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ワークライフバランスがもたらすメリットとは?取り組み方と成功事例

経営層や人事・総務部門の責任者などワークプレイスの管理担当者に向け、これからの事業成長に欠かせない「ワークライフバランス」の意味や重要性、企業と従業員へのメリット、具体的な取り組み方、成功事例などについて解説する。

2024年 05月 22日
ワークライフバランスとは?

ワークライフバランスとは、従業員の職業生活(ワーク)と私生活(ライフ)の間の調和を適切に保つこと

いまや誰もが一度は耳にしたことがあるであろう「ワークライフバランス」という言葉だが、実際にどういう内容を指すのか、明確に理解できているだろうか。

まずは、現状と対策を考える上で知っておきたいワークライフバランスの定義や、よく似た言葉の「ワークライフインテグレーション」との違いなどについて整理しておこう。

ワークライフバランスの定義

ワークライフバランスとは、従業員の職業生活(ワーク)と私生活(ライフ)の間の調和を適切に保つことを指し、このバランスの充実が、オフィスワーカーが仕事の成果と生活の質を同時に向上させるための鍵となる。

内閣府は2009年に「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」及び「仕事と生活の調和推進のための行動指針」を策定し、国全体での気運の醸成と、制度的枠組みの構築や環境整備などの促進・支援策に積極的に取り組むと発表している。

ワークライフバランスとワークライフインテグレーション

ワークライフバランスと同様、よりよい働き方を実現するための概念として語られるのが「ワークライフインテグレーション」だ。

ワークライフバランスとワークライフインテグレーションは似ているように聞こえるが、実は正反対といっていいほど異なる意味を持っている。

ワークライフバランスは、仕事(ワーク)とプライベート(ライフ)を区別して、一定の割合で双方の時間を確保しようという考え方であり、実現のためには時短勤務やテレワークなどを導入する企業が多い。

一方、ワークライフインテグレーションは「ワーク」と「ライフ」を分断せず、もっと自由に行き来したり、時には同時に行ったりすることで、よい相互作用が生まれることを目指している。具体的にはABW(Activity Based Working)、つまり社内外問わず業務内容に最適な場所や時間を自由に選択できる働き方などが選ばれることが多い。

ワークライフバランスの目的

国の推進するワークライフバランスの目的は多岐にわたっているが、前述の「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」によればおもに以下の3点に集約される。

経済的な自立

経済的自立を必要とする者…とりわけ若者がいきいきと働くことができ、かつ、経済的に自立可能な働き方ができ、結婚や子育てに関する希望の実現などに向けて、暮らしの経済的基盤が確保できる。

健康で豊かな生活

働く人々の健康が保持され、家族・友人などとの充実した時間、自己啓発や地域活動への参加のための時間などを持てる豊かな生活ができる。

多様な働き方

性別や年齢などを問わず、誰もが自らの意欲と能力を持って様々な働き方や生き方に挑戦できる機会が提供され、子育てや親の介護が必要な時期など個人の置かれた状況に応じて多様で柔軟な働き方が選択でき、しかも公正な処遇が確保されている。

上記のうち、仕事だけに偏って健康を害したり、生活上の問題から経済的に困窮したりすることがないような働き方を誰もができる社会の実現がワークライフバランスの目的だといえる。

ワークライフバランスを推進するメリット【企業側】

ワークライフバランスの充実は社会課題の解決にとどまらず、各企業にもメリットをもたらすことが分かっている。おもなメリットは次の4点だ。

  • 労働環境に魅力を感じた人材を採用しやすくなる

  • 人材の定着と育成コストの削減

  • 従業員のモチベーション向上による労働生産性アップ

  • 従業員を大切にする企業としてイメージやブランディングが向上する

最大のメリットは人材の採用と確保だ。少子高齢化に伴い人材採用が困難になっていく中、新規採用において、プライベートを犠牲にするような働き方が予想される企業のままでは人材が集まらないことは容易に予想される。同時に現在雇用している従業員もよりよい環境を求めて転職してしまう可能性は常に存在する。

しかし、仕事(ワーク)とプライベート(ライフ)が無理なく両立できる環境をととのえている企業であれば、採用においても有利であり、離職率の抑制も期待できる。育児や介護、体調などの理由で柔軟な働き方を必要とする子育て世代やシルバー世代の採用にも有効なアプローチが可能となるだろう。

