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ワークライフインテグレーションとは?ワークライフバランスとの違い、注意点、導入方法

企業経営者や、従業員のウェルビーイング・オフィス環境を管理する総務人事部門の責任者は「ワークライフインテグレーション」という単語を昨今よく耳にするのではないだろうか。この記事では、ワークライフインテグレーションの定義やメリット・デメリットに加え、方針策定から導入への戦略立案、成功事例も紹介する。

2022年 07月 26日
目次

●       注目されるワークライフインテグレーションとは?

●       ワークライフインテグレーションとワークライフバランスの根本的な違いとは?

●       ワークライフインテグレーションを反映させたワークプレイス戦略が組織にもたらす6つのメリット

●       ワークライフインテグレーションの4つのデメリット

●       ワークライフインテグレーション導入の注意点

●       ワークライフインテグレーション導入の成功事例

●       ワークプレイス改革に欠かせないワークライフインテグレーション

注目されるワークライフインテグレーションとは?

コロナ禍を経て、従業員が健やかに働き続けるためのオフィス環境やウェルビーイングを意識する企業は以前よりも増加している。その中でも注目の概念が「ワークライフインテグレーション(Work-life Integration)」(ワーク・アンド・ライフ・インテグレーションともいう)である。

具体的にいうと、従来は二律背反で捉えられがちであった「ワーク=仕事」と「ライフ=個人の生活」を統合して充実を図ることで、仕事とプライベート両方の側面で同時に満足度やモチベーションが高まり、働く意欲や知的生産性の向上が実現し、両者の相乗効果でさらに良い循環が期待できるというのが「ワークライフインテグレーション」の考え方である。したがって、両者を完全に切り離して考えるのではなく、プライベートの中でも仕事のことを考えたり、新規アイデアを着想するきっかけになりえるのが特徴といえる。

プライベートと仕事を完全に切り離した場合、プライベートで新たな発見があっても仕事に結び付けるのが難しい。しかし、ワークライフインテグレーションを意識すればプライベートでも仕事を意識して行動する。逆もまた然り。そして結果的に日常生活の充実感をより強く感じることができ、生産性や作業効率を高めることにつながる。

ワークライフインテグレーションとワークライフバランスの根本的な違いとは?

昨今の働き方改革の文脈から耳にする機会が増えた「ワークライフバランス」という言葉。ワークライフインテグレーションとは似て非なるものである。ワークライフインテグレーションとワークライフバランス、それぞれの具体的な内容や特徴について説明する。

ワークライフバランスは、2007年に政府が発表した「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス:WLB)憲章」および「仕事と生活の調和推進のための行動指針」に基づき、5年後・10年後の目標値を設定して推進されてきた。

具体的には、仕事とプライベートに一線を区切り、日常生活のバランスを保つという概念だ。「ワーク=仕事」と「ライフ=個人の生活」は対立するものという考えであり、仕事とプライベートを完全に切り離すことにより、仕事以外の時間を充実させ、豊かな生活を送ることが最も明確な目標とされている。

例えば、仕事に追われていると家事や育児など、プライベート時間との両立が難しくなる。幼い子供を持つ親がフルタイムで働く場合、保育園への送迎時間、帰宅後の夕食の支度や掃除、洗濯など家事に追われることが多い。一方、ワークライフバランスを重視する企業では、時短勤務や育児休暇の取得、テレワークを認めていることが多い。業務負担が少なくなり、充実した日常生活を送ることができるとして、多くの子育て世代のワーカーから支持されている。つまり、ワークライフバランスを重視することで「自分の時間」の十分な確保でき、仕事への意欲、モチベーションを高め、質の高い作業を行うきっかけとなる。

対してワークライフインテグレーションでは「ワーク」と「ライフ」を分断せず、もっと自由に行き来したり、時には同時に行ったりすることで、よい相互作用が生まれることを目指している。

端的にいえば、仕事とプライベートを切り離して考えるのがワークライフバランスであり、切り離さないで考えるのがワークライフインテグレーションだ。ワークライフインテグレーションは、プライベートの中でも仕事に対するアンテナを張って総合的に生産性を高める方法であり、それぞれの事柄に優先順位を付けるのではなく、すべてを網羅することにより相乗効果が期待できる。この点がワークライフバランスとの大きな違いである。
 

ワークライフインテグレーションは、プライベートの中でも仕事に対するアンテナを張って総合的に生産性を高める方法であり、それぞれの事柄に優先順位を付けるのではなく、すべてを網羅することにより相乗効果が期待できる

ワークライフインテグレーションを反映させたワークプレイス戦略が組織にもたらす6つのメリット

ワークライフインテグレーションを重視すると、従業員が自分で自由に働き方を選択でき、プライベート時間の確保を行えるため、日常生活の満足度、充実感が高まる

では、実際に企業組織がワークライフインテグレーションの観点でワークプレイス構築を行うと、どのようなメリットが期待できるのだろうか?大きく分けてワークライフインテグレーションを導入する際、6つのメリットが考えられる。具体的な効果を詳しく説明していく。

