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ハイブリッドワーク成功のカギを握るサテライトオフィスとは?

ハイブリッドワークを成功させる上で不可欠なのがサテライトオフィスだ。コアオフィスから離れた場所に「衛星」のように分散配置された執務拠点を指し、企業と従業員双方が抱える課題を解決する。外部貸しの新規オペレーターも続々参入、提携も進む。働く場所の選択肢を広げるサテライトオフィスについて解説する。

2023年 10月 02日
テレワーク普及でサテライトオフィスの需要が高まる

「テレワークの普及によって、サテライトオフィスの需要が一段と高まっている」。こう話すのは、フレキシブルオフィス市場を調査しているJLL日本 リサーチ事業部 中丸 友世だ。

JLL日本 リサーチ事業部が2022年12月に発表したレポート「拡大が続くフレキシブルオフィス市場」では、東京都心5区のフレキシブルオフィス市場のストック推移が右肩上がりで増加していることに言及しているが、その主な要因として「特にオフィスと在宅勤務の中間に位置するサテライトオフィス(サードプレイス)としての需要が、フレキシブルオフィス市場の拡大に貢献した」と分析する。

東京都心5区におけるフレキシブルオフィス市場のストック推移(2023年第2四半期末時点) 出所:JLL日本 リサーチ事業部

JLL日本が2022年11月に発表した調査レポートにおいて、企業の意思決定層と従業員双方に「これからのオフィスに導入したいもの(意思決定層)/求めるもの(従業員)」を質問したところ、1位が「フレキシブルな勤務形態」、2位が「サテライトオフィス等の利用」となり、「サテライトオフィスやホテル等のサードプレイスを含むハイブリッド型の働き方」を希望するグローバルトレンドと同様の結果となった。

そして、アフターコロナを迎えた2023年、サテライトオフィスに対する潜在的な需要が本格的に顕在化したとみえる。例えば、JLL日本ではコロナ禍に突入した2020年には全社的に導入したサテライトオフィスの利用時間が急増。アフターコロナを迎えた2023年になると利用時間が加速度的に増加する等、いまやJLLのワークプレイス戦略に欠かせない存在となっている。

JLL日本のサテライトオフィス活用事例はこちら

また、JLLの記事「東京都心5区におけるフレキシブルオフィスの現況」によると、NTTグループが世界展開するフレキシブルオフィス運営事業者とのグローバル契約締結を発表。自宅に近いワークスペースで働くことで生産性向上を目指すもので、サテライトオフィスとしての利用を想定しているようだ。

中丸は「フレキシブルオフィス市場に新規参入するオペレーターも増え、施設数も堅調に増加中。なおかつJRをはじめとする鉄道各社の駅舎内に個室ブースを多数設置し、既存オペレーターと提携することで、拠点ネットワークが拡充している」と指摘。こうしたオペレーター側の積極的な動きによってサテライトオフィスの利便性が向上したことも利用者増に繋がっているという。

サテライトオフィスとは?

 

「衛星」を意味する「サテライト」をその名に冠したサテライトオフィスは、コアオフィスの周囲にオフィス拠点を分散配置したワークプレイス環境を指す

そもそもサテライトオフィスとは何か?シェアオフィスやコワーキングスペース等のフレキシブルオフィスの一形態と括られることもあるが、その意味合いは若干異なる。

「衛星」を意味する「サテライト」をその名に冠したサテライトオフィスは、コアオフィスの周囲にオフィス拠点を分散配置したワークプレイス環境を指す。一般的には、支店や営業所といった組織機能を有する常駐型のオフィスではなく、パソコンや通信機器、複合機を備え、執務活動に特化した小規模オフィスであることが多い。営業先からコアオフィスを往復する移動時間のムダを削減する等、働く場所に対する選択肢を増やし、従業員満足度や業務効率・生産性の向上等に寄与する

従前はコアオフィスとは別のオフィスを賃借する“自前型”のサテライトオフィスが多かったが、現在ではシェアオフィスやコワーキングスペース、サービスオフィス等、利用契約時の柔軟性が魅力の「フレキシブルオフィス」をサテライトオフィスとして活用するケースが一般的になっており、コロナ過以降は不特定多数の法人に豊富な拠点ネットワークを提供する「共用型サテライトオフィス(サテライト型シェアオフィス)」が存在感を高めている。

フレキシブルオフィスの解説記事はこちら

フレキシブルオフィス一覧

 