またすべての従業員にとって、適切な労働時間と働き方のオプションを選べることで負担が軽減され、会社へのエンゲージメントや仕事へのモチベーションが向上し、生産性が上がるというメリットも見逃せない。

ワークライフバランスを実現している企業は投資対象としても高評価の要素となるため、ブランディングや資金調達などの面でもメリットとなる。

ワークライフバランスを推進するメリット【個人】

ワークライフバランスが実現した状態では仕事へのモチベーションが上がり、結果的にキャリアアップにもつながることが期待できる

企業で働く個人にとって、ワークライフバランスが機能していない職場で人手不足による長時間労働が常態化していた場合、「家族や子どもとの時間が取れず仕事と家庭が両立できない」、「休息が取れず心身に不調をきたす」、「自己啓発や成長の時間が取れない」、「地域活動に参加できない」といったさまざまな問題が生じている可能性が高い。

しかし、ワークライフバランスを意識した職場で働くことで上記の課題が改善され、以下のようなメリットがもたらされる。
 

  • 自分に合った働き方が選択できる

  • プライベートの時間が充実し幸福度が上がる

  • 経済的に自立できる

  • 仕事へのモチベーションが高まる

従来型の、全員がオフィスに定時出勤してフルタイムで働く方式ではそもそも働くことができなかった人材でも、時短勤務やリモートワークなどを併用したABWを導入している職場であれば働くチャンスが生まれ、経済的にも余裕ができる。

また、残業や長時間労働が解消され、家族と過ごす時間や趣味などを楽しめるようになれば人生の豊かさが増し、より健康で人間らしい生活が期待できるだろう。

ワークライフバランスが実現した状態では仕事へのモチベーションが上がり、結果的にキャリアアップにもつながることが期待できる。

ワークライフバランスを推進するデメリットと対策

ワークプレイス改善の一環としてワークライフバランスを提案した際、以下のような点で壁にぶつかることがある。注意点とともに対策を紹介する。

ワークライフバランスに対する誤解

ワークライフバランスという言葉は知っていても、正確な意味を知らず「時短勤務をすること」、「キャリアアップをあきらめること」など、誤った認識を持った従業員もいる。

特に経営陣がこういった誤解をしている場合は、説明会やセミナーなどを通じて、ワークライフバランスとは仕事と私生活の調和や最適なバランスを見出し、プライベートだけでなく仕事の生産性や質も上がるということを伝えていきたい。

急な制度変更への反発

ワークライフバランスの一環として残業を減らした場合、中にはこれまでもらえていた残業代が急になくなったことで不満を抱いたり、未婚の従業員が育児休業を取る同僚に対し不公平だと感じたりするかもしれない。

新しい制度の導入時には、事前のヒアリングや説明の時間を設け、慎重にスタートさせたい。

制度ができても風土ができない

ワークライフバランスを実現するための制度を作ったものの、実際には人員不足のために誰かが制度を利用すると業務が回らない、上司が快く承諾しないなどの理由で形骸化してしまう可能性もある。

制度を作るだけではなく、経営陣や管理職が率先して利用して部下にも勧める、社内報やポスターで繰り返し啓蒙活動を行うなど、ワークライフバランスが浸透するような風土作りをすすめていく必要がある。

制度のバランスが悪い

ワークライフバランスのために制度を用意したものの、プライベートは充実したが仕事の成果が出なくなってしまうなど、「仕事と私生活をともに良くする」という本来の目的どおりに機能しないケースは、特に導入当初に発生しやすい。

各セクションの統括責任者への研修や、従業員へのアンケートで実情に合わない点を洗い出して改善するというサイクルを回しながら、自社にとって最適な運用に落ち着くまで修正を繰り返していく

ワークライフバランスの取り組み例

ワークライフバランスの実現には、目的や理念を掲げるだけではなく、実効力のある制度作りなどの取り組みも必要だ。以下に具体的な取り組み例を紹介する。

休業や休暇制度の見直し

「休業」とは国の定めた制度で、企業ごとに自由に期間や取得の可否を決めることはできないが、実際には男性の育児休業は一部の大企業をのぞき低水準にとどまっている。

また「休暇」についても、介護休暇やボランティア休暇・誕生日休暇など、企業が独自に定めている休暇制度があるにもかかわらず、社風や周囲の圧力で取得できていないということはないだろうか。