  1. 生産性・作業効率が向上する

  2. 従業員の負担・ストレスの軽減

  3. 新たなフィールドの人材を発掘できる可能性

  4. 社員満足度が向上する

  5. 会社の社会的評価が高まる

  6. 離職率が低くなる
     
1. 生産性・作業効率が向上する

JLLによる調査レポート「ヒューマン・パフォーマンスの解読」に基づき算出された従業員ごとのパフォーマンスの高さと働き方との関係を分析してみた。

すると、高いパフォーマンスを発揮している従業員のうち60-81%が在宅やサテライトオフィスなどで行うリモートワークとオフィスワーク、またフレックスタイムなどを組み合わせた「フレキシブルワーク」を実行しているしていることが分かった。

こういった柔軟性へのニーズを満たす「ハイブリッドモデル」のオフィス構築が求められているといえよう。

高いパフォーマンスを発揮している従業員のうち60-81%が「フレキシブルワーク」を実行している

2. 従業員の負担・ストレスの軽減
 

従来の働き方であれば、勤務時間や働く場所が固定され、従業員がプライベートを犠牲にしなければならない場面があった。しかし、ワークライフインテグレーションを重視すると、従業員が自分で自由に働き方を選択でき、プライベート時間の確保を行えるため、日常生活の満足度、充実感が高まる。

3. 新たなフィールドの人材を発掘できる可能性
 

決まった働き方しかできない会社と柔軟に働き方を選べる会社を比較した場合、多くの人材が後者を選択するのではないだろうか。家事や育児、介護など家庭の事情で従来の働き方では厳しく、今まで離職を余儀なくされた優秀な人材を雇用できる可能性が高まる。

4. 社員満足度が向上する

そもそもワークライフインテグレーションに取り組む際には、業務における無駄を解消する必要がある。柔軟に作業ができるよう適切なOA機器やITネットワークを用意する他、オフィスレイアウトを整備することなどが具体的な改善策となる。執務環境を少し改善しただけでも、従業員の意欲が向上し生産性、作業効率が高まる。

JLLの調査では、より多様で革新的なスペースやテクノロジーが提供されるほど従業員のワークプレイスに対する満足度は高まり、高パフォーマーの96%がワークプレイスに満足しているというスコアが示されている。

具体的に求められるスペースとテクノロジーには以下のようなものが挙げられる。上位から優先的に取り入れていきたい。

パフォーマンスに最も大きく影響する上位5位のスペースとテクノロジー
スペース テクノロジー
1. クリエイティブ・スペース
2. 学習・開発スペース
3. コラボレーション・スペース
4. 屋外/緑化スペース
5. プライバシー・スペース
1. ソーシャルネットワーク
2. 学習・開発ツール
3. CRMツール
4. ビジネス・インテリジェンス・ソリューション
5. プロジェクト管理ツール

5. 会社の社会的評価が高まる

多種多様な働き方ができるという特徴を持っていることで会社の社会的評価は高まり、注目度も高まる。企業価値の向上により、ひいてはより良い人材確保を実現できる。

6. 離職率が低くなる

働き方が一通りしかないよりも、従業員一人一人が自由に働き方を選べた方が個人の生活やビジョン、自己実現に資する仕事の向き合い方ができるようになる。その結果、企業への帰属意識が強くなり、働くことへの満足感や仕事のやりがいが生まれ、離職率が低くなるだろう。

従来型のオフィスは、業務遂行に最適化されてはいるものの、多くは従業員のヒューマン・パフォーマンスの社交的側面に対応しきれていないケースが多い。

出社することの意義は、各従業員が職場への帰属意識を持ち、リーダーからの信頼と権限付与、同僚との団結やコミュニケーションといった体験を原動力に、より高い付加価値を生み出すことである。

ワークライフインテグレーションを反映したワークプレイスはその中心(ハブ)となることが期待できる。

ワークライフインテグレーションの4つのデメリット

新たな取り組みを行う際には良い面だけではなく、悪い面も理解しておく必要がある。ワークライフインテグレーションのデメリットとして下記の4点が考えられる。

  1. 従業員に理解されにくい

  2. 従来の評価が適用できない

  3. 仕事とプライベートを補完し合うことが難しい

  4. すぐに効果が出ない、もしくは逆効果となる可能性がある

1. 従業員に理解されにくい

ワークライフインテグレーションに限らず、新しい取り組みを行う際には従業員の理解を得る必要がある。そもそもワークライフインテグレーション自体、ここ数年で知られるようになった概念であるため、導入する際には従来の働き方、考え方との違いや具体的な行動指針を示す必要がある。

2. 従来の評価が適用できない

日本では従前から労働時間の長さが評価されやすいケースが少なくなかった。しかし、ワークライフインテグレーションなどの新しいシステムを導入した場合、「長時間働く」という基本的な評価方針が覆されてしまうため、人材評価を改める必要がある。例えば、労働時間の長さで評価をするのではなく、契約数や成果物のクオリティ、仕事に取り組む姿勢など、従業員が納得する評価方法が必要不可欠となる。