施設タイプ 特徴 立地
サービスオフィス ビジネスに必要な通信環境や事務機器等を備え、受付やサポートをしてくれるコンシェルジェも常駐。ラグジュアリー感のある演出、設えがなされている個室型のフレキシブルオフィス。企業イメージやブランディングの向上、快適な執務環境、好立地。 都心
レンタルオフィス ビジネスに必要な通信環境や事務機器が始めから一通り用意される個室型オフィス。サービスオフィスとの違いは明確に定められていないが、シンプルかつ実質的なオフィス機能のみが提供され、内装デザインなども簡素なケースが多い。 都心/郊外/地方
シェアオフィス 個室タイプのレンタルオフィスやサービスオフィスよりも利用料が値ごろであるケースが多い。コストを抑えられるため、スタートアップ企業が拠点として利用する場合が多い。一部固定席がある施設も。 都心/郊外/地方
コワーキングスペース 専用の個室や占有スペースがあるものの、基本はフリーアドレス席。様々な利用者と交流できるオープンスペースやイベントスペースも。施設運営を担うコミュニティマネージャーを介して協働の可能性がある人材、企業をマッチング。カジュアルなコミュニケーションとネットワークの構築に寄与。 都心

出所:JLL記事「フレキシブルオフィスとは?多様な働き方に対応できる新しいオフィス形態」より抜粋

サテライトオフィスが注目された時代背景
1988年頃

そもそも、サテライトオフィスが日本で注目を集めたのは1988年に遡る。日本初の職住近接型オフィス「志木サテライトオフィス」が開設され、新たな働き方における実証実験として運営がなされた。当時メディアでもてはやされたのが起源とされる。

2010-2011年頃

バブル崩壊による景気低迷を受けてサテライトオフィスへの注目度は低下したが、東京に本社を有する大手IT企業が徳島県神山町へサテライトオフィスを開設した2010年頃から、追随する企業が増加。「地方創生」をキーワードに再度サテライトオフィスに注目が集まることになる。

2011年に発生した東日本大震災による首都圏一極集中によるリスク分散や、都会では味わえない自然豊かな環境で働くことによる従業員エクスペリエンスの向上等も背景にある。

2016-2019年頃

2016年頃から「働き方改革」が叫ばれ、テレワーク等の柔軟な働き方を許容する企業が増えてきた。それに伴い、テレワークの受け皿となるサテライトオフィスの需要に対応するべく、東急電鉄(現:東急)が法人を顧客対象としたサテライトオフィス「NewWork」の運営を開始。同年にはザイマックスがモバイルワークオフィス「ちょくちょく…」の運営を開始し、2018年12月にブランド名を「ZXY(ジザイ)」に変更。2017年には三井不動産が「ワークスタイリング」の運営を開始する等、充実した拠点ネットワークと従業員の誰もが利用可能な従量課金制による「共用型サテライトオフィス(サテライト型シェアオフィス)」市場が確立することになった。

東京五輪開催を控えた2019年には、五輪会期中の交通渋滞によって通勤に支障が出ることが想定されたことで、テレワークを推奨する機運が高まった。それに伴い、在宅勤務とともに居住地の近くで働くことができるサテライトオフィスにも注目が集まり、共用型サテライトオフィス市場に東京電力の「SoloTime」や野村不動産の「H1T」が参入した。

2020年以降

コロナ禍に突入した2020年、感染防止の観点からコアオフィスへの出勤を停止する一方、在宅勤務と共にサテライトオフィスを活用するテレワーク主体の働き方に舵を切る企業が増加。そして、コロナ以前から存在していたJR東日本が運営する駅ナカ型個室シェアオフィス「Station Booth」がサテライトオフィスの受け皿として急成長を遂げ、多くの鉄道会社が追随する。

また、場所に囚われない働き方が定着してことで、地方都市でのリモートワークを実践するためにサテライトオフィス需要が全国に波及した。ワーケーションへの対応のみならず、京都市のようにサテライトオフィスの整備と進出企業に対する補助金制度を拡充させ、企業誘致に注力する動きも顕在化し、ホテルも未稼働時間をサテライトオフィスとして提供する等、サテライトオフィスの多様化が進んでいる

中丸によると「米国ではコロナ禍以降、大型コワーキングスペースがオープンスペースをサテライトオフィスとして貸し出す“タッチダウンオフィス”が普及しているが、日本でも国内拠点を横断的に利用できる『オールアクセスプラン』を提供するコワーキングスペースも登場している」といい、サテライトオフィスを利用しやすい環境が整いつつある。
 

サテライトオフィスの選定ポイント

サテライトオフィスの選定ポイントは立地特性と利用目的の明確化にある

企業がサテライトオフィスを導入する主な目的は、オフィス勤務と在宅勤務の欠点を解消するためであることが多い。従業員の立場からすると「育児や介護による業務の負担増」や「通勤ストレス」、「出張時や外回り営業時の待機・移動時間のムダ」といった課題が挙げられる

