業務効率向上と事業成長に対応する「オフィス増床」の最適な進め方
事業成長に伴い、現在のオフィスが手狭になったことで、業務効率や従業員のモチベーションなど、様々な課題が生じる。その解決策として企業が真っ先に考えるのが「オフィスの増床」だろう。オフィス増床の種類・メリットをはじめ、増床を成功に導くための具体的な流れや事例を紹介する。
オフィス増床とは?
オフィス増床とは、一般的に企業が事業成長や働き方の変化に対応するため、オフィスの床面積を拡張することを指す。
具体的には同一ビル内での面積拡大のみならず、近隣ビルへの分室設置、サテライトオフィスの利用なども含まれる。また、より広いオフィスへの移転や自社ビルの建て替えによって床面積を増やすケースも増床といえる。
昨今では企業の成長戦略や従業員の働き方改革を実現する重要なオフィス戦略と位置付ける企業が増えている。
オフィス増床の種類と特徴
オフィス増床には目的の異なるいくつかの種類があり、以下の5つが一般的だ。
- 同一ビル内での内部増床
- 周辺ビルへの分室増床
- サテライトオフィスの利用
- 別拠点への拡大移転
- 自社ビルの建て替え
自社の状況や目的に合わせ最適な増床のタイプを選択することになる。以下、それぞれの特徴を解説する。
同一ビル内での内部増床
同一ビル内での内部増床は「館内増床」とも呼ばれ、現在のオフィスと同じビル内でオフィススペースを追加で確保する方法だ。
メリットとしては、部署間の移動が容易で、従業員間のコミュニケーションが円滑に保たれる点が挙げられる。また、住所変更が不要なため、取引先への告知などの手間が省けることも利点となる。さらに組織を一カ所に集約することができるため、業務効率の低下を防ぐことができる。
ただし、同一ビル内に希望する面積や賃料・賃貸条件に見合った空室があるとは限らないため、将来的な空室の発生などの事前情報を収集しておく必要がある。
周辺ビルへの分室増床
周辺ビルへの分室増床は、現在の本社オフィスの近隣にあるビルに新たな拠点を設ける方法であり、館内増床が難しい場合の次善策として検討されるケースが多い。 メリットは、本社の近くに拠点を置くことで部署間の連携を比較的維持できる点にある。また、賃料の低いビルを選択することで同一ビル内での増床よりもコストを削減できる。例えば、東京屈指のオフィス街である大手町エリアのAグレードオフィスを賃借する企業が隣接する神田エリアの中小規模ビルに増床するケースなどが挙げられる。
一方で、分室と本社オフィスに別れた部門・従業員間のコミュニケーションが希薄になる懸念があるほか、セキュリティ対策、総務・人事部門の業務負担が増加する可能性もあるため、部門間の連携方法やコミュニケーション活性化のための施策を検討する必要がある。
サテライトオフィスの追加
本社とは別に小規模な拠点を活用するサテライトオフィスは、近年の働き方改革の一環として導入企業が増加している。
サテライトオフィスは従業員の居住地に近い場所に位置することが多く、法人利用を対象にした賃貸型の施設が一般的になっており、通勤時間の短縮やワークライフバランスの向上、災害や交通インフラの遅延などの非常時でも業務が行いやすくBCP対策としての効果も期待できる。
ただし、サテライトオフィスの円滑な運用にはセキュリティ対策や勤怠管理などのルール整備が不可欠であり、遠隔地とのコミュニケーションを確保するためのITツール導入などの検討も必要だ。
別拠点への拡大移転
現在のオフィスから、より広い床面積を確保するために別のオフィスビルへ移転する方法である。
「拡張移転」とも呼ばれ、大幅な増床が可能であり、レイアウトも一から構築できる。最新の設備を備えたビルに移転することで業務効率の改善や従業員満足度の向上も期待でき、企業イメージの向上にもつながるだろう。
ただし、オフィスを全面的に移転するため、他の増床方法と比べるとコストと労力がかかる。また従業員の通勤経路や取引先とのアクセス性が変わるため、立地や賃借条件などを事前に十分検討する必要がある。成功させるには
プロジェクトチームを組成するほか、オフィス移転の専門家の支援を受けるなど、計画的に進めることが重要となる。
自社ビルの建て替え
自社ビル建て替えによる増床は、所有するビルを解体し、既存ビルよりも大型の(容積率の高い)ビルを建設する方法である。所有ビルの老朽化などを契機に行われることが多い。
建て替えにより、最新の設備を備えたより広く機能的なオフィスを実現できる。企業の資産価値向上にもつながる。
ただし、建て替えには多額の費用と長い工事期間を要し、工事期間中の仮移転先の確保や従業員への周知など事前の準備も不可欠だ。建て替えにあたっては建築基準法など最新の法規制を遵守する必要があり、容積率通りに建設できない場合も考えられる。
増床には複数のパターンがあり、自社の状況と目的によって最適な選択は異なる
オフィス増床のメリット
オフィス増床は単に床面積を確保するだけでなく、様々なメリットを企業にもたらし、企業の持続的な成長を支えるために重要なオフィス戦略として位置付けられるようになっている。
