新しいオフィス戦略に欠かせないハイブリッドワークとは?
コロナ禍で働き方が大きく変化する昨今、多くの企業でリモートワークの導入は避けられない流れとなっている。急激な働き方の転換には戸惑いもあり、従業員のモチベーションの低下を感じている人事・総務部門の責任者も少なくないだろう。リモートワークとオフィス勤務を効果的に統合させる戦略策定に必要なハイブリッドワークについて解説する。
ニューノーマル時代に欠かせない「ハイブリッドワーク」とは?
コロナ以前には、大多数の企業において勤務形態は全員の出社を前提としていたが、いまや一部の業種を除きリモートワークを織り込んだオフィス・ワークプレイス戦略が欠かせないものとなっている。ニューノーマルの時代に企業全体のパフォーマンスを高めて競争を勝ち抜くには、オフィス勤務とリモートワークを組み合わせた「ハイブリッドワーク」をより戦略的に策定し進めていく必要がある。
この場合、戦略を実践していくため具体的な勤務形態が必要となる。JLLが発表した調査レポート「これからのオフィスのあり方 -従業員のニーズに応えるオフィスづくり実践ガイド-」では以下3つの勤務形態が示されている。
- オフィス中心型:各自が固定のデスクを持ち、80-90%の時間をオフィスで勤務する
- ハイブリッド型:デスクは50-75%が個人専用であり、40-80%をオフィス勤務にあてる
- リモート優先型:従業員は個人用デスクを持たず、オフィス勤務時間は全体の0-20%
オフィス主体の働き方ほど、共同作業や直接的なコミュニケーションによってカルチャーの共有や連帯感が生まれ、リモートワーク主体の働き方ほど通勤やオフィスの維持費など有形無形のコスト削減と柔軟な働き方が実現できる。これらのポイントから最適なバランスでオフィス勤務とリモートワークを組み合わせ、企業と個々の従業員の双方にとって多大なメリットがある働き方を「ハイブリッドワーク」とする。
従業員の意識調査から読み解くハイブリッドワークに必要な要素
自社にハイブリッドワークを導入するにあたっては、従業員のパフォーマンスを最大限に引き出す効果的な戦略策定が必要だ。そのためにはまず、オフィスワーカーの求めるワークスタイルを正しく把握しなければならない。JLLが北米・欧州・日本を含むアジア太平洋地域10カ国3,317人のオフィスワーカーに対して行ったアンケート調査によると、リモートワーク(在宅勤務)を経験した日本人は、他の国と比べ個人の責任や不安といった心理的負担を強く感じ「オフィスでの勤務よりも生産性が下がった」、「オフィスでフルタイム勤務したい」という回答が多かった。しかしその一方で、全員がコロナ前と完全に同じ働き方に戻りたいわけではなく、「オフィスと在宅勤務とのハイブリットなスタイルを希望する」という回答も38%に上っている。ニューノーマルのオフィスに求める要素として挙げられたのは以下のような点である。
- 高度に清潔に保たれ、消毒剤などの感染症予防も徹底されていること(52%)
- 密にならないオフィス環境(40%)
- 長時間にわたる対面での会議の削減(39%)
- 職場におけるソーシャルディスタンスの確保(30%)
- 可能な限りでのデジタルコミュニケーション(30%)
大きく分けて、感染対策に配慮された執務環境と、対面業務のデジタル化・効率化が求められていることが読み取れる。オフィスの新しい役割や機能等といった「ワークプレイスの未来」に関する解説も、ぜひ以下から確認していただきたい。
ハイブリッドワークの実現に寄与するオフィス戦略とは?