3. 仕事とプライベートを補完し合うことが難しい

仕事とプライベートを高次元で連携させるワークライフインテグレーションを導入した当初は、従業員が戸惑うかもしれない。仕事とプライベートのバランスや優劣を付けるのが難しい。「両者を補完し合う」というワークライフインテグレーションの目的を、従業員に丁寧に説明・理解してもらう必要がある。

4. すぐに効果が出ない、もしくは逆効果となる可能性がある

どんなシステムであっても目に見える効果が出るのは時間がかかる。むしろ導入したての頃はトラブルも多く発生するかもしれない。スムーズな導入に繋げるためにも、具体的な必要要素や従業員との共有事項を再度考え直してみてほしい。

ワークライフインテグレーション導入時の注意点

 ワークライフインテグレーションを導入するなら、どのような点に注意すればいいのだろうか。以下に注意すべきことをまとめてみた。

  1. 従業員に正しく認識させる

  2. システム導入時におけるOA機器やレイアウトの整備

  3. 従業員の意見をヒアリングする

  4. 総務のあり方を見直す

1. 従業員に正しく認識させる

今までの働き方や仕事への考え方から、大きな変化を感じるのがワークライフインテグレーションだ。それゆえに従業員にシステムの概要や導入メリット、考え方、行動、個人の在り方など正しく認識してもらう必要がある。既にワークライフインテグレーションを導入している企業のセミナーや説明会に参加させるのも効果的だろう。

2. システム導入時におけるOA機器やレイアウトの整備

システム導入後スムーズに業務がはかどるように、必要なOA機器を揃えたり、オフィスレイアウトを整備する必要がある。適切なツール、環境が整っていないと社内環境が改善するどころか、社内が混乱するなど、マイナス効果となる可能性もある。

3. 従業員の意見をヒアリングする

経営層だけが盛り上がってワークライフインテグレーションに取り組んでいても会社として機能しない。経営層と従業員の考え方や認識の違いを埋めるためにも従業員一人一人の意見をしっかりと聞く必要がある。従業員目線ならではの気づきや新たな発見が、会社をよりよくするヒントになるかもしれない。

4. 総務のあり方を見直す

以上のように従来型の評価やマネジメント方法の見直しや従業員への意図やビジョンの共有といった業務を担う重要な部署が「総務」である。

昨今、総務の視点を生かしコミュニケーションを円滑にする「戦略総務」の重要性がクローズアップされているが、ワークライフインテグレーション実現においては、戦略総務ならではの重要な役割は以下のようにいくつも挙げられるだろう。

  •  企業の成長に伴う人員増員で相互の関係性が希薄になっていることに気付く

  •  メンバーのモチベーション低下を察知する

  •  部署の垣根を越えて協力・情報共有できるコミュニケーションの場を設けるよう提案する
ワークライフインテグレーション導入の成功事例

「働き方改革」を念頭においたオフィス改革の成功事例

2020年度日経ニューオフィス賞を受賞した資生堂ジャパンの新本社オフィス移転プロジェクトでは、2014年に発表した中長期経営戦略「VISION2020」に掲げた「人材に投資する」の実践を目指し、コンセプトを策定した。

そのコンセプト「創造力の交差点」とは、従業員の自主性を醸成し、コミュニケーションやイノベーション創出に効果が高いABW(Activity Based Working)型のオフィス像であり、実現に向けては、現場の従業員へのヒアリングやオフィス現況調査に基づいて、解消すべきギャップや課題をまとめていった。

最終的に決定した浜松町の新本社「SJ-STATION」は「ブランド価値向上」、「離合集散」、「ストックからフローへ」、「機能的なオフィス」の4つのビジネスビジョンを取り入れている。
移転にあたっては、従業員の不安をフォローするために、資生堂ジャパンとJLL日本SWSチームが協働した「チェンジマネジメント」を推進。移転後の調査でも従業員満足度は非常に高く、「働き方改革」を念頭においたオフィス改革のモデルケースともいえる。

 

ワークライフインテグレーションを念頭にオフィス環境を最適化した成功事例

画像・イラスト・動画・音楽の素材サイト等のクリエイティブプラットフォーム事業を展開するピクスタ株式会社は、2021年2月に渋谷区のオフィスを縮小移転、賃料を含めたコストを5割強削減した。
オフィスの位置づけを「コミュニケーションを補完する場」と再定義し、広いフリースペースにソファやカフェ席の設置、個人ブースなどの設備を整えた。

出社した社員が適度な交流を保ちつつ、オンラインによるコミュニケーション施策の実施、全社員参加型のオンラインイベントなどで従業員やクリエイターの帰属意識を高めることに成功
リモートワークへシフトしつつも、ワークライフインテグレーションを念頭にオフィス環境を最適化することで、従業員の生産性も維持できている。
 

ワークプレイス改革に欠かせないワークライフインテグレーション

今回は、従業員のウェルビーイングやパフォーマンス向上を目指す企業がぜひ取り入れたい「ワークライフインテグレーション」の概念と、ワークプレイス構築のポイントを解説した。オフィス・ワークプレイス改革を進める指針として、今後もワークライフインテグレーションの視点は欠かせないものとなっていくだろう。

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