労働環境と業務効率の改善
オフィス増床により、従業員一人当たりの執務スペースを拡大でき、窮屈さが解消されるなど、労働環境の改善が期待できる。適切なゾーニングや動線計画により業務の効率化も図れるだろう。
集中作業に適したスペースや部署ごとのエリアを設けることで、生産性の向上が見込める。最新の設備を備えたオフィスへの移転はITインフラの改善による業務のスピードアップも期待できる。
企業のブランディング
洗練されたオフィスデザインや立地の良いビルへの移転は企業イメージの向上につながり、ブランディング効果をもたらす。
エントランスや会議室などの来客エリアを充実させることで、取引先からの信頼感や好感度を向上させることができるだろう。また企業理念やビジョンを体現したオフィスデザインは、従業員の帰属意識を高める効果も期待できる。さらにオフィス環境への投資は企業の成長性や将来性をアピールする材料ともなり、ステークホルダーからの評価向上にも寄与する。
人材確保(エンゲージメント)と採用力の強化
快適で魅力的なオフィス環境は、従業員のモチベーションやエンゲージメントの向上に寄与し、雇用の長期定着につながる。たとえばオフィスを増床してリフレッシュエリアや仮眠室を設けることで従業員の心身の健康維持をサポートするなど、従業員が安心して長く働ける会社だと内外に発信することも可能だ。
また、働きやすい環境を整備することは優秀な人材の獲得にも効果的とされる。近年の求職者は給与や待遇だけでなく、企業のビジョンやオフィス環境も重視する傾向にある。オフィス増床を通じて働きがいのあるオフィス環境を実現することは人材獲得競争を勝ち抜くための重要な施策となりえる。
コラボレーションや組織の活性化
オフィス増床により、コミュニケーションスペースやコラボレーションエリアを充実させることで、従業員間の交流が活発化し、組織の活性化が期待できる。
オープンなミーティングスペースやカフェスペースでは部署を超えた偶発的なコミュニケーションが生まれ、新たなアイデアの創出につながるだろう。プロジェクトごとに柔軟にチームを編成できるような可変性の高いレイアウトを採用することで組織の機動力を高めることも可能だ。
レイアウトの自由度向上
増床によりオフィスの面積が広がればレイアウトの自由度が高まり、中長期的な事業の変化や組織の拡大に柔軟に対応できるようになる。
たとえば将来的な人員増加を見越してあらかじめ余裕のあるスペースを確保しておく。さらにフリーアドレスやABW(アクティビティ・ベースド・ワーキング)など新しいワークスタイルを導入するなど、十分なスペースがあることでオフィス戦略に取り組みやすくなる。
オフィス増床の流れと成功のポイント
オフィス増床を成功させるには適切な計画と十分な準備が不可欠だ。現状分析から将来予測、コスト試算、社内調整、業者選定から工事実施までの具体的な流れとポイントを解説する。
自社の状況を把握し、計画を立てる
現在のオフィスにおける課題や問題点を明確にし、何のために増床するのか目的を定める。具体的には以下のような点を分析しておきたい。
- 従業員一人当たりの占有面積
- 会議室の稼働率
- 部門配置の適切性
- 動線の効率性
また、従業員の要望や不満点をヒアリングし、新しいオフィスに求められる機能や設備を洗い出しておこう。
オフィス内外の環境変化を予測する
将来的な従業員数の増加、組織改編、働き方の変化などを予測し、必要なスペースや設備を検討する。業界動向や競合他社の動きにも注目し、ハイブリッドワークの導入やDX推進による業務変化、新規事業の立ち上げなどを考慮した柔軟性の高いオフィス設計を目指そう。
コストを把握する
計画に基づき増床に関わる費用を多角的に検討する。賃料や共益費などの固定費に加え、内装工事費、什器備品費、引っ越し費用、IT環境整備費用などの初期投資を算出、また運用段階での水道光熱費、清掃費、セキュリティ費用なども含めた総コストを把握し、投資対効果を判断する。
スケジュールや運用・注意点を周知する
増床の目的や期待される効果・スケジュール・一時的な不便が生じる可能性などを、全従業員に説明し、工事に備えよう。
特に工事中の騒音や動線変更、仮移転の必要性などについては、具体的な対応策を用意して事前に周知することで、業務への支障や従業員の不満を最小限にとどめ、スムーズな実施へとつながる可能性が高まる。
工事・移転を業者に依頼する
オフィスデザインや内装工事・引っ越しなど専門性の高い業務は信頼できる業者を選定するのが成功のコツだ。業者選定では、実績や提案力・コストだけでなく、アフターフォローの充実度も重視する。また、工事期間中の騒音対策や安全管理なども十分かどうかを確認しよう。
工事・移転を実施する
工事や移転の実施にあたっては、スケジュールと役割分担をしっかりと決めた上で進捗管理を徹底する。特に、電気・通信工事、空調設備、セキュリティシステムなどの専門工事は相互の依存関係を考慮した工程管理が重要となるため、業者とよく相談して進めよう。