ハイブリッドワークでは、従業員は在宅と出社を組み合わせた勤務形態となるため、これまで以上に地方の労働市場や居住地の動向を詳しく把握しておくことが重要
自社にとって最適な形のハイブリッドワークをプランニングするのに欠かせない視点はいくつかある。働く場所の環境が健康的(ウェルビーイング)なものであればあるほど、従業員の職場への愛着や貢献意欲、つまりエンゲージメントが向上することが分かっている。さらにオフィス戦略策定時に考慮に入れるべきポイントも以下に解説する。
従来とは異なる”コミュニケーション”に注力したオフィス設計
多くの業務が在宅勤務でも可能であることが周知された今、オフィスは以前のように単なる職務遂行や作業のスペースとしてではなく、メンタル面を包括した新しい役割を担うことになる。その役割とは次のようなものである。
- 社内外の人々とのコミュニケーション
- 共同作業による愛着心や帰属意識の向上
- 学びと交流
- 健康とウェルビーイング
- ブランド体験
これらの役割はニューノーマル時代に欠かせないウェルネスオフィスの考え方との結びつきが強く、ハイブリッドワークを見据えたオフィス設計を行う上で重要な要素となる。
ブランドイメージや企業カルチャーを考慮したオフィス拠点の立地戦略
全従業員がフルタイムで出社するオフィス型の勤務形態では人員相当のオフィス面積が必要となるが、ハイブリッドワークではよりコンパクトなオフィスへの転換によってコストを抑制することができる。とはいえ、その立地・用地選定は、財務状況のみで判断するのではなく、企業のブランドイメージや企業カルチャー、人材の維持確保まで幅広い視点で検討することが必須である。ハイブリッドワークでは、従業員は在宅と出社を組み合わせた勤務形態となるため、これまで以上に地方の労働市場や居住地の動向を詳しく把握しておくことが重要となってくるだろう。
テクノロジーを活用したオフィス・ツールの採用
ハイブリッドワークの導入にあたっては、オフィスの立地や広さといった枠組みだけでなく、内部の運用もアップデートしていく必要がある。職場全体が安全で健康な環境であるためには、以下のようなテクノロジーの活用が有効だ。
- スペース全体のキャパシティや稼働率を一元的に管理できるツール
- フリーアドレス時のデスク検索・予約システム
- 業務内容や個々の従業員に最適化したワークスペース設計
- 非接触オフィススペースを実現する間仕切りや什器備品類
- ファシリティマネジメント(FM)の自動化システム
ハイブリッドワークを促進するフレキシブルオフィス
ニューノーマルの働き方としてのハイブリッドワークが普及するにつれ、フレキシブルオフィスの注目度が高まっている
ニューノーマルの働き方としてのハイブリッドワークが普及するにつれ、いま注目度が高まっているのが「フレキシブルオフィス」である。JLLの調査では、東京都心5区におけるフレキシブルオフィス(サービスオフィス、コワーキングスペース)の市場は2018年から前年比30-50%増と急拡大を続けており、コロナ禍の影響もあって2021年度も404,000㎡、前年比10%増となっている。引き続き将来の見通しが不透明な中で、座席やレイアウト・面積などを柔軟に変更できるフレキシブルオフィスへ本社機能を移転させた大企業も増加している。フレキシブルオフィスの需要が今後も続くのか、郊外や地方都市への移転など新たな動きが生まれるのか、最新の動向をふまえて最適な判断をしたい。
ハイブリッドワーク導入による成功事例
2021年以降、本格的にハイブリッドワークへと舵を切り、フレキシブルオフィスに本社機能を移転した企業の事例を紹介する。
- DeNA:2021年8月、WeWork渋谷スクランブルスクエア(40階1フロア、37・39・41階の一部)へ移転。多様性のある働き方を実現するためにリモートワークとオフィスワークの「組合せ」活用を前提に設計。
- Paypay証券:2022年1月、業務の拡大に伴いWeWork日比谷パークフロントに移転。およそ200席程度を借りていると想定。
- シンガポール航空:2021年11月にWeWork神田スクエアに移転。今回の移転は部署間の更なるシナジーを創出する機会と捉えている。
従業員のニーズに対応し、自社特有のオフィス戦略で独自のハイブリッドワークを導入する企業は今後も増えると考えられ、働き方の定義は進化し続けると考えられる。
コロナ禍によりリモートワーク・在宅勤務の可能性が飛躍的に高まり多様な働き方が実現しやすくなった半面、アフターコロナの社会ではオフィス回帰の流れも見てとれる。ハイブリッドワークは、こういった労働市場のニーズに対応し業務や採用を順調に進めるための重要な一手といえる。ハイブリッドワークの導入を検討中であれば、できるだけ早期にハイブリッドワークに関する情報を理解した上で自社の課題に沿ったゴールを設定し、リモートワークとオフィス勤務を効果的に統合させる戦略を策定していくことが重要である。