これらの課題を解消するため、在宅勤務制度のみを導入する企業は少なくないが、「家族が同居する中で在宅勤務では業務がはかどらない」、「脆弱な通信インフラのため、オンライン会議等に対応できない」といった課題が考えられる。こうした従業員が抱える課題を解消することで、企業は生産性や従業員満足度の向上、人材採用の強化・長期雇用の維持、企業イメージの向上等のメリットを享受できる。

では、サテライトオフィスを選定する際のポイントはどこにあるのか。注意すべきは立地特性と利用目的の明確化だろう。

都心・郊外・地方におけるサテライトオフィスの立地特性

シェアオフィスやコワーキングスペース、サービスオフィスといった外部貸しのフレキシブルオフィスをサテライトオフィスとして活用することが多いが、その立地が自社の事業内容や従業員のニーズに合致しているかを検討する必要がある。

例えば、都心に位置するAグレードオフィスに開設されることが多い大型コワーキングスペースをサテライトオフィスとして利用する場合、主な目的は①都内の移動時間のスキマ時間を業務時間に充てる、②他の利用者とのコミュニケーション促進・ネットワーク構築等が考えられる。

一方、郊外に位置する共用型サテライトオフィスを利用する主な目的は①通勤ラッシュ回避による従業員満足度の向上と業務効率化、②荒天時や災害時にオフィス出社しなくても業務を進めるためのBCP対策、③自宅の通信環境の脆弱さ、狭小な住宅事情による在宅勤務時の課題解決等が想定される。

また、地方の場合は①ワーケーションや出張時の執務場所の確保、②地方在住者の人材採用等に寄与する。

利用目的の明確化

サテライトオフィスの利用内容は施設ごとに異なり、拠点ネットワーク数や料金形態によっては期待していた効果が得られない場合があるので注意したい。

JLL日本のサテライトオフィス制度では5つのフレキシブルオフィスを利用してきたが、「全従業員にサテライトオフィスを選択できること」と「移動時間のムダの解消」という導入目的を満たすためには、拠点数が都心ないし全国にまで張り巡らされ、かつ総利用時間によって料金が確定する従量課金制を採用している施設ブランドの利用時間が急激に伸びている。その反面、利用者が限られる月額会員制のシェアオフィスはニーズを満たすことができず利用停止することになった。

一方、仮に利用目的が「特定のエリアへの営業活動の拠点であり、利用者は特定の従業員」であるならば、多拠点展開するサテライトオフィスではなく、当該エリアに位置するコワーキングスペース/サービスオフィス1拠点を利用すれば事足りる。

つまり、サテライトオフィスを導入する際は、自社全体の事業戦略やワークプレイス戦略においてサテライトオフィスにどのような役割・効果を期待するのかを明確にしなければ、自社に最適な導入計画を実行することはできない。

立地 利用目的 施設タイプ
都心 ・都内の移動時間を短縮、訪問時間までのスキマ時間を業務に充てる
・他の利用者とのコミュニケーション促進
・ネットワーク構築
・地方企業の都心における執務空間
・営業拠点
・コアオフィスの会議室不足の解消
コワーキングスペース、サービスオフィス等
郊外 ・通勤ラッシュの回避
・災害時のBCP対策
・在宅勤務時の課題(通信インフラ、同居家族等)解消
・移動時間の短縮
・幅広い従業員が利用可能
共用型サテライトオフィス、駅舎内個室ブース、テレワーク対応ホテル等
地方 ・ワーケーションや出張時の執務場所の確保
・地方在住者の人材採用
・自然豊かな執務環境による従業員エクスペリエンスの向上
・BCP対策
総務省おためしサテライトオフィス(地方公共団体運営)、共用型サテライトオフィス等
今後もサテライトオフィス需要は高まる

オフィス回帰の動きが強まりつつある日本だが、依然として人手不足は深刻だ。働き方の選択肢を広げるサテライトオフィスの需要はこれまで以上に高まっていく

2023年5月には厚生労働省が「子供が3歳になるまでテレワークを選択できる努力義務化」の方針を打ち出した。これを受けてSNS上では「3歳未満の子供を持つ従業員は全員テレワークができ、他の従業員の負担が増す」や「育児しながらのテレワークだと仕事が進まない」等といった批判が噴出、軽い炎上騒動になったのだが、いずれにせよ、これまでコロナ対策としての緊急措置的な位置づけであったテレワークが今後新たな働き方としてより強固に定着していくのではないだろうか。

アフターコロナを迎え、オフィス回帰の動きが強まりつつある日本だが、依然として人手不足は深刻だ。働き方の選択肢を広げるサテライトオフィスの需要はこれまで以上に高まっていきそうだ。

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JLLでは2016年からサテライトオフィスを導入し、その知見を活かしながら、数多くの企業のワークプレイス環境づくりを支援しています。サテライトオフィスの活用を含めたワークプレイス戦略の見直しを検討されている方は下記をご覧ください。

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