工事中や移転期間には、予期せぬ問題への迅速な対応を取れる体制作りも重要だ。
なお、これらのポイントにつき、自社の知見やリソースのみで適切な判断や実施ができるかどうか不安な場合は、総合的なオフィス戦略に詳しい専門家のサポートを受けるのも有効だ。
オフィス増床の注意点
オフィス増床を進める際には、様々な制約や注意点も存在する。トラブルを避け、円滑に増床・移転を進めるため以下のような点に特に注意し、確認事項を把握しておこう。
法規制
オフィスの増床やレイアウト変更を行う際には、建築基準法・消防法・労働安全衛生法などの関連法規を遵守する必要がある。
具体的には、フロア面積に対する収容人数の制限、避難経路の確保、防火設備の設置基準などが挙げられる。またバリアフリー法への対応やエネルギー使用の合理化に関する法律(省エネ法)など、オフィス開設当初とは異なる近年の法改正にも対応が必要だ。
ビルオーナーとの調整
増床に伴う工事やレイアウト変更を行う場合はビルオーナーや管理会社との事前調整が不可欠である。
トラブルを未然に防ぐため、工事内容やスケジュール・共用部分の使用などについては事前に合意を得ておこう。契約内容によっては増床や改装に制限がある他、他のテナントへの工事期間中の配慮事項や制限事項についても事前に確認しておきたい。
セキュリティ対策
増床に伴い、セキュリティ面でも区画や入退室管理の見直しが必要になることが多い。特に分室増床では拠点間のセキュリティレベルの統一や情報管理ポリシーの整備が重要だ。
また、増床で出入り口が増える場合は監視カメラの増設やフロア間のアクセス制御、来訪者管理システムの拡充なども検討が必要となる。従業員へのセキュリティ再教育もあわせて行い、全社的な安全意識の向上を図ることが望ましい。
内部増床では、自社だけではなくビル全体との契約をふまえて進行する必要がある
オフィス増床・移転の成功事例
冒頭で解説したようにオフィス増床にはいくつかの種類があるが、その中からオフィスの拡大移転や拠点統合による増床の成功事例を紹介する。
LegalOn Technologies
AIを活用したリーガルテック・サービスを提供するLegalOn Technologiesは、コロナ禍の2021年、事業拡大に伴い本社オフィスの移転・増床を実施。それでもオフィス床が不足したため、外部貸しフレキシブルオフィスを賃借した。さらに2024年4月には、月2回の入社日を設け加速する人員増に対応するため『渋谷サクラステージ』の最新オフィスビルへ拡張移転を実施した。
新オフィスのコンセプトは「融合と加速」とし、コミュニケーションの活性化を実現するため、即時予約可能な約50室の会議室、部署を超えて利用できるフリースペースや眺望を楽しめる休憩用エリアも設置。驚異的な事業成長を支える“イノベーション創発の場”としても期待される。
京都電子計算
京都新聞グループの老舗IT企業として業務システムやパッケージソフト開発、ネットワークの構築、運用などの多彩なITソリューションを提供する京都電子計算は、2022年5月に本社オフィスを移転し、テレワークとオフィスワークを組み合わせたハイブリッドな働き方を開始した。
当時、京都市内のオフィス市場では空室が枯渇し、1,000坪ものまとまった床面積を確保するのは至難の業だったが、JLLの支援でいち早く物件を見いだし、プロジェクトマネジメント事業者の応札先候補の選定や入札条件(RFP)の作成など、幅広い支援の結果、2021年12月に竣工した新築テナントビル「NUPビルディング京都駅前」4-7階への増床移転を実施。
移転により、労働環境の改善・コミュニケーションの低下・人材採用の安定化といった課題を解決し、立地面も含めて新たな働き方を実践できる執務環境の整備に成功した。
セーフィー
クラウド録画サービスで知られるセーフィーは2023年7月、慣れ親しんだ五反田から大崎へ2倍超の拡張移転を実施した。
人員増に対応するためオフィスが3拠点に分散していた状況から、JR大崎駅から徒歩6分に位置する大規模オフィスビル「住友不動産大崎ガーデンタワー」への移転には、五反田からアクセスしやすく、ワンフロア1,000坪以上の床を確保できる物件が大崎以外になかったことが背景にあった。
新オフィスのコンセプトを「誰もが出社したくなるオフィス」と定義し、会議室の大幅な増設、本格的なディスプレイを整備した営業用ショールーム、コミュニケーションの生まれるフリーアドレス制の執務スペースや公園をイメージしたオープンスペースなどの工夫により、移転後に実施した従業員アンケート調査では、ほぼ全項目がプラス評価となったという。
オフィス増床のご相談はJLLへ
オフィス増床には、社内の現状分析や将来予測、従業員ニーズの把握といった内部の取り組みと、物件調査や契約交渉・法規制対応といった外部折衝の両面での専門的な知識が求められる。
JLLは、グローバルな知見と実績を活かし、企業の成長戦略に合わせた最適なオフィス増床のソリューションを提供している。自社に最適なオフィス増床や拡張移転の戦略について迷ったら、ぜひJLLへ相談していただきたい。