制度の導入に加えて取得率を確認し、低い場合は理由を明らかにするとともに改善を図る取り組みが有効である。

労働時間の見直し

ワークライフバランスの大きなポイントが労働時間だ。残業や長時間労働が常態化している部署があれば人員を配置して解消に努めたり、家庭や体調でフルタイムが難しい従業員はフレックスタイムや時短勤務が選べるように選択肢を用意するなど、時間の面でできるワークライフバランスの取り組みは数多い。

福利厚生の再検討

福利厚生もワークライフバランスを推進するうえで重要な手段だ。現在ある制度が時代のニーズに合っているのか、利用したい従業員がどのくらいいるのかをあらためて調査してみよう。

その上で、住宅手当などほとんどの従業員が喜ぶような福利厚生制度の新設・拡充などの施策を導入する方法もある。

残業を申請制に

業務量や人員のわりに残業が多すぎると思われる場合、残業理由を明記した申請書の提出を義務付ける方法もある。理由を説明できない「なんとなく」の残業や、上司が職場に残っていることで帰宅しにくい「付き合い残業」などをなくしていくことも、ワークライフバランス実現への一助となるだろう。

ワークライフバランス推進を目指したオフィスのあり方

多様性が求められるこれからの時代のオフィスとは、どのような形が理想的なのだろうか。答えはもちろん1つではないが、従業員のニーズを反映させていくことは有効なヒントとなりうる。

従業員がオフィスに求めるもの

JLLが2022年に実施したオフィスワーカーへのアンケート調査の中で「従業員がオフィスに求めるもの」をたずねたところ、以下のような内容が多く挙げられた。
 

  • 出勤、在宅勤務などフレキシブルな勤務形態

  • サテライトオフィスなどの利用

  • フリーアドレスの導入など柔軟なオフィス

  • 食堂やカフェテリアなどの設備の充実

  • 通勤や買い物がしやすい便利なオフィスロケーション

  • テレブースやミーティングルームの充実

なかでも、出勤と在宅勤務やサテライトオフィスなどのテレワークを自由に組み合わせて働けるフレキシブルな働き方へのニーズは非常に高く、テレワークのメリットについても54%が「ワークライフバランスを取りやすい」と回答していた。

これらのニーズを的確にとらえ、オフィスのコンセプトを策定していくことがワークライフバランス実現へとつながるだろう。

これからのオフィスのあり方 -従業員のニーズに応えるオフィスづくり実践ガイド

ワークライフバランスを推進している企業の成功事例

飲料大手のアサヒホールディングスは、オフィスの改革を通じて従業員のワークライフバランスを推進し、成功をおさめている。

同社はコロナ禍の2020年11月から約11カ月という限られた時間のなか、全国の営業拠点55カ所を26カ所へ統合集約を進めながら、吾妻橋本社オフィスの全面改修を完了させた。

ワークプレイスのコンセプトは次の3つで、3つ目は特にワークライフバランスを意識したものとなっている。

  • フラッグシップ・シンボルとして情報発信できる環境の創造

  • グループシナジーを創出する『ハブ』となる環境の創造

  • 従業員が新しいワークスタイルを体感し、誇りを持てるワークプレイスの創造

新オフィス移転後の従業員アンケートでは、在宅勤務とオフィス勤務の使い分けがしやすい、集中して個人ワークに対応できる、通勤時間を業務やプライベートに充てられるようになったなど、前向きな反応が多数を占めたという。

ワークライフバランスを考慮したオフィスへ

仕事とプライベートをどちらも犠牲にせず、各自が最適な働き方を選べる「ワークライフバランス」は、自社の従業員に長く意欲的に働いてもらえるための重要な条件の1つ

仕事とプライベートをどちらも犠牲にせず、各自が最適な働き方を選べる「ワークライフバランス」は、自社の従業員に長く意欲的に働いてもらえるための重要な条件の1つだ。

ワークライフバランスを考慮したオフィス構築は、従業員にとってプラスになるだけではなく、仕事へのモチベーションや会社へのエンゲージメントを向上させ、長期的な成長へとつながっていくだろう。

具体的にどのようなオフィスを構築してゆけばいいのか判断に迷う場合は、専門家のサポートを受けるのも有効な方法だ。

ワークライフバランスを重要視したオフィスのあり方を考える

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