合的に行う必要がある。
オフィスにおけるユニバーサルデザインの例
企業のオフィスでみられるユニバーサルデザイン・ユニバーサルレイアウトの例を具体的に見ていこう。
フレキシブルなワークスペース
働くヒトの体格や特性、障害の有無は一人ひとり異なる。オフィス側の什器や家具などを可変にすることで、各自に最適なサイジングが可能となる。
たとえば高さを変えられる昇降デスクを導入すれば、どのような身長や体型の従業員でも、また車椅子使用者でも快適に作業できる。さらに立ち仕事と座り仕事を適宜切り替えられ、従業員全体の健康面にも利点がある。
十分な広さの通路幅
車椅子使用者や歩行補助具の使用者が安全に移動できるよう、十分な通路幅を確保することが重要である。ユニバーサルデザインにおいては、主要な通路は1,500㎜以上、その他の通路も900㎜以上の幅が推奨されている。
フラットな床面と段差対策
オフィス内の床面はフラットを基本とし、やむを得ない段差には適切なスロープを設置したり、色や素材を変えたりして発見しやすくすると良い。また、つまずきの原因となる配線やケーブルの処理も重要である。これにより、車椅子使用者や視覚障害者、妊娠中の女性、シニアなどの従業員にとって移動の安全性が高まる。
ピクトグラムや色分け表示
フロアの部署名や各部屋の名前などについては、文字情報だけでなくピクトグラム(絵文字)や色分けを活用した視覚的な表示を導入することで、言語や読解力に関係なく、誰もが直感的に情報を理解できる。特に非常口や避難経路の表示は重要だ。
ユニバーサルトイレ
ユニバーサルトイレは、車椅子使用者・オストメイト・乳幼児連れの来客など、多様なニーズに対応できる設備を備えている。十分な広さと、手すりやおむつ交換台・非常呼び出しボタンなどを設置し、幅広く安心して利用できる空間を目指そう。
ユニバーサルデザイン対応の家具
ユニバーサルデザイン対応の家具の例としては、座面や背もたれが調整可能な椅子、握力の弱い人でも開けやすい引き出しなどが挙げられ、多様な身体特性や作業スタイルに対応できる。
コミュニケーションスペース
多目的のコミュニケーションスペースを設置するのもよい。車椅子使用者も利用しやすい高さのカウンター、聴覚障害者のための磁気ループシステム、様々な姿勢で快適に過ごせる家具などの工夫によって、多様な従業員が自然に交流できる環境が生まれる。
オフィスのユニバーサルデザイン設計ガイドラインとチェックリスト
はじめて自社オフィスにユニバーサルデザインを導入する際には、以下のようなガイドラインやチェックリストを利用すると失敗や想定外のミスが起こりにくくなる。
ユニバーサルデザインの7原則
ユニバーサルデザインの7原則は、米国の建築家ロナルド・メイスによって提唱されたもので、すべての人が利用しやすいデザインを実現するための基本理念である。
公平な利用:あらゆる能力の人が公平に利用できるデザイン。
使いやすさ:使い方が簡単で直感的に理解できること。
感覚的な情報の多様性:視覚、聴覚など、複数の感覚を利用して情報を伝える。
間違いにくさ:誤操作が起こりにくいデザイン。
少ない身体的努力:最小限の力で利用できること。
適切な寸法と空間:すべての利用者が安全かつ快適に使用できる空間を確保する。
利便性:幅広い利用者が多様な方法で使用できること。
上記に基づいたオフィスデザインは、誰にとっても使いやすいものとなり得る。必ずしも7つすべてを実行する必要はなく、自社の状況に合わせて優先順位を付けるとよい。
ユニバーサルデザインのチェックリスト
東京都財務局では、都の条例に基づく建築物のユニバーサルデザインチェックリストを配布している。都のホームページからダウンロードも可能だが、以下に簡略化したチェックリストを用意したのであわせて参考にしてほしい。
項目 | 内容 | チェック |
---|---|---|
通路幅の確保 | 車椅子使用者が通れる幅を確保できているか?(140cm以上) | |
段差の解消 | スロープの併設などで段差を解消できているか? | |
エレベーター | 車椅子対応のエレベーターを設置できているか? | |
誘導ブロック | 視覚障害者用の誘導ブロックを適切に配置できているか? | |
点字ブロック | 主要な案内板や操作盤に点字を併記できているか? | |
□照明 | 適切な照明で視覚障害者が施設内を安全に移動できているか? | |
音声案内 | 重要な場所に音声案内システムを設置できているか? | |
視覚表示 | 緊急時のサインや通知に視覚的な表示を取り入れているか? | |
休憩スペース | 適切な休憩スペースを設け、リフレッシュできる環境を提供できているか? | |
多目的トイレ | 車椅子使用者やオストメイト対応のトイレを設置できているか? | |
授乳室 | 授乳室や乳幼児対応設備を設置できているか? | |
オープンスペース | 自由にコミュニケーションが取れるオープンスペースを設置できているか? | |
ミーティングエリア | 多様な形式のミーティングに対応できるスペースを設置できているか? | |
モジュール家具 | 柔軟に配置を変更できるモジュール家具を使用できているか? | |
パーティション | 必要に応じてスペースを仕切ることができるパーティションを導入できているか? |
オフィス移転でユニバーサルデザインを導入するポイント
ユニバーサルデザインの導入を含めたワークプレイス改革は、オフィス移転のタイミングで実施するとコストや業務の中断を最小限に留めることができる。以下に、オフィス移転のタイミングでユニバーサルデザインやユニバーサルレイアウトに変更する際の成功ポイントを紹介する。
社内の意見集約とコンセンサスを得る
ユニバーサルデザイン導入にあたっては、社内の幅広い意見を集約し同意を得ることが重要である。移転で決めることは数多いが、すべての部署・職位の従業員からニーズや要望をヒアリングし、それらを考慮した設計を行うことで最大の効果が得られるだろう。
適切な家具を選択する
賃貸オフィスでは建物の構造自体を大きく変更できないため、ユニバーサルデザインを実現するには家具選びが大きな成功の鍵となる。
高さ調節可能なデスクや人間工学に基づいた椅子、車椅子使用者も利用しやすいテーブルなど、多様なニーズに対応でき、かつカスタマイズ性や柔軟性のある家具を選ぶことで将来的な変更にも対応しやすくなる。
迷ったら専門家のサポートも検討
オフィスのユニバーサルデザイン・ユニバーサルレイアウトには多くの選択肢があるため、自社に最適な施策に迷うこともあるだろう。オフィス面積や費用・期間など諸条件の中で最大の効果を出すなら、専門家に相談するのも良い方法だ。
JLLでは、豊富な実績にもとづき、ユニバーサルデザインを含むオフィス全般のコンサルティングとソリューションを幅広く提供している。
JLLが支援するオフィスのユニバーサルデザイン導入
JLLでは、豊富な実績にもとづき、ユニバーサルデザインを含むオフィス全般のコンサルティングとソリューションを幅広く提供している。
オフィスの移転や開設、改装を機にユニバーサルデザインの導入に取り組む企業は、ぜひ相談してみてほしい。